2対2のタッグ戦の訓練は無事に終わった。途中、山田真耶&ベルベット・ヘルVS天羽飛鳥&ファニール・コメット&オニール・コメット戦で、真耶がベルベットの出した氷を使って跳弾を行い、飛鳥の援護を掻い潜ってコメット姉妹を落とすという神業を披露したりしたが、やった人がやった人なのでもはや誰も驚きはしなかった。
それはそれとして、「生徒たちの訓練にならないのでそういうのやめてください」と更識楯無に怒られた真耶は何度も何度もコメット姉妹たちに向かって頭を下げ、しょんぼりとした様子で飛鳥のGNソードⅤに切られて脱落した。
そんなこんなで訓練は終わり、専用機持ちたちが訓練後の汗をシャワーで洗い流して更衣室で制服に着替え終わったところで、飛鳥はロッカーに入れていた紙袋から包みを取り出した。
「はいこれ。」
「……チョコ?え、なんで?」
「友チョコ。みんなの分もあるよ。」
何故か固まった凰鈴音にそう言いながら、飛鳥はテキパキと紙袋から包みを取り出して専用機持ちたちに配っていく。
「ほ、箒さん!?友チョコとは一体何なんですの!?」
「と、友達に送るチョコだ。バレンタインではよくあることらしい。」
「そんなものが……!?」
「あたしたち友チョコなんて用意してないわよ!?」
「ど、どうしましょう。これではまるで私たちが飛鳥のことを友達と思っていないかのようです。」
「それは……困る……。」
「どうする?購買で何か買ってくる?」
「それは最終手段にしましょう。いくら本命じゃないとは言え、市販品を渡すなんてダメよ。」
「な、ならどうするんです!?」
「簡単な物でも何でもいいから今から作るのよ!」
「今から作るだと!?正気か!?」
「1時間もあれば出来るわ!」
何やらひそひそと話しているが丸聞こえな会話を尻目に、飛鳥はダリルとフォルテからお返しとばかりに友チョコを貰っていた。
「何やってんだあいつら。」
「友チョコの用意を忘れるなんて、恋は盲目っスね~。」
「おいしいですねこのビターチョコ。」
「だっろ~?」
同じく飛鳥からチョコを貰ったファニールとオニールはお返しの友チョコを後で渡すと約束を取り付けていた。
「私たちの分は今冷蔵庫で冷やしてるから、後で渡すね!」
「楽しみにしてなさい!」
「楽しみにしてる。」
フォルテの作ったミルクチョコで先程のビターチョコの苦みを中和しながらコメット姉妹にそう言った飛鳥は、次なるチョコを渡しに織斑千冬が居る職員室へと向かった。
一方その頃、葉加瀬なのはの工房では。
「あーちゃんのチョコ、相変わらず美味しいねー。糖分が脳に行き渡るよ。」
「今年のはお手軽なのみたいだけどね。数多いから用意するの面倒になったんだよ。」
「そういえば、なーちゃんはあーちゃんにチョコ渡したの?」
「いつも通り市販のチョコポテチ。」
「あれかー、美味しいよねあれ。束さんは普通にうすしお味の方が好きだけど。」
「うすしおは自作しやすいって前に飛鳥が言ってたし、作ってもらう?」
「いいねー。」
脳に糖分が行き渡ったにしてはゆるふわな会話が繰り広げられていた。
織斑一夏は走っていた。生徒会役員として恥ずべきことだが、必死に廊下を走っていた。それは何故か。
廊下を埋め尽くし、地鳴りを響かせながら追いかけて来る
「だあああああ!!!??何なんだこの女子の大群はあああああ!!!??」
何やら綺麗な包みと共に追いかけて来る少女たちから逃げながら、一夏は叫んだ。
「(また楯無さんが何かしたのか!?それとも束さんの策略か!?とりあえず逃げないと、後で何言われるか分かったもんじゃない!)」
今までの主犯を思い浮かべながら一夏は逃げる。捕まったが最後、また何かの権利を売りに出されるかもしれない。そんなのはごめんだと一夏は廊下をひた走る。
「いぃっ!?」
前から押し寄せて来た少女たちの群れに一夏が慌てて角を曲がろうとして、その先からも押し寄せて来た少女たちを見て足を止める。
「囲まれた……!?」
「ふっふっふ、さあもう逃げ場はないわ!」
「大人しくしててねえ織斑くーん。」
にじり寄る少女たち。もはやここまでかと一夏が諦めかけたその時、甲高いホイッスルの音が廊下に響き渡った。
――ピイィィィッ!!
「!」
「せいれーつ!」
ホイッスルが鳴りやむと同時に掛った号令に、よく訓練されたIS学園の生徒たちは急いで列を形成する。
「チョコ渡すなら1列で、1人辺り5秒で渡してください。時間かかるので。」
列が作られ空いた脇を通ってホイッスル片手に現れた人物に、一夏は驚きの声を上げた。
「天羽さん!?」
「織斑さん、さっさとチョコ受け取っといてください。」
ムスッとした顔でそう言う飛鳥に、一夏はただただ困惑するのだった。
『バレンタインイベントの小技。友チョコを渡すとみんなも友チョコを用意しようと動くので、専用機持ち同士のいざこざが起こらない。』
『結果的に早く終わるよ。』
『でも、会長の代わりに一夏を助ける必要があるのが難点かなぁ。』
「はい、これをどうぞ。」
「なんだ、この段ボール箱?凄く大きいな。」
飛鳥によって寄せ来る女子生徒たちから助け出された一夏は、飛鳥がISの
「時に織斑さん。IS学園の生徒が何人いるか、知ってますか?」
「え?えーっと、400人ぐらいか?」
「IS学園の入試の定員は一般と推薦合わせて120名。それが3学年あるので、基本的には360人です。転入生とか中退だとかもあるので少しは変わりますけど。」
「へー。」
そんなに居たのかこの学園、と特に気にしたことのなかった情報を知った一夏は、しかしそれが段ボール箱に何の関係があるのかと首を傾げた。
「その360人が今から来ます。」
「え?」
「今からIS学園の全生徒が貴方にチョコを持ってきます。」
「はぁ!?」
飛鳥の言葉に一夏が驚きの声をあげる。
「なんでだよ!?」
「貴方、
「いや、だとしてもなんで全員が渡しに来るんだ!?ほとんど会ったこともない人たちだぞ!?」
「貴方会長命令で部活動に駆り出されてるでしょうが。少なくとも全体の9割の生徒には会ってますよ。」
単純に部活でお世話になった人たちの厚意。唯一の男性操縦者とお近づきになりたいという下心。その他諸々。
理由は様々で複合的だが、至る結論は1つ。【チョコを受け取って欲しい】だ。
「まさか、この期に及んで受け取り拒否なんて真似しませんよね?」
ギロリと、いつになく不機嫌そうに、鋭い視線の飛鳥が一夏を見る。
「も、もちろん。」
飛鳥の雰囲気に気圧されながらも頷いた一夏は、飛鳥から1歩後退って手渡された段ボール箱を抱え直すと、綺麗に1列に並ぶ女子生徒たちに向き直った。
「えっと……チョコください?」
「「「喜んで!!!」」」
ドッ!と凄まじい大音量での大合唱に吹き飛ばされそうになりながら、一夏は30分かけて列に並んだ女子生徒たちから段ボール箱いっぱいのチョコを受け取るのだった。
「ママ、機嫌悪い?」
「んー?」
IS学園の食堂。そこで昼食を取っていた飛鳥は、レクイ・コンベの問いかけに醤油ラーメンを啜ってから口を開いた。
「まぁ、怒るほどじゃないけど、不機嫌ではあるかなぁ。」
「なんで?」
再度首を傾げながらの質問に、レンゲを置いた飛鳥はカレールーで茶色く汚れたレクイの口元を拭ってから答えた。
「バレンタインから逃げる男子って、嫌でしょ?」
「そうなの?」
「そうなの。」
遠い目で何かを思い出しているかのような顔をする飛鳥を見てまた首を傾げたレクイは、しかしその理由を聞かずにカレーライスへとスプーンを伸ばした。自分にはまだ理解できない話題だと感じたとかではなく、カレーライスが美味しくて興味が移ったからだ。
そんなレクイを微笑ましそうに見つめて、飛鳥もまた追憶を止め醤油ラーメンを啜った。
『ぶっちゃけさぁ。』
『ん?』
『360個もチョコ食ったら死ぬよね。』
『そうだね。』
『なんで一夏生きてるの?』
『人間じゃないんでしょ。』
『それもそうか。』