「千冬姉!」
突如増援として現れた姉・織斑千冬の姿に、織斑一夏は驚きの声をあげて駆け寄った。
かつて第2回モンド・グロッソの決勝を投げ出してまで誘拐された自分を助けに来てくれた時以来、見ることのなかった専用機IS【暮桜】を纏った千冬の姿。それを目を見開いて見ていると、一夏は千冬に頭を手で叩かれた。
「いてっ。」
「呆けるな、一夏。まだ戦いは終わっていないぞ。」
「お、おう!でも千冬姉、そのISどうしたんだ?」
千冬は既に現役引退を表明し、IS学園で教職に就いている身だ。同じ立場の山田真耶が専用機を持っていないのに、千冬の暮桜はどこから持って来たのだろうか。そもそも貴重なISコアを乗せているのに解体されていなかったのか。
それが気になった一夏が聞くと、千冬はほんの少し眉をひそめてはぐらかす様に近くの
「そんなことより一夏。そっちの女は誰だ。」
明らかに話題を逸らしたが、一夏は特に気にせずにランサー・ビットで戦いながら少し離れた位置からこちらを見ていたまるで千冬を幼くしたような少女・織斑マドカの方を振り返りながら、どう言ったものか考えていた。
なにせ国際テロリストの
「えー、っと……。」
「姉さん。」
一夏が悩んでいる間に近付いて来たマドカが千冬に話しかけた。
「――私に一夏以外の姉弟は居ない。」
「だが、私は間違いなく姉さんの妹だ。」
「
「っ……。」
千冬の言葉にマドカは言葉を詰まらせた。畳み掛けるように千冬が口を開く。
「仮にお前の生まれが本当に私の姉妹に当たるものだとして、私と一夏が居なくなった後の
「…………。」
「束のおかげで死ぬより先に放り出されたにしても、その様を見るに
「――――。」
視界の端で
「妹になりたいならまず
「え――。」
「2度は言わん。」
それだけ言って、千冬は飛び去って行った。
「あっ、待ってくれよ千冬姉!」
その後を追って一夏も飛び立ち、残されたマドカは自分の首にかけたペンダントを握りしめ、薄く笑ってからフェンリル・ブロウを構え
「ついでだ。一夏、お前に零落白夜の使い方を教えてやる。」
「え?」
マドカから離れた千冬と一夏が新しい戦場へやって来て開口一番に千冬がそう言った。
「とはいえ、私の零落白夜と違ってお前の零落白夜は武装ありきだ。やれることの幅はそう多くない。」
言いながら、雪片を構えた千冬はそれを勢いよく振り抜き、当たり前の様に零落白夜のエネルギーを飛ばして
「は?」
それに一夏が間の抜けた声を出していると、千冬は不満気にごっそり減った自身のシールドエネルギーを見ながら一夏に話した。
「零落白夜はシールドエネルギーを『エネルギーを無効化するエネルギー』に変換する
「お、おう。」
何とか相槌を打った一夏だが、その視線は千冬によって今しがた遠距離で斬られ海へと落ちていった
「ああ、そう言えば爪や盾の零落白夜もあったか。まあそれは今はいい。肝心なのはどうせ剣の方だからな。」
「俺としては、雪羅をもっと有効に使えるようになりたいんだけど……。」
「多機能武装なんぞ百年早い。まずは剣を極めろ剣を。」
一夏の申し出をにべもなく却下した千冬は再び雪片を構えると、今度は普通に飛行して
「今のが基本だ。」
「えっ。」
「葉加瀬の助言が変な方向に作用してある程度様にはなったが、お前の零落白夜はまだ無駄が多い。零落白夜を飛ばさないなら使う時間は相手に触れている間だけで十分だ。それで倒せる。そうだな、まずは0.5秒だ。その時間だけ零落白夜を起動して斬れ。何、篠ノ之の絢爛舞踏もあるし的も多い。練習には持ってこいだ。」
「ええ!?」
獰猛な笑みを浮かべながら近づいてくる
多数の下っ端と代表候補生以上の強さを持つ数人の実力者を抱える戦闘部隊『モノクローム・アバター』。そして掠っただけで面白いように
未だに小型の相手ばかりだが、確実に
「ハァ……ハァ……!」
一方、一夏は必死だった。
姉から言い渡された0.5秒の零落白夜。起動が早すぎても遅すぎても長すぎても失敗と言われるし、何ならこれは零落白夜の扱いに置いて初級のことだ。そもそも白式に乗って1年経とうとしているこの時期に覚えるようなことではないというのも合わさって、一夏は必死に物にしようとしていた。
「零落白夜……!」
すれ違いざまに
「くそっ、まだ遠いのか……!」
零落白夜の即時終了は身に着け、即時起動も覚えた。しかし、それを敵に向かって雪片を振るう最中にやろうとすると途端に間合いの管理がシビアになる。
特にすれ違いざまなどの移動しながら斬る場合、相手との位置が少し変わるだけで突っ込んでから零落白夜を起動するまで時間は大きく変わる。相手の回避行動なども加味されるからだ。
0.7秒は一応自己ベストに相当するが、ここから更に0.2秒縮めるのが難しいことは重々承知している。しかし一夏は挑戦を止めない。止めたら自分で自分が許せなくなる。
「あと、1万……それまでに、ものにして見せる!」
「先に補給だ、馬鹿者。」
「うおっ!?ち、千冬姉!?」
息巻く一夏を引っ捕らえた千冬は機体出力で勝る筈の白式を引っ張って篠ノ之箒の元まで向かうと、絢爛舞踏を発動し金色に輝いている箒に向かって放り投げた。
「うおおおお!!?」
「ん?い、一夏!?」
ぶつかりそうなところを何とか受け止めた箒は、突然の急接近と眼前の一夏に顔を赤くしながら取りあえず叱った。
「こら一夏!危ないだろう!」
「ご、ごめん箒。でも千冬姉が……。」
そう言って千冬の方に顔を向けた一夏は、そこで移動した後に1体も
「うわっ!ほ、箒?」
「千冬さんに見とれる暇があるなら戦え!」
「お、おう!」
「なのはー、まだー?」
「まだまだー。あー、やっと頭起きて来た。」
「ご飯食べてもう1時間は経とうとしてるのに……。」
「味噌汁飲んだ記憶しかない。」
「卵焼きも食べたよ?白米もあったよ?」
「分からん……覚えてない……。」
「あーちゃーん、お腹すいたー。」
「束さん、さっきポテトサラダ食べたでしょ!」
「それしか食べてないんだよ?」
名称:暮桜
型式:強化外装・試作一式
世代:第一世代
国家:日本
分類:近接型
装備:近接ブレード【雪片】
装甲:耐貫通性スライド・レイヤー装甲
仕様:単一仕様能力【零落白夜】
説明:日本代表操縦者・織斑千冬が使用していた専用機であり、第一回モンド・グロッソ総合優勝機体。
現在のISとは武装と機体スペックの両面で劣る骨董品ながら、千冬の卓越した操縦技術と【零落白夜】の一撃必殺によって現役から退いた今なお、あらゆるISに対して勝利を収めることができる。
あらゆる攻撃が掠っただけでシールドエネルギーを全損させてくるクソゲーの権化であり、攻略するにはすべての攻撃を物理的に武器か盾で防ぐしかなく、山田真耶が銃火器や盾の扱いが上手い理由の9割が本機と千冬を攻略するためなのは語るまでもない。