『はい皆さんおはこんばんちは。いつもパタパタ空を飛ぶ、天羽飛鳥です。』
『はいはーい、天っ才博士、葉加瀬なのはでーす。』
『見てる人はあの助けた襲撃犯がどうなるのか気になってると思うけど、言っちゃうとあの人は装備開発とかで使う資材とか資金を調達してくれる様になるよ。ウィキにそう書いてある。』
『誰が検証したのか……私調べるまで知らなかったのになぁ。』
『条件がコアを貰ったその場か護送中に専用機完成させた上で襲撃犯の誰か1人を警察に届けずに捕縛だからね。やろうとする方がどうかしてるよ。』
襲撃から2日経ち、天羽飛鳥は早くも自室謹慎が解除された。とは言ってもIS学園から出ることはまだ叶わないのだが、アリーナでISを動かす事は許可された。
早速お馴染みの第三アリーナにやって来た飛鳥は、そこで『私、見参!』と書かれた扇子を広げる二年生の女生徒と鉢合わせた。
「初めまして、天羽飛鳥ちゃん。」
「初めまして、生徒会長。」
IS学園生徒会長、更識楯無。ロシア代表操縦者という、IS学園で唯一無二の称号を持つ才女。
「あら、知っていてくれたのね。お姉さん感激♪」
一度閉じられまたパッと広げられた扇子に『感激』の文字を描き、楯無はニコリと笑った。
「情報収集ですか?」
飛鳥の言葉にほんの一瞬楯無は硬直した。
「調べても何の情報も出て来ない専用機。それを調べるためにわざわざ来たんですよね?」
「何の事かしらね?」
『分からないわ!』と書かれた扇子を広げ、楯無はとぼけた。実際のところ図星である。
飛鳥の専用機はその装甲も武装も何もかも葉加瀬なのはたった1人で作り上げた物だ。その工房もIS学園のトップである轡木十蔵に用意して貰った個人用であり、そこに仕込まれていた盗聴器やカメラなどは最初に全て破壊された。つまるところ製作過程から外部に情報が何1つとして出ていないのだ。
本来ISに使われる技術は例外なく公開されなければならないのだが、IS学園は『新技術に必要とされる試行活動を許可し、またそれらのデータ提出は自主性に委ねるものとして義務は発生しない』という世界でただ1つの場所である。
「良いですよ隠さなくても。仕事投げ出して遊び呆ける言い訳のための情報収集ぐらい付き合います。」
「(バレてる……。)」
まぁ全部仕事が嫌で投げ出した言い訳に使うのだが。
彼女の名誉のために言うが、締め切りが近い仕事は既に終わらせてある。それでもまだまだ量はあるが、十分にそれぞれの締め切りに間に合う量だ。少し息抜きをしたって問題ないのである。
「アリーナの使用申請は……してるみたいですね。ならAピットから出てください。私はBピットから出ますから。」
「えーっと、ナチュラルに話が進んでるけれど、いいのかしら?飛鳥ちゃんの言う通り、私は遊ぶついでに情報収集をしに来たんだけど。」
「良いですよ。ただ
飛鳥のその言葉に『自信満々!』と扇子を広げた楯無は、「ならお姉さん頑張っちゃおうかな♪」と不適に笑った。
『おぉう……楯無かぁ、面倒だなぁ。』
『搦め手が多いからね。あと立ち回りも巧いし、単純に強いし。』
『セシリアに次いで戦いたくないんだよなぁ……。』
『飛鳥、セシリアと戦いたがらないよね。まぁ
『
「更識楯無、ミステリアス・レイディ、行くわよ!」
自身の専用機、ミステリアス・レイディを身に纏った楯無はAピットから飛び出した。
右手に四連装ガトリング・ガン内蔵ランス【蒼流旋】を持ち、装甲の少ない身体をアクア・ナノマシンによる水のヴェールで守った姿は気品があり、まさに
アリーナに出た先では天羽飛鳥が既に浮かんで待っていた。ハイパーセンサーがその機体情報を検索するが、ヒットする項目は所属国家が日本であると言う情報だけ。他に分かるのは左腰にクリアグリーンの刀身をした片手剣と、左肩に片翼の様に存在するシールドが存在することだけ。他は見た目では分からなかった。
「へぇ、やっぱり近接型なのね。」
ただ、これ見よがしに腰に片手剣があるのを見て楯無は『少なくとも近接戦がメイン』と結論付けた。映像データで見た代表候補生2人を相手にした学年別トーナメントでも、基本的にはブレードを持っていたことも判断材料だ。
「まぁ、こっちの方が性に合ってますから。」
そう言うと飛鳥はその左腰の片手剣を右手に持った。特に構えている訳ではないが、その立ち姿には楯無をしてつけ入る隙が無かった。
「ねぇ、その機体は何ていう名前なの?それぐらいは教えてくれてもいいでしょ?」
「――ダブルオークアンタ。」
ハイパーセンサーに表示されていた情報が更新され、名称の欄にダブルオークアンタと記された。だが型式番号も世代も分類さえも未だに空欄のまま。
「(戦って調べるしかないわね。)」
「それじゃ、始めましょう。」
「そうね。」
コンソールを開いて、アリーナのシステムにアクセス。試合の為のプログラムを起動。
カウントダウンが始まる。
「(まずは射撃で様子見かしらね。)」
相手は近接を得意としている。だからこそ蒼流旋に内蔵された四連装ガトリング・ガンで動きを見る。盾で防ぐのか回避するのか、はたまた剣で切り払うのか。行動の選択を見てそれを考慮して戦略を立てるための選択だった。
カウントが0になると同時に楯無はシューター・フローの機動を取りつつ射撃を始めた。
四連装ガトリング・ガンから放たれた数多の弾丸が飛鳥を狙い、
「っ!?」
今まで飛鳥の右手に握られていた片手剣が突然その刀身をクルリと回転させ、柄が曲がり、丸でライフルの様な形状へと変形。ピンクのビームを発射して全ての弾丸を正確に撃ち落としたのである。
「剣じゃなくてビームライフル!?」
その機能が使用されたからか視界の端でハイパーセンサーの情報が更新され、それを見た楯無は驚愕した。
可変複合兵装【GNソードⅤ】。ソードモードとライフルモードを変形によって切り替えられ、更にビームサーベルモード*1も合わせ持っている。
「(可変複合兵装!?まだ実験室レベルの筈よ!?)」
楯無の持つ蒼流旋のように様々な機能を併せ持った複合兵装は既に存在する。だが可変複合兵装は未だに実用化されていない。単純に開発が難しいのだ。現在でも世界各国が実験室で開発を続けている物の1つである。
それを当たり前のように備えた機体。それは
「くっ!」
シューター・フローを維持したまま射撃を続けていた楯無だが、蒼流旋から放たれる四連装ガトリング・ガンの弾丸は全てGNソードⅤ・ライフルモードから放たれるビームに撃ち落とされることに歯噛みする。
「(ガトリングを全部撃ち落とすなんて、幾らなんでもおかしい。何か仕掛けがある。)」
何か絡繰りがあると考えた楯無だったが、何故ガトリングの弾丸全てを撃ち落とせるかは幾ら考えても分からない。量子コンピューターでも使えば発射間隔や機動などから弾道を高精度で予測することはできるだろうが、ISに積む様な代物ではないしそもそも積めないだろう。なら全て技術でやっているのかと言えば、明らかに違う。先ほどから数こそ少ないが、数発
「(このまま撃ち続けても埒が明かないわね。)」
射撃は効果がない。むしろこちらのペースを崩される。何処かで接近戦に切り替えなければ――。
そう思った瞬間、ガトリング・ガンの弾丸を撃ち落としていたビームとは別のビームが楯無に迫った。
「!」
バレルロールの機動でそれを寸での所で躱した楯無は、左肩のシールドの上部をこちらに向けている飛鳥の姿を見た。ハイパーセンサーの情報が更新される。
多機能複合兵装【GNシールド】。ダブルオークアンタの左肩にマウントされた実体盾。フレキシブルに可動し、左腕に干渉せず広範囲の防御が可能。
迎撃用射撃兵装【GNビームガン】。GNシールド上部に内蔵されたビーム砲。主にミサイル等の迎撃に使用される。
「(今のが迎撃用ですって……!?)」
GNソードⅤ・ライフルモードから放たれるビームよりGNビームガンから放たれるビームの方が太い。それだけ使用しているエネルギーが多いと言うことで、それは威力が高い事を意味している。
「(アレは防げない。やっぱり接近戦を仕掛けないと。)」
ミステリアス・レイディは装甲が少ない。それを補うのがアクア・ナノマシンを使った水のヴェールだが、GNビームガンの太いビームは水のヴェールで防げそうも無かった。幸いGNビームガンはGNシールドに内蔵されている関係で、接近戦に持ち込めば使用されることはないだろう。やはり楯無は接近戦を仕掛けるしかなかった。
「(普通に飛ぶだけじゃビームで迎撃される。
楯無は機を伺う。近付くための一瞬の隙。それさえあれば
GNソードⅤ・ライフルモードとGNビームガンのビームの嵐。それが途切れることはないが、GNビームガンは長時間の放射が出来る代わりに再発射に少し時間が掛かるらしい。そこを狙って――
「(――今!)」
「はぁっ!」
蒼流旋に水を纏わせ刺突を繰り出す。
それに飛鳥はGNソードⅤの刀身をまた回転させ、柄を真っ直ぐにすることでソードモードに変形させて下から跳ね上げるように振り上げ、
「――!?」
すぐさま
右手に持つ蒼流旋を見れば、その穂先は溶断されていた。
「(あの剣、ヒートソードだったのね!)」
ただ切れ味が良いだけでは、蒼流旋が纏う水と打ち合って蒼流旋は破壊されることは無い。だが高熱で溶断するヒートソードであれば、蒼流旋が纏う水を蒸発させて蒼流旋の本体を攻撃することが出来る。
「(不味いわね、下手に打ち合えない。)」
水を纏った蒼流旋でさえ溶断された。なら手持ちの武器では打ち合うことは出来ない。GNソードⅤの攻撃は全て回避するしかない。
「(攻撃を全部掻い潜って攻撃……ちょーっと、難しいわね。)」
相手は近接戦闘を得意としている。全ての斬撃を躱すことは難しい。
「なら……!」
アクア・ナノマシンを全力で稼働させる。行うのは水の分身。数で撹乱して隙を作る。
その目論見は飛来した6つの刃に斬り裂かれた。ハイパーセンサーの情報が更新される。
【GNソードビット】。GNシールドにマウントされている3種各2機、計6つ存在する誘導兵器。GNソードⅤの刀身にも使用されている新素材によって溶断する。
「――ビット兵器!?」
ビットは第三世代技術に相当する最新鋭技術の1つだ。ブルー・ティアーズの様に搭載している機体は既に存在しているが、まだその技術は公開されていない。IS学園で試行活動中となっているからだ。
つまり手探りの状態で個人が、国が威信をかけて作り上げた第三世代技術を開発したのだ。
ミステリアス・レイディも楯無個人で作り上げた第三世代機だが、ダブルオークアンタに使われている技術も武器もミステリアス・レイディの比ではない。
ここに至って、楯無は戦慄した。第三世代機であるミステリアス・レイディ以上ということは――
「第四、世代……!」
もはや呆然とするしかない。篠ノ之束博士がその存在を証明したが、未だに机上の空論である第四世代相当の機体が、今目の前に存在する。それも、篠ノ之束博士とは別の個人によって作られた物が。
「すみません、会長。」
突如、飛鳥が口を開いた。
「正直、会長を舐めてました。操縦技術も対応能力も全部思っていた以上です。使わないと決めてたソードビットを使わなければ、今の分身は対応出来ませんでした。」
周囲を飛んでいたGNソードビットをGNシールドに戻しながら、飛鳥はGNソードⅤを構えた。
「慢心ですね。思い通りに動くクアンタに乗って増長してました。」
再びGNシールドからGNソードビットが飛翔し、飛鳥の周囲を円環状に囲む。
「でも目が覚めました。」
「ありがとうございます、会長。お礼に――本気で行きます。」