『えぇ?何それ知らない……。』
『やっぱどこのサイトのどの項目にも革新するとか書いて無いよね。何が原因なのこれ……。』
『ツインドライヴのせい?いやでもそれならどこかに書いてある筈だし、セシリア強化フラグのビット開発とかの項目にも何も……。』
『……検証班の人たちに任せよっか。』
『そうしよう。』
「取り合えず飲食店は無しかな。」
「「「えー!」」」
クラスの皆が不満そうな声を上げる中、天羽飛鳥は黒板に列挙された内の半分を占めている飲食店の案を消していく。
「文句言わない。1組も2組も飲食店だから、客の取り合いになってどこも得しないよ?」
わざわざ日付を1日ずらして行っている学園祭の出し物を決めるホームルーム。それは出し物の被りを避けるために飛鳥から提案されたものだった。
IS学園では各クラスだけでなく部活でも出し物をする。それ事態はやる学校はやることなのだが、今年は生徒会長によって『出し物で一番人気だった部活に織斑一夏が入部する』ということが決まったため、剣道部でさえ票を集めるために出し物を例年の剣道体験から変えてくることが予想された。
つまるところ、多分ダブる。そう考えた飛鳥は出し物の決定を1日ズラすことをクラスメイトたちに話し、生徒会副会長としての権限を使って各クラスと部活の出し物を粗方調べてからこのホームルームに挑んだのだ。
「客寄せパンダの織斑さんが居るのに、客入りで勝てるとも思えないし。」
「それはそうだけど……。」
「皆も織斑さんが接客してたら行くでしょ、1組。」
「そりゃもちろん!」
「行かないわけないでしょ!」
「だから無し。自分の所の食材捌けないのはダメだからね。」
「「「はーい……。」」」
一先ず納得させた飛鳥は、更に黒板に向き直っていくつかの項目を消しにかかる。
「あと今分かってるどこかの部活がやるのも消すね。」
気合いの入っている部活たちによってメジャーどころは結構取られてしまっている。案を出してくれた子には悪いが、流石に同じ出し物で票を割れさせるのはダメだろう。それは皆も分かっているのか、ここで不満の声は上がらなかった。
「えーと、残るのは雀荘と縁日とカードゲーム対戦……。」
クラスの皆が思った。録なのないな、と。
「まずカードはダメだろうね。学園祭でやるより普通の時にやるから。」
「だよねぇ。」
無慈悲に消す。提案者がため息混じりに仕方ないと肩を落とした。
「雀荘は……そう言えばこの学園って麻雀部あるの?」
「あるけど、今年は1位狙うからって……。」
麻雀部だと言う子が「麻雀部は今年雀荘やらないって」という。
「被りはしないんだ。でも学園祭来てまでやらないよね、麻雀。」
「客入りは良いって部長は言ってたけど……。」
「何しに来てるの来場者。案としてはいいんだけど……麻雀できる人、手ぇ上げて。」
上がったのは3人だけだった。
「人材的に無理そう。」
「あ~~~。」
麻雀部の子の嘆きを聞きながら、飛鳥は雀荘の文字を消した。
「で、縁日か……。」
どこのクラス、部活にも取られていなかった出し物ではある。目につけばとりあえず1回、と金を落とさせるのにも適してはいる。だが、
「景品がなぁ……。」
射的にしろ輪投げにしろ何にしろ、景品がなければ流石に誰もやってくれない。それもただお菓子というだけでは心引かれないだろう。何か良いものでないと。
「なのはー、何か良いものないー?」
「ボクに振らないでよ。手持ちで景品に出来そうなの
「縁日で出せない額になっちゃう。」
希少鉱石を縁日で出すんじゃない。
「経費で頑張ってみるしかないかなぁ。ダメだった時は皆のもう要らない物とか景品にするってことでいい?」
「被らないようにするにはそれしかないかなぁ。」
「あ、バランスボールあるよ!」
「ハンドスピナーあるよ!」
「熊の木彫りあるよ!」
「「「なんで!?」」」
「北海道に夏休みで旅行に行って衝動買いを……。」
「あれ邪魔だよね。」
「縦も横もあるからね、熊。」
わいのわいのと、時間は過ぎていく。
『まぁ生徒会だから私は学園祭当日に関わらないんだけどね!』
『ボクはがっつり関わるんだよね。何出そうかな。』
『ガレキでも出す?』
『それでいいや。確か製作B以上で作れるし。どうせなら塗装した完成品も作ろうか。』
学園祭当日、クラスの出し物である縁日の受付をしながら、葉加瀬なのはは来店人数やらの記録を付けていた。
「1組に取られてるにしては上出来かな。」
予想通りと言うべきか、1組の出し物であるご奉仕喫茶は大行列を作っていた。隣の2組の営業を妨害するほどの大行列。恐るべし
その影響は3組にも出ていたが、それを考えても来客数は及第点だった。
「やっぱりあれだよね、みんな目に見えて景品があるとやりたがるからかな。」
ちらりと屋台を見れば、射的や輪投げに興じている生徒や外からの来客がちゃんと居る。景品に皆で持ち寄った物やなのはが作った物、経費で買った物を置き、それ目当ての客が金を落としていく。
目玉商品はやはりなのは作『織斑一夏ver.制服』と『織斑一夏ver.白式』のガレキだ。なのはが製作したそれらの完成品をサンプルとして展示すると、それを見た客が勝手に金を落としていく。難易度は高めだが、ちゃんと上手い人だけでなくお金をかけた人も取れる設定なのがミソだ。
他にも用意したIS学園の専用機持ちたちのガレキの捌けもいい。特に捌けが良いのがIS学園の名物コンビ『イージス』の2人が一緒になっているセット物だ。外部でも知名度があるからか来賓の人がよく狙っている。
逆に一番人気が無いのが『更識簪ver.打鉄弐式』だ。やはり専用機が完成していないのが売れ行きに影響しているらしい。
「にしても意外だよ。」
「ん、何が?」
帳簿を付けていると、横に座っているクラスメイトがなのはに話しかけて来た。
「飛鳥さんのガレキ作らなかったことだよ。なのはさんなら他のより楽に作れたでしょ?何で作らなかったの?」
「あぁ、それか。」
今回景品として用意されたのは飛鳥以外のIS学園専用機持ちのガレキだけで、飛鳥のガレキは無かった。クラスの皆は一緒に作られるだろうと思っていたため驚かれた。
その質問に対し、なのはは少し詰まらなそうな顔で、
「だってバレるじゃん。」
そう言った。
「バレる?何が?」
「
更識楯無との戦いで、ダブルオークアンタは少なからずその性能を晒した。情報網は妨害されていたため外部には漏れていないが、直接対峙した更識楯無は情報を持っている。飛鳥の慢心を覚まさせてくれた報酬としてそのまま放置しているが、本来はあの情報すらなのはは消しておきたい。
学校行事でこれから機体を晒す事は有る。だがなのはが万全の体制でその情報を抹消する。人の口は止められないが、画像も映像も文章さえも、全て媒体から削除する腹積もりだ。万一にもダブルオークアンタの
「そういうものなの?専用機って。」
「クアンタが特別なんだよ。まぁ、戦闘能力だけならまだいいんだけど。」
なのはの呟きは隣のクラスメイトには聞こえず、そのまま時は過ぎていった。
『流石攻略サイトでおすすめされる製作物。食いつきがいい。』
『まぁ1組の売り上げは越えられないけど、これだけあれば十分でしょ。』
『2組とか悲惨だからなぁ。』
「プライベートとは。」
目の前にあるドレスを見て、天羽飛鳥はため息を吐いた。
このドレス、生徒会の出し物である劇の衣装なのだが、そのサイズは学校でやった身体測定のデータを用いて作られている。無許可で。
生徒会長の権限で判は押されているが、サイズを使われた本人たちの了承はない。個人情報とは。
「飛鳥ちゃんも着てみる?」
ドレスを見ていた飛鳥の背後から更識楯無が声をかけてくる。
「織斑さんと相部屋は嫌なのでいいです。」
「そう?もしかして男嫌いとか?」
にべもなく拒否した飛鳥に楯無は気になったのか質問した。
「いえ、なのはと離れるとクアンタの事で話すのにいちいち移動しないといけないのがちょっと。」
「なるほど。」
『納得』と扇子に出して、「それじゃ、私は一夏くんを連れてくるわね。」と楯無は去って行った。
その背中が見えなくなってから、飛鳥は
「
毒を吐いていた。
飛鳥が生徒会に入ってから少なからず生徒会室で仕事をすることがあったのだが、その最中楯無は仕事のことを考えながら、マルチタスクでずっと関係のよろしくない妹のことも考えていた。
うじうじうじうじと悩み、どうにかしようと考えながらも行動に移せない。そんなことを表情には出さずに仕事は完璧に熟している。ぶっちゃけ気持ち悪い。
ずーっと暗い考えばかりしているせいでこっちの気分まで暗くなってくる。早く仲直りしろよと飛鳥はジトーっと見つめたこともある。いつもの人たらしっぷりはどうしたお前、と言わずにはいられない。言っていないけど。
「妹を思うなら、ちゃんと大好きくらい言わなきゃならないのに。」
――言わなきゃ何もわからないんだから。
「……言えなかった私が言える事じゃないか。」
悲しげに目を伏せながら、飛鳥はその場を後にした。
『何か私が影ありヒロインムーブしているんだが?』
『何があれば飛鳥がこんなヒロインムーブが出来るようになるの……?』
『というか言えなかったって何?誰に?』
『んー、ボクになら仲の良さとか純粋種なことも考えると何でも言うから……束さん?いやないか。』
『モブか?そんな気がする。何言ったかは流石に分かんないけど。』
『多分想いを寄せる先輩への告白を自分が純粋種で寿命が違うからって理由で言えなかったとかそんなん。』
『飛鳥って偶にスゴイこと言うよね。』
学園祭当日の夜。IS学園から遠く離れた地のとある豪華な一室。そこに
初めから失敗すると分かっていた織斑一夏の専用機強奪作戦。そのことを作戦を担当した自身の恋人、オータムに言わなかったのには少なからず理由があったが、そのことで拗ねてしまった彼女を口に出せない恥ずかしい方法で慰め、疲労からか先に眠ってしまった彼女を置いて、スコールは1人バルコニーに出て酒を飲んでいた。
眼下に広がる建物の灯りが織り成す美しい夜景。夜空も良く見えるここでの晩酌は、最近のスコールが密かに楽しみにしていることだ。
「ん……ふぅ。」
一口、また一口とゆっくりグラスを傾け、時間をかけて一杯の酒を味わう。あまり多く飲むつもりはない。ほろ酔い程度に止めるつもりだ。特別いいお酒ではないが、安酒という訳でもない。それなりに美味しいし、長く味わいたい代物だ。だから二杯目を飲み終わり、程よくアルコールが回ってきた所でスコールは飲むのを止め、眠りにつこうと室内へと歩き出そうとして、
そうして初めて、自分の背後に人が立っていたことに気が付いた。
「────!?」
まず最初に驚愕した。まさか
「はじめまして、スコール・ミューゼル。」
その次に困惑した。礼儀正しくお辞儀をして来たのもそうだが、その人間が────
「ちょっと取引、しませんか?」
────日本代表候補生、天羽飛鳥だったからだ。