IS 今こそ対話する!   作:駄竜

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第18話 天羽飛鳥、飛翔する

「みなさーん、準備はいいですかー?スタートポイントまで移動しますよー。」

 

 若干のんびりとした山田先生の声に従って、マーカー誘導に沿ってスタートラインへと移動し横1列に並ぶ1年生の専用機を横目に、天羽飛鳥は観客席へと視線を向けていた。

 

 それに気付いたのはセシリア・オルコットただ1人。どこを見ているのかとセシリアも飛鳥の視線の先を追ってみるが、赤毛の少女が目立つ程度でこれと言ったモノはなく、レース開始直前のため聞こうと声をかけることも出来なかった。

 

「(何を見ているのでしょう?)」

 

 飛鳥が見ている先、そこに居たスコール・ミューゼルは飛鳥が自分を見つめていることに気付いて小さくため息を吐いた。

 

「この人ごみの中から私1人を見つけ出すなんて、どうなってるのかしら。」

 

 「今日の襲撃、止めて正解だったわね」と小さく言うスコールに、それが聞ければ問題ないとでも言うかのように飛鳥は視線を外した。

 

「(亡国機業(ファントム・タスク)が見てるからトランザムは晒せない。そもそも機体の性能差で圧勝するのはクアンタを作ったなのはに変な輩が近付いてくるから出来ない……まぁ量子ジャンプの時点で大概だけど。)」

 

 狙うは1位だ。しかし圧勝は出来ない。するにしても飛鳥自身の技量による勝利でないといけない。

 

「(難しいな。クアンタは特別速い訳じゃないし、単純なレースだったら負けてたかも。妨害ありだし、ソードビットで他を抑えつけて飛ぼう。)」

 

 そもそもスラスターを持たず、PICとGN粒子の能力とツインドライブによる圧倒的な粒子放出量によって飛行しているクアンタは決して速くない。それでも第三世代機よりは速いが、展開装甲によって全身をスラスターにできる第四世代の紅椿よりは遅いのだ。*1

 

 だからこそ勝ち筋は1つ。他を妨害してのゴール。

 

「(Aビットは白式と紅椿、Bビットは甲龍とラファールのカスタム機にそれぞれ1つずつ。Cビットはシュヴァルツェア・レーゲンに2つとも着けて――)」

 

 シグナルランプが点灯する。

 

「(――セシリアは私自身が抑える!)」

 

 今、レースがスタートした。

 

「ソードビット!」

 

 スタートダッシュを決めトップに躍り出た飛鳥は目を金色に輝かせ、左肩のGNシールドに連結されていたGNソードビット6機を解き放った。

 

 長剣タイプのAビットは織斑一夏と篠ノ之箒に。短剣タイプのBビットはシャルロット・デュノアと凰鈴音に。そして唯一ビームサーベルの機能を備えた最も小型のCビットは2つともラウラ・ボーデヴィッヒに向かって飛翔する。

 

「セシリアの言っていたソードビットか!」

 

「高速飛行中でも使えるって言うのは本当だった訳ね!」

 

 このビットは倒す目的で放った物ではない。あくまで前に出て来ない様にするための物――牽制のための攻撃。

 

 ラウラにだけ2機送ったのはその腕を見込んでだ。以前戦った飛鳥はラウラの実力を高く評価している。機体が高い完成度を誇るのもそうだが、何より第三世代技術のAICが脅威だ。その性質上高速バトルレースであるキャノンボール・ファストでは多様出来ないが、使用されればそれだけで負けかねない。2機のソードビットでAICの妨害をしつつ、前に出れない様にする。

 

 他のソードビットも同じ役割だ。機体性能は高いが乗り手が未熟な白式と紅椿――一夏と箒には、視覚的に対処をしなければと思わせるために大きなAビットをあてがい。

 代表候補生として確かな実力を持つ鈴とシャルロットには、決して無視できない妨害をするために相手が当てにくい大きさのBビットをあてた。

 

「おわっ、この!」

 

 前から来るソードビットをセシリアのビットにもやっているように斬り落とそうと雪片弐型を振るった一夏は、突如としてソードビットが雪片弐型を()()()()()ことでまともに攻撃を受け、大幅に減速した。

 

「今のは【影抜き】!?ISで、それもビットでやったのか!?」

 

 その動きを見た箒が驚愕する。

 

 古武術の技が1つ【影抜き】。武器を打ち合うと思わせ、直前で軌道を変えてそれを躱し、瞬時に打ち込むことであたかもすり抜けたかの様に見える太刀筋。

 

 古武術である篠ノ之流剣術を修めている箒も出来るが、出来るからこそ分かる。影抜きは重心の移動によって行う技術であり、ISで行うには重心の移動が機体に振り回されるせいで安定しない。更に言えば、PICで浮かぶビットにはそもそも移動させる重心がない。機体で行えはするのかもしれないが、しかし間違ってもビットで行えるものではない。

 

 飛鳥がソードビットで影抜きを行えるのにはタネがある。ソードビット、ひいてはダブルオークアンタに使われている動力源・GN粒子の特性である慣性制御や質量軽減などを駆使し、それらを切ったりなんだりして重心の移動を行っているのだ。

 

 勿論手持ち武器であるGNソードⅤでもGN粒子による重心移動の補助をすることで影抜きが行える。ただ、ある程度の大きさが無いと影抜きほどの劇的な重心の移動は出来ない為、ソードビットで行う場合は一番大きなAビットでのみ可能な芸当だ。

 

「くっ、ちょこまかと!」

 

「墜ちなさいっての!」

 

「弾切りながら突っ込んでくるー!?」

 

 ラウラ、鈴、シャルロットもそれぞれがソードビットによってうまく加速出来ずに居た。最も苦戦しているのは2機のソードビットを相手にしているラウラだが、一番可哀想なのは搭載している武装の全てが実弾兵器のシャルロットだ。弾丸は切られ、ブレードで打ち合おうとすると溶断されるため、速度で振り切るしかないのにその速度も追い付かれる。これがレースでさえなければシャルロットも幾らか対処法を思い付いたが、下手な機動の取れないレースではシャルロットとソードビットの相性は最悪だった。

 

 そんな友人たちをハイパーセンサーで見ながら、セシリアは自身の少し前を行く飛鳥に話しかけた。

 

「わたくしにはありませんの?」

 

 何故自分にはソードビットをあてなかったのか。飛鳥を除いてこの専用機部門に参加しているのは6人で、ソードビットも6機ある。1人に1機でいい筈だとセシリアは言った。

 

「保険かな。シュヴァルツェア・レーゲンは操縦者の軍人ちゃんの腕前も含めて脅威だから、2機あてた。」

 

「──わたくしの分のビットをあてがった理由は?わたくしにはビットが必要ないと?」

 

「逆──私自身がやらなきゃ、セシリアが優勝しちゃうからだよ!」

 

「!」

 

 前を向いたまま左肩のGNシールドが稼動し、その上部に備えたGNビームガンからビームをセシリアに向けて放ち、セシリアはそれを最近成長を続ける操縦技術で回避した。

 

「このレースで私が警戒してるのは第四世代機でもレース仕様の機体でもない!セシリア、貴女だよ!」

 

 実験段階の第三世代は言うに及ばず、最新鋭の第四世代ですら乗り手が未だに使いこなせないこのレース、飛鳥が警戒するのは()()のセシリアただ1人。例えその機体がデータ収集のための物であろうと、変革を始めているという事実が飛鳥にセシリアをマークさせた。

 

「それは嬉しい限りですわね!わたくしも飛鳥さんを警戒していましたわ!」

 

 そう言いながらセシリアが展開(コール)した武装を見た飛鳥が目を見開いた。

 

 それは大型のビームライフルだった。ただ普通のビームライフルと違うのはその銃身の下部に刃を持ち、剣としての機能を備えていること。そして真に使いこなせば()()()()()()()()()()だということ。

 

 飛鳥はそれを知っている。

 

「【GNソードⅡブラスター】……!?」

 

 臨海学校でテストしようと持っていった武器の内の1つ。純粋種の能力によって真価を発揮する武装。それを作り、保有するのはたった1人。

 

「ダメ元でなのはさんの工房で見かけたこの武器、パフェの1つでお借り出来たのは嬉しい誤算でしたわ!」

 

「何してんのなのはぁーーーー!!?」

 

 観客がいることも忘れ飛鳥は叫んだ。まさかパフェ1つで親友が敵に塩どころか武器を贈っているとは思いもしなかった。

 

「(まずい!ブラスターはまずい!セシリアはまだ変革し切ってないからいいけど、普通に性能が高い!)」

 

 もしセシリアが完全に変革していたら、射程無限で威力一撃死の攻撃が偏光制御射撃(フレキシブル)でずっと自分に向かってくるという笑えない事態になっていた。今のセシリアであれば精々偏光制御射撃(フレキシブル)でずっと狙ってくる無視できない程度の威力の攻撃で済むが、レースでそんな攻撃を受ければ体勢を崩してトップを譲ることになってしまう。

 

「まずは1発!」

 

「っ!」

 

 挨拶代わりにとセシリアが()()()()()()()ビームが自身に向かってきたのを、飛鳥はGNビームガンで撃ち落とした。

 

 偏光制御射撃(フレキシブル)をモノにしたセシリアは最初から狙いを定める必要がない。撃ってから曲げて敵に当てられる以上、ある程度相手に銃口が向いているだけで十分なのだ。だからこそ、ただトリガーを引き続けるだけで脅威となる。

 

 ことここに至って、ソードビットを他にあてたことが裏目に出た。位置や向きの関係上GNソードⅤでいつものように切り払えないし、撃ち落とせないのだ。ただトリガーを引き続けるだけでいいセシリアに対して、飛鳥の手数が圧倒的に足りない。

 

「今のわたくしが曲げられるのは9つの射撃!ソードビットなしで受けきれはしませんわ!」

 

 いつもレーザービット4機、それらが撃ったレーザー4つ、自身が放つスターライトmk-Ⅲのレーザーを動かしているセシリアは、単純な数なら9つの同時偏向射撃(フレキシブル)を可能としていた。今はビットはないが、素でも長射程であるGNソードⅡブラスターで連射すれば9つの同時偏向射撃(フレキシブル)を行うことができる。

 

「くっ!」

 

 GNビームガンで隙を見て撃ち落とし、操縦技術で躱し続ける飛鳥だったが、遂にその動きを偏向射撃(フレキシブル)が捉えた。

 

「そこですわ!」

 

「!」

 

 GNビームガンで1つを撃ち落とし、右から狙った2つをGNソードⅤで切り払い、残った6つの偏向射撃(フレキシブル)が飛鳥に向かって飛来する。

 

「(シールド──ダメ、4つは防げるけど2つ当たる。ソードビット──今からじゃ間に合わない。ライフルモードで撃ち落とす──1つ間に合わない。)」

 

 加速する思考の中で飛鳥は考える。GNソードⅡブラスターの攻撃は1発でも受ければトップを譲ることになる。

 スラスターがないダブルオークアンタはスラスターが放出したエネルギーを再度取り込んで都合2回分のエネルギーで加速する瞬時加速(イグニッション・ブースト)が物理的に出来ないため、追い付くには量子ジャンプでも使わないと速度的に無理だ。

 だが量子ジャンプはレースで使っていいのか微妙な所だ。許されるならゴール前にジャンプしているが、自分でもどうかと思うので自粛している。

 

 様々な手を考え、飛鳥は決断した。

 

 

 一方、セシリアはチェックメイトを決められたと安堵していた。

 

 ソードビットが1機でも自分に着いていたらこんなことは出来なかった。それこそ銃口の前にピッタリ張り付いて片っ端から切り払っていただろう。そうなれば拡張領域(バススロット)をGNソードⅡブラスターでいっぱいにしているセシリアにはどうしようもなかった。

 

「(飛鳥さん。如何に貴女が強くても、対処しきれない数の攻撃には当たらざるを得ませんわ。せめてソードビットが1つでもあれば違ったのでしょうけれど、抜かれそうになる時だけ使えば良かったのを貴女自身が手放した。撃墜する気で攻撃していればこうはならなかったでしょうけれど……。)」

 

 セシリアはいつも練習で見ているからこそ気付いた。ソードビットが一夏たちを撃墜させることを避けていることに。本来なら全身を切り裂かれ、スラスターを壊されてレースから脱落していなければおかしいのだ。それだけの性能をGNソードビットは持っている。

 

「(何故撃墜を避けているのかは分かりませんが、そんなことでは勝てませんわよ。)」

「(本気を見せてくださいな!)」

 

 そうセシリアが()()()()()瞬間、

 

「トランザム!」

 

 6つの偏向射撃(フレキシブル)の射線から飛鳥が消え、セシリアの目の前に現れた。

 

「っ!?」

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 

 機体を赤く輝かせ、右手に持ったGNソードⅤに()()()()()()()()()飛来した6機のソードビットが合体し、バスターソードへと変貌したそれをセシリアに向かって振りかぶる。

 

 それをGNソードⅡブラスターを盾に防ごうとしたセシリアは、そのままブラスターを溶断された。

 

「よし!」

 

 ブラスターを破壊した飛鳥は赤く輝いたまま凄まじい速度でコースを進んでいく。セシリアも追いかけたが、今までとは桁外れの速度に差は縮まるどころか離される。

 

 結局、セシリアが飛鳥に追い付いたのは、飛鳥がゴールすると同時に機体を元の色へと戻し、クールダウンにゆっくりと飛行している所に20秒以上も経ってからのことだった。

*1
スラスターがないので第三世代最速の白式程度の速度しかないという設定。




実体剣複合大型ビームライフル【GNソードⅡブラスター】
セシリアがなのはの工房に置いてあったのを、パフェ1つと引き換えに借りることに成功した大型武装。
銃身下部に刃を備え剣としての機能を持つが、銃としての機能に重きを置いている。
純粋種が使用することで使用者のコンディションによってその射程の拡張と威力の調整が行え、1000Km先への狙撃だろうとビームを届かせることも可能。
本来はGN粒子を圧縮してビームとして発射するが、構造上ブルー・ティアーズが用いるBTエネルギーで代用可能であったためにそのまま貸し出された。
セシリアがまだ変革し切っていないため射程の拡張も威力の調整も行えないが、BTエネルギーを用いているため偏光制御射撃(フレキシブル)が可能。しかも射程の拡張も威力の調整も出来ないとはいえその性能は十分に高いため、飛鳥にトランザムを使わせる程に追い詰めた。
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