『はい皆さんおはこんばんちは。いつもパタパタ空を飛ぶ、天羽飛鳥です。』
『はいはーい、天っ才博士、葉加瀬なのはだよ。』
『録画の切れ目に飲まれましたが、引き続きゲームIS、やって行きましょう。』
『行きましょー。』
「あ、居た居た、おーい!」
「はい?どうかしましたか?」
用務員の姿をした壮年の男性、轡木十蔵は自分を呼んだらしい声に振り返った。
「えぇと、新入生の方ですね。どうかしましたか?道に迷いましたか?」
「いや、轡木さんを探してたんだ。」
「探していた、ですか。」
轡木十蔵は目の前にいる新入生、葉加瀬なのはの情報を思い出す。
IS適正は驚異の
その彼女が何故自分を探すのか。いくつか理由は思い浮かんだが、轡木十蔵は表向き用務員。彼女はそれしか知らない筈なので、単純に大きなゴミの扱いにでも困ったのだろうと考え、
「(――何故私の名前を知って)」
「ねぇ、轡木さん、
「!」
轡木十蔵はこの少女は自分の事を知っていると直感した。
「何故私にそれを?」
「IS学園の事なら轡木さんが一番詳しいでしょ?」
「えぇ、そうですね。隅から隅まで知っていますよ。用務員ですから。」
「
直感が確信に変わる。葉加瀬なのはは政府でもないと知らない轡木十蔵の真実を知っていると。
「立ち話もなんですし、移動しましょうか。」
「ここでいいよ。カメラないし。」
「(読まれている、と。)」
IS学園には各所に監視カメラが存在する。教室内や廊下はもちろん、屋外にもだ。しかし人工島に存在するIS学園全域に監視カメラを設置するのは現実的ではないため、ところどころ抜けている場所がある。今自分たちが居る場所もその1つだ。
「そうですか。それで、ISを作りたい、と。」
「うん、飛鳥の専用機をね。」
飛鳥。恐らく同じ中学出身の天羽飛鳥の事だろう。彼女もIS適正Sランク、本気を出した山田先生の攻撃を避けきり無傷で実技を終えた逸材だったと記憶している。
「自分のではなく、天羽さんの専用機を作るのですか?」
「うん。だってボク、代表にも候補生にもならないから、専用機持てないもん。」
「ならないんですか?IS適正がSランクなら、それだけで代表候補生にはなれますよ?」
「
なんと。
「言い切りますか。天羽さんはまだ代表候補生ですらなかった筈ですが。」
「言い切るよ。だって飛鳥はブリュンヒルデになるんだもん。」
「確かに彼女の才能は素晴らしい。本気を出した山田先生を相手に渡り合ったのですから。ですがまだ立ち回りが拙い。それでもブリュンヒルデになれると何故思えるのですか?」
「飛鳥がなるって言ったから。」
「――――。」
妄信ではない、狂信でもない。その瞳は純粋だった。意志の光が宿っていた。友の言葉を、それが出来る人だと信じたからこその――
「――わかりました。」
轡木十蔵は、その輝きを信じることにした。
『よぉし工房ゲット!』
『うわぁ……。』
『何さ。』
『行き成りトップに会いに行くとか……。』
『これやっとかないと、邪魔な企業が茶々入れてくると思うよ。轡木さんにはその辺りの説得に協力して貰うの。』
『序盤にやるムーブかなぁ……?』
「さぁて、ようやく開発に乗り出せる。」
与えられた工房を見渡して、葉加瀬なのははニィッと笑った。
「まずはカメラを潰さないとねー。あと盗聴器。」
ポケットから取り出した手袋をはき、真っ直ぐ壁に進む。
――ブォン!
手袋から光が溢れ、それがハンマーの形に変わる。それを目の前の壁に向かって振り下ろし、壁を崩して中を探る。
「まず1個。」
ブチっ、と指先で小さな盗聴器を潰し、光で出来たハンマーを今度はバーナーの様な形に変え、崩した壁を溶接し復元していく。
それを繰り返し、目に見える物を含め合計27個の盗聴器とカメラを全て潰し、更には備え付けのコンピュータに仕込まれていたデータ送信プログラムを削除。外部とのシステム的な繋がりをコードごと断ち、葉加瀬なのはは陸の孤島を作り出した。
「これで漏れることは無いかな。」
全ての『目』を潰したことを確認し、手袋から
「作ってよかった【マスターハンド】。最初はエネルギーの実体化と形成をするだけのただ持ち替え不要のスパナとかドライバーとかになるマルチツールだったけど、
「便利だけど、あんまり公に使えないのが欠点だよね、それ。」
その言葉と共に部屋のドアを開けて天羽飛鳥が入ってきた。
「飛鳥、来たんだ。」
「寮の方、調べて来たよ。男性操縦者の部屋にはいっぱいあるみたいだけど、他の部屋には全然なし。私たちの部屋は0だったね。」
「ごめんね、頼んじゃって。」
「いいよ別に。私の部屋でもあるんだからこれぐらいやるよ。」
「……ありがと。それじゃボクは開発と製作にかかるけど、飛鳥も見てく?」
「うん。前みたいに膝座る?」
「座るー!」
『なんか、ゲーム内の私たち距離近くない?』
『同じ純粋種だし、通じ合うものがあるんじゃない?』
『私、なのはを膝に乗せたことないんだけど。』
『え、膝枕はよくして』
『はい次!』
「そう言えば、イギリスの候補生と男性操縦者が専用機でバトルするらしいよ。」
ポチポチと空中に投影したキーボードを叩いている葉加瀬なのはを膝の上に乗せた天羽飛鳥が、今日聞いた話を話題に取り上げた。
「へー、あのビットの国とねぇ。男の方の機体は?データ取り用に
「それならもう届いて動かしてると思うんだけど、剣道場に籠って竹刀振ってるだけらしいから、時間かかる奴を新しく作ってるみたい。」
「それ間に合わなくない?」
「無理そう。」
専用機は既存のモノをカスタムする形式であれば早く作れるが、新造するとなると時間がかかる。それは機体コンセプトを決める会議が白熱するのもあるが、その後の機体デザインの決定が地獄と化すのもそうだし、何より武装や装甲の製作に時間がかかるからだ。
流石の天才も、天災も、装甲や武装を作る時は時間をかけざるを得ない。短縮して不良品など混じればブチ切れ、ストレス発散に友達を弄り倒すだろう。天災は無人機とか使って襲撃する可能性もあり。
「……興味出てきた。本場のビット見るついでにそのバトル見に行こうよ。」
「専用機間に合わずに打鉄で出てきたらステーキ定食奢って?」
「なら間に合ったらデラックスパフェ盛り奢ってよ。」
「800円と2000円を同列に語るの!?」
試合当日、観客席の後ろの方に並んで座った天羽飛鳥と葉加瀬なのはは、織斑一夏の登場を待っていた。
「お願い、打鉄で出てきて……!2000円は辛い……!」
「どんな機体に乗るのかなぁ。ボクが作るなら打鉄ベースで、データ取り用の
待つこと少し、カタパルトからISが飛び出してきた。
「──第三世代機、白式。」
空中に投影した画面に表示されたデータを読み上げ、なのはは隣の飛鳥にニィッと笑った。
「今回もボクの勝ちだね。」
「ちくしょう……デラックスパフェ盛りかぁ……。」
「ボク1人じゃ食べきれないから半分こね。」
「……全くもう、こいつめ!」
じゃれあっていた2人だが、試合開始のブザーが鳴ったのを聞きアリーナに目を向ける。
1発、2発とライフルから撃たれるレーザーを避ける白式を見て、
「──あぁ、あれ
「動きながら
第三世代機が最低限持っている筈のスペックさえ出せていない動きの違和感から、2人はその事にすぐ気が付いた。
「……あれ、何で銃出さないの?踏み込めないなら取り敢えずパンパン撃てば良いのに。」
「……飛鳥、ネットワーク繋げて
新たに空中に投影されたキーボードを操作し、なのはは隣の飛鳥にも見えるように画面を動かして白式の
「何この縛りプレイ、これじゃ
「全然。多分あのブレードが
「ただの実体剣にしては枠を食う高性能なブレードと、それ関連のシステムねぇ……。」
第三世代技術とは、イメージ・インターフェースを搭載した思考だけで動かせる特殊兵装のことだ。色々な種類があるが、共通点は大前提である思考によって動くということ。間違っても腕で振る実体剣に搭載されるものではない。せめて変形でもするなら──
「──そうか、展開装甲!」
「!なるほど、それなら確かにブレード1本で
「これで間に合った理由が判明した!束さんが手を出してたんだ!」
本来夏まで明かされなかった真実に辿り着いた2人。考察している間に時間は過ぎ、遂に白式が
「武装名【雪片弐型】……これって!?」
飛鳥が表示されたその名前を呟くと共に、白式の手の中にあった雪片弐型の刀身が割れ、実体剣がエネルギーブレードへと変貌した。
「零落白夜!そうか、これを使うために展開装甲を!」
なのはの頭脳は真の力を発揮した白式を見て、そのコンセプトを見抜いた。
「
零落白夜とは、あらゆるエネルギーを打ち消すエネルギーを生み出す
その本来の使い手である第一世代機暮桜は、自前の能力であるが故に唯一の武装であった近接用実体剣【雪片】にそのエネルギーを纏わせることができた。零落白夜を纏った雪片の一閃はISのシールドエネルギーを打ち消し、絶対防御を意図的に発動させ、それにより相手のシールドエネルギーをただの一撃で0にすることができた。
しかしその再現を目指した白式は本来の使い手ではないため、零落白夜のエネルギーを生み出せはしても実体剣に纏わせることが出来なかった。それで造られたのが雪片弐型。実体剣にエネルギーブレードとしての機能を持たせることで、刃を形成するエネルギーに零落白夜の物を使うことで、その課題をクリアしたのだ。
「
「
今まさに零落白夜使用の対価である自分のシールドエネルギー変換をやり過ぎた白式が負けた。能力に振り回されるのに武装は剣1本とか、織斑一夏は泣いていい。
「マジクソ。
「
かつて出会った
「さっすがあーちゃんとなーちゃん。束さんの秘密兵器である展開装甲を使ってもないのに見破っちゃった。あーあ、サプライズに丁度良いと思ったんだけどなぁ。」
「でもそっか、
「でも展開装甲の実験は成功したし、いっか!」
「マスターハンドのログを見るに、なーちゃんも開発始めたみたいだし、束さんも本格的に始めようかな──」
「──どっちが先に完成させるか、競争しよ?なーちゃん。」
マスターハンド
エネルギーを物理的干渉ができる様に実体化し、その形状を装着者の意思だけで好きなように形成することのできる手袋。スパナやハンマーはもちろんのこと、バーナーの様な物まで形成出来るが、実体化させる物の大きさに比例するように内蔵エネルギーを消費するため、包丁程度の大きさが形成できる限度である。
整備、製作ステータスSによるボーナスアイテム。
空中に表示していた画面やキーボードは全てこのマスターハンドが表示していた物であるが、通常のマスターハンドにはそういった機能はなく、また