「――来たね、セシリア。」
工房に入ったわたくしを出迎えたのは、この工房の主である葉加瀬なのはさん。
いつものようにポタージュの入った魔法瓶を持ちながらイスに腰掛け、こちらを
「えぇ、来ましたわ、なのはさん。」
それにわたくしも
「もう出来るんだ、それ。」
「まだ慣れませんけれど、どうにか。それでなのはさん、飛鳥さんから説明ならなのはさんに、と言われたのですけれど……。」
「知ってる。さっき脳量子波で連絡が来たからね。そこ座って。長くなるから。」
「では失礼して。」
あらかじめ用意されていた丸椅子にわたくしが腰かけたのを確認して、なのはさんは話し始めた。
「10年前――ボクと飛鳥がまだ幼稚園に通ってた頃、近所の山の洞窟で飛鳥がGN粒子を見つけた。」
「……はい!?」
GN粒子。今まで何度か飛鳥さんとなのはさんが仰っていたダブルオークアンタの扱う独自エネルギーで、ブルー・ティアーズでいうBTエネルギーに当たる物。それが自然界の、それも山の洞窟で見つけた物だなんて。
「調べてみたら、たまたま条件が整っていたからその洞窟が文字通り『目に見えるほど』多かっただけで、GN粒子は元来地球上に微量だけど存在する物質だってことと、人の意識を伝達する性質があることが分かった。」
「意識を伝達……ダブルオークアンタはその性質を使っているのですわね。」
タッグマッチトーナメントでイージスコンビを相手に使った粒子の大量放出と、それと同時に起こった不思議な現象。あれを見てわたくしはダブルオークアンタが戦闘用ではなく、それを目的として作られたと確信しました。だってそうでないと、ただエネルギー源を大量に放出するだけですもの。
「他にも電波妨害とか慣性の軽減とか、調べる内に色々な性質があるって分かっていってね。これは何かに使えるんじゃないかって考えてたら、飛鳥に怒られた。」
「え?」
「調べるのに夢中だったボクの邪魔しないように我慢してたけど、遊べなくて寂しかったんだってさ。限界が来てボクの纏めた資料を全部破いて八つ当たり。それを見つけたボクも怒って、絶交しちゃった。」
「えぇ!?」
飛鳥さんとなのはさんの仲の好さをわたくしは知っています。その2人が絶交だなんて……いえ、仲直りしたのは今の2人を見れば分かるのですけれど。というか、これ身の上話では?興味はあるのでいいですけど。
「でも1日で後悔した。何とか仲直りしたいって思ったけど、ごめんなさいだけで済ませたくはなかったし、かといって他に何て言えばいいか分からなかった。下手に言葉を並べても薄っぺらく感じるし、ごめんなさいじゃ軽すぎる。どうすればいいのか分からないまま時間だけが過ぎて、1週間経った頃。飛鳥が
「た、樽?」
「中身は洞窟で集めたGN粒子。洞窟の壁を砕いた石を内側に敷き詰めて、GN粒子が崩壊しないように貯める粒子貯蔵タンクの雛型を作って。それをボクの目の前で壊して、GN粒子でボクと対話したんだ。」
「それが始まり。すれ違いも誤解もなく、想いを届ける。それを目指して今まで色々してきた。GN粒子を生産する機関の開発と、更なるGN粒子の性質解明と運用法の確立。飛鳥にも付き合って貰って実験して、そうする内に見つけた最後の性質――。」
「最後の性質……?」
「――人類をイノベイターに変える。それが、GN粒子最後の性質。」
「イノベイター……革新者?」
革新者。それが含む意味は……わたくしに今起こっている変化。
「驚異的な反射神経、脳量子波による表層意識の共有、空間把握能力の向上、さらに人間の約2倍の寿命、あと勘が良くなるとか色々。GN粒子を浴び続けることで、人間は新人類のイノベイターに革新する。」
「見た目で分かる変化は、虹彩が金色になること。」といいながら、なのはさんは
「わたくしは、イノベイターに……?」
「史上3人目のイノベイター、それが君だ。」
正直、とてもではありませんが信じられません。でもなのはさんが語るイノベイターの特徴はわたくしの今の状態と合致します。
「元々イノベイターになる資質は高かった。IS学園で3年間を過ごす内に、ダブルオークアンタが放出するGN粒子の影響で自然にイノベイターになるだろうと思っていた。でも飛鳥との訓練で変革は早まって、タイプレギュラーの粒子放出で完全に君はイノベイターになった。」
「……。」
思えば、飛鳥さんと訓練を重ねる毎にわたくしは強くなっていきました。あれがイノベイター化の前兆だった?
「戸惑って当然だよ、ボクと飛鳥も初めは苦労したから。特に他人の考えてることが分かるのがコントロールできない内は地獄だった。ゲーセンにずっといるみたいな感じで吐き気がしてくるし、ふと感じる悪意に頭痛がする。」
思い出したのか顔を顰めたなのはさんはポタージュを口に含みました。わたくしも少し口寂しいのですけど、1杯いただけませんでしょうか?
「ともあれ、だ。君がイノベイターになったから、注意点をいくつか説明しなきゃね。」
「注意点……?」
「まず今言ったように他人の考えていることが分かること。悪意とか特に辛いから気を付けて。」
「細胞が普通のとは違うから健康診断に引っ掛かりかねないこと。うまく誤魔化して。」
「遠くの事件が分かったりするけど気にしないで。1つずつ気にかけてたら体が持たないから。」
5分近くに渡る注意点の説明を口頭でしたなのはさんは、「最後に」と前置きをしてポタージュに口を着けて、
「ブルー・ティアーズの機体スペックをセシリアの能力が超えるから、体感的に動きにくくなる。」
そう言いました。以前訓練機に乗っていた飛鳥さんはとても窮屈な思いをしていたそうですし、わたくしもそうなるのでしょうか。
「セッティングでどうにかなったりはしませんの?」
「飛鳥は元々の馬鹿力も合わさってダブルオークアンタ以外まともに扱えない状態だけど、セシリアなら
「……なのはさん、頼みがあるのですけれど。」
「いいよ。ただ、ちょっとお金がかかるけど、いい?」
「予算にもよりますわね。」
『
『プレイ人口が少ないとはいえ、結構ウィキは充実してるこのゲームで新情報とかあったんだ……。』
『ウィキ更新しないと……条件はなに?』
『……ツインドライヴ機でセシリアと仲良くなった上で一緒に訓練してイノベイター化?』
『検証無理じゃない?』
なのはさんから話を聞いて数日、1学年合同授業。
「織斑、篠ノ之、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰、更識!前に出ろ!」
授業開始早々、飛鳥さん以外の専用機持ちが織斑先生に呼ばれました。
「お前たちにはデータ取りをしてもらう。山田先生、アレを。」
「はい!みなさん、こちらに注目してくださーい!」
「オープン・セサミ!」と言って背後に並ぶコンテナを開けた山田先生。セサミってなんですの?
コンテナの中から現れたのは金属製のアーマーのようなものでした。
「これは国連が開発中の外骨格攻性機動装甲『
「あの、織斑先生。これをどうしろと?」
箒さんの恐る恐るの質問に、織斑先生の回答は至ってシンプルなもの。
「乗れ。」
「「「え!?」」」
「2度は言わんぞ。これらの実稼働データを提出しろと学園上層部に通達があった。教員のデータだけでは足りないため、お前たちにも手伝ってもらう。」
そういう織斑先生に、鈴さんが声を上げた。
「織斑先生、何で飛鳥は呼ばれなかったんですか?」
「EOSが7機だからだ。天羽を外したのは壊されかねんからだがな。」
「え?」
「天羽の筋力だと少し力を入れるだけでEOSは壊れる。そんな状態でデータなど取れん。」
「人をゴリラみたいに言わないでください!」
飛鳥さんからの抗議の声をスルーした織斑先生の号令で、EOSとやらを着てみたのですけれど……。
「重い……!」
とにかく重い。重量自体はISの方が重いのですけれど、PICも補助駆動装置もないEOSはとにかく重く感じる。しかもこの操縦性の悪さで10分程度の稼働時間しかない。ISが優れているのは分かっていますけれど、いくら何でもこれは酷い。
「それではEOSによる模擬戦を開始する。ISと違って防御能力は装甲のみのため、生身には当てるなよ。ペイント弾を使用するが、当たるとそれなりに痛いぞ。」
「始め!」という織斑先生の合図と共に、ラウラさんが脚部ランドローラーを回して一夏さんに肉薄。あっという間に転倒させてセミオートのサブマシンガンで倒し、わたくしの方へとやって来ました。
「もらったぞ!」
「わたくしはそう簡単にはやられませんわよ!」
フルオートでサブマシンガンを撃ったわたくしは、思った以上の反動に全く当てられずにいました。
「何という反動……!ですが!」
反動があるなら修正するだけのこと。ラウラさんの動きが鋭いならその先を読む。
「そこ!」
「なっ!?」
ラウラさんの移動先を予測した偏差射撃。惜しくも左腕のシールドで防がれたが、意表を突くには十分。
「これで!」
すぐさまフルオートでの連射。しっかりと反動を抑え、狙う。
撃ち出されたペイント弾はラウラさんのシールドで守り切れていない脚部に当たりましたが、ラウラさんは速度を緩めずにこちらに向かってきて、そのままわたくしの肩を突き飛ばして転ばせ、起き上がるより先にペイント弾でそのまま倒すと、鈴さんたちの方へと駆け出して行きました。
「慣れない装備とはいえ、こうまで差があるなんて……。」
改めて、ラウラさんの技量の高さを感じましたわ。
セシリアの口調が迷子。
ブルー・ティアーズは強化のし甲斐がある機体なので大好きです。というかビットとかファンネルが大好き。
身体測定はスルー。描写する意味を感じられなかった……。