IS 今こそ対話する!   作:駄竜

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 8巻本当にやることない……。


第32話 IS学園、いつもの日常

「そう!そうだよセシリア!そうでなくっちゃ面白くない!」

 

「行きますわよブルー・ティアーズ!もっと速く、激しく!」

 

 互いに右手で握った剣にして銃の武装から放たれた攻撃が上空でぶつかり合う。それを為す青の機体を見上げ、織斑一夏は目を丸くした。

 

「セシリアってあんなに強かったか……?」

 

 IS学園のカリキュラムの中でも数少ない1学年合同IS実習。そのデモンストレーションとして織斑千冬が『いろいろな技術を見せろ』と言って後は好きなようにやらせた天羽飛鳥とセシリア・オルコットの模擬戦。

 

 シューター・フローでの円状制御飛翔(サークル・ロンド)といった基本的な技術に始まり、セシリアの行った瞬時加速(イグニッション・ブースト)による急速接近からの近接攻撃に対して、飛鳥が行った直線的にしか動けない瞬時加速(イグニッション・ブースト)へのPICを切ることで重力を受け高度を急激に下げることでの対処、そこからの反撃とそれに対するセシリアの迎撃。

 

 今まで見たこともないハイレベルな攻防をする2人に、一夏は驚いていた。

 

 飛鳥が強いのは知っている。この前のタッグマッチトーナメントで上級生のタッグを下し、決勝で自分と更識簪に何の反撃もさせずに勝利した実力は本物だ。世界最強(ブリュンヒルデ)の千冬をして自分に並ぶと言った人であるし、機体だって高性能。弱いはずがない。

 

 ただセシリアは意外だった。最近のセシリアは飛鳥との訓練を主に行っているためにあまり出来ていないが、放課後の模擬戦では二次移行(セカンド・シフト)して以来勝ち越していた。

 

 もちろんセシリアもイギリス代表候補生の名に恥じない力量を持っているが、やはり機体の相性が悪かった。セシリアのブルー・ティアーズはエネルギー武器を主に使う遠距離射撃型で、その攻撃はエネルギーを無効化する零落白夜のシールドを突破できない。だからこそ一夏はシールドを展開し突っ込むことで間合いを詰め、零落白夜の刃を当てることでセシリアに勝って来た。

 

 だが、今のセシリアはどうだ?

 

「そこですわ!」

 

「甘い!そこ!」

 

「踏み込みが足りませんわ!」

 

 互いに機体が備えたビットを使わず、右手に持っている武器のみで、あとは純然たる技術による模擬戦。ビームとレーザーが、剣と剣が交差し、互いに踏み込んでは切り結び、避け、ただの1度も攻撃に掠ることなく攻防を繰り広げる。

 

 偏向射撃(フレキシブル)による曲射も使わず、ビットによる多角攻撃もせずに、たった1つの武器とテクニックだけで、今のセシリアは前のセシリアを軽々しく凌駕している。

 

「(勝てる想像ができない……。)」

 

 飛鳥から譲り受けたという武装【GNソードⅡブラスター】。あれを手にしてから、セシリアの弱点であった接近戦がだんだんと克服されているのは知っていた。しかしそれでも剣の扱いで負けることはないと思っていたのに、今のセシリアに自分が一太刀当てるところを想像できない。

 

 まるでそう、昔通った道場の師範代を見ているかのような──

 

「そこまで!2人とも降りて来い!」

 

「!」

 

 一夏の思考は千冬の声によって中断された。

 

 千冬の声によって模擬戦を終わらせた飛鳥とセシリアがふわりと降りてくる。

 

「腕を上げたな。いいデモンストレーションだった。」

 

「当然ですわ!」

 

「イメージ・インターフェースなしの試合も、たまには良いですね。」

 

 ISを解除した2人に千冬は珍しく誉め言葉を贈った。

 

「今天羽とオルコットが行った模擬戦は誰にでも出来るものだ。瞬時加速(イグニッション・ブースト)高速切替(ラピッド・スイッチ)も使っていたが、3年もあれば全員覚えられる。今のを目指して精進するように。」

 

「「「はい!」」」

 

「それでは授業を始める!」

 

 いつものように授業が始まる。

 

「(俺もうかうかしてられないな。)」

 

 

 

 

『何かパターン変わってない?近接戦仕掛けてくるとかあったっけ。』

 

『これクアンタの戦い方だな?学習したのか……。』

 

『ここに専用換装装備(オートクチュール)が入るんでしょ?勝てる?』

 

『フルセイバーを使わざるを得ない。』

 

『あ、コンボハメする気だ。』

 

 

 

 

「えっ!?専用換装装備(オートクチュール)を葉加瀬さんに頼んだ!?」

 

「えぇ。少々値は張りましたが、作ってくれることになりましたわ。」

 

 合同実習後の混み合うシャワー室。そこでセシリアが語ったことに専用機持ちたちが食いついた。

 

「どんな物を依頼したんだ?」

 

「ストライク・ガンナーを参考に、ビットをスラスターとしながらも攻撃能力を封じない物を、と。」

 

「高速戦闘するの?」

 

「飛鳥さんのトランザムに追いつく必要がありますもの。生半可なスピードでは翻弄された末に斬り刻まれて終わる以上、スピードを求めるのは当然のことですわ。」

 

 通常の状態でも白式と同等の速度を誇る飛鳥のダブルオークアンタは、トランザムを使用することで機体出力を何倍にも引き上げることができる。その速度はレース用にチューンされた機体以上であり、それを飛鳥は切り札としている。

 

 セシリアは今まで飛鳥と模擬戦や訓練を重ねてきたが、トランザムはキャノンボール・ファストの時以外で使われたことがない。切り札を模擬戦で使う気がないだけだが、それでも使わせてみたい。だからセシリアが求めたのは火力と速度、つまるところ単純な強化。

 

「でも、国からの承認とかはいいの?」

 

偏向射撃(フレキシブル)が使えるようになった以上、データ収集は終わったようなものですわ。これ以上となれば二次移行(セカンド・シフト)は必須。本国もそれは承知しておりますから、多少遊んだとしても問題はありません。」

 

 「ストライク・ガンナ―の改良型と言ったのも許可された理由でしょうけど。」とセシリアは言う。

 

 ブルー・ティアーズを制作したイギリスとしても、自国の第三世代技術であるBT兵器のビットをスラスターにするストライク・ガンナーは発想こそ良いという自負はあるが、ブルー・ティアーズの長所を消している自覚はあった。改良案はいくつか考案されたが、技術的な問題でどれもデザインを描いただけに留まった。

 

 そこに舞い込んだパイロットからのオートクチュール作成の許可申請。聞けば新しい日本代表候補生の専用機を作った人物にオートクチュールを作製して貰えることになったとのことで、イギリスはそれに乗っかることにした。

 

 BT兵器の情報が漏れる可能性よりも、専用機開発を一任される人物の技術力で作られた装備を手に入れる機会を選んだのだ。

 

 その辺りの裏事情を大体察しているセシリアだが、それは口にはしなかった。

 

「(社会とは得てしてそういったものですわ。未だオルコット家の当主を正式に継いでいないわたくしでは、何か言うことも出来ません。)」

 

 国の支援を受け保護されているオルコット家の資産。それをセシリアが正式に手にするのは今年の誕生日――12月24日。その時までセシリアは国に文句を言うことが出来ない。そもそも代表候補生程度では言えないのだろうが、セシリアの場合は資産保護を受けているのもあって更に発言することが出来ない。

 

 例え、友人の手がけた物が国に奪われることになっても――。

 

 

 

 

「――とか思ってるんだろうなぁ。」

 

 ダブルオークアンタの量子ジャンプを使用して、混み合うシャワー室ではなく他に誰も居ない寮の自室にバレないようにやって来た飛鳥は、浴室で汗を流しながらセシリアの考えをおおよそ察していた。

 

「別に、奪われたならまた作り直すだけなのに。なのはならそうする。金銭感覚ガバガバだし。」

 

 葉加瀬なのはは結構ずぼらだ。料理はできないし整理整頓もしない。デスクトップにあるファイルはそこそこ纏まってはいるが、ぐちゃぐちゃして全部場所を覚えているなのはでないとどこに何があるか分からない。おまけに金遣いも荒い。欲しいと感じたら取りあえず買うという、本当にダメな人の典型のような癖がある。

 

 そんなずぼらな親友と一緒に過ごして来た飛鳥は家事はもちろん節約も出来るように育ってしまった。部屋の掃除は飛鳥がやっているし、なのはの工房を片付けているのも飛鳥である。なのはがいつも飲んでいるポタージュを作っているのも飛鳥だ。用意しないと飲み物で無駄な出費をするなのはに、買うことをさせないためのポタージュである。

 

 それはさておき、セシリアの事だ。

 

「フォローしないとなぁ。愛が深いセシリアには、それを取られるのが一番辛いはずだし。」

 

 セシリアは愛が深い。それは両親との関係がそうしたのだろうが、誰かを思う時は真っ直ぐなのだ。

 

 好きな人、友人、従者。そのどれもがセシリアにとって大事な人で、妥協できない。だからセシリアはなのはから貰うオートクチュールが国に取られるかもしれないことに悩んでいる。

 

「取られたところでセシリア以外使えないしなぁ。」

 

 BT1号機はセシリアに。BT2号機はコードネームMに。B()T()3()()()は――

 

「BT搭載機がセシリアの以外ないし、装備自体もセシリアじゃないと扱えない。取るだけ損だからすぐ返ってくるって言っとかないと。」

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