IS 今こそ対話する!   作:駄竜

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第36話 葉加瀬なのは、契約する

『はい皆さんおはこんばんちは、いつもパタパタ空を飛ぶ、天羽飛鳥です。』

 

『はいはーい、天っ才博士、葉加瀬なのはだよ。』

 

運動会はクソゲーです。他に誰か1人でも動ける機体があればそれとぶつかって最後に楯無が優勝を掻っ攫うクソゲーです。』

 

『ミニゲームの連続なのも低評価。前から言ってるけどミニゲームやりに来たんじゃないんだから。』

 

『これが大会ならステータス上げにも使えるのにミニゲームしかないし、そのミニゲームもキャラクターのステータスを考えると碌にクリアできないとかほんと……。』

 

 

 

 

「もぐもぐもぐもぐ……。」

 

「なのはさん、このお皿の山は……?」

 

「もぐもぐもぐもぐ……。」

 

「条件付けされた程度で乱入者に優勝掻っ攫われたのが悔しいってやけ食いしてるんだよ。こうなったら気が済むまで反応しないから、セシリアも気にしないで。」

 

「は、はぁ……。」

 

 運動会が1億点を獲得した更識楯無の優勝に終わり、テントや機材の片付けも終わった夜のIS学園食堂。まさか生徒会長が乱入して優勝を掻っ攫うとは思ってもみなかった天羽飛鳥は、やけ食いで着実に皿を積み上げていた。

 

「あの、飛鳥さんはこんなに食べて大丈夫なんですの?」

 

「飛鳥は食べようと思えばいくらでも食べられるから、問題ないよ。体形も変わらないしね。」

 

「それもイノベイター化の恩恵ですの?」

 

 キラリ、と目を輝かせてセシリア・オルコットは葉加瀬なのはに聞いた。

 

「いや、飛鳥がおかしいだけ。」

 

 「ボクはあんまり食べれないし、普通に太るし」と言うなのはだが、その時豊満な胸が視界に入ったセシリアは「胸に行っているだけでは……?」と訝しんだ。

 

「そうだセシリア。専用換装装備(オートクチュール)だけど、今年中には完成するよ。」

 

「あら、本当ですの?」

 

「ネックだったお金事情が予期せず解決したからね。12月には出来てる筈だよ。」

 

 そう言ってポタージュに口をつけるなのはにセシリアは首を傾げた。

 

「?振り込み額が足りなかったんですの?」

 

 セシリアは専用換装装備(オートクチュール)製作を依頼した際、なのはから提示された金額を確かに振り込んでいた。それも貴族として一般人とは違うセシリアの金銭感覚をして『少々値が張った』と言わせるほどの金額である。

 

 専用換装装備(オートクチュール)製作に具体的にいくらの金額がかかるのかは分からないが、あれで足りなかったのかとセシリアには疑問だった。

 

「セシリアに請求したのは材料費だけだよ。開発費とか作る時の電気代とかは別。」

 

「あれで材料費だけだったんですの!?」

 

「片手間で払えるような金額でイノベイター専用の物が作れる訳ないじゃん。クアンタだって貯金してたお金のほとんどを使ってやっと出来たんだからね?」

 

 ダブルオークアンタの製作にはとてつもない費用が掛かっている。装甲や武器を作るための材料費は言うに及ばず、それを加工する機材の製作からしてなのはが1からやったのも理由ではあるが、何よりもイノベイター専用の高性能な機体に仕上げるための部品の製造に金がかかるのだ。

 

「パッケージだから多少安いけど、全額だと大体ISが2機は作れるぐらいだよ。」

 

「だ、大分かかるんですのね?」

 

「それでもクアンタよりはかなり安いんだけどね。まぁフレームから作ったから、その分高いだけなんだけど。」

 

 ダブルオークアンタのフレームにはクアンタムシステムの粒子放出を最大限行うための仕掛けが組み込まれている。そのため製作難度が高く、失敗した物も含め材料費等で結構な費用が掛かった。

 

 セシリアに依頼された専用換装装備(オートクチュール)はフレームには手を付けないため、ダブルオークアンタと比べれば大分安い。それでも結構な値段がするのは、それだけイノベイター専用の高性能な物を作るのにお金が掛かるからだ。

 

「ところでなのはさん。お金事情が解決したとおっしゃいましたけど、何があったんですの?」

 

「いや、ちょっと悪魔と契約をね。死にはしないから気にしないで。」

 

「悪魔……?」

 

 

 

 

『……なのは?何でこんなにお金あるの?高ステータス由来の大金所持スタート*1した最初より大分多いんだけど。』

 

『大丈夫、死にはしないから。』

 

『何をした!言え!』

 

『大丈夫、困るのは一夏だけだから。』

 

『は!?』

 

『それではボクの録画画面を見てみよう。』

 

 

 

 

 時間は少し巻き戻る。

 

――♪♪~♪~

 

「ん?」

 

 運動会の片付けが終わり、混み合うシャワー室から出たなのはは、自身のケータイが電話を着信していることに気が付いた。

 

「……。」

 

 じー、となのははその番号を見つめながら、どうするか考えた。

 

 なのはのケータイに電話がかかってくることはない。GN粒子が漂う場所にいつも居るため、電話が繋がらないからだ。番号を知っている人間はそのこともあってかけてくることがない。となれば、これは知らない人間からの電話。出ないのが吉。

 

 だがイノベイターとしての直感が告げている。『出ない方が面倒なことになる』と。

 

――♪♪~♪ ピッ

 

「もしもし。」

 

【あ、やぁーっと出た!ハロハロ―、なーちゃん!】

 

――ピッ

 

 何も聞かなかったことにしてなのはは通話を切った。

 

――♪♪~♪~

 

 再び流れる着信音。溜め息を吐いてなのははもう1度電話に出た。

 

「もしもし。」

 

【もー!酷いよなーちゃん!ガチャ切りは流石にないよ!ぷんぷん!】

 

「何の用なの。ボク今シャワー浴びるところだったんだけど。」

 

【嘘は良くないなー。今あがった所なのは分かってるんだからね?】

 

「ホントホント。ナノハウソツカナイ。」

 

【ホントかな~?まあ今はいいけど。】

 

 電話をしながらなのはは人の居ない場所に移動を始めた。何のつもりかは分からないが、厄介事が服を着ているかのような人がわざわざ自分から電話をかけてきた以上、面倒なことになるのは明らか。それに誰かを巻き込んではいけないと、学園中に仕掛けられているいくつもの国の盗聴器を避け、安全な場所にやっと辿り着いたなのはは切り出した。

 

「それで、わざわざボクの電話番号調べて掛けて来た訳は?地球外生命体でも見つけたの?」

 

【んにゃ、それはまだだねー。地球に居るんだし他の星に居ない何てことはない筈なんだけどなあ。】

 

 【太陽系外ならいるかなあ】と言う声に少なからず楽しそうな感情が含まれているのを気に留めながら、なのはは黙って用件を言うのを待った。

 

【今回はなーちゃんにお願いがあって電話したんだ。】

 

「お願い?……え、変な物食べた?」

 

【相変わらず辛辣だなぁなーちゃんは。】

 

 なまじ自分が何でも出来るが故に人を頼ることがない天才がお願いなど、正気を疑って当然だとなのはは思う。

 

【何て言ったっけ、3()()()()()()の名前。】

 

「――――。」

 

 3人目の金髪――それが誰を意味するのか、分からない訳がない。しかしその情報は飛鳥となのは以外誰も知らない筈の物だ。わざわざそれを引き合いに出すということの意味は何か。ここでようやく、なのはは理解した。『この人は今回本気でやりに来ている』と。

 

【今作ってるんでしょ?その子のためのイノベイター専用のやつ。】

 

「まぁね。今年度中には完成すると思うよ。」

 

 ならば、となのはも気を引き締めた。いつも飛鳥がしているように目を金に輝かせて、覚悟を決める。

 

【それのお金、出してあげようか。】

 

 本来このお金は、なのはが(かね)てより作ろうとしている『量子型演算処理システムのために』と言って今回のお願いをするつもりで用意したもので、それを3人目の出現によって名目を変えた物。なのはの心情を読んで早めに製作してしまいたい方に変えたのだ。

 

「それの対価に何が望み?やっぱりGNドライヴの設計図が欲しいとか?」

 

【いやいや、約束忘れるほど歳食っちゃいないよ。なーちゃんはISコアを作らないし、私だってGNドライヴを作りはしない。そういう約束でしょ?】

 

「他にも色々『作らない物』は決めたけどね。」

 

 かつて交わした約束。互いのためにも互いの物を作らない。それは未だに破られていない。破ってしまえば、それは完全に敵対する道となる。そうなれば互いに取って不利益だからこそ、互いにそれを守っている。

 

【で、私のお願いなんだけど。】

 

「うん。」

 

いっくん(織斑一夏)を殺す邪魔をしないでほしいんだ。】

 

「――はぁ?」

 

 まさかの殺害予告に、さしものなのはも困惑した。

 

 てっきり第四世代機【紅椿】の成長を手伝わされると思っていたのだが、それとは全く関係のないことをお願いされた。

 

「織斑一夏を殺す?」

 

【そう。】

 

「玩具にするのに飽きた?それとも殺す理由が出来た訳?」

 

【どっちもかな。】

 

 そういう電話越しの声には感情がなかった。いつもの飄々(ひょうひょう)とした端から見て何を考えているのか読めない姿とは異なるその様子に違和感を覚えたが、その理由をすぐには思いつかなかったなのははそれを記憶の片隅にメモしながらも今は気にしないことにした。

 

「飛鳥はいいの?単純な障害なら飛鳥の方が大きいけど。」

 

【あーちゃんは私が相手すれば時間は稼げるからね。その間にマドちゃんがいっくんを殺してくれるよ。】

 

「織斑千冬はどうするのさ。まず間違いなく敵対するよ。」

 

【この際最終決戦でもいいかなーって。】

 

「――――そっか。」

 

 1秒、2秒と無言の間が続く。

 

「分かった。ボクは織斑一夏の殺害を邪魔しない。」

 

【ありがとう、なーちゃん!】

 

「ちゃんとお金は振り込んでね。」

 

【おっけおっけー!】

 

 明るく、いつもの調子に戻った声にどことなく安心しながら、なのはが通話終了のボタンを押そうとしたその時、

 

【あ、そうだなーちゃん。】

 

「ん?」

 

【こんな世界で満足?】

 

 さっきまでとはまた違う、本気の声音でそう問いかけられた。

 

 それになのはは、

 

「全然。」

 

 笑ってそう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「世界を変えるのを諦めちゃったの?師匠……。」

 

 通話を切ったなのはは1人、壁に背を預け座り込んだ。

*1
キャラメイクで高ステータスのキャラを作ると、それに比例して所持金が多い状態でスタートする。

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