「で、飛鳥。オレたちに着いて来てどういうつもりだ?」
「てっきりあのイギリス
ダリル・ケイシーとフォルテ・サファイア。IS学園が誇る名物コンビ『イージス』と共に新幹線で到着した京都を作戦開始時刻まで回ると言って他の面々と別れた天羽飛鳥は、そう聞いて来た2人に向き直って答えた。
「先輩たちなら事情を説明する手間が省けるので。」
「事情?おまえ何する気だ。」
「まさか1人で
「大体合ってます。」
さらりと答えた飛鳥にダリルとフォルテが絶句すること数秒。頬を引きつらせてダリルが聞いた。
「何が目的だよ。お前の機体でまた話し合う気か?」
「
「間に合わない?」
何が間に合わないのか。それを数瞬考えたが、すぐに思い浮かぶものは少なかった。まさか
飛鳥と実際に戦い、
そう考えるダリルの思考を読んだかのように、飛鳥が口を開いた。
「
「あの人って、誰っスかそれ。」
「――篠ノ之束。」
まさかの名前に2人は目を見開いた。
篠ノ之束。その名前を知らないIS関係者は居ないだろう。ISの製作者である今世紀最大の天才にして、現在行方不明になっている人物がまさか
「戦闘終了まで4時間49分。作戦開始と同時に始めたら明るくなるまで掛かります。眠くなるのでそんなのやってられませんから、今から行きます。」
「なんだその偉く具体的な数字は……つか、篠ノ之束が相手なら全員でやりに行った方がよくねーか?」
「私が殺しかねないのでダメです。」
「……それはどういう意味っスか。」
ISには絶対防御があり、それによって操縦者に危険が及ぶ事態から守られている。完璧ではないので場合によっては操縦者が怪我をすることもあるが、それでも死ぬような事態にはならない。だが飛鳥ははっきりと『死』を口にした。しかも、自分が巻き込むという形で。
「束さんとの戦いではクアンタの【枷】を1つ外すんです。その状態で周りに味方がいると集中して束さんと戦えないので、その隙に同士討ちさせられます。なので私1人の方が勝率高いんですよ。」
「【枷】だぁ?まさか、競技用リミッター以外にも制限掛けてんのか?」
「3つほど。今回はその内の1つを外します。」
ISはその高過ぎる性能を抑えるリミッターがいくつもかけられている。総じて競技用リミッターと呼ばれるそれはISの出力を抑え、シールドエネルギーの総量を減らしている。
これはISの軍事転用をさせないためのアラスカ条約によって決められている制限であり、これによってISはかろうじて『スポーツ』として扱われている。
「それで勝てんのかよ、あの篠ノ之束に。」
相手はISの開発者。それを相手にするのに、通常よりも枷を掛けている状態で勝てるのかとダリルは聞いた。
「勝てますよ、だってそう
「誰が?」
「未来、ですかね。」
『一気にヤベー奴感が増してるよ私……どうしよ。』
『作ったボクが言うのもあれだけど、何でこんなの作ったんだボク。』
『このシステムアシストの悪魔、本当に度し難いなぁ。』
『そもそも何でこんなのがコラボ機体の副産物とはいえそのまま採用されたのか、コレガワカラナイ。』
『これならフルセイバー持ってきた方が良かったかも……。』
「よっ、と。」
その輝きの中から専用機ダブルオークアンタを纏った飛鳥がプールサイドに降り立った。それに続いてGNソードビット6機が現れ、GNシールドに戻っていく。
「束さんは……この先のラボか。」
「入っておいで、鍵はしてないから。」
中から聞こえた懐かしい声に安堵しながら、飛鳥はダブルオークアンタを纏った手で扉を開いた。
「いらっしゃーい、あーちゃん。どうしたのこんなところに来て。」
お気に入りらしいファンシーなドレス姿で出迎えた束が、笑顔でそう聞いてくる。
「もちろん、知人を殺されるのは嫌なので、邪魔をしに来ました。」
「ほほう、邪魔しに参ったか。でも私とあーちゃんが戦ったら、何時間もの激闘が雑にカットされた末に私が勝つよ?」
「だから途中で切り上げて、よくおにぎりを一緒に食べましたね。」
「美味しかったねー、あーちゃんのおにぎり。筋子とか特に。」
中身のない他愛ない会話が続く。飛鳥と束の会話は大体こう言った物だった。なのはと過ごす束はその頭脳を遺憾なく発揮したが、飛鳥に対してはその頭脳を使ったことがほぼない。日常会話ですら常人以上の思考速度で処理している束は、高いイノベイター能力を持つ飛鳥を気遣って飛鳥の前では思考を止めて条件反射のような形で会話をしていた。
しかし、今はそれがされていない。考えた上でこういう会話がされている。それも脳量子波の伝達をGN粒子をダブルオークアンタが生産・放出しているすぐ近くで。
だが、飛鳥に影響はない。それに束が首を傾げた。
「あーちゃん、頭痛くないの?」
「束さんの思考は相変わらずぐちゃぐちゃしてますから痛いですよ。ただ、それが気にならないぐらい
「なにそれ。」
束は自分が普通とは違うと自覚している。それは密かな自慢であるし、それ故に自分の方がおかしいという客観的な視点も持ち合わせている。
その天才・束の思考よりも酷いものとは、いったい何か。
「『Zoning and Emotional Range Omitted System』。」
「――!?」
飛鳥が口にしたその名称を、束は知っている。他でもない束が、かつてなのはと共に作り上げた
「単語の頭文字を取ってつけられた通称は【ゼロシステム】。」
「バカ!そんなことしてでも私を止めたいの!?下手をしなくても死ぬんだよ!?」
「こうでもしないと、束さんは止まってくれないでしょ。」
「……っ。」
愚直に力で抑えつけようとするならそれを超える力で捻じ伏せた。真っ直ぐに思いを伝えてくるだけなら無視をした。
だが、こんなことをしてくるとは思ってもいなかった。
「思いだけでも、力だけでも、束さんは止まらない。だから私となのははこの【枷】を外した。」
「バカだよ……大馬鹿者だよ、あーちゃんも、なーちゃんも。」
「そりゃ、束さんの弟子ですから。」
真っ直ぐと金色に輝く目で自分を見つめてくる飛鳥に、束は歯を食いしばった。
「……それでも、私は止まらない!」
叫びと共に、束の体を装甲が覆った。
「【群咲】、起動!」
束の専用機【群咲】。その能力は全ISを掌握する【コード・ヴァイオレット】。
だが、それはイノベイターには通用しない。脳量子波でコア人格と直に対話できるイノベイターには、上位権限が通用しない。
「まずは力比べ、行きますよ束さん!」
「すぐに片付けて、ゼロシステムを止めてやる!」
互いに互いを思い合う戦いが、始まった。