IS 今こそ対話する!   作:駄竜

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第44話 篠ノ之束は師匠である

「さて、と。」

 

 どさくさ紛れにボディタッチをして荒んでいた心を癒した天羽飛鳥が立ち上がり、再び専用機【ダブルオークアンタ】に身を包んだ。

 

「いっくんの所に行くの?あーちゃん。」

 

 どさくさ紛れにボディタッチされた篠ノ之束が顔を赤くしてはだけたドレスの襟元を正しながら、GNソードビットで量子ジャンプの準備を始めた飛鳥に聞いた。

 

「早く終わらせてお風呂に入りたいので、即行で終わらせてきます。その後一緒にお風呂入りましょうね、師匠。」

 

「いいけど、あんまり遅いと帰っちゃうよ?」

 

「3分で済ませます。」

 

 GN粒子の残照を残して量子ジャンプしていった飛鳥の影を見つめること数秒、束は近くの路地裏に顔を向け口を開いた。

 

「居るんでしょ、ちーちゃん。」

 

「――バレていたか。」

 

 その束の声に路地裏からいつもの黒いスーツに日本刀を片手に持った、束の親友・織斑千冬が姿を現した。

 

「負けたか、束。」

 

「違うよちーちゃん、勝ちを譲ったんだ。私とあーちゃんが全力を出すには()()()()()()()からね。どっちかが譲歩しないといけないんだよ。」

 

 そもそも撃ち合いの話を持ち掛けたのは束だ。逃げるための算段でこそあったが、あれは事実上の敗北宣言だった。あまりにも飛鳥の意志が固いから、束が折れた。いつも我を押し通す束にしては珍しいことだが、相手が弟子たる飛鳥だからこその譲歩だった。

 

「難儀なものだな、天才は。生き辛いだろう。」

 

「ちーちゃん達もでしょ、普通に生きられないのは。」

 

 仰向けに倒れている束に歩み寄り、抱き起して横抱きにして持ち上げた千冬が全く抵抗しない束の目を見て呟いた。

 

「お前は加減という物を知らんな。何をするにもやり過ぎるか全くやらないかだ。」

 

「それが天才だよ、ちーちゃん。まして束さんは超人だからね。凡人に合わせることこそナンセンスだよ。」

 

「かもな。だが、お前の居るその世界は退屈だろう?」

 

「まあね。だから変えたかったんだけどなあ。」

 

 思っていたよりも軽い体重に少しばかり敗北感を感じながらも、千冬は僅かに震える束の身体を抱きしめながら歩を進めた。

 

 

 

 

 量子ジャンプで未だ戦いの終わらない場所に赴いた飛鳥は、近くに居たセシリア・オルコットに声を掛けた。

 

「苦戦してる?」

 

「飛鳥さん!篠ノ之博士は?」

 

「織斑先生に任せて来た。こっちは?」

 

「一夏さんが白騎士になってしまいました。しかも現役時代の織斑先生を彷彿とさせる太刀筋と零落白夜で手が付けられませんの。」

 

 見れば篠ノ之箒と凰鈴音を前衛として壮絶な戦いが繰り広げられていた。

 

 右手に持った零落白夜の刃を展開した【雪片壱型】と左手の荷電粒子砲により、下手な行動は全て致命傷に繋がりかねない。織斑一夏が扱うのであれば未熟を突破口にすぐ片付いただろうそれが、世界最強(ブリュンヒルデ)の様な太刀筋でそれを振るうことで脅威となっている。

 

 だが、束による篠ノ之流剣術の手ほどきを受けた飛鳥にはその剣が酷く鈍く感じられる。本物の10分の1も()()()()()()

 

「イージスコンビは?あの2人が居ればすぐ片付く筈だけど。」

 

 せいぜいが国家代表程度の実力しかないと当たりを付けた飛鳥は、楽に勝てるだろう人材の行方をセシリアに聞いた。

 

 2人揃えば国家代表と渡り合えるイージスコンビが居れば、少なくとも零落白夜の刃で落とされることは無くなる。【コールド・ブラッド】による氷の実体防御が可能だからだ。それを抜きにしても単純に強い2人が居ればすぐに片が付くだろうという実感がある。

 

 セシリアも本来なら戦える筈だが、乗機たるブルー・ティアーズがまだイノベイターとなったセシリアに対応出来ていないこと、更に雪片壱型から発せられる零落白夜によってレーザーが無効化されることもあって余り役に立てていない。

 

 普段の一夏なら零落白夜などものともせず撃ち抜けるが、紛い物とはいえ世界最強(ブリュンヒルデ)の10分の1。国家代表クラスの実力を有する白騎士を相手するにはブルー・ティアーズの手数が足りなかった。

 

「ホテルで拘束している亡国機業(ファントム・タスク)の見張りを。」

 

「それはしょうがない。じゃ、やるかなぁ。」

 

 セシリアの回答に短いため息を吐いて、飛鳥は準備を始める。大分疲れてはいるが、いつまでもあの残留思念に動かれても困る。

 

 全身の装甲を開き、貯蔵したGN粒子を解放する。

 

「クアンタムシステム起動、タイプレギュラー!さっさと起きろ、織斑一夏!私はもうお風呂入って寝たい!

 

 私欲全開の叫びを直接届ける。

 

 高純度GN粒子の散布による意識共有。全距離対応対話型であるダブルオークアンタの本来の用途。

 

 こういった使い方は想定こそしていないが、使用自体に問題はない。それが害を及ぼすこともない。

 

「おわっ!?なんだ!?」

 

 ただちょっと、うるさいのだけが欠点だ。

 

 

 

 

『燃え尽きたぜ……真っ白にな……。』

 

『飛鳥が死んだ!』

 

『この人でなし!』

 

『よし生き返った。』

 

『あっ。』

 

『とりあえずこれで10巻は終わり?』

 

『マッサージとお風呂と修学旅行の本番があるよ、一応。大筋と関係ないけど。』

 

『お風呂だけ見せて修学旅行は省こうか。』

 

『だね。』

 

 

 

 

「染みるねー。」

 

「ですねー。」

 

 だら~、っと揃って肩まで露天風呂に浸かる飛鳥と束を見て、千冬の視線が温かいものになる。

 

「お前たち、そういう所はそっくりだな。」

 

「そりゃ束さんは師匠ですからー、似ますよー。」

 

「束さんの真似して右手で剣振るうようになっちゃったのは困りものだけどねー。」

 

「「あははははー。」」

 

 脳みそまで蕩けているのではないかと言うほどリラックスしている2人に少し心配になる山田真耶の視線を気にもせず千冬は酒を飲んだ。

 

――ガラガラッ!

 

「あれ、誰か入って、ええぇ!?」

 

「あー、織斑さんー、いらっしゃいー。」

 

「いっくんいらっしゃーいー。」

 

 露天風呂の扉を開けて入ってきた一夏に蕩けたまま飛鳥と束が出迎える。

 

 水着着用が前提の混浴露天風呂。しかし貸し切りにしたという通知があったため水着を着ずに入ってしまった一夏は、同じく貸し切り故に水着を着ていない4人の先客と全裸で対面することとなった。

 

「くぁwせdrftgyふじこlp!?」

 

 そのまま引き返せばいい物を、動揺した一夏は湯舟に飛び込むことで体を隠した。

 

「ち、千冬姉!?なんで!?」

 

「露天風呂だぞ、入らない方が損だ。」

 

「ちーちゃんは露天風呂でお酒飲むのがやってみたかっただけだよー。」

 

「織斑先生ー、私にもお酒くださーい。」

 

「あぁ、今注いで……真耶、酒が切れたぞ。」

 

「直で飲むからでしょう!?天羽さんも!お酒は20歳になってからです!」

 

 正常な思考をしているのは真耶ただ1人。気が動転して酒を御猪口ではなく直で一気飲みした千冬、脳まで蕩けている飛鳥と束、タオルで隠さず色々さらけ出していたのを見られた恥ずかしさでおかしくなっている一夏を纏めることは出来なかった。

 

「貸し切りなのよね?」

 

「山田先生がそう言ってたわよ。」

 

「今日は疲れたからな、ゆっくり浸かるとしよう。」

 

「!?」

 

「おっと、逃がさないぞう?」

 

 女子側の脱衣所から聞こえて来た声に一夏が逃げ出そうとするが、酔った千冬に掴まり湯舟に沈められた。

 

――ガラガラッ!

 

「あれ?織斑先生に山田先生。」

 

「姉さん!?」

 

「飛鳥さんまで。」

 

「あー箒ちゃんだー。」

 

「セシリア―、こっちー。」

 

 入ってきた専用機持ちたちが次々と湯舟に入ってくる。

 

「何だお前ら、そんなに蕩けて。」

 

「お酒でも飲んだっスか?」

 

「疲れたから癒してるんだよー。」

 

「あと40秒で筋肉の損傷は治るねー。」

 

「何言ってんだお前ら。」

 

 ダリル・ケイシーとフォルテ・サファイアの問いかけに蕩けながらも答える飛鳥と束。その束を信じられない物を見る目で箒が見つめた。

 

「姉さんが、他人の話を聞いた……?」

 

「あーちゃーん。上がったら久しぶりに一緒に寝よー。」

 

「そうですねー。」

 

「なっ!?添い寝!?」

 

 姉とクラスメイトの関係が気になる会話をして、揃って数字を数え出した飛鳥と束。恐らく上がるまでのカウントだと頭の片隅で思いながらも、それが僅か10で終わって立ち上がった2人のあまりの行動の速さに誰も止めることが出来ず、飛鳥と束は露天風呂から出て行った。

 

 

 

 

 畳の敷き詰められた和室。布団を1つ敷きそこに2人揃って入った飛鳥と束は、互いに目を閉じて相手の体温を肌で感じながら眠りに着こうとしていた。

 

「ねぇ、あーちゃん。」

 

「何です、束さん。」

 

 そんな時、束が口を開いた。

 

「どうすればいいんだろうね、私。」

 

 世界を変えることに失敗し、ならばとISを消そうとすれば飛鳥に止められ、束は自分のやることを無くしてしまった。

 

 ISコアの原材料が採れるとある国の第七王女とその側近の専用機が未完成ということぐらいで、他は何もない。そんな空っぽな自分が何をすればいいのかを、親友である千冬ではなく弟子である飛鳥に聞いた。

 

「好きにすればいいんじゃないですか。」

 

「好きに?」

 

 すぐ返ってきたその回答に束の思考は一瞬空白となった。

 

「変なことじゃなければ私もなのはも応援しますよ。弟子ですから。」

 

 そう言って飛鳥は束の胸元に顔を埋め、トクントクンと鼓動する心臓の音に耳を傾けた。

 

「ちょっと?」

 

「私もなのはも、束さんが大好きです。世界で2番目に。だから助けるし、止めもします。ダメならダメって言いますし、力を貸してほしいなら力を貸します。」

 

「……。」

 

「だから、振り回してください。てんやわんやするぐらい。それぐらいがちょうどいいでしょ?師弟関係って。」

 

「……かもね。」

 

 ぎゅっ、と飛鳥を抱きしめて、束は瞼を閉じた。

 

「おやすみ、あーちゃん。」

 

「おやすみなさい、師匠。」

 

 

 

 

『何か好感度高くない、私?』

 

『ボクの次に好感度あるよこれ。セシリアより上だ。』

 

『師弟関係ってこんなことになるのか……。』

 

『下手したらボクへの好感度より高くなるとかないよね?』

 

『私がなのは以外を選ぶ訳ないじゃん。』

 

『よかった。』

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