第46話 天羽飛鳥、確認する
「あ、輝いた。」
「は?なによ急に?」
「空に……。」
天羽飛鳥を除いた1年1組の専用機持ちたちが集まり、昼のIS学園屋上で昼食を取っている時、更識簪が空を見て呟いた。それに凰鈴音が反応し、簪が指さした方の空に全員が視線を向ける。
その空に赤い光が尾を引いていた。真昼だと言うのにその輝きがはっきり見えるほどの大きな隕石が落ちている。
「また隕石?」
「また?最近、多いのか?」
それを見たシャルロット・デュノアの言葉に織斑一夏が皆に聞いた。
「ええ、そうですわね。こういった大きな隕石が世界中で目撃されているようですの。」
「……。」
セシリア・オルコットの持っていた情報に一夏は言い知れぬ不安を感じた。
「問題ない。ほとんどが大気圏突入時に燃え尽きるからな。」
「そうだぞ一夏。この前姉さんから聞いたが、隕石で人が死ぬ確率は70万分の1らしい。滅多にあることじゃないんだ、気にする必要はないだろう。」
そんな一夏にラウラ・ボーデヴィッヒと篠ノ之箒がその不安を取り除く言葉を投げかける。
京都での
今では端末でのやり取りをするほどで、先日IS学園に束がやって来た時も面と向かって話したりもした。その時の雑談で知ったことを一夏にも伝え、だから大丈夫だと箒が言う。
「束さんがそう言うなら大丈夫だな。あ、もうこんな時間か。みんな、教室に戻ろうぜ。」
束との交友がある一夏はその言葉に安堵し、昼休みが終わるまでもうすぐなのに気付いて弁当の白米をかき込んだ。
──だから見落とした。
「……。」
隕石を見上げるセシリアの目に、普段はない鋭さがあることに。
放課後、一夏は何かと使っているIS実技場・第3アリーナに1組の代表候補生たちと一緒に向かっていた。
専用機【白式】を手にして半年ほど経ち、ロシア国家代表であるIS学園生徒会長・更識楯無をして異常だと言う速度で実力をつけている一夏だが、その実力は仲間内で現在一番下。
相性的に勝てる筈のエネルギー武器しか持たないセシリアにも負けているため、専用機持ちの皆に訓練をつけて貰っている。今日は全員別の訓練ではあるが、目的地は全員第3アリーナであるため一緒に移動していた。
「どうも、織斑さん。」
「あれ、天羽さん?」
第3アリーナの入口。そこに立っていた飛鳥が一夏たちに声を掛けて来た。
一夏と飛鳥の接点は多いようで少ない。同じ生徒会所属で、運動会の結果1年生の専用機持ちが全員1組に移籍した今はクラスメイトということにもなるが、それでも未だに互いに苗字呼び。
事務的な話が基本で、その後に世間話をすることもあるが他の専用機持ちたちと比べれば圧倒的に関わりの薄い人物からの声に一夏は足を止めた。
「セシリア借りていいですか?」
「セシリアを?」
何で俺に聞くんだろうと思いながら、一夏は後ろに居るセシリアに振り返った。
「わたくしがどうかしたんですの?」
キョトンとした顔でセシリアが前に出てくる。同じクラスなのにわざわざ
それを読み取った飛鳥が「忘れてただけだよ」と苦笑いしてから、真面目な顔をしてセシリアに近付いた。
「セシリア、今から1戦できる?」
「え?えぇ、わたくしは構いませんけれど、なぜですの?」
「昨日なのはが作ってるセシリアの
「確認が必要な物を作ってるんですの……?」
速さと火力を求めたセシリアだが、葉加瀬なのはが何を作っているかは知らない。ダブルオークアンタを作り上げたなのはの腕を見込んで、予算の範囲内で出来る限りの物を作って貰うことが目的である以上、あーだこーだと注文を付ける理由がないからだ。
とはいえ、イノベイターとなって成長を続けるセシリアと日頃から訓練をしている飛鳥をして『確認が必要』と言われば流石に不安になる。
後で様子を見に行こうと心のメモ帳に書きとめ、セシリアは飛鳥と共に第3アリーナに入っていった。
「俺たちも行こうぜ。」
「待ちなさい、一夏君。」
後に続こうとした一夏の肩を楯無が掴んで引き留める。
「楯無さん?」
振り返った一夏が見た楯無はいつもの扇子に『千載一遇』の文字を浮かべ不敵に笑っていた。
「見学していきましょう。」
「え?」
「篠ノ之博士に勝った飛鳥ちゃんと、その飛鳥ちゃんが指導しているセシリアちゃんの戦い。面白いものが見れそうじゃない?」
面白いものと言われても、と一夏は考える。
思えば、飛鳥が戦っている姿をほとんど見たことがない。
キャノンボール・ファストはレースだったし、タッグマッチトーナメントではイージスコンビはともかく決勝で戦った一夏と簪は瞬殺。
運動会もどっちかと言うとイベント色が強かったし、授業では一般生徒が真似できるような技術や立ち回りを中心に動いている飛鳥はビットを使わない。
京都での
そこまで思い出して、一夏は肩に置かれた楯無の手を取った。
「行きましょう。」
「ちょっ、一夏君!?」
いきなり手を取られた楯無が驚きの声を上げると共に頬を赤く染めたが、それに気付かず一夏はその手を引いた。
「一夏ァ……!」
「り、鈴!落ち着いて……!」
それを見た鈴が鬼の形相で一夏たちの後を追おうとするのを、姉の命を守るために簪が必死に宥め、代表候補生たちも少しして一夏の後を追った。
レーザービット4機を周囲に展開したセシリアが、量子ジャンプによる不意打ちをする飛鳥に対して瞬時にその砲門を向け、距離を取りながら
それを飛鳥は
近付いてくる飛鳥を腰部のミサイルビットで迎撃しながら、セシリアは右手に持ったGNソードⅡブラスターを構え、飛鳥は自分を狙うミサイルをGNシールド上部のGNビームガンで撃ち落としてGNソードⅤでセシリアのGNソードⅡブラスターと切り結ぶ。
周囲に配置したレーザービットで飛鳥を狙ったセシリアを至近距離からの飛鳥のGNビームガンが狙い、それをPICを切って重力に身を任せ降下したセシリアが躱すと共にレーザービットが火を噴く。
そのレーザーを回避すると同時にGNシールドとGNソードⅤで全て散らし、下に居るセシリアに追撃はせずに量子ジャンプで飛鳥は再び姿を消した。
その隙にセシリアはPICを再度起動して体勢を整え、さらに高度を上げて再び現れた飛鳥に向かってレーザービットから攻撃を放つ。
それを5秒に1回のペースで20回程繰り返し、飛鳥とセシリアは
「準備運動はこの辺にしよっか。」
「そうですわね。」
1度ビットを戻してエネルギーを補充し、再度展開した2人は互いに距離を取る。
「セシリア・オルコット、ブルー・ティアーズ。行きますわ!」
「ダブルオークアンタ、天羽飛鳥。出る!」
そうしてやっと、2人の戦いは始まった。
「あれ何てモンド・グロッソ?」
第3アリーナのピットでそれを見ていた鈴が呟いた言葉はその場の全員が思っていることの代弁だった。
明らかに代表候補生のレベルに納まらないハイレベルな攻防。ここ最近セシリアとの試合をやっていなかったが、いくら何でもちょっと強くなり過ぎだと全員が思った。
「天羽さんと訓練してたから、だよね。」
「あぁ。少なくとも私が前に戦った時はあんな動きではなかった。」
「所々の動きが飛鳥ちゃんに似ているわ。教わったのか真似なのかは分からないけど、それが原因かしら。」
シャルロットとラウラの分析を楯無が補強する。PICを解除しての急速降下による回避は見覚えがある。前に1年生合同実習で飛鳥がした動きだ。飛鳥と訓練する内に経緯はどうあれセシリアも習得したのだろう。
「ビットの数で勝る天羽が有利のようだが、セシリアも負けていないな。」
「ビットを落とされない様に動かしてる……ワープを避けながら。」
箒と簪がセシリアの動きを称賛する。飛鳥が行うワープ――量子ジャンプに対処しながらも自分のレーザービットを破壊されない様に動かし、十八番であるビットによる数の有利が取れていないのに決して負けていないセシリア。
「──。」
一夏は、ただ茫然とその戦いを見ていた。
飛鳥とセシリアがやっているのは、それぞれの機体を最大限に活かした戦い方。IS乗りが目指す完成系だ。
一夏がまだ出来ないことで、セシリアが1学期の時には出来なかったこと。そして気付かない内にセシリアが出来るようになっていたこと。
もちろん、セシリアと一夏では専用機に乗っている期間が違うし、そもそもISと関わっていた期間が違う。だから一夏がまだ出来ないのは仕方ない――
「(──そんな訳ないだろ!)」
『仕方ない』なんて言葉はただの言い訳だ。だって、一夏と似た立場である箒はもうある程度紅椿を使えるようになっている。展開装甲の万能さ故にまだまだ拙いながらも、【絢爛舞踏】を発動できるようになった箒は十分に紅椿を乗りこなしていると言える。
だが
「(頑張る──じゃ、足りないな。もっと精進しないと。)」
『頑張る』なんて簡単な言葉じゃ、決意も軽くなる。だから箒の様に堅苦しい言葉で決意する。
「(白式を乗りこなす。1年生の間にだ。)」
残り約4ヶ月。その間にみんなに追いつくと一夏は心に決めた。
「うん、これなら
「一安心ですわ。」
ふわりと第3アリーナに降り立った飛鳥とセシリアがISを解除して、端に寄ってクールダウンを始める。
「セシリアはイノベイターとして順調に成長してる。戦闘特化なのが気がかりだけど。」
「気がかり、ですの?」
「イノベイターは別に戦闘種族じゃないからね。戦っても強いってだけで、それは本質じゃないんだよ。」
首を傾げるセシリアに「勘違いしても仕方ないけどさ」と飛鳥が笑う。
「イノベイターの本質は相互理解、つまり対話能力にある。」
「それはダブルオークアンタの能力ではありませんの?」
「クアンタがしてるのは補助で、話せてるのはあくまで人だからだよ。それで今までは問題なかったんだけど、もし異星人とかが相手ってなると私だけじゃ話せない。私に受け止めるキャパがないから。」
「電気みたいなものだよ」と飛鳥が言うが、セシリアにはピンと来ない。
「ほら、国によってコンセントの形って違うじゃん?クアンタがやってるのはそれの形を揃えること。電圧の違いは相手が人ならどうにか受け止められる程度の差なんだけど、異星人のは雷みたいなものなの。同じ電気だけど形を合わせても私じゃ受け止めきれないから、専用の装置で受け止めないといけない。その装置が未完成なんだけどさ。」
その説明でようやく納得の行ったセシリアが口を開いた。
「なら、あの隕石は―― 「セシリア。」 ――……なんですの?」
「多分、私は失敗する。」
「っ。」
真っ直ぐと告げられた言葉にセシリアの言葉が詰まる。
「量子型演算処理システム無しに異星人と対話したら、私自身どうなるか分からない。頑丈な自信はあるから良くて気絶、悪くて昏睡――」
「そんな!?」
「――そうなったら束さんの所で療養かなぁ。1、2ヶ月寝てるかも。」
「……っ!」
死にはしない、というか死ぬ気はないと飛鳥は言うが、そんな話をされたセシリアは飛鳥の手を力いっぱい握りしめた。
「痛いよ、セシリア。」
「痛くしてるんです。」
「……なら、握手にしよう。ほら握って、セシリア。」
飛鳥が上げた左手を両手でギュッと握りしめて、セシリアは飛鳥の無事を祈った。
『セシリアのヒロイン力が高い……?』
『飛鳥、何をしたか言ってみ?ん?』
『ただ訓練してただけなんだけど!?』
本作のダブルオークアンタは、ツインドライヴシステムによって生み出した高純度GN粒子を、クアンタムシステムで完全解放し意識共有空間を形成、ゼロシステムで機械と人の間で入出力が出来るようにし、それを量子型演算処理システムと人をリンクさせることで対話時の負荷を量子型演算処理システムで受け止める、というスパロボでの設定を反映しているため、異星人と対話するには量子型演算処理システムが必須です。
そのため資金難でそれが作れない現状、対話は失敗します。