「うん、ツインドライヴ同調安定。どこも問題はないね。」
「よかったぁ。」
朝早くから籠っていた工房にて、クアンタムバーストを使用したダブルオークアンタに再び装甲を取りつけ、直列配置した2基のGNドライヴを並列配置へと戻した後、葉加瀬なのはの最終点検を終えての言葉に天羽飛鳥が安堵の息を吐いた。
「GN粒子の貯蔵量はいつもの90パーセントオフに戻すからね。」
「しばらくは対話できないし、それでいいよ。クアンタムバーストするか性能引き上げる時にしか使わないし。」
ダブルオークアンタの3つの枷の1つ、GN粒子量の制限。それは機体各部に内蔵されたGNコンデンサーが貯蔵するGN粒子の量を制限し、さらに武装等に使用するGN粒子の量も減らすことで行っている。
元々は通信妨害の性質も持っているGN粒子を街中など人がいる場所で大量に使用することが憚られるという理由で付けられた枷だが、その副作用としてダブルオークアンタは第四世代に少し及ばない程度まで性能を低下させることとなった。
隕石から現れた機械生命体に対して行ったクアンタムシステムのフルパワー【クアンタムバースト】では、飛鳥自身受け止め切れないと知りながらもそのGN粒子量の制限を取り払い、本当の意味でフルパワーで挑んだ。だからこそ彼らが抱く『怒り』を感じ取れたし、だからこそ通常であれば範囲外であった場所に立っていたなのはさえ範囲内に巻き込んで一緒に気絶することになった訳だが、その外した枷は再び戻された。
「で……使う?フルセイバー。」
「──。」
コンソールを弄りGN粒子の量に制限をかけたなのはが飛鳥に向き直って聞いた。
「量子型演算処理システムが出来るまではどうやっても機械生命体との対話はできない。世界中の戦闘記録から機械生命体はISを狙ってるのは間違いないし、訓練機も専用機もたくさんあるこのIS学園にもまた来るだろう。そうなったら防衛のために専用機持ちは戦うことになる。」
「……ISコアを破壊される訳にはいかないし、そうなったら私も戦う。それは迷わない。でも──。」
「フルセイバーは使いたくない?」
テーブルに置いていた魔法瓶に入ったポタージュを飲みながら、なのはが飛鳥に聞いた。それに飛鳥は頷いた。
「うん。なのはだって、私には使って欲しくないでしょ?」
「そうだねぇ。束さんとかセシリアとかが相手でもない限り、戦力不足だから使うってことにはならないし、あの力を使わないに越したことはないけど。」
フルセイバー。それはダブルオークアンタ唯一の
基本的にダブルオークアンタは対話のための機体であるため、搭載している武装はほとんどが自衛用の物だ。GNソードビットはGNフィールドの形成や量子ジャンプのためのゲート形成、クアンタムシステム起動時の膨大な量の粒子コントロールを行うクラビカルアンテナも兼ねている代物であるし、GNビームガンはミサイル迎撃が本来の用途。完全な戦闘用武装は手持ち武器のGNソードⅤだけ。
それでも天才と同胞以外に負けることはない。反射神経に優れ、空間把握能力も高い純粋種のイノベイターである飛鳥と、イノベイター専用機であるダブルオークアンタはそれだけの能力がある。
飛鳥はフルセイバーを使いたくない。元々身体だけ超人であり、その意識は常人と大差無かった飛鳥はその身が持つ『力』で苦労した過去がある。だからこそGN粒子による力の必要ない対話というものを重視している。それを捨てるフルセイバーを、その性能を理解していても使いたくない。
「飛鳥。」
「なに?」
コン!と硬い音を響かせてなのはのデコピンが飛鳥の額に当たった。何のダメージもない飛鳥に向かって、鉄を殴ったような反射ダメージを受けたなのはが指を擦りながら飛鳥の目を見ながら、
「
「っ。」
「飛鳥の気持ちも分かるよ。ボクや束さんと違って、飛鳥の意識は常人と大差ないからね。だからこそ対話を重視するのも分かる。ボクも飛鳥と居てその重要性を知ったから。」
なのはは飛鳥とは違い、頭脳は常人とは比べるべくもない代わりに、身体的には普通だった。それ故に圧倒的な力を持つ飛鳥以外に興味を持てなかった。実の両親にさえもそうだった。
飛鳥と関わり、喧嘩して、仲直りして、束と出会って、やっとなのはは他人に興味を持つようになった。それまで取り繕っていた他人との関わりにも、取り繕わずに励むようになった。
そうしてやっとなのははイノベイターとなった。飛鳥よりも長くGN粒子を浴びながらもそれまで革新出来なかったなのはが、変わったことでやっと変われた。
「でもそれは、力を捨てる理由にも、使わない理由にもならない。」
だが、どれだけ変わっても変わらないことはある。なのはがバカになった訳ではないし、飛鳥がゴリラなのも変わらない。セシリア・オルコットが貴族の誇りを失うことはないし、フォルテ・サファイアがダリル・ケイシーを愛しているのも変わらない。
「飛鳥、フルセイバーはただの力じゃない。そりゃ人類滅ぼせる
「モンド・グロッソで使うだろうし」と言ってポタージュで水分を取ってから、なのはは改めて飛鳥に向き直った。
「飛鳥。フルセイバーがただ『対話を捨てる』ものだっていうのは違う。フルセイバーは『対話できない時』のための、『対話が要らない時』のための装備だ。」
ダブルオークアンタに装甲を取り付けるために着けていた手袋・マスターハンドの
「結局対話は失敗したけど、あの機械生命体が怒りを抱いているのは分かった。なら、真に対話できるまで、その怒りを受け止めなきゃいけない。そのための力を、誰も傷つけないで守る刃を、使いたくないなんて言うのは飛鳥らしくない。」
「守るための剣が必要ならこれを取れ、天羽飛鳥。やりたいことをやるために必要だと言うのなら、ボクはそれに寄り添おう。」
――6日後
スコール・ミューゼルは自身の専用機【ゴールデン・ドーン】を纏い、両脇に同じく専用機【黒騎士】を纏った織斑マドカとようやくコアが機体に馴染んだことで復活した専用機【アラクネ】を纏ったオータムを伴い、かつて拠点としていた京都の市内ホテルの屋上に立っていた。
「なぁスコール、やっぱり金なんざ払わねぇで奪っちまおうぜ。」
オータムが暇そうにしながらスコールにそう言った。
「ダメよオータム。そんなことしたら信用に関わるわ。何より、たった3人であの子には勝てないもの。」
「なんだ?臆病風にでも吹かれたか?」
偉く弱気なスコールの言い分にマドカが喰いついた。
「この黒騎士をもってすれば、たかが代表候補生1人恐れることないだろう。」
束による改修を受け、マドカ専用のチューンがされた黒騎士はほぼ第三世代としては破格の性能を持つ。それを持ってすれば代表候補生1人余裕を持って倒せる。何よりここには他の専用機もあるのだ。負ける方がおかしい。
その言葉は正しい。実際相手がただの代表候補生であったならスコールもそうしてコアを奪い、さらに専用機も奪っただろう。
だが相手はあの篠ノ之束を倒した怪物。そんなことが出来る訳ない。
「ならば私だけでやる。お前たちは後ろで見ていろ。」
「あ゛?何勝手に決めてんだエム。」
ふんぞり返るマドカにオータムがガンを飛ばす。スコールの命令ならともかく、マドカに引っ込んでいろと言われるのは我慢ならない。
一触即発の空気の中、
「今
突如後ろから聞こえた4人目の声にマドカとオータムが振り向いた。
「ガッ!?」「ぐぁ!?」
――瞬間、絶対防御が発動しシールドエネルギーが0になる。
「なに、が……!?」
「おはよう、いやこんにちは。」
叩き伏せられ、地面に倒れ込んだマドカとオータムが顔を上げた先には、両翼を携えた天使が居た。
左肩に盾を、右肩に剣を携えたIS。
「ダブルオークアンタフルセイバー、天羽飛鳥。日本代表候補生だよ。今回は商談ありがとう。」
そう言って、守るための剣を手に取った天羽飛鳥は微笑んだ。
『もう吹っ切れました。』
『対話できないから使わない理由ないしね。』
『コンボハメするまでもなくクリティカルで即死もできるチート装備とか普段使い出来ないんだよなぁ!クソゲー待ったなし!』
記念すべき第50話。過剰戦力ことフルセイバーは使うか迷いましたが、対話できない現状使わない理由がなかったので使用に踏み切りました。