IS 今こそ対話する!   作:駄竜

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第53話 凰鈴音の目覚め

 第3アリーナで行われる模擬戦の様子をピットから覗き見ながら、葉加瀬なのはは空中に投影したキーボードを叩いていた。

 

「案の定邪魔なのを潰してから本命とやってるねぇ、飛鳥は。」

 

 ダブルオークアンタフルセイバーで凰鈴音達を追い詰めていく天羽飛鳥の楽しそうな笑顔に、なのはは「仕方ないね」と息を吐いた。

 

 織斑一夏、篠ノ之箒、更識楯無、更識簪、シャルロット・デュノア、ラウラ・ボーデヴィッヒの6人が早々に落とされたのには訳がある。

 

 ()()()()()()()()

 

 純粋種のイノベイターへの変革を遂げたセシリア・オルコットとフォルテ・サファイア、そして相棒であるフォルテに合わせることで限定的にイノベイターと同等の動きが出来るダリル・ケイシー。

 

 セシリアとの1対1、あるいはイージスコンビの2人との2対1ならどうと言うことはないが、この3人がチームを組むといくら機体の差があろうと苦労する。

 そこに力量のある楯無やシャルロット、ラウラが加わると対応に追われることになるし、攻撃力の高い一夏や箒、簪が残っていると万が一にも落とされかねない。

 

 だからまず国家代表である楯無を、その次にGNミサイルを持っている簪を落とし、AICによる拘束があるラウラ、高速切替(ラピッド・スイッチ)使いでフォローの鬼であるシャルロットを下し、突っ込んで来た一夏と動きが止まった箒を倒した。

 

 ――なら

 

「――()()()()()()()()()()()?」

 

 背後から聞こえた声にキーボードを叩く手を止めず、なのははその声の主の名を呼んだ。

 

「織斑先生。」

 

 モニターに映る模擬戦の様子を見て、世界最強(ブリュンヒルデ)であった元日本国家代表が視線をいつも以上に鋭くして口を開いた。

 

「オルコットとサファイアが上手くカバーしているが、それでも12回は凰が落ちていなければおかしい場面があった。葉加瀬、天羽は何故凰を落とさない?」

 

 ――そう、中国代表候補生の生存。これは明らかにおかしい。

 

 かつてスペックを聞いてその行動パターンを考えた結果、飛鳥にしてもなのはにしても鈴の乗るIS【甲龍(シェンロン)】のことを『強い』と評した。

 

 身を守る盾としても使用出来る大型青龍刀【双天牙月】を2つ持ち、威力と連射のバランスを変えられる不可視の射撃兵装【衝撃砲】を備えた甲龍は、攻防を両立するだけでなく近・中距離での連撃で『自分の得意を押し付ける機体』だと2人に結論付けられた。

 

 だが生憎(あいにく)、飛鳥の持つ武器は溶断する性質を持つため斬り結ぶことが出来ず、イノベイターとしての空間把握能力もあって衝撃砲の砲弾もどこにあるか分かる以上、通常であれば鈴は飛鳥の敵としては不足する。

 

 だからこそおかしいのだ。確かに既に落とした面々と違い、一撃必殺の高い攻撃力を持っている訳でも、飛鳥を脅かすほどの力量がある訳でもない鈴は優先して落とす対象からは外れる。しかし『落とさない対象』から外れることはない。

 

 12回の危機は全て飛鳥が意図的にスルーした。その理由は?

 

「いくつか理由はあるけど――。」

 

 そう前置きして、なのははモニターの先で2つのGNガンブレイドを手に持った飛鳥に肉薄される鈴を見ながらニヤリと笑った。

 

「――一番の理由は、荒治療だね。」

 

 

 

 

「(――相性が悪い!)」

 

 心の中で愚痴りながら、鈴は飛鳥の振るうGNガンブレイドの刃を回避する。

 

「(飛鳥の武器は全部溶断するから双天牙月で下手に切り込めないし、衝撃砲は何でか完全に見切られてる!ビットはセシリアたちの相手をしてるから今は良いけど、隙が出来ればすぐにあたしが斬り刻まれる!)」

 

 高速切替(ラピッド・スイッチ)でガンモードに替えられたGNガンブレイドのビームを衝撃砲をばら撒いて迎撃し、それでもなお飛んでくるものを回避した先に、大剣を構えた飛鳥が斬り掛かってくる。

 

「っ!」

 

「ダリル!」「おう!」

 

 咄嗟に双天牙月を溶断される原因であるクリアグリーンの刃がない大剣の腹にぶつけようとする直前、鈴と飛鳥の振るう大剣の間に防御結界【イージス】が構築されたことによって飛鳥の攻撃が受け止められた。

 

「ありがとっ!」

 

 少し離れた位置で普段以上に軌道の鋭いソードビット2基を相手にしているダリルとフォルテに感謝しながら、鈴は飛鳥から間合いを取り衝撃砲の連射を打ち込む。

 

「それじゃ足りないな!」

 

 連射された不可視の砲弾が左肩のGNシールド上部のGNビームガンで凪ぎ払われ、撃ち漏らしがGNガンブレイドによって相殺されていく。

 

「ちぃっ!」

 

 苦もなく対処されたことに舌打ちをした鈴は、この詰みに近い状況をどう打開するかを必死に考えていた。

 

「(一番確実なのは、セシリアたちと役割を入れ替わること。)」

 

 双天牙月による攻撃と防御は刀身を溶断されて終わる。衝撃砲は不可視というアドバンテージが意味を成していない上、連射性を犠牲に威力を高くすれば量子化して回避されるという憂き目に合っている。全ての武装が役に立たない状態では鈴に出来ることはない。

 

 だがセシリアたちなら?ビットによる多角的な射撃が出来るセシリアはもちろん、上級生のイージスコンビの連携はタッグマッチトーナメントで鈴も味わった。あれから更に上達しているのか、それとも飛鳥の操るビット2基を相手に余裕があるのか、危ない場面で何度も援護をしてくれる彼女たちなら鈴と違って飛鳥を倒せるかもしれない。

 

「(でもそんな隙がない。)」

 

 しかしそれはできない。飛鳥の操るGNソードビットによってセシリアとイージスコンビたちとは離され、とても役割を入れ換えれる状況ではない。

 

「(そもそもあたし、あのビットの相手出来ないし。)」

 

 GNソードビットもクリアグリーンの刃で溶断する武装であるため、鈴にはとても相手できるものではない。何なら飛鳥本体よりも苦手だ。

 

「(セシリアたちがビットを落とすまで粘る?無理、死ぬ。)」

 

 甘えた瞬間大剣となったGNソードⅣフルセイバーでパッカーンと割られてしまう。そもそも時間稼ぎ出来る相性ではない。

 

「(なら――)」

 

 考え付いた結論に、鈴は覚悟を決めた。

 

 

 

 

「(飛鳥さん、これは何の茶番ですの?)」

 

 鈴が覚悟を決めている時、脳量子波によってイノベイター達は秘密の会話をしていた。

 

「(そうっスよ。このソードビット、動きは凄いっスけど()()()()()()()。自分たちを抑えるのが目的っスね?)」

 

「(あ、分かります?)」

 

「(ダリルにもバレてるっスよ。ちょくちょくフォローが間に合わなくて中国娘を落とすチャンスもあったのに、(ことごと)く見逃してるっスし。)」

 

 フォルテの指摘通り、飛鳥には12回程鈴を落とせるチャンスがあった。それだけではなく、GNソードビットを高速切替(ラピッド・スイッチ)で収納・再展開することで手元に戻して鈴を斬り刻むことだって出来たし、GNビームガンを衝撃砲の迎撃だけでなく攻撃にも使えば対応し切れずに10秒とせずに鈴は落とせる。

 

「(どうやらピットでなのはさんが見ているようですし、それ関連ですの?)」

 

「(それもあるかなぁ。でも1番の目的は荒治療だよ。)」

 

「(荒治療?)」

 

「(あー、あれっスか。)」

 

 荒治療と聞いてセシリアが首を傾げたのに対して、フォルテは反対に納得した。

 

「(どういうことですの?)」

 

「(鈴ちゃんが1年で専用機を手に入れたのは知ってるよね?)」

 

「(えぇ。わたくしでさえ3年掛かったものを1年で手に入れたと知った時は驚きましたが、それがどうかしたんですの?)」

 

「(()()()()()()()。いくら中国が世界最多の人口にかまけて人材の育成が遅れてるとはいえ、たった1年で専用機を貰えるほど層が薄い何て有り得ないんス。)」

 

 6桁にも上る人口と、その絶対値から来るIS適正の高い女性の大量確保。それが昨今のIS界隈での中国の強味だ。

 もっと言えば第三世代ISを既に量産体制にあるのもそうだ。鈴の乗る甲龍は型式*1から分かる通り3番機であるし、香港では量産された甲龍の系列機が代表候補生に与えられたという話もある。

 

 そんなIS大国の1つである中国が、たった1年間ISについて学んだ小娘に専用機を与えた理由。

 

「(――()()。何年も訓練して鍛え上げた他の代表候補生たちを蹴散らして専用機を手に入れられる才能。)」

 

「(以前言っていましたわね。鈴さんには飛鳥さん以上の才能があると。)」

 

 よくシャルロットやラウラを『代表候補生の中でも高い実力だ』と言う声がある。実際にそうだろう。高速切替(ラピッド・スイッチ)を駆使して第二世代の機体で第三世代と渡り合うシャルロットと、ドイツ軍で実戦的な訓練をしてきたラウラ。IS学園の上級生たちにも十分通じる実力があるのは間違いない。

 

 だが人材を大量に抱える中国に、いくら育成が遅れているとはいえ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 逆説、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「(それがまぁ見る影も、いや影はあるっスね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、あの中国娘。)」

 

 それがどうだ。AICの停止結界が脅威とはいえラウラに負け、シャルロットにも負け越している。仲間内で勝ち越しているのは一夏を相手にする時ぐらい。

 

 何故そんなことになっているのか、その理由は明らかだった。

 

「(織斑さんと一緒に居るとただの女の子になるんだよ、鈴ちゃんは。)」

 

「(愛されてるっスねー、男子。)」

 

 織斑一夏と中学を過ごした凰鈴音はただの少女だった。だからだろう、IS学園にやって来て一夏と再会を果たした鈴は、元の普通の女の子に戻ってしまった。残ったのは普通の代表候補生程度の実力だけ。

 

「(私は矯正しようとか思ってなかったんだけど、なのはに専用換装装備(オートクチュール)の製作を頼んだでしょ?だからこうして適度に追い詰めて才能を使わせようとしてるの。)」

 

「(タッグマッチトーナメントでダリルもやったっスけど、それでも底を見せなかったんスよねぇ。)」

 

「(場合によっては今後も放課後にボコボコにするから、よろしく。)」

 

「(お手柔らかにお願いしますわ。)」

 

 

 

 

「(あー、どうやるんだったっけ。)」

 

 衝撃砲を連射しながら、鈴は中国での訓練時代を思い出していた。

 

「(一夏と一緒にいる時はやりたくなかったし、ここじゃやる必要があるような相手とも戦わなかったから、半年以上使わなかったけど――。)」

 

 その感覚を言葉で表現することは難しい。スイッチを入れるのとは訳が違う。湧き上がってくる訳でもない。そう、それを表すなら――――

 

 ――何かの因子が割れて、広がる感覚

 

 すぅ、と鈴の瞳から光が消える。

 

「うん、出来た。」

 

 視野が広がり、認識していた範囲が拡張される。ビットと戦っているセシリアとイージスコンビの様子が分かる。どうも結構な余裕があるらしい。それでもビットが落ちていないのは、ビットの方にも落とす気が無いから。

 

「あぁ、そういうこと。」

 

 ここで鈴はハメられたと理解した。この状況を作り出した本人に、衝撃砲の連射を止めて語り掛けた。

 

「何?そんなにあたしに本気を出して欲しかった訳?」

 

「なのはに専用換装装備(オートクチュール)作りを頼んだからね。どのぐらいのスペックなら使えるのかを見極めるのにはどうしても必要だったんだよ。」

 

「あたしのせいか。ま、しょーがない。」

 

 手に持つ双天牙月の感触を確かめ、光の無い瞳の視線と共にその切っ先を飛鳥に向けて――

 

()()()()()()()()()()()()、精々抵抗させてもらうわよ?」

 

 ――笑った。

*1
甲装・牙【参】

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