IS 今こそ対話する!   作:駄竜

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第54話 凰鈴音、未だ小さな龍の力

 ――最初に凰鈴音という代表候補生を見た第一印象は、『普通の代表候補生』だった。

 

 専用機の甲龍はフルスペックが発揮されれば間違いなく強いけど、クラス対抗戦で見た織斑さんとの戦いからそれを出来る力量がないと分かって、当時まだラファール・リヴァイヴに乗っていた私は少なからず安心した。

 

 でもすぐに疑問が出来た。人口由来の層の厚さがある中国のIS操縦者たちの中で、どうして彼女が専用機を与えられるまでに至ったのか、という疑問。

 

 中国という国はIS大国の1つに数えられている。第三世代機を既に量産体制にある技術力と、世界最多の人口由来のIS適性A以上の女性を大量に抱え込んだ人材確保能力がそうさせた。

 

 国家代表レベルの実力者こそ居ないが、代表候補生レベルならゴロゴロ居るのが中国という国だ。その中には他国なら専用機を与えられるような将来有望な候補生も大勢居るのに、それを押しのけて鈴ちゃんが専用機を手にした理由は一体何なのか。

 

 セシリア・オルコットの様に作られた機体への適性が高かった訳でも、シャルロット・デュノアの様に大手IS企業の社長令嬢だった訳でも、ラウラ・ボーデヴィッヒの様に軍人な訳でも、更識簪の様に有事の際に高い能力を発揮する訳でもない、普通の代表候補生でしかない彼女が、専用機を手に入れた訳は。

 

 簡単だ。()()()()()()()()()()()()

 

 そう、丸で存在が特異だからこそ専用機を与えられた、織斑一夏の様に――――。

 

 

 

 

「(――ミスったなぁ、読み間違えた。)」

 

 双天牙月と衝撃砲の連撃をガンモードにしたGNガンブレイドのビームと刃で捌きながら、天羽飛鳥は考える。

 

「(鈴ちゃん、会長よりぜんぜん強いんだけど。そこらの国家代表より強いんだけど。)」

 

 GNガンブレイドのクリアグリーンの刀身に何度も触れているのに、ただ溶けて歪になるだけで済んでいる鈴の双天牙月を見ながら、考える。

 

「(刃に真っ向から触れてないってことは、見抜かれてるよなぁ。どうしよ。)」

 

 ダブルオークアンタの装備する武器に使われているクリアグリーンの素材はGN粒子を熱変換し、その熱を伝達させることで相手を溶かす。その溶けた部分を刀身にGN粒子の高速対流・GNフィールドが展開されたことで切れ味の増した刃で切断している。

 

 つまるところビームサーベル等と違って切るには刃の向きが関係してくるのだが、逆に言えば触れるだけなら()()()()()()()()

 

 刃に触れなければ切れないという常識を溶断武器という性質で認識させず、何より飛鳥の技量によって悟らせていなかったその事実を冷静に見抜いた鈴は、双天牙月の大きさを利用して一度溶けた箇所に触れさせないことで双天牙月の破壊を防いでいた。

 

「(脳量子波からして別人格になったとかじゃない。火事場の馬鹿力とかゾーンとかが一番近いのかな。眠っていた才能を引き出せる状態になってる。)」

 

 元々激しやすい性格であり天才肌である鈴は自分の感性に従って動くタイプの人間だ。有象無象はそれだけで相手にならないが、ある一定のラインを越えると()()()()()()からこぼれ落ちた力を振り回しているだけのその状態では途端に勝てなくなる。タッグマッチ・トーナメントにおいて戦ったイージスコンビがまさにそうだった。

 

 かといって下手に知識を着ければこぼれ落ちた才能さえも押し殺してしまい、世界中にありふれている代表候補生程度の実力しか発揮できなくなってしまう。そうなれば代表候補生の中で優秀な部類に入る存在、ラウラなどには決して勝てない。

 

 これは厄介な問題ではあるが、時間が解決してくれる問題だった。人は成長するにつれ様々な経験をして精神的余裕を持つようになり、知識も洗練されていく。そうして時が来ればIS操縦者として何の不足もない人材となるだろうと予想されたがために、鈴は将来有望という評価を当初中国で受けていた。

 

 だが中国にとって予想外だったのは、鈴という少女がとても不安定な状態だったこと。

 

 もはや第2の故郷とさえ言えるほど愛着を持った日本から、何より初恋の相手から引き離れたことで少なからずストレスを感じていた心が、両親の離婚という予想さえしていなかった事態によって更に疲弊し、気晴らしに訓練を行ってもちっとも晴れないそれが遂に臨界を越えた時、()()()()()

 

 そうして発現したのが今鈴がなっている状態。未だ小さな龍が開けてしまった才能の扉。

 

 思考は不純物のないクリアな物となり、集中力と認識力が飛躍的に向上し、何よりこの状態では余計な意思が介在しないため機体との意志疎通に制限がなくなり、I()S()()()()()()()()。難度の高い技を使用することも可能になるこの状態こそ、鈴が専用機を与えられた最たる理由。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()この状態こそ、中国が期待を寄せる『未だ小さな龍の力』。

 

「(まずいなぁ――――)」

 

 現状の強さで言えばそこまででもない。国家代表よりは強いが、第2回モンド・グロッソ優勝者であるイタリア国家代表アリーシャ・ジョセスターフにはまだ及ばない程度だ。何より機体性能の差が如実に表れている。

 

 あくまで第三世代である甲龍と、性能を制限しているとはいえ第五世代であるダブルオークアンタ、それも戦闘力を飛躍させるフルセイバーを装備している今は万に一つも負けることはないが……。

 

「(――()()()()()()()()()()()……!)」

 

 光の消えた鈴の瞳と視線が交差する度に背筋を走るゾクリとした殺気。武器をぶつけ合う度に洗練されていく技術に心が躍る。『抵抗させてもらう』と言いながら、勝ちをちっとも諦めていないその意志の固さに笑みがこぼれる。

 

「(そろそろ終わらせないと、やり過ぎちゃうかも。でも、もっと続けたいなぁ。)」

 

 セシリアとの訓練はあくまで訓練だ。成長を喜びはするが心躍ることはない。

 

 だが、これは模擬戦で。その中で解き放たれた才能で成長を続ける鈴に心を躍らせるなと言う方が無理というもので。自分という超人を相手に諦めない人間が居ることに嬉しくなるなと言う方が無茶という物で。

 

「(あぁ、本当に――――)」

 

 端的に言えば、

 

「(――久しぶりに、心奪われた。)」

 

 その気持ちは、まさしく愛だった。

 

 

 

 

『バカな、鈴は私の守備範囲外の筈!?』

 

『このロリコン!見境なしか!ボクとは遊びだったんだね!』

 

『ガチ恋はなのはだけ!』

 

『嘘つけ!ロシアのロリとかカナダの双子にも手を出す気でしょ!?』

 

『推しなだけだから!ノータッチ!イエスロリータ、ノータッチ!』

 

 

 

 

「(飛鳥?)」

 

「ッ!?なななななのは!?」

 

「そこっ!!」

 

「あぶなっ!?」

 

 突如脳量子波を用いて頭に響いた驚き動きの鈍った飛鳥に鈴がGNシールドの無い右側に向けて双天牙月を振るう。それを刀身に展開されているGNフィールドを頼りに右肩の大型実体剣で間一髪で受け止めた飛鳥が葉加瀬なのはに脳量子波で話し掛けた。

 

「(なのは、どうしたの?)」

 

「(何楽しくなってる訳?)」

 

「(うっ。)」

 

 親友からの容赦ない指摘に飛鳥の言葉が詰まる。

 

「(凰鈴音の力は大体分かったから、やり過ぎる前に倒してね。)」

 

「(で、でも。)」

 

「(やり過ぎて泣くのは飛鳥なんだから我慢。)」

 

「(……うん、分かった。)」

 

 なのはの言葉に頷いた飛鳥は肉薄して来る鈴から量子化を使って距離を取り、衝撃砲の連射で使えなかった右肩の大型実体剣――【GNソードⅣフルセイバー】を手に取った。

 

「終わらせる……!」

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)で間合いを詰め、飛鳥は絶対防御を発動させる攻撃力を秘めた大剣を振るった。

 

 

「やっと隙見せたわね?」

 

 

「な、ん――!?」

 

 その致命の筈の攻撃が止まった。

 

「ずっと待ってたのよ、アンタがトドメの一撃をしに来るのを。」

 

 有り得る筈がない。双天牙月によって刀身の腹を叩かれ攻撃の軌道をずらすことは可能だろう。だが瞬時加速(イグニッション・ブースト)の速度を乗せた攻撃を逸らすなど、いくら第三世代機の中でもパワーに優れる甲龍と言えど行うことは出来ない。まして防御など不可能だ。

 

「アンタに隙なんて無いし、隙を作ることも出来そうに無かった。でもトドメって後が楽になるから、誰でも隙が出来るのよ。」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「逸らせないし防げない。回避なんて出来もしない。必殺の一撃としてなんの不足もないけど――――。」

 

 

「それでも、空間を斬ることは出来ないでしょ?」

 

 

 ハイパーセンサーがフルセイバーを受け止めた腕の、丁度刃が触れている部分の異常を映し出す。それは中国が誇る第三世代技術。普段は不可視の射撃兵装としてのみ使用される装備。

 

「衝撃砲――!?」

 

()()()()()。これだけは攻撃で壊れない。あらゆる攻撃を受け止める『空間の壁』になる。」

 

 衝撃砲という武装は空間に圧力を掛け、その余剰で生じた衝撃を撃ち出す代物だ。砲弾その物の威力はあくまで余剰分を撃ち出しているだけであり、その本質はむしろ砲身の方にある。

 

 高い威力を誇る単発式の衝撃砲さえ、余剰で生まれた物を撃っているだけ。ならその砲弾を形作る『余剰』を生み出す砲身は、いったいどれほどの空間に圧を掛けているのか?

 

「間違っても普段使いなんて出来ない。あくまで砲身だから範囲は小さいし、少しずれるだけで衝撃砲が壊れるから。」

 

 それは今実践によって明かされた。

 

「でも、瞬時加速(イグニッション・ブースト)で真っ直ぐ突っ込んで来てて、そんなデカイ大剣を変な軌道で振れる訳ないでしょ?それなら来る場所なんて丸分かり、あとはそこに砲身を置くだけでいい。」

 

 甲龍の腕部に搭載された小型衝撃砲【崩拳】でさえ、フルセイバーの必殺を防ぐ『壁』を作れる。

 

「で――この最大威力の衝撃砲、どうすると思う?」

 

「ッ!?」

 

「遅い!崩拳ッ!!!」

 

 無防備な飛鳥に、鈴の渾身の一撃が炸裂した。

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