「ふっ!」
先手はヴィシュヌ・イサ・ギャラクシーだった。凰乱音との戦闘を見て近接戦は危険だと判断し、右手に
放射状に複数のエネルギー矢を放つクラスター・ボウの攻撃を左肩のGNシールドで防いだ天羽飛鳥は、その場から動かずに右肩のGNソードⅣフルセイバーからGNガンブレイドを2つ取り外し、ガンモードにして仕返しの射撃を始めた。
その攻撃をヴィシュヌは円軌道で回避しながら、クラスター・ボウでの攻撃を続けた。
「葉加瀬、ギャラクシーの機体の解説は出来るか?」
「公表されてるデータと見た所感で良いなら。」
「十分だ。」
射撃戦を繰り広げる2人を見て、織斑千冬が葉加瀬なのはにヴィシュヌの専用機の解説を頼んだ。それを受けたなのはは右手に手袋【マスターハンド】を着け、コアネットワークに接続して【ドゥルガー・シン】の機体データを空中に投影した。
「タイ製第三世代IS【ドゥルガー・シン】。近・中距離両用型の機体で、搭載している第三世代技術は機体との相対位置が決まってる
すらすらと語るなのはに合わせたかのように、ヴィシュヌがスラスターの位置を動かして変則的な動きで飛鳥の射撃を躱した。
「ビット兵器と似た技術だけど、あくまで相対位置を動かしてるだけで
それがどう違うのか。織斑一夏と篠ノ之箒以外が解説を聞いてなるほどと頷く中、2人だけは疑問符を浮かべ首を
「あれはどっちかって言うと
「なに!?」
展開装甲という言葉に箒が驚いたように上空を飛ぶヴィシュヌを見上げた。
装甲を展開することで換装せずにあらゆる状況に対応する。それが第四世代技術【展開装甲】だ。それは第三世代技術を発展させていくことで辿り着く先。ドゥルガー・シンはその4つ手前であると言われ、代表候補生たちも箒に続いてヴィシュヌを見上げた。
「あの機体最大の武器は蹴りだ。」
「蹴り?」
「ビームソードが内蔵された脚での蹴り。防御は考えない方が良いよ、飛鳥でも基本避けるから。」
未だにクラスター・ボウでの射撃を続けるヴィシュヌの脚に視線が集まる。確かに通常のISの脚より大きいそこには普通は無いビーム展開用の機構が存在した。
「スラスター位置を変えての高い機動力を活かした飛び蹴り、それが本来のスタイルだね。何かしらの理由で近付かない時は脚のビームを飛ばしたりあの弓で射撃したり、ちゃんとサブプランも用意されてる。悪くない機体だ。」
投影していた画面を消し、手袋を外してなのはは解説を終わらせた。そのなのはの言葉が気になったのか、セシリア・オルコットがなのはに顔を向けて聞いた。
「『良い機体』、とは言わないんですの?」
「
何でもない様にセシリアの質問に答えたなのはは魔法瓶を取り出して中に入ったポタージュを飲んで一息吐いてから、その言葉に驚いたように自分を見つめる代表候補生たちに言った。
「あの弓が高性能過ぎるせいで
放射状に複数のエネルギー矢を放つ弓【クラスター・ボウ】は威力も悪くなく、一夏のように射撃が下手でも命中させられるだろう良い武器だ。だからこそ
それが問題視されていないのはドゥルガー・シンの機体脚部に内蔵されたビームソード発生装置があるから。元々格闘戦を考慮して設計されていたため『近接武器はそれでいいだろう』と言う開発者たちの思考は、手持ちの近接武装がないことを重く受け止めなかった。
「
仮にも第三世代機であるため、弱くはない。展開装甲の4つ手前の技術を使っているため、悪くはない。ただ妥協が見て取れるため、良くない。
「あぁ言う妥協をする限り、タイに第四世代は無理。展開装甲はそんな考えで作れない。」
国の威信を賭けた最新鋭の機体で妥協をするような国に第四世代は無理だと技術者の目線で語るなのはに、凰乱音が目をパチクリさせた。
「……そういや、コイツ誰?さっきの自己紹介で何も言わなかったけど、どこの代表候補生?日本?」
「「「あっ。」」」
乱の言葉に代表候補生たちが声を漏らす。乱たちがアリーナに来た時の自己紹介で、唯一代表候補生でないなのはは自己紹介をしていなかった。模擬戦後で疲れていたのもあり全員の意識からそれが抜け落ちていた(飛鳥は知っていて黙っていたが)。
「ダブルオークアンタの製作者、葉加瀬なのは。所属も役職もないよ。」
「え、あたしはてっきりどっかの会社か研究所にあんたの名前があると思ってたんだけど。」
「そういう所に名前貸すと利用されるからやってないんだよねぇ。株と宝くじでクアンタを作る分には足りたから結局起業もしなかったし。」
凰鈴音が所属がないと言ったなのはに驚くと、なのははそう答えた。
ダブルオークアンタはなのはの個人資産で作られたが、それは親の名前を借りて株と宝くじをすることで手に入れた金だ。
足りない分は起業でもして稼ぐつもりだったが、フルセイバー込みでクアンタの製作費には足りたのでそうなることもなかった。
それを話すと、シャルロット・デュノアがキラリと目を輝かせて近付いて来た。
「えーっと、葉加瀬さん。」
「デュノア社に技術提供はしないよ。」
「え──。」
ギクリ、と心の内を言い当てられて固まるシャルロットになのはがため息を吐いた。
「どうして……。」
「色んな意味でもう必要ないからね。
「ッ!?ほ、本当に!?」
なのはの言葉にシャルロットが目を見開いて詰め寄った。
デュノア社は自国の第三世代開発計画で遅れたがために経営危機に陥ろうとしており、それを解決するためにシャルロットはスパイのような者としてIS学園に送り込まれた。しかし結局これと言った有益な情報を届けないまま12月に入っている。
本社が具体的にどういう状況なのかをシャルロットは知らないが、他国の第三世代や男性操縦者の情報も無しに第三世代を完成させたという話は信じられなかった。いやそもそも、そんな話を聞いたことがなかった。
「気になるなら自分で確認するといい、あの無愛想なアルベール・デュノアにね。」
「父さんに……?」
「嫌ならそれでもいい。どうあれ
「っ……。」
「……無愛想にも程があるぞアルベール。」
「……?」
「はぁ……君の知らない真実は色々あるけど、ボクから教えることはない。知りたいなら腹を割って父親と話すんだね。最も、あの男がよりにもよって君に話すとは思えないけど。」
「それじゃ、ボクは工房に戻るから。」そう言って去っていくなのはの背中に、シャルロットはただ視線を向けていた。
IS学園にある自分の工房のデスクに腰掛けたなのはは、自身の目の前に投影された画面を見て今日3番目のため息を吐いた。
「……無愛想なのに
そうボヤいたなのはの見つめる画面には、とあるISのデータが映されていた。
デュノア社製第三世代IS、【コスモス】。搭載された第三世代兵器【
ラファール・リヴァイヴの設計思想を引き継ぎ、すべてに置いて上回る新たな傑作機。アルベール・デュノアが
その白を基調にオレンジを散りばめた機体が表す想いを、そこに託された願いを、それを渡されようと言う娘は知らない。
――白のコスモスの花言葉は、【優美】。それは愛する女性に贈った言葉。
「ほんと、無愛想な男だねぇ。」
それを渡される娘が、果たして『愛されていない』などと言えるのだろうか――
アーキタイプ・ブレイカーと原作11巻の一部を同時進行させるプロット、読み返してもどうかと思う。
あとコスモスの機体色は捏造です。描写なかった……。