IS 今こそ対話する!   作:駄竜

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第60話 凰鈴音、1人で戦う

「【絢爛舞踏】を発動させるコツ?」

 

「ああ。」

 

 専用機持ちによる模擬戦と新たな仲間の転入から1日経った次の日。学食での昼食中に篠ノ之箒からの突然の質問に、天羽飛鳥は困惑していた。

 

「知っての通り、私は紅椿を扱い切れていない。技量云々ではなく、私が絢爛舞踏の発動に時間が掛かるからだ。」

 

 第四世代IS【紅椿】。それが燃費など考えていない高性能な機体なのは、単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)【絢爛舞踏】によるエネルギー倍化能力の使用が前提にあるからだ。

 

 どれだけ操縦が上手くなっても、戦いに勝てるようになっても、絢爛舞踏を扱い切れていない限りは未熟な証。昨日の模擬戦後決意を新たにした箒は、まずはスタートラインに立とうと絢爛舞踏の習熟に乗り出した。

 

「訓練で発動出来るようにはなったが、その時間を短く出来ない。最初は姉さんにコツを聞こうと思っていたんだが、連絡が着かなくてな。」

 

「それで、何で私に?」

 

「実力が高いのもそうだが、姉さんと京都で戦っていただろう?それで何か聞けないかと思ってな。」

 

 裏がないことを思考を読み取って知った飛鳥は、容姿以外似通った所のないと思っていた自身の師匠の妹の顔をマジマジと見つめた。

 

「な、なんだ?」

 

「いや、束さんの妹だなぁって。」

 

「どうしてそうなった!?」

 

 『真っ直ぐな所とかそっくり』とはあえて口に出さないで、飛鳥は絢爛舞踏について考える。

 

 実の所、飛鳥に単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)の事は良く分からない。発現させたことも使ったこともないからだ。

 

 一部の人間にはGNソードビットを用いた量子ジャンプが単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)と融合して、量子化という単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)になったと勘違いされているが、量子化は別に単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)ではない。ダブルオークアンタが搭載している2基のGNドライヴを同調稼働させるツインドライヴシステムが、特定状況下で起こす現象こそが量子化だ。

 

 葉加瀬なのはと篠ノ之束という2人の天才によって発見からそう時を置かずに解明され、ダブルオークアンタで量子ジャンプとして正式実装された量子化は、思考による入出力――つまりイメージ・インターフェースを用いた第三世代技術に分類される。

 

 確かに第三世代技術は単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)と類似した部分も多いが、ISコアの能力を引き出している単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)とは根本的な部分で異なる。そのため助言できることはそう多くはない。

 

「とりあえず、精神修行かなぁ。」

 

「精神修行?確かに足りないとは思っているが……。」

 

 飛鳥の言葉に箒が疑問符を浮かべた。

 

 箒は自分が決して褒められた人間でないことを自覚している。羞恥や嫉妬で織斑一夏(想い人)に手を挙げてしまう暴力的な部分もそうだが、力を求めるあまりいくつもの過ちを重ねた自分には、常々精神修行が必要だと思っている。

 

 しかしそれが一体、絢爛舞踏のコツと何の関係があるのかが分からない。

 

「絢爛舞踏を発動させる反復練習は当然として、発動させるための心構えにすぐなれるようにとか、そういう精神的な面での鍛錬が必要なんじゃない?」

 

「なるほど、確かにそれは精神修行だな。」

 

 技術的に絢爛舞踏をモノにしようと考えていた箒は、飛鳥の考えを聞いてなるほどと納得した。

 

「正直コツでも何でもないけど、こればっかりは私にはどうにも出来ないから、ごめんね。」

 

「いや、私だけでは考え付かなかった。今日から早速やってみよう。」

 

 昼食を食べ終えた箒がトレイを持って立ち上がり、「先に戻っているぞ」と言って去っていった。

 

 その背を見送り、飛鳥はきつねうどんの麺を1回啜り、飲み込んでから1人呟いた。

 

「……一番良いのは、コアと話させることなんだけど。」

 

 ISのことはISコアと話せば大抵の場合上手くいく。通常であれば難しいことだが、飛鳥のダブルオークアンタのクアンタムシステムを用いれば誰であろうとISコアとの対話は可能となる。

 

 だがそれを言わなかったのにはちゃんとした訳がある。

 

「会わせると碌なことにならないっぽいからなぁ。」

 

 何故かは分からないが、イノベイターの直感が箒と紅椿を対話させてはいけないと言っている。させたが最後、厄介事が起こる気配だけをビンビンと感じさせる。だからクアンタムシステムによる対話は案として出すことはなかった。

 

「束さんが何か仕込んだんだろうなぁ……。」

 

 ある種の信頼からそんなことを考えながら、飛鳥はきつねうどんを食べた。

 

 

 

 

『絢爛舞踏が本気を出すな。』

 

『たったそれだけで最強ランキングのトップ5に入るからねぇ。』

 

『トップから不動の束さんはなんなの?』

 

『ほら、コード・ヴァイオレット強いし……。』

 

 

 

 

 凰鈴音にとって、凰乱音は妹のような親戚だ。昔は会う度に『おねえちゃん』と呼んで後を着いてくる乱のことを鈴は可愛がったし、乱も乱で1つ年上の鈴のことを慕っていた。容姿が良く似ていたのもあって、本当の姉妹みたいだと互いの両親に言われたほどだ。

 

 しかし成長と共に乱の性格がひねくれ始めてから、その関係は変わった。

 

 反抗期、あるいは思春期。そういった時期になってからは、元々親戚という近いようで遠い関係性なのもあって徐々に疎遠になっていった。鈴が日本に移住したのも、疎遠になった理由の1つだ。

 

 最後に会ったのは鈴が日本から中国に戻り、両親が離婚し、気晴らしにISの訓練を始めた頃。久しぶりに会ったのもあって比較的良好に乱と世間話をした鈴は、そこで自分がISの訓練をしていると言ってしまった。

 

 これが勉強や何かしらのスポーツなら違ったのだろうが、ISという自分にも才能があることを始めた鈴に、乱はチャンスだと思った。

 

 『ISならおねえちゃんに勝てるかも』と。

 

 

「アンタさえいなけりゃ……!」

 

 第3アリーナで一夏と乱が戦っていた。

 

 乱は憤っていた。一夏のせいで鈴が変わってしまったから。

 

 強くてかっこよかった目標。料理が上手くて勉強も出来て運動も出来る自慢の『おねえちゃん』。それが乱にとっての鈴。

 

 それが、一夏という男の前では見る影もないことに憤っていた。

 

 だから叩きのめす。コイツが居なければ鈴はかっこいいままでいてくれると考えて。

 

 片刃の大型実体剣【角武】を振り上げ、乱は一夏に振り下ろした。

 

「あんたねぇ……文句があるならあたしに言いなさいよ。」

 

 音もなく角武の刃が止まった。

 

 腕部小型衝撃砲で、そこに出来た衝撃砲の砲身で乱の攻撃を受け止めた鈴が、背に一夏を庇いながら乱の前に立ち塞がった。

 

「鈴っ!?」

 

「お、おねえちゃん……。」

 

 突然の鈴の登場に2人が驚く中、鈴は角武を跳ね除けて一夏を掴むとスラスターを噴かせて乱から間合いを取った。

 

「おねえちゃん……邪魔しないで!」

 

 角武を構え直した乱が突っ込んで来たのを、再び鈴は腕部小型衝撃砲【崩拳】で形成した、衝撃砲の砲身に空間の壁――白虎によって鈴が防ぐ。

 

「邪魔はあんたよ。ったく、あたしが来なかったらどうなってたか分かってるわけ?」

 

「何が……っ!」

 

「ほら一夏、さっさと立つ。()()()()。」

 

「来る……?」

 

 鈴の言葉に疑問を感じながら立ち上がった一夏。その瞬間、警報が鳴り響いた。

 

「な、なにっ!?」

 

「警報!?」

 

「昨日の今日だけどイマージュ・オリジスよ。あたしが来なかったらあんたたち2人で相手することになってたんだから、感謝しなさいよね。」

 

 両手に双天牙月を展開(コール)してそう言う鈴に2人が目を見開いた。

 

「鈴、どうして――。」

 

「なのはから来るって言われただけよ。あたしに分かるわけないでしょ。」

 

「――逆に何で葉加瀬さんは分かるんだ……?」

 

 一夏と鈴のやり取りを見た乱が歯噛みする。

 

「(何よ、アタシを除け者にして……。)」

 

「乱。」

 

「なによ!」

 

()()()()()()()。」

 

「はっ?」

 

 隕石が、降ってきた。

 

 

 

 

「い、ったぁ~……。」

 

「鈴!お前、どうして!?」

 

 乱には何が何だか分からなかった。

 

「シールドエネルギーが尽きかけてるあんたにも、乱にも、こんなことさせられる訳ないでしょ。」

 

「だからって!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 2人の声が遠く聞こえる。

 

「こんなのかすり傷よ。ほら乱、しっかりしなさい。」

 

「……あ。」

 

 名前を呼ばれて、目の前のそれを見て、乱の意識がはっきりとした。

 

「お、おねえちゃん!血が……っ!」

 

「派手に出てるだけですぐ止まるわよ。傷だって浅いし。」

 

 鈴の身体のあちこちから血が流れていた。

 

 乱と一夏を庇い、双天牙月で降ってくる隕石からの余波を防いだ鈴は怪我をしていた。

 

 その事実が乱の精神をかき乱す。

 

「アタシの、アタシのせいで……!」

 

「あたしが勝手にやったことよ。あんたが気にする必要はないわ。」

 

「でも、でもぉ……!」

 

 綺麗な薄緑色の瞳に涙を蓄えた乱に、鈴は「仕方ない」と呟いて一夏に乱をそっと押し付けた。

 

「一夏、乱をお願い。」

 

「お願いって、鈴お前、どうするつもりだ!」

 

「誰かがイマージュ・オリジスを抑えなきゃいけないでしょ。」

 

「そんなの俺が!」

 

 右手に雪片弐型を展開(コール)し直した一夏に鈴は首を横に振る。

 

「シールドエネルギーが尽きかけてるあんたに任せられる訳ないでしょうが。零落白夜も満足に使えないんじゃ足手纏いよ。」

 

「っ、お前だってそんな身体で!」

 

「言ったでしょ、かすり傷だって。少なくともあんたたちよりは遥かに動ける。そんで、こんな状態の乱は放っておけない。今ここに居るのは一夏だけ。ねぇお願い、一夏。」

 

「っ……!」

 

 鈴の緑の瞳と、一夏の赤にも似た茶色の瞳が交わる。

 

 一夏とて理解している。シールドエネルギーの無い白式では足手纏いになるだけで、こんな状態の乱を放っておくことも出来なくて、怪我をしているとはいえ鈴が一番戦えることを。

 

 理解していることを理解した鈴が、乱を離してPICで浮かび上がる。

 

「おねえちゃん!」

 

「鈴!」

 

()()()()()ね、一夏。乱、いい子にしてるのよ。」

 

 優しく微笑んで、鈴は絶対天敵(イマージュ・オリジス)の集団に向かって飛んで行った。

 

 

 

 

「言ってて思ったけど、これ死亡フラグよね……?」

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