――スパァァンッ!!!
有事の際に使われるIS学園の作戦本部に、空気を裂いて出席簿が振るわれた音が木霊する。
「ぐふぅ……。」
「な、なのはぁ!」
崩れ落ちた葉加瀬なのはを抱きかかえ、天羽飛鳥が下手人である織斑千冬に叫んだ。
「どうして!」
「警報が鳴ったのにも関わらず出歩いたからだ。」
鋭い視線で見下ろす千冬が淡々と答えた。
対
「今回は凰の救援ということで大目に見るが、基本は許されない行為だ。出歩くならせめて専用機持ちを連れて行け。怪我をされては堪らん。」
溜め息混じりにそう言った千冬は、飛鳥に抱きかかえられたままのなのはに気になっていた事を
「葉加瀬、第3アリーナまでの通路にも
隕石が落下した第3アリーナには更識楯無とヴィシュヌ・イサ・ギャラクシーの2人が救援に向かったが、道中の通路に
それ自体はおかしくない。何せ第3アリーナには一撃必殺を行える零落白夜を持った織斑一夏が居た。なのは製の
だが鈴の
「飛鳥……ボクはもうダメみたいだ……。」
「諦めちゃ駄目!しっかりしてなのは!」
「やり残したことは多いけど……飛鳥なら大丈夫さ……。」
「何言ってるの!?こんな傷、束さんの所に行けば!」
「――どうやら2発目が欲しいようだな?」
「「あ、結構です。」」
ドスの利いた千冬の言葉に茶番を繰り広げていた飛鳥となのはは声を揃えて拒否し立ち上がった。先ほどまで『もう死にかけです』と言わんばかりだったのにも関わらず、ダメージを全く感じさせないなのはの動きと出席簿を見舞った時の感触を思い出し、千冬は凡その当たりを付けると頭を抱えた。
「さっきの手応えからするに、どうやら
「
言葉少なく肯定したなのはに千冬は深い溜め息を吐いた。
「お前たち師弟は、私を困らせる天才だな?クラスリーグマッチに現れた無人機だけでも面倒だったのに、
「なのはが戦わなければ面倒なことにはなりませんよ。現に今まで問題は起こらなかったですし。」
「今回は
頭が痛い、と千冬の口からこぼれた言葉に飛鳥となのははそう返す。
なのはがどうやって第3アリーナに向かったのかを見た者は居ない。セシリア・オルコットたちイノベイターは何が起こったかをある程度知っているが、査問でもされない限り2人がそれを話すことはない。だから問題が提議されることもない。
そう言う飛鳥たちに千冬は少し瞳を閉じて思案した後に、目を開けてなのはに顔を向けた。
「戦力は1人でも多く欲しい所だが……葉加瀬、お前の力は緊急時か人命がかかっている場合のみ運用する。いいな?」
「その時が来れば。」
「来ないことを願うがな。話しは以上だ、凰の見舞いに行ってこい。」
失礼しました、と言って作戦本部から出ていく飛鳥たちの姿を隠した出入口の自動ドアを少しの間見つめ、千冬は1人ごちる。
「いくつあったのかは知らんが、今持っているのは1つだけか。それならまだ誤魔化せる。」
「鈴さんも無茶をしますわね。甲龍単機で
IS学園の医務室。そこでは隕石から一夏たちを庇った時に負った傷の手当てを受けている鈴とそのお見舞いにやって来た専用機持ちたちが居た。
セシリアが鈴の行動に呆れながらそう聞くと、鈴は傷口の消毒が沁みるのか顔を
「やんなきゃいけなかったからやったのよ。セシリアだって同じ立場だったらそうするでしょうが。」
「否定はしませんけれど、ビットで複数を相手取れるブルー・ティアーズと
ISというのは基本的に1対1を想定している。軍事力としての側面こそあるが、あくまでも対戦形式の競技だからだ。そのためほとんどのISは複数の相手と戦うことを考慮していない。
甲龍はそういった典型的な『軍事力としての側面もある競技用IS』だ。近接武装の双天牙月はもちろんのこと、射撃武器である衝撃砲も複数と戦うには今一足りない。一応衝撃砲には拡散型という範囲攻撃出来るタイプもあるが、今の情勢下であってもそれが標準装備されていないのはコンセプトからして甲龍が1対1を主眼に置いた機体だからだ。
「なのはさんの
甲龍専用機能強化パッケージ【
全身に展開装甲を持たないため第四世代にこそ分類されないが、武装に展開装甲を持つため白式と同じ『第三・五世代』として扱われる。その性能と天之四霊によって、甲龍は複数が相手でも十分に戦えるようになった。
「そうね、後で御礼しなきゃ。」
セシリアに言われて改めて鈴は感謝を伝えようと決め、巻き終わった包帯に少し窮屈そうに触れた。
「……お、おねえちゃん。」
そんな鈴におずおずといった様子で凰乱音が声を掛けた。
「乱?どうしたのよ。」
「えっと……。」
「ちょ、ちょっと、なに撫でてるのよ!?」
バッ!と鈴の手から逃れた乱に鈴は構わず笑う。
「気にする必要なんかないのよ。あの時にも言ったけど、あたしが勝手にやったことなんだから。」
「っ、でも……。」
下を向いた乱がぎゅっ、と身体を縮こまらせる。
今回鈴が怪我をしたのは第3アリーナで戦っていた乱たちを隕石から庇ったからだ。何故戦っていたかと言えば一夏を目障りに思った乱の短慮が原因だ。つまり乱のせいだ。
鈴の怪我で頭が冷えた乱には、どうしても自分のせいで鈴が怪我をした風に感じられて仕方がない。
「いい?あたしが勝手に守って、勝手に怪我しただけ。あんたは悪くないの。これ以上うだうだ悩むようならあたしだって怒るわよ。」
「……うん。ごめんなさい、おねえちゃん。」
「ん、よろしい。」
乱の頭を一撫でしてから、鈴はその足で医務室の扉に歩いて行った。
「おい鈴、どこ行くんだ?」
「なのはの所。
「そう?なら今日はもう解散かしら。」
呼び止める一夏に振り返った鈴がそう答えると、楯無がそう言ったことで専用機持ちたちの集まりは解散となった。
IS学園にあるなのはの工房に足を運んだ鈴はノックをしてからその扉を開けて中に入った。
「いらっしゃい、よく来たね。」
「ポタージュしかないけど飲む?」
「貰うわ。」
デスク前の椅子に座ったなのは、端に寄せられたコンテナの1つに腰かけた飛鳥に出迎えられた鈴は、既に用意されていた椅子に座って飛鳥からポタージュを貰って一口飲むと、「ほぅ」と息を吐いた。
「改めて、
「そのために作ったからね。役立たなかったらリコールものだから良かったよ。」
鈴の感謝を受けて笑うなのはがそう言うと、右手に手袋のマスターハンドを嵌めて空中に画面を投影し、【
「甲龍からの変更点は身をもって知っただろうけど、大きい変化は機体性能を引き上げたことと肩の大型衝撃砲に展開装甲を組み込んだこと。あと
「天之四霊だっけ。凄いわねあれ、大抵のことに応用できるんじゃない?」
「そういう能力だからね。それを十全に発揮するために全身に衝撃砲の『空間に圧力を掛ける』機構を備えた黄色のパーツを配置してある。使い方は任せるけど、よく訓練することを勧めるよ。」
ゆっくりと画面の中で回転する甲龍の立体モデルを見ながらなのはがそう言う。
「そうする。【白虎】だけでも使い道は多そうだし、使いこなすのは大分先でしょうね。」
「機体の扱い事態は今までとそう変わらない。性能の差に慣れれば今まで通りの事が今まで以上に出来るだろうね。そこから先は展開装甲と
「あー……飛鳥、訓練手伝ってくんない?」
数瞬考えてから鈴は飛鳥に顔を向けて尋ねた。
「いいけど、セシリアも呼ぶよ?」
「それでもいいわ。明日から忙しくなるわね。」
ポタージュを飲み干して立ち上がった鈴は、工房を後にしようと扉に向かって歩き出した。