IS 今こそ対話する!   作:駄竜

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第65話 銃央矛塵(キリング・シールド)、それは山田真耶の名

 あの人と初めて出会ったのは、入試の実技試験だった。

 

 ラファール・リヴァイブを纏って現れたあの人は、打鉄を使う私を終始上回った。

 

 思考を読んで完全に不意を突いたはずの初撃は躱され、背後からの射撃は振り返ると同時に切り払われ、その後はずっと機動力で勝るラファール・リヴァイブの機体特性を活かして、打鉄の私を抑え込んだ。

 

 打鉄の利点は色々と挙げられるが、最たるものはその使いやすさだ。人間の体格からあまり逸脱しないサイズである打鉄は性能も安定していて、普段動くような感覚で操縦することが出来る。

 

 当然私も普段動くように打鉄を動かしていた。流石に壊れたら困るから加減はしていたけれど、師匠――篠ノ之束から教えられた技術は余さず使った。その上で、ただの1度も攻撃を当てることが出来なかった。

 

 私も被弾はなかったけど、それはイノベイターとしての読心能力と空間把握能力によって攻撃がどこに来るか分かったからだ。それでも途中、気付いた時には移動先に弾丸が放たれていて、それに当たりかけたりもした。ISの自己修復機能を組み合わせた『破壊されるより早く直る盾』を持つ打鉄でなかったら、あの攻撃で私はダメージを負っていただろう。

 

 何が言いたいかを端的に言えば────私は、実力で山田真耶に勝てなかったのだ。

 

 

 

 

 強化訓練だと言われてから一夜明けた12月8日。言われたその日にすぐ始まるものだとばかり思ったが、「色々と準備がある」と今日に回されたそのちっとも待っていない日の到来に、天羽飛鳥は葉加瀬なのは用に作ったポタージュの一部を拝借して気を落ち着かせていた。

 

「ふぅ……。」

 

 本来なら気を落ち着かせるまでもない。確かに入試の実技試験で真耶に勝てなかった飛鳥だが、専用機ならいざ知らず多少チューンされただけの第二世代機ラファール・リヴァイブに、制限しても第三世代機相当の性能を発揮するダブルオークアンタを使う飛鳥が勝てないなどまず有り得ない。武装を追加し対応力が上がっているフルセイバーなら尚更不可能だ。

 

 【GNソードⅣフルセイバー】――ダブルオークアンタが初期装備(プリセット)としている【GNソードⅤ】より数字が若いそれは、GNソードⅤよりも前に作られた武器だ。

 

 GNソードⅤはGNソードビットとの合体で拡張性を持たせたが、GNソードⅣフルセイバーは6つのパーツを組み換えることで多種多様な機能を実現した武装だ。バスターライフルやバスターソードとして重い一撃を繰り出せるだけでなく、付属する【GNガンブレイド】で小回りも利く上、連射可能な高出力ライフルにもなる。

 

 高速切替(ラピッド・スイッチ)が使える飛鳥は、本来少なからず手間がかかるその組み換えを即座に行える。それこそシャルロット・デュノアが操るラファール・リヴァイブ・カスタムⅡも目ではないほどの対応力がある。何よりGNソードビットが自由に使えるというのは、基本的に1対1となるIS戦で数の優位を取れる大きな利点がある。

 

 そう、どう考えても勝てないなんて有り得ない。いくら真耶の実力が高くとも、機体の世代差と武装の性能差が勝敗を覆せる範疇(はんちゅう)を越えている。

 

 ――なのに、イノベイターとしての感覚が騒がしい。師匠と京都で戦った時にはなかった、圧迫感とでも言うべきものが拭えない。

 

「(あの時の束さんは手加減してくれてた。だから感じなかったんだろうけど――。)」

 

 飛鳥と接する時の束は優しい。普段なのはとしているような頭が痛くなる高速思考を交えた会話は一切せずに、逆に自分の思考を制限して会話してくれるだけでもそれは十分に伝わってくる。

 

 だからこそ分かる。臨海学校で束が来た時と違って、()()()()()()()()()()()()()1()()()()()。戦う直前に少し思考能力を高めていたが、それも痛くなるほどの負荷ではなかった。つまりあの時、ゼロシステムを起動しトランザムを使った飛鳥を相手に、束は最大の武器であるその頭脳を制限していた。だからイノベイターの感覚が脅威として捉えなかった。

 

「(――なら、それを感じる山田先生は……?)」

 

 ぶるり、と身体が震えた。まさかそんな、と思考が止まる。でも、それが事実だとしたら。

 

「……流石、でいいのかなぁ……。」

 

 戦う前から敗北感を感じながら、飛鳥はアリーナに通じるカタパルトへ歩を進めた。

 

 

 

 

「織斑先生、どうして飛鳥さん1人で山田先生と戦うことになったんですの?」

 

 これから始まる強化訓練を見るため、ピットではなく観客席に集合した専用機持ちたち。この人数がピットに居ても邪魔だろうと、ピットに向かう時の多少の不便さは覚悟してこちらに来たが、そんな中セシリア・オルコットが同じように観客席に座っている織斑千冬へと質問を投げかけた。

 

「戦闘技術向上と連携上達。前者はともかく、後者は飛鳥さん1人では無理がありますわ。」

 

 1人で連携も何もない。確かに飛鳥の枷にならずに連携出来る人間は少ないが、セシリアや凰鈴音なら問題なく可能だ。だと言うのに飛鳥1人で最初の戦いが始まろうとしている。明らかに不自然だ。

 

 セシリアの質問に、千冬は肩をすくめて答えた。

 

「山田先生たっての希望だ。」

 

「山田先生の?」

 

「入試の再戦だそうだ。山田先生は天羽からダメージを貰わなかったが、天羽にダメージを与えることも出来なかったからな。数字だけ見れば引き分けだったあの戦いの決着をつけると言っていた。」

 

 再戦と言われて納得したのか、セシリアはそれだけでないことを直感しながらもそれ以上の質問をしなかった。

 

 これはあくまで『強化訓練』。これから今まで以上に苛烈なものとなることが予想される対絶対天敵(イマージュ・オリジス)戦を想定し、専用機持ちたちの戦闘技術向上と連携上達を目的とした模擬戦だ。断じて『再戦』をするためのものではない。

 

 確かに教員と生徒が戦える機会は少ない。しかし決して皆無ではない以上、わざわざ強化訓練という貴重な時間を割いてまでやることではない。真耶に再戦の意志があっても、千冬たち他の教員にその点を突かれて叶わないはずだ。

 

 ならそれが叶っている現状は、千冬たち他の教員を納得させるだけの理由がある。それが何であるかはセシリアにも分からなかったが、これから始まる戦いを見逃すまいとセシリアはアリーナへと視線を向けた。

 

 

 

 

「ありがとうございます、葉加瀬さん。これならちゃんと戦えます。」

 

 飛鳥が居たピットとは反対側のピットで、真耶はなのはに用意して貰った機体を撫でていた。

 

 僅か1日の作業時間だったために『有り合わせの物』で仕上げられたその機体は、飛鳥と戦うためだけに真耶がなのはに頼んだものだ。

 

「溶断武器を使う天羽さんと戦うにはこれぐらいしないと、ですからね。」

 

 通常、ヒートソード等の溶断武器はそもそもISの装甲や武器に使われる素材が耐熱にも優れる物が多いために敬遠される。武器自体が熱を持つため消耗が激しく、長期戦となりやすいIS戦で使い難いこと、何よりエネルギー系の武器を持てば似たような効果が得られることや、機構が複雑となりただ拡張領域(バススロット)の容量を食うだけなのも誰も使っていない理由だ。

 

 しかし飛鳥のGNソードⅤを始めとした武器はGN粒子を熱変換し、その熱を対象物に移動させることで高温にし溶かしているために消耗がそう激しくない。しかも耐熱に優れる素材であろうと後から後から熱が移動させられるために耐熱限界を超え溶断される。

 

 今までの溶断武器の常識を真っ向から焼き切る飛鳥の剣は、対物理で比類なき力を発揮する。それは燃費を考えた結果、エネルギー系武器をあまり搭載しない機体に対しての特効とも言える。それがビット兵器となって6つも襲い掛かってくるんだから堪ったもんじゃない。

 

 だから真耶は飛鳥の機体を作ったなのはに頼んだのだ。『最低限戦えるようになる装備』を。

 

「――さぁ、行きましょう。」

 

 伸ばした手を通して、触れた機体に意志を向け身に纏い、真耶はカタパルトに乗ってアリーナへと飛び出した。

 

 

 

 

「それは……!?」

 

 先にアリーナ内で待機していた飛鳥は、カタパルトから飛び出して来た真耶が纏う機体を見て目を見開いた。

 

「だからなのは、あんなに眠そうに……。」

 

 今朝の親友の様子に合点がいった飛鳥は、感じていた圧迫感の正体に苦虫を嚙み潰したような顔で真耶を見つめた。

 

「天羽さん。」

 

「……はい。」

 

「今日の私は教師として、天羽さんの壁になります。」

 

 ISと同期したアリーナのシステムがカウントダウンを始める。

 

「あんまり好きじゃないんですけど、あえてこう名乗りましょう。」

 

 拡張領域(バススロット)から2丁のライフルを手に取り、太陽に照らされる()()()()()()()()()を輝かせ、

 

 

「元日本代表候補生、【銃央矛塵(キリング・シールド)】の山田真耶!ラファール・リヴァイブ・Sカスタム、行きます!」

 

 日本が誇る世界最強(ブリュンヒルデ)に次ぐ存在が、その銃口を飛鳥に向けた。

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