IS 今こそ対話する!   作:駄竜

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第67話 天羽飛鳥、覚悟を決める

「それでは、天羽の反省会を始める。」

 

 淡々とした口調で織斑千冬がそう言った。

 

 場所はアリーナの観客席。模擬戦が終わり戻ってきた天羽飛鳥は、膝に葉加瀬なのはを乗せてその髪に顔を埋めながら(なげ)いていた。

 

「シールドビットは無理だって……。」

 

 結論から言えば、飛鳥が勝った。GNソードビットを全て失い、GNホルスタービットで射撃は通らず、ワープ先も予測されるために普通に近接戦闘を仕掛けた飛鳥は、溶断する刃を受け止める術を持たないラファール・リヴァイヴ・Sカスタムのシールドエネルギーを0にした。

 

 拡張領域(バススロット)をビットに占領されているラファール・リヴァイヴ・Sカスタムは、それ以外の武装を量子変換(インストール)していない。手に持っていた2丁のライフルもグリップを展開しただけのGNライフルビットⅡで、近接武装と言える武装はない。

 

 GNライフルビットⅡのバレルを取り外すことで姿を現す連射性に優れるGNピストルビットなら、その銃身下部に対ビームコーティングを施した刃を有するため近接戦闘もある程度は行えるのだが、生憎GNソードⅤと切り結ぶにはエネルギー系の武器でなければ溶断されてしまう。

 

 結果として、GNソードビットや量子ジャンプどころか射撃武器すら使わない、GNソードⅤでの極普通の白兵戦によって飛鳥は山田真耶に勝利した。なお、GNソードⅣフルセイバーは溶断しない部分を利用され攻撃が逸らされ続け一撃も掠らず、GNガンブレイドに至ってはその短い刀身を腕ごと抑えられたことで振るうことも出来ずに片手間で破壊されたことをここに明記する。

 

「まずは……そうだな。ボーデヴィッヒ、お前の目から見て、今の戦いはどう映った?」

 

「はっ。恐れながら、モンド・グロッソにも劣らない素晴らしい戦いでした。」

 

 千冬に指名され敬礼と共にそう答えたラウラ・ボーデヴィッヒに、千冬は「そうだろう」と肯定し、

 

「せいぜいモンド・グロッソ()()でしかない。」

 

 そう鋭い目つきで言い放った。

 

「ち、千冬姉?」

 

 織斑一夏が姉の雰囲気が変わったのを敏感に感じ取る。IS学園では常に教師として己を律している千冬に、どこか現役時代を思わせる刃の様な鋭さが現れる。

 

「天羽、()()()()()()?」

 

 千冬の言葉に、え?と困惑が口から零れる。

 

 ラウラが言ったように、先ほどの戦いは間違いなくモンド・グロッソを彷彿とさせる戦いだった。極まった操縦技術と戦闘技術はかつて見たそれとなんら遜色(そんしょく)のないものだった。それを実際にモンド・グロッソを戦い抜いた千冬も肯定した。

 

 だと言うのに、『手を抜いた』とはどういうことだ。試合を最初から最後まで見ていたが、飛鳥に余裕があるようには見えなかった。むしろ押されていたとすら言える。でなければGNソードビットとGNガンブレイドが破壊されるなど有り得ない。

 

「………………。」

 

 なのはの髪に顔を埋めていた飛鳥は黙ったまま、ぴくりとも体を動かさない。

 

「いや違うな、本気じゃないと言った方が正しいか。」

 

「…………。」

 

「元々お前は精神状態の影響が戦いに出るタイプだ。完全に臆していた今回の模擬戦で実力を出し切ったとは私も思っていない。トランザムとやらも使っていないからな。」

 

 言葉を選ばずに言えば、飛鳥は『興が乗った時が一番実力を発揮するタイプ』だと千冬たち教員は見ている。嬉しい時や楽しい時、何より覚悟を決めた時が一番強い人間だと。

 

 人の精神に呼応するISを操るIS乗りには良くいるタイプだ。スポーツでも精神状態が試合のプレイに影響の出る人間は多いことから、それが有り触れた人種であることは伺える。

 

 飛鳥が特異な点をあげれば、不調の時であろうと世界各国の国家代表たちの中でも上位と言われる者たちと同程度の実力があることだろう。機体も最上級である以上、負けることはまずない。相手が国家代表クラスの実力者であれば、それこそモンド・グロッソの様な名勝負をする。

 

 つまりラウラにモンド・グロッソの様だと評された先ほどの戦いは、()()()()調()()()()()()()()()()()()()。そうなった理由はもちろん、飛鳥が真耶を恐れたからだ。

 

 そもそも初対面が入試の実技試験という飛鳥も今まで経験したことのない初めてのことをする場で、少なからず不安を抱えていたがそれでも篠ノ之束の指導を受けた自分なら絶対突破できると言う確信があったのに、蓋を開けてみればイノベイターの自分に普通に技量で迫ってくるヤベー奴の相手をする羽目になったのだ。イノベイターとはいえ思春期の少女は普通にトラウマになった。

 

 そんなトラウマの相手と戦うのは精神的にとても辛かったし、覚悟を決めるにしてもそれが告げられたのは昨日の今日。どうやってもテンションは上げられず、しかもピットから出てきたら見覚えのある装備(GNホルスタービット)を着けていると来た。

 

 その動揺が治まらない内に試合が始まり、とりあえず最も信頼する技であるセブンソード・コンビネーションを行おうとすれば初手の量子ジャンプを完全に予測され、群咲を相手にした時でさえ破壊されなかったGNソードビットが全て破壊され、GNソードⅣフルセイバーは掠りもせず、GNガンブレイドに至っては振るうより先に腕を抑えられGNライフルビットⅡに破壊される始末。

 

 はっきり言おう。『そんなの本調子で戦える訳ないじゃん!』と声高に叫びたい。

 

「だが、そんなことでは世界最強(ブリュンヒルデ)にはなれんぞ。」

 

「――――。」

 

「モンド・グロッソはオリンピックと同じだとよく言われるが、実際は違う。政治を持ち込むことが許されないオリンピックとは対照的に、モンド・グロッソは()()()()()()。スポーツと銘打ってはいるが、アレはISを用いた代理戦争だ。」

 

 ISの登場により一時期とても不安定になった世界情勢は、いつ第三次世界大戦を引き起こしても不思議ではなかった。それだけ白騎士事件を発端とするISの表舞台への登場は衝撃的だった。

 

 当時は日本人が開発したと言うことで暫定的に日本が独占している状態にあったISの技術がそのまま日本に軍事転用されれば、他国としては堪ったものではない。だが白騎士事件でミサイルを撃った手前、日本に対して強く出ることも出来なかった。

 

 最終的に少々強引にIS運用協定――通称【アラスカ条約】を締結し、憂さ晴らしに『ISを生み出した日本にIS学園を建てるのが当然』だとして色々と自分たちに都合のいい状況を作ることで一先ずの難は逃れたが、次に起こったのがISの開発競争だ。如何に強力で、いざという時に軍事転用できるISを作るかという競争。

 

 一先ずISの完成を目指した第一世代で培ったノウハウから、操縦者個々人に合わせた専用機の開発。当時はまだ後付装備(イコライザ)が無かったため武装は初期装備(プリセット)1つだった上、製作途中だったので配布されているISコアも少なかったために量産機を制作するよりも、そうしたワンオフ機を作ることが多かった。

 

 そんな中、ふとどの機体が一番強いのかということになった。言い換えれば『どの国の技術が一番優れているのか』、と。

 

 『もちろん我が国が一番だ』と世辞抜きにそういう各国。しかしカタログスペックで比べたところで、操縦者個々人に合わせた機体では比べようもない。操縦者が揃って初めて意味があるからだ。

 

 どうしようかとなった時、『いっそ戦わせよう』とどこかの国が言ったのがISの世界大会【モンド・グロッソ】の始まりだ。

 

 そんな始まりだからこそ、モンド・グロッソは国の威信を賭けた代理戦争としての側面を持つ。明確に決まる勝敗から『どこの国の技術と選手が優れているか』が決まるからこそ、その後のISの開発競争に置いて有利に運ぶことが出来る。

 

 第一回モンド・グロッソでは第一世代【暮桜】に乗った千冬が【雪片】1本で優勝したことで、機体に汎用性を持たせる後付装備(イコライザ)を取り付けた第二世代機への移行が進み、ISコアの配布も順調に行われたことで量産機の開発も盛んとなった。

 

 続く第二回モンド・グロッソはイタリアが優勝し、その優勝機体である【テンペスタ】を中心として次世代となる第三世代機の開発が進められた。

 

 優勝すれば多大な利益がある。それがモンド・グロッソであり、だからこそ千冬は第二回モンド・グロッソの決勝を棄権させられた。

 

「力だけで勝てるほどモンド・グロッソは甘くない。お前の調子を崩し、心を乱し、あの手この手で勝利させまいとする国が出てくる。国家代表程度の実力しか出せないなら凰やオルコットにお前は負けるだろう。」

 

 世界最強(ブリュンヒルデ)の言葉が圧し掛かる。飛鳥も理解している。せめてニュートラルな状態なら兎も角、不調時では凰鈴音にもセシリア・オルコットにも負けるだろうと。もはや2人はその域に達しつつあるのだ。

 

「心を強く持て、天羽。トラウマ程度で心を乱すな。」

 

 

「お前は、世界最強(ブリュンヒルデ)になるんだろう?」

 

 

 ふっ、と。今までの刃の様な雰囲気が途絶えた。代わりに、飛鳥に期待が伝わってきた。

 

 なのはの髪から顔を上げれば、そこには優しい表情で自分を見下ろす千冬の姿があった。

 

「……なのは。」

 

「なに?」

 

 千冬と飛鳥の間に挟まれて若干居心地が悪そうにしていたなのはに、飛鳥は()()()()()()()()

 

「【鍵】、ちょうだい。」

 

 覚悟を決めて、そう言った。

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