IS 今こそ対話する!   作:駄竜

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第68話 天羽飛鳥、トラウマを越える

 天羽飛鳥の専用機【ダブルオークアンタ】には、アラスカ条約によって設定が義務付けられているシールドエネルギーの総量などを制限する競技用リミッターの他に、葉加瀬なのはによってその性能を制限する3つの【枷】が設けられている。

 

 1つ目は【GN粒子総量の制限】。重力軽減、慣性制御など様々な恩恵のあるGN粒子だが、その中には通信妨害等の周囲に影響を及ぼす物もあるため、普段は武装に使うGN粒子の量どころか機体各部のGNコンデンサーに貯蔵するGN粒子の量さえも制限しており、これによりダブルオークアンタは第四世代機に及ばない程度までスペックが低下している。

 

 2つ目は【専用換装装備(オートクチュール)フルセイバーの未装備】。戦うための装備である【GNソードⅣフルセイバー】とコーン型スラスターを装備しないことで、戦闘時における対応力や攻撃力、速度を意図的に低下させている。更にツインドライヴシステムの安定装置を兼ねるGNソードⅣフルセイバーがないため、非トランザム状態での量子化が行えない。

 

 そして3つ目、【ゼロシステムの機能封印】。各種センサー類を用いて情報を収集・分析し数多の未来の可能性を使用者に見せ、勝利のためにその肉体を動かすインターフェース(入出力装置)。だがその機能は機体を展開している間は起動出来ず、待機形態の状態でも戦闘に関する未来予測は行えない様になっている。

 

 これら3つの【枷】の内、1つ目のGN粒子総量の制限は飛鳥にも解除できる物だ。音声認識で簡単に、それこそ戦闘中にだって解除できる。それをしないのはそれだけ周囲への影響力が大きいからだ。本州からモノレールで移動できる程度の距離にあるIS学園でこの制限を取り払ってしまえば、広範囲で重度の通信障害を起こしかねない。そのためクアンタムバーストをフルパワーで行う場合でもなければ解除しない。

 

 2つ目のフルセイバーの装備は単純に飛鳥の好みだ。GN粒子による表層意識の共有と、そこから発展した【対話】を主目的として製作されたダブルオークアンタの能力を戦うことにのみ使うフルセイバーを飛鳥は出来るなら使いたくない。なのはとしてもフルセイバーの戦闘力が争いの火種となるのを嫌い、普段使いはさせていない。しかし有事の際、最も解除されやすい【枷】である。

 

 だが3つ目のゼロシステムの機能封印、これが解除されることは()()。人の生活圏での使用が(はばか)られるGN粒子量の制限解除や普段使いしないフルセイバーとは違い、これだけは飛鳥もなのはも解こうとはしない。

 

 常人とは隔絶した大天才・篠ノ之束をして耐えられなかった精神負荷から、本来は設計図のみを残して破棄されたのがゼロシステムだ。『来るべき対話』で人と機械を繋ぐインターフェースとして必要になるとダブルオークアンタに搭載こそしたが、その機能を制限しているのはやはり悪影響を懸念してのことだ。

 

 ライザーソードという国を亡ぼせそうな攻撃を有するダブルオークアンタがゼロシステムを使えば、まず間違いなくそれの使用が勝利の道筋として提示される。それによる被害の一切を無視して、ただ勝利のためにその剣を抜けと(ささや)きかける。

 

 ゼロシステムはその勝利がどういう勝利かを、そこで起こる惨劇と悲劇さえも予測して鮮明に描写し、その地獄を真正面から使用者に見せつける。実際に京都で封印から解放されたゼロシステムはライザーソードによって京都とその周辺地域ごと束を殺す未来を見せた。最終的に支え続けてくれた声が届いたために正気を取り戻したが、飛鳥もその未来に心を折られかけた。

 

 そんな物の封印を解くなど正気ではない。勝つだけなら覚悟を決めるだけで事足りる。蹂躙するならフルセイバーで十分だ。だと言うのに、それを求め、あまつさえ()()()()訳は何なのか――

 

 

 

 

「――天羽に足りないものが何か、お前たちは分かるか?」

 

 なのはから【鍵】を貰い、一言断ってから第3アリーナを出ていく飛鳥の姿が見えなくなってから、織斑千冬は専用機持ちたちにそう投げかけた。

 

「足りないもの?」

 

「IS操縦者として大成するのに必要なものだ。」

 

 千冬の問いかけに専用機持ちたちは頭を捻る。

 

 大成するのに必要なものと問われて、まず思い浮かぶのは実力だ。実力もなく大成などあり得ない。が、飛鳥の実力は既に国家代表というトップクラスの先にあるため違う。

 

 ならば容姿だろうか。見た目が良ければそれだけで人生は得だと言うし、大成したならメディア露出も多くなる。モデル業をしている代表候補生もいるし、国家代表などブロマイドが広く販売されている。そういう時に不細工では格好がつかないため、見た目が良いに越したことはないだろう。が、飛鳥は十分に美少女だ。『絶世の』とかそういう形容詞こそ付かないが整った容姿をしているため、これも違う。

 

 ならお偉いさんとのコネだろうか。世間的にはあまり良い印象はないが、『覚えがいい』というのは確かなアドバンテージだ。手助けをして貰えれば大成への道は圧倒的に楽になる。だがたったの1試合だけで防衛大臣から直接代表候補生の勧誘をされたことで有名な飛鳥は、その日本のIS業界では最上級のコネを持っている。当てはまらない。

 

 うーん、と唸る1年生の専用機持ちたち。だが、2年生以上の年長者たちはその答えを知っている。

 

「そりゃあれだ、度胸だろ。」

 

「覚悟っス。」

 

「飛鳥ちゃんに足りないのは真剣みよ。」

 

 口々に答えたダリル・ケイシー、フォルテ・サファイア、更識楯無に目を丸くして1年生たちが視線を向ける。

 

「強いから度胸を試されることがねーんだよ、飛鳥は。」

 

「大体の相手が格下っスから、覚悟を決めて戦うことがないんス。」

 

「流し作業でも結果を出せるから、真剣に取り組むってことをしないのよね。手を抜いてる訳じゃないんだけど、加減してるっていうか。」

 

 上級生から見た飛鳥の評価はそんなものだ。その言葉を補足する様に千冬は言った。

 

「天羽は確かに強いが、心構えがなっていない。そんな奴は国家代表に選ばれない。山田先生の様にな。」

 

 山田真耶が日本国家代表になれなかったのは生来のあがり症もあるが、本人にその心構えが無かったからだ。

 

 今や世界を左右するIS。それを操り1つの国の代表として選ばれるには、実力もさることながらその精神も重要になってくる。

 

 飛鳥もその心構えは出来るが、それは選ばれた後から責任感によって生じるものだ。それでは遅い。最初から持っていなければ国家代表には選ばれず、必然世界最強(ブリュンヒルデ)にはなれない。

 

「だから少々手荒い真似をした。天羽が国家代表の選抜から漏れるのは惜しいからな。」

 

 本来、教員用の機体というのは改造が許されない。実質的な専用機ではあるが、ややこしい制約があるためだ。それを破ってまでラファール・リヴァイヴ・Sカスタムへの改造をなのはに頼んだのは、飛鳥のトラウマを刺激して発破をかけるためでもあった。

 

 目論見は成功し、飛鳥は世界最強(ブリュンヒルデ)となるために再び覚悟を決めた。今まで以上にその力を発揮するだろう。何せ、【枷】を外したのだから。

 

 千冬は以前その存在を知ってから気になっていたことをなのはに聞いた。

 

「葉加瀬、お前が【枷】をかける程の代物をわざわざ搭載したのは、将来的に天羽に使わせるためだな?」

 

 千冬の質問に、なのははただニコリと笑みを返した。

 

 

 

 

 IS学園の屋上。誰も居ないそこに、飛鳥はやって来た。

 

「すぅー……ふぅー……。」

 

 一呼吸してから、飛鳥は己の専用機に意識を向ける。

 

――ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……

 

 【鍵】によってその機能を完全なものとしたそれが、使われる時を今か今かと待ち望んでいる。

 

 出来るなら使わない方が良い代物だ。その思いは今も昔も変わらない。束と京都で戦うために1度【枷】を外した時だって、あまり乗り気という訳でもなかった。あの時は対話を拒むフルセイバーを使うことが嫌だったから使った面もあるし、何より使うならここだと言う確信があった。

 

 だが、今回は違う。使うべきという確信も無ければ、イノベイターの勘がその方が良いと言っている訳でもない。単なるエゴ、我が儘だ。

 

 本来ならなのはが止めて使わせないだろう。だが、【鍵】を渡してくれたなら、そういうことだ。

 

「……クアンタ、付き合わせてごめんね。」

 

「いいえ、あなたが望むなら、それが私の望み。」

 

「……ありがとう。」

 

 礼を言ってから、飛鳥は左手をぎゅっと握りしめて、目を金色に輝かせ、

 

「ゼロシステム、リポーズ解除。バトルシミュレーション、エネミー【山田真耶】、マシンは【ラファール・リヴァイヴ・Sカスタム】、武装に【GNビームサーベル】を2つ追加――スタート。」

 

 地獄に飛び込んだ。

 

 

 

 

 始まってすぐ、落とされた。宇宙空間を模した空間で、12の粒子ビームの雨による包囲網を抜け出せずにシールドエネルギーが底をついた。

 

 続く2戦目、距離を詰めるより先に墜とされた。瞬時加速(イグニッション・ブースト)で動いたのが災いし、真正面から極太ビームに飲み込まれた。

 

 3戦目、GNシールドと機体との接続アームを破壊されたことでツインドライヴが解け、堕とされた。

 

 4戦目、武装を全て破壊され、降参した。GNホルスタービットでGNソードⅤを挟み込んでバキッと刀身を折られた時は思考が止まった。

 

 5戦目、トランザム終了直後の隙を突かれ、シールドエネルギーが0になった。当たり前の様にトランザム終了まで粘られたことに、改めて実力の高さを思い知らされた。

 

 6戦目……7戦目……8……9――100。

 

 飛鳥は、ようやく1勝した。




 なお近接戦闘に持ち込むまで100回かかった模様。ワープを読まれて瞬時加速も出来なきゃそんなもん。
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