「あの人やっぱり人間じゃない……。」
震えながらそう訴える天羽飛鳥は、膝の上に乗せたちょうどいいフィット感の温もりで心を落ち着けていた。
模擬戦の1回目が終わり、今は飛鳥が破壊したGN粒子貯蔵タンクとGNライフルビットⅡを新しい物と交換する作業中の空き時間。次に戦うセシリア・オルコットと凰鈴音のペアはすぐに出れるように既にピットに移動しているが、他の面々は未だに観客席で自分の番が来るのを待っていた。
「オレに言わせりゃ、飛鳥も大概なんだが。」
そんな飛鳥を見ながら、ダリル・ケイシーは膝の上に乗せたフォルテ・サファイアを抱き締める。
パートナーであるフォルテがイノベイターとなり、自身にもその兆候は現れているものの未だに革新を遂げていないダリルからすれば、完全に変革を果たしている飛鳥の動きも十分に人間を止めている。その率直な感想を本人に伝えれば、
「トランザムに素で対応できる程人間止めてない!」
「怒んなよ。」
キッ!と今まで見たことのない形相で怒られた。
「絶対おかしい。束さんでも全身の展開装甲全部使ってたのに、なんであの人ポン付けしたタンクとビットだけでトランザムと戦えるの……?」
「そりゃそういう戦い方だったからだ。位置取りとか攻撃の間隔とか、アレ全部飛鳥を意識してたぞ。」
飛鳥の疑問にダリルはそう何でもない様に答える。
【
現在IS学園には多くの専用機があるため忘れがちだが、本来専用機という代物は珍しい。そもそものISコアの絶対数が500個にも満たない貴重品だからだ。かつてセシリアが織斑一夏に向かって言ったように、その数少ないコアの1つを渡される専用機を持っている人間はエリートと言って差し支えない。
しかし【
もちろんもしもの時のために後進の育成はされていたし、その中には優秀な成績を修める者も居たが、それでもテストパイロットが関の山。それも十分凄いのだが、そういった機体は最終的に返還するのが常だ。
そんな時期に個人用に
「単純な場数の差だ。これから訓練してけば差は詰まっていくさ。」
「そうなのかなぁ……。」
ダリルの言葉に不安を抱きつつ、飛鳥はひとまず納得した。
「……なぜ私は抱えられているんだ?」
そんな中、飛鳥の膝に抱えられたラウラ・ボーデヴィッヒは首を傾げていた。
第3アリーナのピット。そこでは葉加瀬なのはによって飛鳥が破壊したラファール・リヴァイヴ・Sカスタムの修理を行っていた。
とは言っても、
そんな僅かな時間。機材を手にGN粒子貯蔵タンクの周りを弄っているなのはに、真耶が声を掛けた。
「葉加瀬さん。」
「何です?」
「
その質問になのはの手が止まった。
「どうしてそう思ったんです?」
「違和感があったんです。どこか窮屈そうというか、やりたいことをやれてないというか……。」
「……よく分かりましたね。」
はぁ、とため息を吐いて、手の動きを再開させながらなのはは話し始めた。
「クアンタは確かに飛鳥の専用機だ。でも飛鳥に合わせた機体って訳じゃない。」
「それってどういう。」
「クアンタはあくまで飛鳥が求めた『対話のための機体』。それを発揮するのに必要な代物を搭載した機体で、飛鳥の適性に合わせた訳じゃない。粒子制御のためのクラビカルアンテナを兼ねるソードビットとか、直列させるために背中と盾に変則配置されたツインドライヴとかは全部、飛鳥が求めた機能を発揮するための代物だ。」
「……やっぱり、あの機体は天羽さんが戦うための機体じゃないんですね。」
「戦えはするよ。第三世代以下ならまず負けないし、第四世代だとしてもトランザムを使えば【枷】が付いたままでも勝てる。使い手が未熟なら使わなくても勝てるかな。束さんとか織斑先生が相手だとちょっと分からないけどね。少なくとも飛鳥が全力で動かしても壊れないって点では、クアンタは間違いなく飛鳥の専用機だ。」
よし、と新しいGN粒子貯蔵タンクに取り換え終わったラファール・リヴァイヴ・Sカスタムの装甲を叩いてから立ち上がった。
「最後に1つ良いですか?」
「答えられるものなら。」
「天羽さんの
『なぜバレたし。』
『目の前で設定弄ったからじゃない?』
『システム的に察知されるの!?』
『目の前で右手に持ってたものが左手に変わってたら気付くでしょ普通。』
強化訓練の2日目が終わり、それぞれでクールダウンをして食事をとり寮に戻って休息を取っていた。
「えっ、山田先生にバレたの!?」
「ばっちりね。多分織斑先生にも話が行くよ。」
「うわー……。」
寮の自室で飛鳥はなのはからピットであったことを話された。
「まぁでも仕方ないかなぁ。比較できるようなことしちゃった訳だし。」
「量子ジャンプで後ろに回って斬り掛かったからねぇ。トランザムしてたとはいえ、山田先生が振り返るより先にタンクを壊したらそりゃバレるよ。」
「でもやっぱり、見れば分かるものなんだねぇ。」
「束さんにも最終的にはバレてたし、そういうものなのかなぁ。」
まだ中学生だった頃、飛鳥は篠ノ之束から篠ノ之流古武術を習っていた。剣の振り方に始まり、歩法や影抜き、零拍子などいろいろな技を伝授された。その時にもふとしたきっかけでバレたことである。
「いやまぁ、別に隠してる訳でもないんだけどさぁ。私のこれって単に周りに合わせてるだけだし。」
「世の中右利き中心だからねぇ。電動ミシンとか右利き用しか知らないよボク。」
「右手で色々できた方が得なんだよなぁ。」
はさみとか。そう言って飛鳥は遠い目をした。
9割の人間が右利きであるこの世界は、右利きを中心に回っている。日用品はもとより、専門性の高い物はそのほとんどが右利き用だ。探せば左利き用の物もあるが、それらをいちいち探すのは面倒くさい。
なので、世の左利きは右利きに矯正したり、
「スポーツでは左利き有利って言うけど、ISの場合大体両手に武器あることが多いからそうでもないよね。」
「紅椿とか刀2本だし、白式も左腕に武器あるし。プラズマ手刀とか
ビットとか衝撃砲に利き腕関係ある?って感じである。癖こそあれ、イメージに右利きも何もないのだ。
「……ん?」
その時、イノベイターの感覚がこの時間にはもう動かないはずのモノレールが動いていることを察知した。
「誰か来たみたいだね。」
「この感覚……専用機持ちっぽいけど、小学生?」
夜のIS学園正門。そのに2人の人影があった。
「ん~っ!やっと着いたね、ファニール!」
「9時間のフライトは疲れるわね。オニール、早く受付に行きましょ。今日はもう寝たいわ。」
「うん!待っててね、お兄ちゃん!」
オレンジ色の髪と青い髪のよく似た容姿の少女たちは、大きな荷物を持ってIS学園の正門を潜って中に入っていった。
『5日ぐらい早くない?』
『飛鳥がいろんな所の被害抑えたからじゃない?』
『え、まさか他のも早まってたりする?てかギリシャは来るの……?』
『さぁ……?』