【グルッ!?】
全方位から殺到したレーザーに、虫型の
大気による威力の減衰を抑えるため、
「さぁ、ティータイムにしましょう。」
笑顔で振り返りながら、いつもの調子でそう言った。
未だに割れたままの窓を覆い隠すブルーシートが外れないカフェテラスエリアの一角。冬の寒さが外から漏れてくるそこは普段と違い賑わいがない。スイーツは別腹と言うIS学園の乙女たちも、実質寒空の下と同じ気温の中では食べる気が起きないのがその理由だ。
しかし賑わいがないからと言って、スイーツの注文がないかと言えば違う。
そもそもIS学園のカフェテラスエリアとは、食堂に隣接するスイーツやドリンクを中心に提供する場所に過ぎない。食事を作るメインの厨房ではIS学園の豊富なメニューを作る際に、数多くの生徒たちが求める大量のスイーツの冷蔵保管に支障が出るために保管場所が分けられ、それによって注文系統も別にした方が効率的だったので生まれたのがカフェテラスエリアなのだ。
普段カフェテラスエリアが賑わうのは食堂との間に目隠し用の仕切りが有り、それによって心理的な境界が敷かれているからで、注文こそカフェテラスエリアの方でなければ出来ないが、それを食べるのは食堂の方でも良い。そのため、カフェテラスエリアの賑わいこそないが、注文自体は普通にあった。
が、そんなことは全く関係ないとカフェテラスエリアでスイーツを食べるバカたちが居た。
「寒くない?」
ビュゥーー! と、ブルーシートの向こう側から聞こえてくる風の音と共に冷気が足元から這い上がってくる。
「寒くない?」
念を押すように、天羽飛鳥がそう言った。
「あら飛鳥さん。日本には『心頭滅却すれば火もまた涼し』ということわざがあるのでしょう?つまり心の持ちようで寒さも乗り越えられ くしゅんっ!」
「それ無念無想が前提の何の役にも立たないことわざだから忘れた方が良いよ。」
どこで覚えたのか日本のことわざを例に寒さを乗り越えようとしたセシリアを、そのことわざの欠点を口にしながら飛鳥がジト目で見つめた。
「あんまり無理しない方がいいよ。」
「無理だなんてしていませんわ。」
「じゃあ気負い過ぎない方がいいよ。」
「気負ってもいません!」
ぷくー、と頬を膨らませて抗議するセシリアを落ち着かせ、飛鳥はショートケーキの苺を頬張ると話を切り出した。
「エクスカリバーのことが気になる?」
「……えぇ、気になります。」
薄っすらと顔に影を落としたセシリアが自身のティーカップの縁を撫でる。それでわずかに奏でられた音色は耳に届くより先にセシリアによって遮られた。
「──知りませんでしたわ、何も。」
その言葉は、重かった。いろいろな感情を内包し、短いながらも何もかもを端的に表した言葉は、重かった。
「
セシリアが葉加瀬なのはから聞いた真実。それはセシリアにとって衝撃という他ないものだった。
対IS用攻撃衛星【エクスカリバー】。アメリカとイギリスによって極秘裏に建造された、太陽光を用いたレーザー攻撃兵器。そこまではよかった。
『エクスカリバーは生体融合型ISだ。』
昨夜、なのはから聞いた真実。
人権を侵害しているという理由で禁止されている筈の生体融合型ISという事実は、まだ飲み込めた。イギリス貴族として、何より親を亡くした子どもとして、少なからず人間の汚い部分を見て来たセシリアは、そういうこともあるだろうと納得できた。
けれど、
『搭乗者は、エクシア・
その真実は、すぐには飲み込めなかった。
セシリアにとって、チェルシー・ブランケットは幼馴染であり、自身の専属メイドであり、2歳年上のお姉さんである。
何年も一緒の屋敷で過ごし、身の回りの世話をしてくれて、18歳とは思えない落ち着きをした、セシリアにとっての目標。それがチェルシーだ。
知らないことはもちろんあるだろうけれど、それでも知っていることの方が多い関係。そう思っていたのに、現実はそうではなかった。
セシリアはチェルシーに妹が居るとは知らなかった。お姉さんっぽいとは常々思っていたが、戸籍からさえも抹消された妹が居るなど思いもしなかった。
しかし、生体融合型ISとして極秘裏に作られたエクスカリバーの
チェルシーは妹を助けたいのだ。どうやって調べたのかは皆目見当もつかないが、妹がエクスカリバーに乗っていると突き止め、助け出そうとしている。彼女の事だ、ISを奪ってでもそういうことをするだろう。割と頑固だし。
イノベイターの感覚込みでそう当たりを付けたセシリアは「まぁ?従者をその家族ごと面倒みるのは主の務めですし?」と、言葉はなくとも自身の元に現れ頼ってくれたチェルシーに機嫌をよくした。
だがそれは、すぐに地に落ちた。
『製作者はアメリカとイギリス、
『え?』
まさかの名前に凍り付く。思考が数秒止まる。ようやく動き始めた時、セシリアは酷く戸惑った。
エクスカリバーもISである以上、コア・ネットワークに接続されている。なのははそこから情報を抜き出したと言いながら、いつもしているように空中に画面を投影し、その製作者の部分を指差した。
そこにはアメリカやイギリス、そして
何故、というセシリアの問いになのはは答えなかった。珍しく口を
「やるべきことは単純なんです。チェルシーを見つけて聞き出せば良いだけのこと。ですけど……。」
「不安?妹を奪った人の娘として関わるのが。」
「……はい。」
手持ち無沙汰に紅茶に手を伸ばしたセシリアは、不安を飲み込むようにティーカップに口を付けた。
「セシリア。もう1回言うけど、あんまり無理しない方がいいよ。」
「してるんでしょうか、無理。」
「してるんじゃないかなぁ。いつも通りのセシリアなら、当たって砕ける鉄砲玉みたいに一直線だと思うけど。」
大きく開いた口にショートケーキを放り込んだ飛鳥を見ながら、セシリアは自身のチーズケーキを食べた。
「悩むぐらいなら行動する。セシリアはそういう思い切りがあるタイプでしょ?」
「そうなんでしょうか?」
「え、自覚ないの?」
悩まない訳ではない。けれどそれで足踏みはしないのがセシリアだと飛鳥は言う。
「いっそ今からイギリスに飛んでった方がすっきりするんじゃないかなぁ?」
「なるほど……。」
「あ、ちゃんと許可は取ってね?」
「分かりましたわ!」
急いでチーズケーキを食べきり立ち上がったセシリアを見送り、飛鳥は窓から空を見上げた。
「エクシア、かぁ。」
髪を止めるバレッタに触れながら、その名を呟いた。
「助けなきゃね。」