IS学園の学生寮と校舎は別の建物として建っている。これには様々な理由があるが、屋内通路ではなく屋外を経由して少し歩いて校舎に向かう『登校』という形式を取ることで、人工島という閉鎖空間の中でもプライベートを確保して生徒たちの精神的安定を図るため、というのが主な理由だ。
そのため、12月という冷える時期でもIS学園の生徒は普通の高校生と同じように登校するのだが、今日はどういう訳か昨日までとは違った景色があった。
「なにこれ。」
IS学園の校門が、生徒でない人間によって溢れていた。
「今日何かあったかなぁ。」
イノベイターの知覚に色々引っ掛かり、気になって早めに登校してそんな校門前の状況を見た天羽飛鳥は、ポケットの中に常備しているメモ帳を取り出してパラパラと捲って確認するが、こんなに外部の人間が来る予定は書かれていなかった。
仕方なく思考を読んで、飛鳥はすごくゲッソリした。
「そこまでするか……。」
思考を読んだ結果分かったのは、ここに居る全員がたった1人の転入生を追いかけて来たということ。そしてその手段は非常に巧妙ながらも合法であるということだ。
通常、IS学園のある人工島には生徒や職員以外出入りできない。量産機のISを多く抱える関係上、防衛の観点からそうなっている。船ではなくモノレールで本島と行き来するのもそれが理由だ。
そのため、部外者がIS学園に入る際には専用の許可証を発行して貰う必要がある。もちろん正当な理由がなければその許可証は発行されないのだが……。
「転職とアルバイトで、IS学園に出入りしてる職種になるとか……。」
頻繁にIS学園に出入りしている業種、というものがある。食堂で料理を提供するために必要な食材を搬入する食品会社の人だとか、ISの実技で使用する弾薬などの物資を納品する業者の人がそれに当たる。
なんとここに居る部外者全員がその『出入りする業種』である。恐ろしいのはここに居る部外者全員が、たった1人の転入生を追いかけてその業種にここ最近転職、或いはアルバイトで仕事をしに来たということ。
「愛って怖いなぁ。」
そんな狂気的としか言えない行動の根幹にあるのが『愛』だというのだから恐ろしい。「ストーカーってこうやって出来るのかな」と思いながら、飛鳥は一応問題はないと判断して校舎へと向かった。
数分後。この状況の原因である転入生がその場に居合わせた1人の少女を賭けてIS学園唯一の男子生徒と戦うことになるのだが、飛鳥には微塵も関係ないので割愛する。
ホームルームまでまだ余裕がある時間帯。生徒会長である更識楯無によって専用機持ちたちが集められた。
「みんな揃ったわね。それじゃさっそくだけど、今日新たに学園にやって来た代表候補生を紹介させてもらうわ。」
3度目ともなるとさしもの楯無もサプライズはしないらしい。
「入ってちょうだい。」
そう簡潔にドアの方に声を掛けて程なく、僅かに癖のあるショートヘアーの銀髪をぴょこっと揺らした少女が入ってきた。
「やあ、箒!ほんの少しでも私と離れて寂しかったかい?」
「ううっ!?」
開口一番に笑顔でそう語り掛けてくる転入生に、篠ノ之箒がビクンと身体を
「箒さん、お知合いですの?」
「断じて違う!」
「ふふ、本当につれない百合の蕾だな!そんなところも愛おしいよ!」
転入生の箒に対する反応にセシリア・オルコットが首を傾げながら箒に聞く。それに箒は普段するよりも必死の否定の言葉を叫ぶが、その様子に転入生は更に笑みを深めた。
「おい、あんた。もう約束を忘れたのか?箒を困らせるな。」
その時、織斑一夏が箒を守るように前に出た。普段の能天気な顔とは違い、ISバトルをしている時のような真剣な眼差しにキュンとしている面々を尻目に、転入生は笑みを緩めた。
「おっと、そうだったね。すまない、こんなにも美しい人を目の前にすると、つい我を忘れてしまうのさ!」
そんなこと言う転入生に『あ、この人は歌劇をやってる人だな』と一部の人間が気付く。歌劇のような独特の言い回しは普段からやっている人間でないと出来ないもので、彼女のそれは付け焼刃のような印象がなく、自然と出て来た流麗な口説き文句だったからだ。
「あらら?一夏くん、もうロランくんと面識があるの?」
「ええ。実は箒を賭けて決闘を。」
ざわっ、と専用機持ちたちに電流が走った。
騒がしくなる乙女から離れ、まだ小学生のコメット姉妹がその話題に触れないようにお菓子で気を引く飛鳥は、その視線を転入生に向けた。
なるほど確かに見た目はいいし、性格も多少ブレーキが故障気味ではあるようだが約束を守ろうとするなど誠実な部類だ。歌劇的な言い回しに少し戸惑いはすれど、慣れてくればどうと言うことは無いだろう。校門前に居たような追っかけが大勢居るのも頷ける。
しかし、
「(恋と愛の違いが分かってない。)」
イノベイターになって約10年。既に普通の人よりも心というものに触れる機会の多かった飛鳥は、漠然とではあるがそれを知っている。だからこそ分かるのだ。
「(周りが
愛されて来たのだろう。それを大切にしてきたのだろう。だから、自分が今抱いているその感情もそうだと勘違いしている。
「(貴女が今まで振り撒いて来たのは『愛』。でも、一目惚れを愛とは言わない――。)」
「ロランツィーネ・ローランディフィルネィ。オランダ代表候補生にして、99人の恋人を持つ罪深き百合だ!」
「(――それは『恋』って言うんだよ。)」
『恋』を知らない少女は、そう高らかに自己紹介した。
ロランツィーネ・ローランディフィルネィ――本人をして『長いからロランと呼んでくれ』と言った少女の自己紹介の直後にやって来た
「いやはや、IS学園の代表候補生というのはみんな強いな。私もオランダの代表候補生の中では上位だったと自負して居たんだが、正直レベルが違うと認めざるを得ないよ。」
「いや、おねえちゃんたちが強すぎるだけよ。」
ロランの称賛にそう言ったのは凰乱音だった。なまじ自分の専用機が鈴の使う甲龍の正式量産型である甲龍・
「そんなことはない!彼女たちと日々手合わせをしているのだろう?それなら下手な訓練よりも余程実力が磨かれる筈さ。これほど頼もしいことはない!」
今朝会ったばかりだが、ロランについて分かったことがある。大変な褒め上手だということだ。それも本心から言っているという真正の褒め上手である。下心は一切なく、相手を担ぎ上げようとする訳でも無いその褒めはとても心地良い。
なるほど恋人が99人も出来る訳だと納得しながら、乱は僅かに顔を綻ばせた。
「そう言えば、ロランの専用機ってどんな機体?さっきはよく見れなかったから気になってるんだよね。」
「これから見る機会も多いだろうけど、早く知っていて悪いこともない。ではお答えしよう。」
そう言って教室に向かう集団から僅かに抜け出し、後ろ歩きをしながらロランは自身の首にあるチョーカーを指差した。
「これが私の専用機、その名も【オーランディ・ブルーム】!機体はまたの機会になってしまうのが残念だが、その時は存分にお見せしよう!」
ニコニコと笑いながら自分の愛機を紹介するロランを微笑ましく見ながら、全員がその話を聞いていた。
「オーランディ・ブルームは生物的特徴を備えた特殊第三世代。唯一無二の機体なのさ!」
「生物的特徴?」
「なにそれ?」
ロランが語る文言の意味が解らなかったコメット姉妹が首を傾げた。少し専門的な話題であることを理解しているロランはそれを待っていたと言わんばかりに、流れるような口調で答えた。
「生物とそれ以外を分別する指標を、オーランディ・ブルームは備えているということだよ。定義は色々とあるけど、オーランディ・ブルームは自己増殖能力とエネルギー変換能力を備えている。」
分かりやすいもので言えば植物だろう。光合成したり呼吸したりするのはまさしくエネルギー変換能力で、成長する様は自己増殖能力だ。オーランディ・ブルームはそれと同じことが出来るのである。
それによって何が変わるかと言えば、エネルギー変換能力によってエネルギーが確保できるためエネルギー系武器の搭載がしやすくなったり、自己増殖能力によって専用の素材で作られた刀身を伸ばすなどのことが出来るので仕込み武器の搭載がしやすくなったりする。
つまるところ
「他にも実験段階のシステムも搭載されているが、それは未完成という意味ではなくこれから更なる飛躍を遂げるという意味なのさ!」
そう締め括り、ちょうど1年1組の教室に辿り着いたロランはガラッとドアを開け、流れるようにクラス中の視線を独り占めにし、
「今日から君たちと共に過ごすオランダ代表候補生、ロランツィーネ・ローランディフィルネィ!今後ともよろしく!」
そう高らかに自己紹介した。
ぶっちゃけロランのキャラは全くトレースできません!
こいつを書きたくないから今までダレてたみたいな所ある。歌劇系のキャラほんと書けない。助けて。