IS 今こそ対話する!   作:駄竜

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第84話 オーバーライト、それは今を越える光の翼

 チェルシー・ブランケットは困惑していた。

 

「3ポイント目。後がありませんわよ?」

 

 剣を握る右手の手首に着けていたカフス*1が、肌を傷付けないままに斬り飛ばされる。

 

 そんな絶技を事もなげにやってみせたセシリア・オルコットが、幼い頃から共に過ごし、仕えてきた主と同一人物なのかと疑わずにはいられなかった。

 

 セシリアの基本武器はライフルだが、剣の扱いも上手いことをチェルシーは知っている。ブルー・ティアーズという射撃に特化した機体を与えられてからはめっきり剣を使う機会が減っていたが、それでも腕を錆び付かせはしないという信頼があった。IS学園に通う今は、ひょっとしたら錆びないどころかより磨きをかけているのではとさえも思っていた。

 

 しかし、ここまで一方的な戦いになるとは露程も思っていなかった。

 

 こうして事前に決闘用の剣まで用意して、日々のメイド業務で多少なりとも鈍っていた自身の腕を鍛え直してまでISではなく剣での勝負を持ち掛けたのは、これがチェルシーが最も得意とすることだからだ。

 

 まだチェルシーがメイド見習いとして先代のメイド長から指導を受けていた頃、紅茶の淹れ方や掃除の仕方などの通常のメイドが行う業務に次いで習ったのが剣だ。他にもありとあらゆる技術を『メイドの嗜みですよ』と皺が目立って来たメイド長に教わり、その中で最も上手く出来たのが剣だった。

 

 『上手ですよチェルシー』と優しく撫でてくれたあの手を、チェルシーは今でも覚えている。それが嬉しくて、チェルシーは暇を見つけては剣を振っていた。そうして培った腕前は一流にも引けを取らない流麗なものだとチェルシーは自負していた。

 

 だが、それを容易く超えてセシリアの剣が瞬く。

 

「くっ……!」

 

 今チェルシーが相対するセシリアの剣は、チェルシーの知るセシリアの剣とは違っていた。ステップによる回避も剣で剣を()なす防御も、そのどちらもが遥かに巧みになっている。更に踏み込みと共に振るわれる剣筋は澱みなく、服を切り裂いても肌には決して傷付けないほどに繊細。

 

 美しい碧眼を金色に輝かせながらそんな紙一重の絶技を披露し続ける彼女は、チェルシーの知るどのセシリアとも合致しない。

 

「(お嬢様……。)」

 

 IS学園での生活が、彼女を成長させたのだろう。初めての恋をして、同い年の友人が出来て、偉大な師にも恵まれて、そうして彼女は変わったのだろう。その成長を喜ぶべきなのに、チェルシーはどこか寂しさを感じていた。

 

 しかし剣には決してその寂しさは乗せなかった。むしろより苛烈になっていく。

 

 元々この決闘はセシリアがオルコット家の当主としてやっていけるだけの気概があるかを確かめるためのもので、勝ち負けはあまり関係ない。しかし自分程度に負けるようでは、結局この先オルコット家当主の重責は背負えない。

 

 だから、全身全霊でもって見極める。

 

 ぐっ、と一際深く踏み込んで、チェルシーは剣を突き出した。いくらステップで回避をするにしてももう間に合わない、体重移動のタイミングでの突き。往なしたとしてもこちらが2撃目を振るう方が早い体勢。

 

 下手をすれば服だけでなく肉を切ってしまうが、攻撃を認識しているならISの操縦者保護機能がその脳波を読み取って傷を受ける前に自動で守ってくれる。だから本気で攻めても問題ないと突き出した剣。

 

「――――!」

 

 それを往なそうとセシリアの剣が動くのが見える。だが踏み込みと共に繰り出した突きを防ぐには相応の力が要る。体勢的にもこの突きを防がれたとしても続く2撃目がヒットする。その未来へと向かって剣を突き出し、

 

 ギィンッ! という音と共に、チェルシーの握る剣の刀身が根元から折れた。

 

「あ……。」

 

 カランカラン! と転がっていくチェルシーの剣の刀身と、そちらに向かって往なすのではなく振り抜かれていたセシリアの剣。

 

「4ポイント目、で良いですわよね?」

 

 ふぅ、と一息吐きながら剣を下ろしてそう言うセシリアが、いつもの碧眼でチェルシーを見つめた。

 

「……はい。お見事です、お嬢様。」

 

 折れた剣もセシリアが持つ剣も纏めてダイブ・トゥ・ブルーの拡張領域(バススロット)に収納したチェルシーは、セシリアに向かって頭を下げた。

 

「数々のご無礼をお許しください、お嬢様。」

 

「許しますわ。それよりも怪我はありませんわよね?特に右手首。」

 

 言いながら、セシリアはチェルシーの右手首に視線を向けた。

 

「はい。薄皮1枚たりとも切れてはおりません。」

 

「それはよかったですわ。チェルシーの綺麗な肌に傷は似合いませんもの。」

 

 微笑んだセシリアがチェルシーに向かって右手を差し出した。

 

「さ、帰りますわよチェルシー。イギリスに居るのに貴女の紅茶が飲めないのは、とても落ち着かないんですの。」

 

「――分かりました、お嬢様。とびっきりの紅茶を淹れましょう。」

 

 チェルシーは、笑顔でセシリアの手を取った。

 

「それでは城に戻りますわよチェルシー。今なのはさんが準備を進めてくれていますわ。」

 

「準備、ですか?」

 

 言葉の雰囲気から夜に行うパーティーの準備という訳ではないのは分かったが、では何の準備をしているのか。首を傾げるチェルシーに、セシリアはクスリと笑って、

 

「チェルシー、貴女の妹を迎えに行きますわよ!」

 

 気品溢れる顔でそう言った。

 

 

 

 

「戻りましたわ。首尾はどうですの?」

 

 城に戻ったセシリアとチェルシーが中庭に居る葉加瀬なのはの元を訪ねると、なのははいつもの様にポタージュ――ではなく、ティーカップに入った紅茶を飲みながら2人を出迎えた。

 

「お帰りセシリア。今は飛鳥待ちだね。大盛り上がりで4時間もパーティーしてるらしいよ。」

 

「4時間も何をやるんですの……?」

 

 IS学園で一体何が起こっているのか気になったセシリアだが、今気にすることじゃないとその思考を振り払い「先にこちらの準備をしてしまいましょう」と言って左耳に着けていた待機形態のブルー・ティアーズを外してなのはに手渡した。

 

「それじゃ実装(セットアップ)する専用換装装備(オートクチュール)の説明を始めようか。」

 

 受け取ったブルー・ティアーズをマスターハンドを嵌めた右手で受け取り、拡張領域(バススロット)から取り出した機材の1つに置いて空中にコンソールを投影してそれを指で叩きながら、なのはが説明を始めた。

 

「大まかな変更点はスラスターとビット、あとビットターミナルの3つ。」

 

「スラスターもですの?」

 

「トランザムに迫るならビット周りを弄ってサブスラスターにするだけじゃ足りないからね。ちょうどキャノンボール・ファストが終わった頃*2に新型スラスターの設計してたから、それを流用した。」

 

 セシリアの前にスペックを表示した画面を投影しながら、なのはは話を続けた。

 

「レーザー推進式光圧スラスターウイングユニット【ミルキーウェイ】。ブルー・ティアーズに合わせてBTエネルギーを消費して飛行と加速が出来るようにセッティングしてある。下手するとぶっ飛んで壁にぶつかるから扱いには気を付けるように。」

 

「あの、最高速度のところが今まで見たことのない数値なのですけど……。」

 

「それは理論値。IS1機が保有できるエネルギー量じゃどうやっても到達できないけどね。」

 

「では実数値は?」

 

「このぐらい。」

 

「ヒェッ……。」

 

 第四世代機に匹敵する速度を提示され驚くセシリアを横目に、なのはの説明は続く。

 

「ビット6基は威力と射程、あと移動速度の上がった【BTブラスタービット】8基に換装。今までのビットターミナルには取り付けられなくなったからビットターミナルも新造。マウント方式はビットの底面とくっ付ける形にして、ビットを展開しなくても砲撃が出来るようにして、ストライク・ガンナーみたいなサブスラスターとしても扱えるようにしてある。」

 

「ビットを増やすんですの?拡張領域(バススロット)の空きは……。」

 

「コアに話を着ければその辺融通してくれるよ。『クアンタより主力のビットが少なくていいの?』って言ったら『8基までなら頑張ります』って言われたから8基装備してる。」

 

「負けず嫌いですのね、ブルー・ティアーズ……。」

 

 愛機の知らなかった一面にどう反応すればいいのか分からないセシリアには目を向けず、なのははコンソールを叩く手を加速させた。

 

「あとビットターミナルは大型化してBTエネルギーの貯蔵量を増やして、ついでに展開装甲を組み込んでエネルギーシールドを展開できるようにしたから。」

 

「今さらっと凄いこと言いましたわね?」

 

「機体丸ごと作るならともかく、機構を組み込んだ装備を作るだけなら簡単だよ。【雪片弐型】とか量産できるしね。まぁ零落白夜がないから意味ないんだけど。」

 

 意味があるのは使い手の織斑一夏だけであるそんなことはさておいて、なのはは最後の説明を始めた。

 

「分かってるとは思うけど、ビットターミナルを大型化してエネルギー貯蔵量を増やしてはいても燃費は最悪だ。セッティングでどうにかできる限度を超えてる。全力稼働させられる時間は5分がいいところだ。」

 

「つまり5分で片を付ければ良いのでしょう?」

 

「普通ならね。でもそこをどうにかしてこそボクだ。」

 

「……どういうことですの?」

 

 首を傾げるセシリアに、なのははニヤリと笑った。

 

「そういえば言ったことなかったね。」

 

 

「ボクの専門分野はエネルギー工学だ。」

 

 

 なのはの宣言とともに、セシリアが見ていたスペック表が別の物を映し出す。

 

「【B.E.A.U.T.I.E.S.(ビューティーズ)】……?なんですの、これは?」

 

「BTエネルギーを(Energy)吸収する(Absorb)唯一の(Unique)技術による(Technical)無限(Infinite)エネルギー(Energy)システム(System.)。」

 

「……???」

 

「平たく言って半永久機関。」

 

「何やってるんですの!?」

 

 セシリアの叫びが城に響き渡る。それを見ていたチェルシーは思った。

 

「あぁ、お嬢様のご友人は凄い方なのですね。」

 

 若干ぼーっとしながら口から零れたは、葉加瀬なのはという人物を端的に表していた。

 

「さぁセシリア。飛鳥が来るまで約1時間。その間にこの専用換装装備(オートクチュール)を――【オーバーライト】の【B.E.A.U.T.I.E.S.(ビューティーズ)】を使えるように今から特訓だ。大丈夫、鈴もぶっつけ本番で【天之四霊】を使いこなしたんだからセシリアだっていける。」

 

「鈴さんみたいな天才肌と一緒にしないでくださいません!?」

 

 午前11時。セシリアの本日2度目の叫びが城に響き渡った

*1
メイド服やバニー服で手首に着けるアレ

*2
第20話




 機能強化パッケージ【オーバーライト】
 ブルー・ティアーズを純粋種のイノベイターが不足なく使えるように強化する専用換装装備(オートクチュール)
 背部メインスラスターを従来の物から新型のレーザー推進式光圧スラスターウイングユニット【ミルキーウェイ】に変更したことで、推進剤等を使わずにBTエネルギーのみを消費しての飛行と加速を可能にしている。使用時には【ミルキーウェイ】から溢れた過剰エネルギーがまるで光で出来た翼のようなものを形成するが、これには攻撃性も防御性もなく本来なら燃費が悪くなるだけなので調整され無くなるのだが、見栄えが良いという理由と後述する【B.E.A.U.T.I.E.S.(ビューティーズ)】の搭載によりそのまま残されている。
 装備するビットもより威力と射程、そして移動速度に秀でた【BTブラスタービット】8基へと換装され、肩部ビットターミナルも【BTブラスタービット】の底部と接続する専用の大型ビットターミナルに取り換えられたことで、ストライク・ガンナーのように砲門を封じることなくサブスラスターとしての使用を可能にし、またビットターミナルに展開装甲の技術を組み込んだことで両肩部のビットターミナルからBTエネルギーによるエネルギーシールドの展開が可能となっており、ブルー・ティアーズに不足していた攻撃力・防御力・機動力の向上に成功。
 代わりに燃費はかなり悪化しているが、イメージ・インターフェースによる操作が可能なBT兵器の特性と瞬時加速(イグニッション・ブースト)のエネルギーを取り込む技術を組み合わせた『BTエネルギーを(Energy)吸収する(Absorb)唯一の(Unique)技術による(Technical)無限(Infinite)エネルギー(Energy)システム(System.)』、略して【B.E.A.U.T.I.E.S.(ビューティーズ)】の搭載により、消費したBTエネルギーを吸収し再び使用することでこれを解決している。
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