生徒会主催のIS学園クリスマスパーティーが終わった午前0時。なぜかノンアルコールワインで酔っ払った更識楯無主導でそのまま二次会が始まった頃。
天羽飛鳥はパパパッと残っていた料理を平らげて皿を片付けてからこっそりと抜け出し、量子ジャンプで宇宙へとワープした。
通常のISでは重力カタパルトなどの専用の設備が無ければとても重力圏脱出など出来ないが、飛鳥のダブルオークアンタは量子ジャンプによって国境どころか太陽の重力さえも無視したワープが出来る。同じように量子ジャンプで地表への帰還も可能だ。
この量子ジャンプによるワープの利点は、ISのセンサーでさえも感知が出来ないことだ。実際にその目で見る以外にワープしたことを知ることは出来ず、どこに出現するかも分からない。国境にどれだけ警備を置こうと内側に突然現れるという、密入国し放題の危険技術である。
今は操縦者の飛鳥と開発者の葉加瀬なのはの両名が絶海の孤島であるIS学園に在籍していることと、外に漏れる情報をなのはが改ざんしているためどうにかなっているが、将来的にはアラスカ条約のIS運用協定に則って開示請求がされるその技術は劇物だ。
もっとも、量子ジャンプやそれと原理を同じくするダブルオークアンタの量子化は、木星で作られた半永久機関【GNドライヴ】の持つTDブランケットによって保護されたトポロジカル・ディフェクトの位相欠陥が、ツインドライヴシステムによって2つ組み合わさることで起こるものなので、開示されたところで木星でツインドライヴシステムの同調が可能なGNドライヴを2基作れなければ出来ないのだが。
閑話休題
宇宙デブリの密集地帯の外側へと量子ジャンプした飛鳥はハイパーセンサーの設定を宇宙用の物に切り替え、GN粒子の貯蔵量制限を取り払ってからデブリ地帯へと身を隠し、なのはからの連絡を待っていた。
今回の主役はあくまで衛星兵器型生体融合IS【エクスカリバー】に妹を囚われたチェルシー・ブランケットと、その主人であるセシリア・オルコット。件の妹の名前に思うところはあるが、関わりの無い自分たちが主導で助けるのは違うだろうと、今回は飛鳥もなのはもセシリアのサポートに徹するつもりだった。そのためにわざわざダブルオークアンタからフルセイバーを外して来た程である。そうする程度には今回の飛鳥たちも入れ込んでいた。
主役であるセシリアの準備が終わるのを知らせるなのはからの連絡が来るまでの間、飛鳥は宇宙を漂うデブリの1つに掴まりながら、普段聞こえる
――実のところ、飛鳥は人混みが苦手だったりする。イノベイター故に聞こえてくる人々の内心が複雑に混じり合ってゲームセンター染みた音が聞こえるのも理由だが、何よりふとした拍子に身体に触れて怪我をさせないか気が気でない。
しかもIS学園近くの街は地元の田舎と比べ圧倒的に人が多く、それに比例するかのように悪意を含んだ心を持つ人が多いこともそれに拍車をかけていた。あまりに気持ち悪いものだから、脳量子波を操って意識を読まないようにする技術がこちらに来てからかなり上達したほどだ。
しかしそれも四六時中は出来ない。なのはは元々の精神性からかさらりと受け流して苦にしないが、飛鳥は受け流し切れずにストレスとして溜め込んでしまい、偶になのはさえ居ない場所で1人きりになりたくなる時がある。
地元では近所の山に2、3日籠ることで解消していたが、IS学園に来てからは出来ていなかった。IS学園の職員や生徒は面接段階である程度アレな人はふるい落とされてほとんどの人が善人だったのもあって今まで自覚できなかったが、飛鳥は自分自身が思っていた以上に知らず知らずの内にストレスを抱えていた。
それが今、宇宙空間で1人過ごすことで解けていく。
「……すぅ……はー……。]
飛鳥は精神状態の影響が戦いに出るタイプだ。知らず知らずの内に抱えていたストレスも、微々たるものではあるが今までずっと影響に出ていた。
「……リフレッシュって、大事だなぁ。」
今までにないほどクリアな視界で、飛鳥はリフレッシュの大切さを実感した。
『飛鳥。セシリアの準備が出来たから、予定通りエクスカリバーの陽動お願い。』
「了解。行こうクアンタ、
宇宙デブリが散乱する中を、薄緑色の光が駆け抜けた。
「セシリア、撃てると思ったら撃って良いからね。」
イギリスにあるオルコット家所有の城の中庭で、なのはは隣に居るセシリアにそう言いながら気象情報を収集し、それを基に弾道予測を立てていく。
なのはの作るその情報をハイパーセンサーで見ながら
「これ、届くんですの?」
ブルー・ティアーズにはBT粒子加速器という超長距離を狙撃するための施設があるが、それもなしに宇宙空間まで届く狙撃が出来るのか気になって仕方ない。意識も視線も空の更に先にある宇宙に向けるセシリアだが、その声はなのはに向かっていた。
「オーバーライトを装備したブルー・ティアーズはBT兵器搭載IS3機分のBTエネルギーを肩部ビットターミナルに貯蔵してる。それだけのエネルギーがあればGNソードⅡブラスターのポテンシャルなら届くはず。」
「今小さく『はず』って言いましたわよね?」
「ぶっちゃけ1000㎞から先はテスト出来てないから分からない。」
「本当に大丈夫なんですの?」
「大丈夫大丈夫、いけるいける」と投げやりな対応に変化したなのはを尻目に、セシリアはハイパーセンサーの超視力で宇宙の飛鳥を見た。
今日は最近見慣れてしまった右肩の大剣を装備していない、プレーンの機体。背中の特徴的なコーン型スラスターもない。
だが、動きは今まで見た中で一番良い。宇宙に薄緑色の残光を残しながら駆ける姿は、何度か見た精神が安定している時のそれに似ていた。1人でも問題なくエクスカリバーから囚われのお姫様を助け出せるだろう。しかしどうにも攻めっ気が感じられない。
「(わたくしに任せる、ということですわね。)」
本来なら、飛鳥もなのはもエクスカリバーとは何の接点もない。唯一あるとすれば搭乗者の
だからか、参謀や陽動としては動いても主導はせず、セシリアに任せている。でもこういう時、2人は出来ないなら任せないことをセシリアは知っている。
「(つまり、わたくしなら出来るということ。)」
「なのはさん。」
「なに?」
「これには作戦名などはあるんですの?」
聞いた理由は特になかった。狙いをつけるまでの僅かな間、口寂しく感じたから程度の理由だ。
「ん、考えてなかった。そうだなー……
セシリアの質問になのはは数秒考えて、
「良いですわね。」
ブルー・ティアーズの火器管制システムが、なのはからの弾道予測を基にロックオンを告げる。
「それでは、ブルー・ティアーズ・オーバーライト、セシリア・オルコット。その名の通り、狙い撃ちますわ!」
カチリとトリガーを引き絞った瞬間、
「……!来た!」
エクスカリバーに搭載された4基の多機能大型ビットを引き付けていた飛鳥は、地表からの
瞬間、地球から宇宙デブリを破壊しながら伸びる砲撃がエクスカリバーの砲門を破壊した。
「やるなぁセシリア!」
トランザムを解除し、引き付けていた多機能大型ビットをGNソードビットで破壊した飛鳥は、砲撃によって開いた穴から内部に飛び込み、申し訳程度の狭いコントロールルームで待つ少女の元へと向かった。
「お待ちしておりました!」
出迎えたのは特徴的なISスーツに身を包んだ少女。
「私はエクスカリバー専属パイロット、エクシア・カリバーンです!」
「初めまして。私はダブルオークアンタのパイロット、天羽飛鳥。貴女を地上に連れ戻しに来たんだ。」
「はい!エクスカリバーからお話は聞いてます!ありがとうございます、飛鳥様!セシリア様も!」
笑顔でそういう少女、エクシア・カリバーンの側に寄り、飛鳥はISスーツとコントロールルームを繋ぐコードを外して抱きかかえる。
「それじゃ、お嬢様のところに帰ろうか。」
「はい!」
こうして、オルコット家の最後の剣は主人の手に戻ったのだった。
原作11巻からの改変点
・束とは京都で和解済みなので、エクスカリバーには病巣システムがない
・それなのに暴走した理由はセシリアがオルコット家当主となる資質があるかを調べるエクスカリバーのブラックボックス内のシステムのせい
・つまるところ別に暴走はしてない