IS 今こそ対話する!   作:駄竜

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第89話 大樹、それは戦いの予兆

「ここよここ!このブランドのボディークリームがお気に入りなのよね。」

 

 お気に入りのボディークリームを買うため、同じく愛用しているらしい凰鈴音に案内されて目当てのブランドを見つけた凰乱音が笑顔でその看板を指差した。

 

「つくづく思うけど、あたしたちの好みってほんと良く似てるわよね。」

 

「ホントよ。は似なかったのにね。」

 

 冬服を押し上げる『鈴にはないもの』を張りながら、乱は勝ち誇った笑みを鈴に向ける。

 

「削ぎ落していい?」

 

「ちょっ、待ちなさイタイイタイイタイ!?」

 

 目からハイライトを消し、クリアになるはずの思考を憤怒と憎悪で染め上げた鈴がドス黒いオーラを纏いながら乱の肩を砕かんとばかりに力を籠める。

 

 数秒の間ギリギリと乱を締め上げたところで手を離した鈴はふんっ、と鼻を鳴らして店の中へと入っていった。

 

「ま、待ってよおねえちゃん!」

 

 鈴の後を追って乱も握られていた肩を押さえながら店の中に入っていく。親戚ではあるがほぼほぼ家族と言って差し支えない関係である2人にとって、この程度はじゃれ合いだ。

 

 痕が残れば流石に怒るが、乱は鈴に目に見える傷をつけられたことは1度もない。それは鈴が加減をしている何よりの証拠であり、乱が愛されている何よりの事実に他ならない。

 

 そのことに未だに気付かない乱は、今日も鈴の気を引こうとマウントを取りに胸のことで煽るのだった。

 

 

 

 

「探せばあるもんだなあ、ヨガ用品の専門店。」

 

「はい。好みのデザインのもありましたし、日本に居る間はお世話になりそうです。」

 

 約束通り織斑一夏とショッピングモールを回り、無事にヨガ用品専門店を発見したヴィシュヌ・イサ・ギャラクシーは、笑顔で買ったばかりの冬用ウェアが入った袋を抱き締めた。

 

「あ、お香も見ていっていいですか?」

 

「お香?お香って、この蚊取り線香みたいなのか?」

 

 ヨガ用品専門店の近くにあるお香専門店の前を通りかかったヴィシュヌは、一夏に断ってから店先に並んだお香を見ていく。釣られるように一夏も見たが、一夏にはCMでたまに見る蚊取り線香にしか見えなかった。

 

「ええ、火を灯して香りを楽しむんです。蚊取り線香は香りの代わりに殺虫成分が部屋に広がって、蚊をやっつける仕組みなんですよ。」

 

「へえー、そうなのか。」

 

 よく知らないまま蚊取り線香のCMを見ていた一夏が感心したような顔で、試供品として火が灯されている渦巻き状のお香に近付いて鼻を動かした。

 

「確かにいい香りがするな。これ、渦巻き状とか棒状なのには理由があるのか?」

 

「使える時間が違うんです。大体1時間で10センチ燃えますから、短い時間香りを楽しむならスティックタイプ、長い時間香りを楽しむなら1回の着火で済む渦巻型と使い分けるんですよ。」

 

 ヴィシュヌの説明で蚊取り線香が渦を巻いている理由に納得がいった一夏は、その後も物知りなヴィシュヌと話しながらショッピングモールを回るのだった。

 

 

 

 

「(厄日だ……。)」

 

 心の中でそう呟いて、篠ノ之箒は一緒に回ることになった人物を横目で見た。

 

「なるほど、流石日本は品揃えが良い。目移りしてしまうよ。」

 

 上機嫌に笑いながら商品を吟味していく銀髪の少女、ロランツィーネ・ローランディフィルネィ。容姿や纏う雰囲気とは裏腹に楽しそうな今の姿は可愛らしいと感じさせる、魔性の女たらし。

 

「やあ箒!どっちのネイルが良いだろうか!私では迷ってしまうんだ!君の意見を聞かせてくれないか?」

 

 2つの小瓶を掲げながら聞いてくるロランに、同じ小瓶を手に取って箒も考える。

 

 別に箒はロランの事が嫌いな訳ではない。話す分には良い人間だと思っているし、こういう人が恋人なら人生楽しそうだなと傍から見ている分には思わせられることも多い。

 

「……こっちのピンク色のが良いんじゃないか?」

 

「なるほど!確かに赤ほど主張しないピンクなら清純な君によく似合う!」

 

「待て、私は自分が欲しいとは一言も言っていないぞ。」

 

「もちろん私も使うさ。気に入ったのは間違いないからね。ただ箒にも似合うと思ったのもこの2つだっただけだよ。」

 

 ――ただ、こうしてさらりと口説いてくるのに困っている。

 

「お前は本当に、どうしてそうなったんだ……。」

 

「うん?」

 

「その、せ、性癖のことだ。」

 

 多分、というか十中八九元々だと答えられるだろうが、箒としては聞かずにはいられなかった。転がり出るように口からその言葉が出た。

 

 箒の言葉に一瞬キョトンとした顔をしたロランが「ふふふ」と笑った。

 

「私も最初は自分がこうだとは思わなかったさ。昔は普通に男性を好きになると思っていたよ。」

 

「そうなのか?」

 

「ああ。ただ私はこんな性格だろう?昔から蕾たちに大人気でね。悪い気はしなかったから磨きをかけるために歌劇の勉強をしてみたり、実際に出演したこともある。」

 

「ほう。」

 

 歌劇、というとオペラだろうか。他にも種類はあるらしいが詳しく知らない箒は漠然と思い浮かべながらロランの話を聞く。

 

「そうしていく内にある女の子、1人目の恋人に告白されて付き合うことになったんだ。」

 

「話飛んだか?」

 

 いきなりクライマックスになって困惑した。

 

「飛んでないさ。ただ急展開なのは自分でも感じているよ。でも初めて告白された時、戸惑いもなく受け入れられてね。それで気付いたんだ、『女子でもイイ』ってね。」

 

「ええ……。」

 

 元々だとは思っていたが、実際に言われるとドン引きである。

 

「別に男が嫌いという訳ではないんだけどね……。」

 

「ん、何か言ったか?」

 

「なんでもないさ。さあ箒、次の店に行こう!」

 

「まだ回るのか!?」

 

 まだまだ元気いっぱいのロランに振り回され、昼の集合まで箒は連れ回された。

 

 

 

 

「どうだ?みんな欲しい物は買えたか?」

 

「うん!」

 

「良いところですね、気に入りました。」

 

「品揃え豊富でどれも欲しくなってしまったよ。」

 

 昼時。お昼ご飯を食べようとあらかじめ決めていた集合時間に再び集まった専用機持ちたちは、何を食べるかで話し合っていた。

 

「はーい!私、日本っぽい料理が食べたい!」

 

「日本っぽい料理?和食のことか?」

 

「それでもいいし、日本人向けにアレンジされた洋食でもいいわよ。」

 

「難しい注文だな……。」

 

 ファニール・コメットとオニール・コメット、コメット姉妹2人の注文にどうしようかと頭を捻る。

 

「それならファミレスはどうだ?大人数で行っても迷惑にならず、和食も洋食も扱っているぞ。」

 

「お、いいな!近くのファミレスは確か……。」

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒの提案を受けて近場のファミレスを探そうとスマホの地図アプリを起動したその時。

 

「きゃあああああ!?」

 

――ドシィィィン!!

 

 悲鳴と共に地面が揺れた。

 

「な、なんだ!?地震か!?」

 

「みんな、伏せろ!」

 

――ドシィィィン!!

 

 一夏の呼びかけに全員がしゃがみ込む。その瞬間、再び大きな音と共に地面が揺れた。

 

「ちょ、ちょっと!?なんなのよ、この音っ!」

 

「これは……地震の揺れではないわね。」

 

 地震にしては不規則すぎる揺れに更識楯無が『まさか』と顔を顰める。その時、窓の側に居た男性が声を上げた。

 

「い、隕石だっ!隕石が落ちて来た!」

 

「えっ!?」

 

「早く逃げろぉっ!」

 

 男性は一目散に駆け出し、ショッピングモールの入口へと向かっていく。

 

「隕石って……まさか!?」

 

「この衝撃、いつも以上の大きさです!」

 

「ともかく、俺たちも外に出すぞ!」

 

 駆け出した専用機持ちたちが外で目にしたのは――

 

「なんだ……あれ。」

 

 ――20mはあろうかという、巨大な樹だった。




 服は流行が分からないのでスルー。すまないコメット姉妹……。
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