IS 今こそ対話する!   作:駄竜

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第9話 葉加瀬なのは、弄繰り回す

『はいどうも皆さんおはこんばんちは。いつもパタパタ空を飛ぶ、天羽飛鳥です。』

 

『はいはーい、天っ才博士の葉加瀬なのはだよー。』

 

『始める前にまずは謝罪を。外にご飯を食べに行くのに一回録画を止めたら、再開するのを忘れて進めちゃって、気付いた時には臨海学校の1日目が終わってました。』

 

『日を跨いだ時にオートセーブがあって巻き戻しもできないから、今回は臨海学校の2日目からになるよ。本当にごめんね。』

 

 

 

 

 臨海学校2日目。臨海学校の本来の目的である装備の試験とデータ取りを行う日であり、一部(なのは)にはこちらの方が楽しみだったとまで言われるほどのイベントである。

 

 四方を切り立った崖に囲まれているIS試験用のビーチに一年生全員が集まり、それが今始まろうとしていた。

 

「それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に行え。」

 

「「「はーい。」」」

 

 織斑千冬の号令に生徒全員が返事をし、それぞれ準備に取り掛かる。

 

「織斑先生~。」

 

 そんな中、葉加瀬なのはが千冬に駆け寄った。

 

「どうかしたか、葉加瀬。」

 

「飛鳥の専用機で使える装備持って来てるんですけど、試して良いですか?」

 

 なのはの言った言葉に周囲が聞き耳を立てた。

 

 天羽飛鳥が日本代表候補生となってすぐ、その専用機をなのはが作っているという噂がIS学園に流れた。情報の出どころは勿論3組、飛鳥となのはのクラスメイトである。

 

 そもそも飛鳥にしてもなのはにしても、個人で専用機を作っていることは別に秘密でも何でもなかった。何せ現生徒会長がその口なのだ、個人での専用機製作(それ)が何ら問題ないことなのは周知の事実である。なら何故公言していなかったのかと言えば、単に自分から振る話題でもなかったからだ。なので「飛鳥さんの専用機ってどんなの?」と言った風に聞かれた時のみ「なのは(ボク)が作ってる」と答えていた。それが代表候補生になった後に多くなった結果、噂が流れたのである。

 

 千冬は噂は勿論の事、轡木十蔵から専用機製作の話を聞いていたため、そこに疑問を持つことはなかったが、気になる事は有った。

 

「それは訓練機でも使える物か?」

 

 専用機の一部装備は、その機体だからこそ扱えるという物がある。ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンの右肩に取り付けられた大口径レールカノンのように他の機体では持てず使えない物や、セシリアのスターライトmkⅢのように他の機体では撃ち出す為のBTエネルギーを用意できないため使えない物など、様々な武器が他の機体では使用できない。

 

 実弾兵器や近接用ブレードなどであれば他の機体でも使用許諾(アンロック)すれば使用できるが、そうでないなら訓練機での試験運用はできない。

 

「専用の動力持ってきてるので使えます。」

 

「なら葉加瀬の班はその装備の試験も行うようにしろ。数少ないISを丸々1つ使わせられる余裕はないからな。」

 

「はーい。」

 

 千冬から回答を貰ったなのはは駆け足で戻っていった。

 

「ああ篠ノ之。お前はちょっとこっちに来い。」

 

 打鉄用の装備を運んでいた篠ノ之箒は千冬に呼び止められた。

 

「お前は今日から――――」

 

「ちーちゃ~~~~~~~~~~ん!!!」

 

 ずどどどど……!と砂煙を上げながら人影が走ってくる。その声に飛鳥となのはは「あれ?」と首を傾げ、千冬は頭を抱えた。

 

「……束。」

 

「やぁやぁ!会いたかったよ、ちーちゃん!さぁ、ハグハグしよう!愛を確かめ――ぶへっ。」

 

 速度を緩めることなく千冬に飛び掛かったその人影、篠ノ之束はそのまま千冬に片手で顔面を抑えられた。

 

「うるさいぞ束。」

 

「ぐぬぬぬ……相変わらず容赦のないアイアンクローだねっ。」

 

 世界最強のアイアンクローからするりと抜けた束は今度は箒の方へと向かった。

 

「やあ!」

 

「……どうも。」

 

「えへへ、久しぶりだね。こうして会うのは何年ぶりかなぁ。大きくなったね、箒ちゃん。特におっぱいが。」

 

――がんっ!

 

「殴りますよ?」

 

「な、殴ってから言ったぁ……。しかも、日本刀の鞘で叩いた!ひどい!箒ちゃんひどい!」

 

 妹とじゃれ合う束を見た飛鳥となのはは、見つからないようにそろーっと人ごみに紛れた。

 

「相変わらずあの人の思考ぐちゃぐちゃしてて頭痛くなる。」

 

「単純に思考速度が速いからね。突拍子もないように見えて熟考してたりするし、それが圧縮されて流れ込んでくるから情報量が多いんだよ。あと我が強いから声も大きい。」

 

 目を金に輝かせた2人は、山田先生の大きなおっぱいを揉みしだく束を数秒見て、

 

「「あれが師匠とか恥ずかしい。」」

 

 顔を覆った。

 

 

 

 

『師匠?』

 

『ウィキ見てない?コラボ設計図の中に、引き当てると束さんと仲良くなる奴があるらしいよ。ボクが引いたクアンタがその1つみたい。関係はキャラのステータスの高さで決まるとかで、ボクたち周回プレイで手に入れたポイントで4つSランクにしたから……。』

 

『師弟関係、ね。5個Sランクにするとどうなるんだろ……。』

 

『初回購入特典のステータスオールSチケットを使った上でダウンロードコンテンツの中から特定の設計図引き当てた人は未だに居ないから、ウィキにも情報なかったよ。チケット使うと後戻りできないし、設計図引き当てられないとただのハイスペック一般人で終わるからね。』

 

『明日香*1は一般人だった……?』

 

『変革もしてないし一般人でしょ。』

 

 

 

 

「つーまーんーなーいー。」

 

 旅館の一室でなのははゴロゴロと転がって駄々をこねていた。

 

 妹に最新鋭の専用機を渡しにわざわざ臨海学校にやってきた篠ノ之束によって、各国が未だに机上の空論としている第四世代IS【紅椿】の性能が1年生全員に披露された直後、慌てた様子でやって来た山田先生と話した織斑千冬は、テスト稼働を中止して専用機持ち以外を旅館の部屋に押し込めた。

 

 何が起こったのかを読み取った飛鳥となのはは事が事だけに仕方ないと理解しているが、それでも楽しみにしていたデータ取りが出来ないことになのははとても不満気である。

 

「全く、先んじて手を打つためとは言え、束さんにはもうちょっとTPOをわきまえて欲しいね。」

 

「妹大好きだよね、本当に。」

 

 本人の思考を読み取ったことで、飛鳥となのはは事の真相を把握していた。

 

 デビュー戦なのだ、今回の事件は。とある天才が愛して止まない妹に贈り物を渡し、それを取り上げられないように持ち主として相応しいと世界に知らしめるためのデビュー戦。

 各国では未だに机上の空論とされている第四世代ISをただ渡しただけでは、国からの圧力で取り上げられる。それでは渡した意味が無い。だからこそ理由が必要だった。取り上げられないだけの理由が。

 

「(エネルギーを倍化させる単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)【絢爛舞踏】。それを見せれば確かに国としては取り上げ辛いよねぇ。機体に合わせたのもあるんだろうけど、そこも考えての設定かな、束さんのことなら。)」

 

 そもそも発現した例の少ない単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)。紅椿にはそれが発現している上、その能力は考え得る限り最上位であるエネルギー倍化。無限のエネルギーを生み出すそれはとても希少なものだ。もし紅椿を取り上げたなら、その単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)は消えることとなる。

 何故なら一度最適化(フィッティング)してしまえば、初期化(フォーマット)しなければ専用機は他人に動かせない。そして初期化(フォーマット)してしまうと単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)は消えてしまう。

 絢爛舞踏という破格の能力を考慮すれば、取り上げるより適当な地位を与えて懐柔するのが良いと国は判断するだろう。そうなれば他国も迂闊に手を出せない。手を出せば国を敵に回すのだから。

 

 最大の火種である第四世代が、最愛の妹を守る盾となる。武力だけでなく、権力の面でも。

 

「(他にも理由はいろいろあるみたいだけど、束さんが妹のために紅椿を作ったのは本当かな。ぐちゃぐちゃしてて大したこと分からなかったけど。)」

 

――――ラ、ラ~♪ラララ♪

 

「ん?」「あれ?」

 

 思考に耽っていた所に、何か聞こえた。

 

「なのは、今のって。」

 

「――早いね。3ヶ月でそこまで行くんだ。」

 

「やっぱりあれなんだ。凄いね、織斑さん。」

 

 ゴロゴロと転がっていたなのはが起き上がり、自動販売機で昨日の内に買っていたペットボトルの残りを飲んでいた飛鳥は一気にそれを飲み干して立ち上がった。

 

「ちょっと手伝いに行こうか。」

 

「そうだね。白式は自動調整しかされてないみたいだし、今のままじゃ流石に可哀そうだ。」

 

 おもむろに窓際へと近付き、取り出した手袋・マスターハンドを身に着けたなのはが手早く窓から人が出られるようにする。そして飛鳥がなのはを抱きかかえると、その窓から外へと飛び出した。

 

 

 

 

『へぇ、純粋種だとこんなイベントあるんだ。』

 

『当たり前のように部屋から抜け出したね。』

 

『これが今後にどう影響するかは知らないけど、まぁイベントは適度にやる分には楽しいからやろうか。』

 

『って言っても忙しいのボクだけなんだけどね。』

 

『移動手段は私だからセーフ。』

 

 

 

 

 旅館のとある一室。そこには戦闘で負傷した織斑一夏が眠っていた。

 

 そこにやって来た飛鳥となのはは、眠っている一夏の右手にある待機形態の白式になのはが持ってきた機材を繋いでいく。

 

 様々な機材を繋ぎ終えたなのはは空中に白式のデータを投影し、以前から少ししか改善されていないそれにため息を吐いた。

 

「相変わらず酷いなぁ。ハードは機体を展開させれないから弄れないけど、ソフトの改良でどのぐらい良く出来るか……ま、ボクの腕の見せ所だね。」

 

 白式の状態を確認したなのはは新たにキーボードを投影し、ぐるりと肩を回してからそれを叩き始めた。

 

「ハイパーセンサーの基準値を再設定、シールドエネルギーの各部出力を微調整、シールドバリアー形状変更、スラスターのエネルギー配分再分配――エネルギー効率10%向上。」

 

 ものの数十秒でハイパーセンサーを白式のログにあった一夏のデータに合うように再設定し、手付かずであったシールドエネルギーの出力を胴体や腕などの各部で多くしたり少なくしたりと微調整し、その形状を動きを阻害しないように変更し、多用するスラスターのエネルギー配分を再分配させ、燃費が悪いと言われ続けた白式のエネルギー効率を10%向上させた。

 恐ろしいのはこれを全てデータを弄るだけで成し遂げたこと。本来なら機体のアーマーを開いて直接パーツを弄って行うような調整さえも、データを弄ることでやっている。

 

「ん~、パーツ弄れないから大して良くならないなぁ。この分ならパーツ弄れば40%は向上させられそうなのに。」

 

 恐ろしいことを言いながら、なのはは空中に投影していた画面を消し、繋いでいた機材を仕舞った。

 

「あれ、終わった?」

 

 窓際で海を見ていた飛鳥は機材を仕舞ったことに気付いて、キョトンとした顔で問いかけた。

 

「これ以上は本格的に弄らないと無理かな。零落白夜はログだけじゃ弄れないから手を出せないし放置したけど、データ弄りでどうにかできる分はどうにかしたよ。」

 

「そっか。じゃぁ戻ろ。」

 

「そうだね、そろそろ起きそうだし。」

 

 そうして2人は再び窓から部屋を出て、窓から自分たちの部屋に戻って行った。

 

 

 

 

『いやぁ、白式は強敵だったねぇ。ミニゲームの難易度高かったよ。』

 

『整備とかする時のミニゲームであの難易度とか、ホントにどうなってるんだろうね、白式って。』

 

『前に他のデータで紅椿弄ったことあるけど、あれとほとんど同じだったから多分束さん作なのが関係してるんだろうね。』

 

『黒騎士もそうなのかなぁ?』

 

『あれ弄るには色々と面倒な手段を取らないといけないから、確認のしようがないよ。』

 

 

 

 

 目覚めてすぐに飛び出し、無事に事態を解決した織斑一夏は夜、旅館の布団の中で考え事をしていた。

 

「(雪羅になって白式の性能は大分上がった。でも何か、根本的に俺に合わせたみたいになってたのは気のせいなのか?)」

 

 雪羅となった白式を纏って飛んだ時、二次移行(セカンドシフト)したからだけでは考えられないほどスムーズに飛ぶことが出来た。今まであった無駄が無くなったかのように。

 

「(ISの自己進化であぁなるものなのか?白式が俺に合わせてスラスターを調整したのか?分からん。)」

 

 二次移行(セカンドシフト)してから目を覚ました一夏には、その前から弄られていたということを知る術はない。やった張本人は名乗り出る気もさらさらないため、一夏の疑問は迷宮入りである。

 

 結局、考え事をしている一夏は同じ部屋で眠る千冬に「早く寝ろ」と怒られ眠りについた。

*1
飛鳥の個人用データ。チケットでステータスオールS、ガチャでダブルオースカイを引き当て、日本代表になってモンド・グロッソであらゆる部門で優勝しブリュンヒルデになっている。




 最初は飛鳥に30キロ先の福音を狙撃させるとかしようかなと考えましたが、専用機ないのにそんな行動を果たしてゲームのイベントとして起こせるのかと思い至り、没になりました。その名残が前半の専用機で使える装備。

 ちょっとだけ出てきた明日香は没プロットの飛鳥です。最初はダブルオースカイでやるつもりだったのですが、機体の知名度を鑑みて没にしました。本当ならトランザムインフィニティで紅椿が本気で速度を出した時より速いとかやりたかった……。

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