「博士~!」
工房の扉が開くのと同時に聞こえて来た明るい間延びした声に、葉加瀬なのははキーボードを叩く手を止めないまま振り返らずに答えた。
「製作依頼なら今は無理だからね。」
「そんなんじゃないよ~。ただちょっと聞きに来ただけ~。」
そう言って手が完全に隠れる萌え袖を振りながら、生徒会書記にしてIS学園整備科期待の新人、布仏本音はニコニコと笑った。
「イメージ・インターフェースがね~、もう少~し綺麗に出来るんじゃないかな~って思うんだけど、どうしたらいいのか分からないんだ~。」
一応動かせそうな段階にはなったが、もう少しスマートにシステムを組めるのではないか。もしそうならどう弄ればいいのかのアドバイスが欲しいと本音は言う。
そんな本音になのははキーボードを叩く手を止めないまま尋ねた。
「答えが欲しい訳じゃないんだ。」
「その方が楽チンだろうけど~、
如何にも自堕落で面倒臭がりですというのほほんとした雰囲気とは裏腹に、本音は回り道も寄り道もする。真っ直ぐ最短で答えに向かう道があろうと、時には非効率と言われるような道に進む。
理由はただ1つ。そうしたいと思ったから。本音にとってはそれだけの理由があれば非効率な道にも進めるのだ。
打算も野心もない、
そういう本心を言う人間をなのはは好ましく思うし、手助けすることにしている。
「およそ30000。」
「?」
なのはの口から出た数字に本音は首を傾げた。
「ボクが前に作った
「ん~っとね、確か80000字だったかな~。」
「なら余分な文字が20000字はある。それを消してシステムを整えれば50000字程度には抑えられる。出力部分をよく見るといい。」
すらすらとキーボードを叩く手を止めずに語られるアドバイスを覚えながら、本音はキョロキョロと工房を見渡した。
「ありがと~博士~。戻って見てみるね~。ところで~、ふくかいちょーはどうしたの~?」
最近ずっとなのはの世話をしている天羽飛鳥の姿がないことが気になったらしい。本音の疑問になのははキーボードを叩きながら答え――
「飛鳥なら今地下に――。」
「地下?」
「――今のなし。」
――答えようとして途中で止めた。
IS学園の地下。大きな人工島であるIS学園全体の電力を賄う発電施設などがある一般生徒立ち入り禁止区画。
来年度には生徒会長となることが確定している飛鳥は、引き継ぎの関係で3学期となった今は生徒会長と同等の権限を持っているため、地下に立ち入ることが出来る。しかし地下に何か用事があるのだろうか。
「うん、わかった~。」
疑問に思った本音だったが、なのはが『今のなし』と言ったのでそうした。
「じゃぁね~。」
アドバイスが貰えた本音はそのまま帰っていく。
工房のドアが閉まってしばらくしてから、なのはは息を吐いた。
「作業してると条件反射で口から出る癖、どうにかならないかねぇ……。」
IS学園地下、地熱発電所。そこに向かって歩きながら、飛鳥は聞こえてくる声に耳を傾けた。
【来て。誰か、来て。】
「うーん、呼ばれてるのは確かだけど、相変わらずよく分からないんだよなぁ。」
何度か聞いた
「地下じゃ邪魔になるからフルセイバーは外して来たけど……まぁ、何とかなるかなぁ。」
扉を開ける。
「――樹?」
――そこにあったのは、球根のような形状になった樹。ついこの間街中に現れた植物型に似た
亜種か上位種か、最低でも植物型と同程度には強いのだろうと当たりを付け、飛鳥はその
「来たよ。どうしたの?」
【いや、嫌なの。こわいの。】
「……怖い?」
どうにか読み取れた感情に目を見開く。
「まさか――。」
【誰か、誰か――!!】
瞬間、雷鳴が轟いた。
「危なっ!」
緊急展開したダブルオークアンタのGNシールドで雷を受け止め、飛鳥は
「っ、やるしかないか。GNシステム、粒子貯蔵量を10%から20%へ。」
音声入力でGN粒子の貯蔵上限を引き上げながら、飛鳥はGNソードⅤを右手に持った。
「シールド抜けるかなぁ。まぁ頑張ればどうにかなるか。」
【いや――!!】
「ダブルオークアンタ、天羽飛鳥!未来を切り拓く!」
誰にも気付かれないようにGN粒子を散布してセンサーを妨害しながら、PICとGN粒子の力で床を滑るように移動して植物型
今のダブルオークアンタは
フルセイバーがない以上、最近ではもはやお馴染みとなっていた
【こないで!】
「ソードビット!」
「かたっ!?」
「(これ、フルセイバーあっても防御抜けなかったかもなぁ。)」
街中に出た樹木のような
「でも……。」
その守りに向かってGNソードビットとGNソードⅤによる連撃を叩き込んでいく。
「ダメージは通る!」
徐々に傷付いていく
つまり束とは違って、僅かな勝ち筋を狙う必要のない相手。
【はなれて!】
「っと!」
「とはいえ、堅いものは堅いし、どうしようかなぁ。」
ダメージが通らないこともないが、HP10000の相手にダメージ1を与えられたとして意味はあるのか……今はほぼそういう状況である。倒せるまで攻撃すればいいというのは真理ではあるが、もっとスマートな戦い方がないかと思考を巡らせる。
「ゼロシステム使おうかなぁ……。」
現在は起動していないゼロシステムを起動してしまおうかと考えて、頭を振って取り止める。未来予測を始めとするゼロシステムの機能は便利ではあるが、あまり依存していいものではない。というかゼロシステムを戦闘中に使うと、第一候補にライザーソードを提案してくるので使いたくない。地下だろうとお構いなしに提案してくるのは普通に欠陥だと飛鳥は改めて思った。
「トランザムは対話領域が出来ちゃうから出来ないしなぁ。」
こういう時こそトランザムでの出力強化だが、
どうしたものかと考えながら
【いや!いやあぁぁぁ!!】
「うーんほのかに湧いてくるこの罪悪感……なんか子供を虐めてるみたいな……。」
戦闘を続ける内にこの戦闘がIS学園側にバレないようにセンサー妨害目的で散布しているGN粒子によって強化されたイノベイター能力が、どことなく罪悪感を感じさせてくる。相変わらず
そのイノベイターとしての飛鳥が感じている罪悪感。大人げなく子供をボコボコにしているようなそれは、今までの
「もしかして子供?うーん、分からん。」
【こないで!こないでよぉ!】
「もしそうなら早めに終わらせたいんだけどなぁ……強引に行くか?」
GNソードⅤに散らばらせていたGNソードビットを合体させ、そうして出来上がったGNソードⅤ・バスターライフルモードで今まで攻撃を集中させてきた位置にビームを撃つ。シールドバリアーに当たって
「よし!」
ビームのダメージで僅かに動きの鈍る
「さぁ、出てきて。すぐに終わらせるから!」
球根のようになった植物型
【いやあああああ!!】
「っ、『声』が大きいな……。」
空気を振るわせることのない、心の中での産声。それに頭を痛めながら、GNソードⅤに合体しているGNソードビットを解き放つ。
「クアンタ、セブンソード・コンビネーション!」
7本の剣による連携攻撃が、植物型
【こないでぇ!】
「これで、終わらせる!」
人の形に近付いたことで動きが分かりやすくなった
【あ、ああああああ!!!】
思念に叫びが乗って聞こえてくる。断末魔のようなそれを上げながら、
「ふぅ~……ん?」
「……ごめんね。私のこと、嫌ってもいいよ。」
そうその緑色の物体――