「君は……誰だい?」
少女の前にいきなり現れた男。だが少女からしたら男が誰か聞きたい位だ。
真紅のコートに真っ黒に逆立った髪、丸いサングラス、なんとなくだが左腕に違和感があるのは気のせいか。どう贔屓目にみても男の方が不審人物だ。
少女は男の眼から離せなかった。あんな眼をした人など今まで見たことない。
それゆえ少女――――織斑千冬は今まで持っていた不信感や警戒心など忘れたかのように訪ねたのだ。
「あなたこそ……誰?」
「僕は――――――――」
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「ん……」
「織斑先生、眠っていらしたのですか?」
「あ、すまない。ちょっと少し眠っていたようで……」
「珍しいですね。織斑先生が居眠りなんて。お疲れですか?」
「……大丈夫です。お気になさらずに」
「はあ、わかりました。ですが無理なさらないでください。このあとはクラスの生徒への挨拶ですからね」
「ええ、心得ております」
そういうと、相手の先生は安心したようでその場を去っていった。
……全く、私が職員室でうたた寝などとは恥ずかしいな。しかし……
「……懐かしいな、あいつの夢などいつ以来か」
まさか、初めて出会った時のことを夢で見るとはな。もう何年あっていないのだろうか。
あいつは約束した。いつか必ず戻ると。だからこうやって帰りを待ち続けるのだが。
「待つのも存外疲れるものだな……」
あいつがいなくなってからいろいろと変わった。まさか弟の一夏がISを操縦できたためこのIS学園に入学するなどとはあの時は思いもよらなかった。当時の私はあいつがいつ帰ってもいいように、そして一夏のことで精一杯だったなと、しみじみ思う。
そろそろ教室にいかなくては。確か一年一組だったな。一夏のいるクラスだ。さてと……と思いおもむろに職員室を出たらさっき私を起こしてくれた先生が息を切らしながら走ってきた。
「……はぁ、はぁ、おりむら、先生!」
「……そんなに息を切らしてどうしました?」
「いえ、ちょっとです、ね」
そういうと彼女は息を整えるために深呼吸。
「すうー、はあー。……えっとですね」
「はい」
「学園の校門前でトラブルがありまして」
「トラブル、ですか?」
「はい。なんでも正体不明の男がIS学園に侵入しようとしたらしく、只今管理人ともめているみたいです」
「ほう」
しかし何が私と関係するのだろうか? 全くわからないな。
「それで?」
「はい。その男はあの篠ノ乃博士に言われて来たとか織斑先生を呼んで欲しい言うものですから」
「……なるほどな」
ああ、そこで私を探しにわざわざ走ってこられたのか。しかしそれなら電話か何かを使ってくれれば良いものを。
「それで、その男の特徴は?」
「あ、えっとですね。真っ赤なコートに丸いサングラスでツンツンした金髪の男だそうです。すっごく目立つ格好だからよく覚えていますよ」
「……なん、ですと?」
「織斑先生?」
「それは……ほんとう、ですか」
「え? えぇ……って織斑先生!?」
私は驚く彼女を放って置いて、急いで校門前に走った。
偽物かもしれない。なぜなら彼は黒髪だ。そんな格好をした男は世界中探せばどこかにいるだろう。
それでも、それでも私は感情のままに走っていた。もし、もし本当にあいつなら私は―――――――
問題の校門前では、今まさにその問題の男が管理人と絶賛口論中だった。
「お願いだから入れてください! このとーり!!」
「そう言われましてもこっちにはなんの連絡もきてないので……水知らずの方を入れるわけには……」
「そこを何とか! 束ちゃんに言われてるんだよこっちは!」
「本当に篠ノ乃博士なんですか? 第一ここをどこだか分かっていらっしゃるんですか?」
「もっちろん! IS学園! でしょ?」
「ならそう簡単に入れる訳にはいかないんです」
「そこを何とか! お願いプリーズ!!」
「いやだからですね…………」
「…………ヴァッシュ?」
「え?」
呼ばれた男……ヴァッシュが声の方を見ると懐かしい彼女が息を切らしながらそこに立っていた。
「あ……千冬」
「え? あ! 織斑先生!? いつのまに」
「あ……あはは……千冬、あんまし会ってないからかな? すごく変わったね」
「…………」
ヴァッシュの言葉になんの反応もせずただこっちに歩いてくる。そして――――――
「……この、馬鹿者があああ!!!!」
「げふうううう!!??」
「お、織斑先生!? 一体何を!?」
ヴァッシュに向かって思いっきりぶん殴ったのだ。その勢いでヴァッシュは吹っ飛ぶ。いきなりのことで管理人はいったいどうしたのか分からずにただ呆然としていた。
それでも構わずに千冬はヴァッシュに対してあらん限りの声でこみ上げる感情をぶつけたのだ。
「今までどこに行っていたのだ!? どれだけ待ったと思っている!? ずっと心配していたのだぞ!!」
「…………」
殴られたヴァッシュは鼻から血がドクドクと流れ出ている。それを右手で抑えながらただただずっと千冬を見続けていた。
一度流れ出た感情は全て流れ出ていく。ほとんど泣き声に近くなった声で爆発した気持ちを叫ぶ。
「あんなことをされても私達は嬉しくもなんともない!! どんな思いだったか分かるか!! ただ一緒に……」
「ごめん」
「っ!!」
そこには、申し訳なさそうに謝るヴァッシュがいた。その眼をみて千冬は何も言えなくなった。
ああ、そんな顔をするな。何も言えないじゃないか。もっと一杯文句もあったというのに。
「…………ふん。まあいい」
「……ホントにごめん」
「もういい! ……あぁ、そうだ、忘れていた。すっかり大事なことを忘れていたな」
「?」
そういうと千冬はヴァッシュを優しく抱きしめた。
「ち、千冬?」
「おかえり。ヴァッシュ」
「……あぁ、ただいま。千冬」
「…………えー、あー、うー、おー」
「…………何恥ずかしがっている馬鹿者」
「いやだって……ねぇ」
「……織斑先生……その方……彼氏か何かで?」
「っ!? ち、ちがう! その、あの」
校門前はなんだか変な空気が漂っていたのだった。