篠ノ之箒は織斑一夏の幼馴染である。
彼女の実家は剣術道場を開いており、一夏もそこに通っていたため幼い頃からの付き合いである。最初の頃は喧嘩ばかりだったが、箒が虐められていたのを一夏がかばったことがきっかけで二人は仲良くなっていった。一夏に恋心を抱いたのはその頃からなのかもしれない。
近しい関係となったため箒はヴァッシュと知り合いになったのも必然だ。ヴァッシュは剣道の練習が終わる頃に迎えにきて一緒に帰っていたためだ。
幼い箒の目から見ても一夏とヴァッシュは傍から見ても血のつながりは無い事がわかるのに本当の兄弟のように仲が良く、また箒の両親とすぐに仲良くなって一緒に酒を飲むほどの仲にまでなっていた。
ヴァッシュは箒や実の姉の束にもよく目をかけていた。箒は最初は戸惑っていたがヴァッシュの人柄を知ってからは一緒に遊ぶほど。対して束は全く興味がなかったのかヴァッシュをずっと無視しつづけていた。それでもヴァッシュは束と話そうとずっと声をかけていたのだが。
そんな関係が箒がISを開発して小学4年の時に遠くへ引っ越すまで続いたのだった。
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「……ちょっといいか」
箒は一人不機嫌そうに机に頬杖している一夏に声をかけた。ほかの女子は先程の出来事と一夏が苛立っている状態のため声をかけづらい中、意を決しての行動だった。
一夏は相手が箒だとわかるとOKの返事を出し二人で廊下に出た。その時周りの女子が道を開けたためモーゼの海渡りのようだと一夏は心の中で突っ込んだとかそうでないとか。
廊下での会話はたわいないものであった。箒が中学の時に剣道大会優勝を一夏が褒めたり髪型が同じだったためすぐに彼女だと気づいたことなどだ。何か言われるたびに箒の顔が赤くなりそれを不思議そうに一夏は見ていたが、やはりというべきか話題はあのことにシフトした。
「ところで一夏、ヴァッシュと……何かあったのか?」
この一言で先程の笑顔はどこへやら、不機嫌そうな表情に戻ってしまった。だけど箒は構わず尋ねることにした。
「……あんなに仲が良かっただろう? それほどのことがあったのか?」
一夏はただ黙っていたが、喉から搾り出したような小さな声で呟いた。
あいつが悪いんだ
その時一夏が一瞬泣きそうな顔をしたように箒には見えた気がした。
そのつぶやきとチャイムが鳴り響いたのはほぼ同時であった。
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「ヴァッシュさん殴られた所は大丈夫ですか?」
「もう大丈夫ですよ。ほらこのとおり! ってね」
職員室からヴァッシュと千冬、山田先生が一緒に出てきて会話しながら教室に向かうのであった。
「しかし驚きましたよ~。織斑君がいきなりあんなことをするなんて」
「…………そう、ですね」
いきなりの乱闘。ある程度予想はしていたがやはり辛いものがある。一夏の気持ちをヴァッシュは理解していて、あの怒りの原因もだいたい予想は付いているのだ。だからこそヴァッシュはどうすればいいか迷ってしまうのだ。が
「お前は今までのとおりでいい」
「へ?」
いきなりな千冬の発言にヴァッシュはどういう意味か分からずぽかんとした。山田先生も同じく。
「一夏もまだまだ子供、ということだ」
「…………そう?」
「ああ」
短い会話。だが言いたいことは伝わっている分そこは家族というものか。
「あ、と、ところでですね。ヴァッシュさんは何故IS学園にこられたのです?」
二人を見ながら思い出したように尋ねる山田先生。 それに答えたのはヴァッシュ。
「束ちゃんにここに行くように言われてね~。まさかこうなるとは思ってなかったけど」
「へ~、束さんですか~…………た、ばねさん?」
どこかで聞いた名前。たばね、タバネ、束…………。
「って、ま、まさかあの!? 篠ノ之束博士ですか!?」
「そうだよ?」
いやそうだよって簡単に返されても困りますと思っちゃった山田真耶。
「いや篠ノ之博士は今行方知れずなんですよ!? そんな御方がどうしてヴァッシュさんと!?」
「………………色々、あったんだよ」
そう言いながらくら~い顔になるヴァッシュ。その表情からしてあまり深く聴きにくい。
「……そうか」
千冬はその顔をみて理解できた様子。深い溜息まで出ちゃってますよ。
「先の授業では説明していなかったが、入学式の間に束の奴から連絡が来てな」
「えっ!?」
「ヴァッシュをIS学園に滞在させることを認めるようにいってきたのだ。従わなければ今後一切ISに関する技術などは提供しない、などの脅しを交えてな」
まぁ脅しの中身はこれだけじゃなかったが。という千冬の発言に驚く山田。そこまでしてこの男をIS学園に近づけさせる意味とはいったい……。
気が付けば山田先生はヴァッシュを警戒する目で見てしまった。ヴァッシュもその視線に気がついているようで申し訳なさそうにしている。慌てて謝る山田先生。
「ま、仕方ないよね。いきなりここに男がくるのは誰だって警戒しますよ」
そんなふうにフォローまでされてしまった。いい人であることには違いないが。
「山田先生」
「は、はい!」
「ヴァッシュは警戒することはない」
「は?」
「こいつが危険ならそこらの子犬の方がもっと危険ではあるな」
「千冬、それどーいう意味?」
「そういう意味だ。あと織斑先生、だ」
「ギャン!?」
言いながら教簿でタテで殴る千冬。食らったヴァッシュはその場でうずくまり、理不尽だなどとつぶやいている。そんな二人をみて
(仲よろしいんですね……)
などと心の中で思う山田先生であった。
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さて2回目の授業が終わり休み時間という一時の安らぎの中、一夏はというと
「ちょっと、よろしくて?」
「へ?」
イギリス代表候補生のセシリア・オルコットに話しかけ――――もとい絡まれていた。
「訊いてます? お返事は?」
「あ、ああ。訊いてるけど……どういう用件だ?」
「まあ! なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」
「…………」
とまぁこんな感じで。
インフィニット・ストラトスが世界中に浸透していったがため、“女は男より優れている”という所謂女尊男卑まで広まってしまった。
故に、セシリアのように男性を見下す女性は少なくはない。(もっとも彼女の場合は育った環境も原因ではあるが)
一夏も分かっているから、はいはいへーそーなんだわかりましたと軽ーく受け流していく。
セシリアはそんな態度が気に食わないのか御機嫌よろしくない。
そのせいなのか彼女は一夏にとって“NG”な話題を持ち出したのだった。
「ところであなた、ヴァッシュ先生……とはどのような関係で?」
とたんに一夏の表情がピシリと固まる。がそれも一瞬でありセシリアはそのことに気がつかなかった。
「…………一緒に暮らした仲だけど」
「へぇ……」
意味ありげな顔をするセシリアに何が言いたいと空気を発する一夏。
「あんな男性と暮らしていたなんて……、私には考えられませんわね」
「何?」
「いろんな男性を見てきましたけど、あそこまで情けない方は初めてですから」
まさしくああいう男は嫌いだといっているものだ。と同時に授業が始まるチャイムが鳴り響く。
では、と自分の席に戻るセシリアを見ながら一夏は先程の言葉が頭のなかで再生される。
――いろんな男性を見てきましたけど、あそこまで情けない方は初めてですから――
その発言に対し一夏はただ心の中で舌打ちするのであった。