不死身の体でヒーローになる   作:塩谷あれる

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パート2。てか本編。だから長いです。


日記外的故事二之弐

 二人の武人。八歳の子供と白髪の老人。彼らの戦いを表すならば、正しく鎧袖一触という言葉が当てはまるだろう。

 

「どらァッ!」

「鈍い遅い雑い。五年鍛えて出直してこい」

 

 鈍器を振るえばひらりと躱され、武器ごとへし折る蹴りをかまし、

 

「撃て、撃てェエエエ!!」

「フン、飛び道具なぞ、当たるわけもなかろうに」

 

 銃を撃てば弾き返され、弾丸よりも速い拳を喰らう。

 

「ひ、怯むなァーーーッ!!」

「物量で押し潰せェエ!」

「そりゃ悪手だろ」

「愚か者め」

 

 自棄になって特攻をかませば、ただの一撃によって纏めて叩き潰される。まさに鎧袖一触、一騎当千。そこにいるのは、ただの小僧と老人ではなかった。大軍をものともしない、れっきとした武人が、彼らの前に立ち塞がっていたのである。

 

「な……ど、どういうことですかい!?これだけの数がいりゃあ、絶対、絶対問題ねぇって、アンタ……!!」

「黙りなさい……仕方がありません。私も出ましょう。貴方は、本部にこの事を連絡しなさい」

 

 チンピラが怯えたように輝礼に訴えかける。それを無視して輝礼はスーツを脱ぎ、銃を持ち替えた。

 

「やっとお出ましですか。俺が用があんのはアンタだって最初っから言ってたんですがね……すいません老師、あのチンピラ追っといてくれません?」

「構いはせんが……全く、年寄り遣いの荒い子供だ」

「おや、逃がすとお思いで?」

「そっちこそ撃たせるとお思いで?」

 

 輝礼は、逃げていったチンピラの方へ駆けていく李炎に銃口を向けるが、富士見によって手首を蹴り上げられ、銃を落とす。

 

「そんじゃ頼みます」

「うむ」

 

 一言ずつの言葉を交わし、李炎はチンピラを追いかけていった。

 

「さて、始めましょうか?」

「……手早く片をつける必要がありそうです……ねッ!」

 

 落とした銃を拾い直し、三発、連続して撃ったと同時に前へ出る。

 

「(急な光……マズイ!)ッどぉっ!?」

「フフ、あれだけ大口を叩いて置いて、随分呆気なく撃たれてくれるじゃあないですか!」

 

 富士見は、前へ出たと同時に輝礼の体から放たれた目映い光によって視界を遮られる。そして腹に二発腕に一発、計三発の弾丸が、目を奪われた彼に全てが命中した。

 

(抜かった……ッ!よく考えりゃ、あの『光る赤子』の直系子孫なんだ、個性も光系統で当然か……!この夜更けだ、目が闇になれちまってる俺達に光は弱点以外の何物でもねぇってのに!)

 

 二発の弾丸をモロに喰らった腹を押さえながら、何とかすんでの所で頽れるのを防ぐ富士見。ギリ、と歯を食いしばり、真っ直ぐ輝礼に向かって拳を構え突貫した。

 

「ック……!ドラァッ!」

「ふふ、情けない突貫ですね。さっきの光で目が弱っているのが丸見えです……よッ!?ホラァッ!」

 

 しかし、輝礼の言うとおり、その突貫は目を奪われた富士見にとって行方の分からぬままの状態であるため、進む方向そのものはあっていても、なんともお粗末でヘロヘロなものだった。輝礼は突貫をひょいと躱し、弾丸を喰らい損傷した腹に思いっきり蹴りを入れる。普通の八歳の子供に比べ圧倒的なまでに筋肉がついているとは言え、子供は子供、簡単に蹴り上げられた。

 

「ガッ……!ゲホ、ゴホ!」

「フフフ……情けないですねぇ…」

 

 痛みと腹を蹴飛ばされたことで逆流する空気にむせかえる富士見を、猟奇的な笑みで眺め、その頭に銃の照準を合わせる輝礼。最早、二人の勝敗は確定しているかのように見えた。

 

「ッッざけんじゃッ……ねぇ!!」

 

 富士見は即座に体を起こし、失明寸前の目を頼りに蹴りをかます。

 

「グッ……!?ふん、中々やりますが、その程度ですねぇ!!」

 

 今度は輝礼の腹にしっかりとヒットし、輝礼が若干よろける。しかしすぐに平静を取り戻し、こちらも正拳突きをかましてきた。発光によってどこから来るかを読ませないおまけ付きだ。

 

「ゲァッ……!オラァ!」

「ふん、ききませんよ!」

 

 視力を封じられながらも音などの感覚で拳や蹴りを出す富士見に対し、光による目潰し、銃の遠距離攻撃により確実にダメージを与える輝礼。勝負は明らかに明確だった。そしてついに、体格や年齢による体力の差で、富士見が膝をついた。

 

「フフ、中々に愉しませて貰いましたが、これで終いです。さっさとあの老人を追うことにしましょう……貴方も、子供ながらに健闘しましたよ。三合会において、たった十人のみが名乗ることを許された称号を持つもの、『十悪』が一人、この『綺語』の金輝礼に、ここまで時間を取らせたのですから」

「知るかよ…それと勘違いすんな、クソッタレ」

「……何を、ですか?」

「俺に手が、もう残ってねぇと思ってんじゃねぇって言ったんだよ」

 

 その時である。全身血まみれの富士見の体が、まるでキャンプファイヤーのように燃えさかったのだ。

 

「ッ……!?こ、これは!?」

「言ったろう、奥の手さ」

 

 そう、これこそが、品内富士見の『焼死』による修得耐性、その名も火焔赤血(ヒートブラッド)。その名の通り、この修得耐性発動中は、血液が空気に触れることで発火作用を引き起こす特性を帯びるのである。富士見の体は全身に傷を負っていた。だからこそ、彼の体が火だるまになったのである。

 

「さぁ、行くぜ!」

「何をする気です!く、来るな、こっちへ来るんじゃあない!!」

 

 富士見は、体を戦闘態勢に整え、輝礼へと向かっていく。対して輝礼は、いきなり炎に包まれた男が襲ってきたものだから動転し、銃を撃つも明後日の方向に飛んでばかりになっていた。目眩ましに光を放っても、富士見は炎に包まれている、即ち、全身に光を纏って要るも同義のため、そこまでの効果は無い。

 

「焼き殴られろ!炎虎流……灼火掌!!」

 

 燃えさかる炎の掌底が、輝礼の躰へ間違いなくヒットした。

 

「ぐっ……ぐあ゙あ゙あ゙っ熱いッッッッッ!!体が、私の、わた、私の体があ゙ぁ゙あ゙!!!これ、これでは、死んでしま──」

「死なせやしねぇよ、クソッタレ」

 

 

 痛みにのたうち回る輝礼の前に、富士見は立った。まるで、天から突き落とされた者を嘲り見下ろすかのような富士見の視線に、輝礼はヒィッ、と軽く呻く。

 

「さて、洗いざらいサツで吐いてもらうぜ……テメェが今までしてきた全てをな」

「グ……ふ、ふざけるな!私を誰だと思っている!私の、私の後ろに誰がいると思っているのだ!」

「おーおー本性曝け出しやがった……知るかよ面倒くせぇな……三合会がただじゃおかねぇぞってか?こんな男に一度は殺されたと思うと、俺ァ軽くショックだぜ……これならあの変態肉面野郎に殺されたときの方がまだマシだった」

「だ、だだ、黙れェエ!!だ、大体貴様、何故私に刃向かう!私に何の怨みがあって、こんな真似をするのだ!」

「………………何故、だと?」

 

 富士見は、輝礼の言葉に向き直り、目線を合わせるかのようにしゃがみ込んだ。

 

「テメェが麻薬なんてもんをこの軽慶に、この中国に持ち込んだからに決まってんだろうが」

「な……!ふ、フン、下らんな……では貴様は、そのしみったれた正義感の為に私を」

「んな訳ねーだろうが。なんで俺が正義感なんぞのためにテメェを殴らにゃならん」

 

 さも当然であるかのように富士見は言い、そして続ける。

 

「俺はな、平穏って奴が、日常って奴が、心の底から大好きなのさ。親父や母さん、友達と普通に話して生きる、その何気ない日々が大好きなんだよ。だから俺ァ、一つだけ決めてんのさ。もし仮に、俺と俺の身の回りの人間の平穏を乱す奴が現れたら、俺はソイツを──

 

 

 

 

 

 

 

 

容赦なく叩き潰すってな」

 

 だから、隣の席の彼女を傷つけた、自分と同じ小学生や、奈茂鳴町の町民達を殺したムーンフィッシュを許さなかったように。

 だから、自分達に被害が及ぶ可能性を作り、中国をパニックに陥れた金輝礼を許さなかったように。

 

「まぁ、簡単に言うとこう言う話だよ、金輝礼。テメェが、態々麻薬売り捌くような真似しなきゃ、俺はお前に何もしなかったんだよ。自業自得、テメェが悪いって訳だ」

「な、ふ、ふざけるな!あれは、三合会の命令でやったことであって──」

「実行犯はテメェだ」

「グ……!」

 

 富士見の怒気を含んだ言葉に、返す言葉がなくなる輝礼。そんな彼を見て富士見は、彼の目を見て言った。

 

「なんだ、まだ何か言いたげじゃないか。奇遇だな、俺もだよ。……この際だからはっきり言っとく。お前の()にも伝えとけ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の人生の邪魔をするな。次の命は保証しねぇ」

 

 それは凡そ、まだ八つしか生きていない小僧が発してはならないような、圧倒的なまでの敵意だった。

 

 その後、李炎の携帯によって呼び出された警察によって、麻薬取引に関わった人間は纏めて収監された。富士見の敵意をモロに浴びた金輝礼も同様に捕らえられたが、何故か彼は、何かに怯えるように震えており、『外に出て奴と再び会うくらいなら終身刑の方がマシだ』と言う本人の意向により、その一生を牢屋の中で過ごしたが、この話はどうでも良いことである。

 

「全く、折角仕立ててやった服をこんなにボロボロにしよって……いくらかかったと思うとるんだ、この馬鹿弟子は!」

「ゲ、ご、ごめんなさーい!」

 

 所で、そんなことを話しながら、帰路に就いていた二人の老人と少年が、いたとかいないとか、そんな話も、どうでも良いことである。




さて、長くなりそうだったので前後半分けて書いてみました。次回も序章と同じく後日談、「第四頁」を書いた後、ある二人のキャラクター視点での物語で第一章を締めくくらせていただきます。
後一応、情けない退場の仕方をしたい輝礼への精一杯のフォローをば。輝礼さんは実力で十悪になったわけじゃないです。政界に顔が利いて、表社会のこともある程度握りつぶせる権力を持った三合会にとって都合の良い『火消し役』だから重宝してやろうって言う首領の意向で十悪の席についてるだけです。でも戦闘もできなくはない人です。実力の無い人が光るだけの個性で一時的にとは言え富士見に攻勢取れないです。お縄になっちゃいましたけど。

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