不死身の体でヒーローになる   作:塩谷あれる

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「」内の表記が中国語、『』内の表記がイタリア語です。


日記外的故事二之壱

「ほ、ホントに大丈夫なんですかい?金の旦那」

「えぇ、問題などありません」

 

 中華人民共和国軽慶市、その一画に位置する港。そこで二人の男が話していた。

 片や、服装や言葉遣い、人相から明らかに育ちの環境が悪いと見えるチンピラ風の若い青年。片や、品の良いスーツや革靴を身に纏ったその顔に知性と気品を感じさせる中年の男性──軽慶の市長を務める政治家、金輝礼。チンピラは何やらおびえているように見えるが、輝礼はそれに反し何事もないようにすました顔をしていた。

 

「どうせ我々は船が来るまで待つしか無いのです、おびえていても仕方がないでしょう」

「で、でも、こんな早く来るこたなかったんじゃ…」

「相手はイタリア最大のマフィア……万が一があっては失礼に当たります。最悪、軽慶支部を任されている私と受け取りチームの代表である君の首が物理的に飛ぶ事になりますからね。異国の方を怒らせるのも、“上”を怒らせるのも私は望みません」

「そ、そりゃあそうですケドよぉ……しかし、あの三日前みてぇに、誰かに見られたら……!」

 

 三日前。その言葉を聞いて輝礼は、嫌な記憶が蘇ったことに顔をしかめるが、すぐに元のにこやかな笑顔に顔を戻し、チンピラの方を見る。

 

「あれは問題の内になど入りませんよ。見られたと言っても、只の子供の一人でしたからね。“説得”も大変楽だった。ちょっと首の辺りに手を当てて眠らせ、重石をつけて海に飛び込んで貰うだけで簡単に話がつく。それだけであの子は、永遠に自分が見たものを話すことは出来なくなるのですから。個性を使うよりも簡単なお仕事です」

「は、はぁ…」

 

 その薄っぺらな笑みから放たれた言葉にほんの少しゾッとしながら、チンピラは恐る恐る頷いた。

 

「おや、密輸船が来たようですね。金を用意して置いて下さい」

「へ、へい」

 

 密輸船のライトを確認した輝礼が、チンピラ風の男に用意しておいた金を入ったトランクを持ってくるように指示する。船が近づいてきて、船員の影が見えてくる。

 

『お待ちしておりました、今回の取引の金輝礼です』

 

 定着した船に乗った乗組員にスーツの男もとい、金輝礼が話しかけるが、何か様子がおかしい。こちらの言葉に、彼は応えなかったのである。

 

『……?どうかなさいました……!?』

 

 奇妙に思い自分の個性を使って乗組員の顔を照らすと、そこには、見るも無惨にボコボコにされたイタリア人乗組員と、彼の頭を掴み、無理矢理立たせている壮年の中国人男性の姿があった。

 

「な、こ、これは……っ!?」

晩上好(こんばんは)、金輝礼さん」

 

 その声は、老人から聞こえたものではなかった。その後ろから、老人よりも先に船から港へ降り立った、その声の主を、輝礼はおろか、チンピラの男までが知っていた。

 

「な、てテメェはァッ!!?あん時の!?な、なんで……ッ!?」

「……何と」

 

 そう、その声の主は、三日前、彼ら二人の上納金の受け取りを目撃してしまったことで輝礼の“説得”によって物言えぬ体になったはずの少年だったのである。突然の事態に輝礼は驚いたが、すぐに表面を取り繕い笑みを浮かべる。

 

「これは、これは。品内さんの所のご子息ではありませんか。えぇ、晩上好(こんばんは)。何の御用ですか?こんな夜分に」

「何の用事か、ですって?トボけんのぁやめましょうよ、金輝礼さん。……いや、こう言った方がアンタの肩書としちゃ正しいですかね?中国三合会構成員、偽善者と麻薬売人の二つの顔を持つ“クソッタレ”、金輝礼」

 

 その言葉と同時に、輝礼とチンピラが銃を抜く。対して少年はすぐにその場から飛び退き、逆に老人は、イタリア人の乗組員を船に放り投げて港へと降り立った。

 

「これ“藤見(ハンツェン)”、銃を相手に避けの姿勢に入ってどうする。取り上げるためにまずは前に出よと教えたろう」

「そうは言いますがね老師、銃撃なんて俺食らったこともないですから、弾速ってのがどんなもんなのかも知らずに前に出られやしませんって。様子見の一度や二度は許して下さいよ。あと、俺の名前は“富士見(フジミ)”だって何度言ったら分かるんです」

藤見(ハンツェン)の方が語呂は良かろう」

「正しい名前で呼んで貰わにゃ困ります」

「話している場合ですか?」

 

 老人と少年──富士見のあまりにも気の抜けた会話に銃声を持って割って入る輝礼。

 

「おっと……いきなり発砲とは、もはや隠すつもりはねぇってことでいいんですね?金輝礼さん」

「構いません。あなた方二人を消せばそれで事足りる話ですからね」

「ヒュウ、言ってくれるじゃないですか」

「そりゃあそうです。何せ──」

 

 輝礼が指をパチン、と鳴らすと、武器を持った男達が港に陳列されているコンテナの陰からゾロゾロと現れた。その数凡そ、五十。

 

「この数を前に、相手はたかが二人のガキとジジイ。蹴散らせない道理がありません」

「わお……こりゃあ、流石に多過ぎじゃあないですかね」

「ふふ。さぁ、叩き潰しなさい!」

 

 輝礼のサインで男達が一斉に富士見と老人へと襲いかかる。終わった。輝礼がそう確信したその次の瞬間──

 

「全く……この程度の実力の雑兵にこの程度の数、何が多いのか言うてみよ、藤見」

「その使えない雑兵が()()()()()()()()()()って意味で言ったつもりだったんですけどね……流石に手こずるとは思ってませんよ、俺も」

「ならば良い」

「……!?」

 

 五十人とは行かなくとも、前方の二十人近くが一度に吹き飛ばされた。しかも、老人はともかく体格的に大きく劣る富士見ですら、その衣服にはホコリの一つもついていない。

 

「あー、アンタラに用はないから、できればそこのエセ政治家だけ置いて帰ってくれると俺的には助かるんだが、どうだ?痛い目とか、見たくないだろ?」

「な、何だとテメェ!」

「ガキの癖に粋がりやがって!」

「行くぞ、畳みかけろォ!」

「舐めんじゃねぇぞコラァアアッ!!」

 

 いきなり吹き飛ばされた者達も即座に立ち上がり、更に二人へと向かっていく。寧ろ、富士見の挑発的な言葉に彼らの殺意と戦意は益々高まっていた。

 

「あーぁ……一応警告したのに」

「お主のような子供にあんな言い方をされたら、そりゃあああなるに決まっていよう」

「んー、じゃあ素直に纏めて気絶させときゃ良かったか……失敗したな」

 

 銃まで取り出し始め、こちらに向かってくる男達を気にも留めず、相変わらず軽口をたたき合う師弟二人。

 

「老師。半分頼んで良いですか」

「構わん。どうせ体ほぐしにもならんだろうがな」

「まぁまあそう言わずに。……さて。品内流死克戦術半人前にして、炎虎流八極拳三番弟子、品内富士見」

「炎虎流八極拳六代目師範、周李炎」

 

 

 

 

「「参る」」

 

 その瞬間、炎が燃え上がるかのような、虎が大地を喰らうかのような、二人の怒濤の攻撃が始まった。




うちの富士見の何が問題って、声を脳内再生できないこと。見た目と口調があってないって意外と困りますね……いかんせん日記形式なもんで、時々富士見が八歳の小僧だってこと忘れます。で、戦闘描写の時に『コイツ八歳やん』ってなるって言う。

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