気をつけて!!
この街では不治の病が蔓延していた。
体は固まっていき、いずれ動けなくなる。
そんな病気に苛まれているのは私だけじゃない。
だから私は辛くない。
私だけが特別なんかじゃない。
だからお願いです神様。
特別じゃない私にも夢くらいは見せてください。
「くひひ、小娘。 この僕と契約しないか?」
ふと聞こえたその声は幼く、まるで子供のような柔らかい印象を受けた。
「誰……ですか?」
すでに目までが不自由になり視力がない私に、その声の主を確かめる術などなく、問いかけることしかできなかった。
「僕かぁ? 僕は、世にも恐ろしい悪魔、でびでび・でびるだぁ」
神様にお願いしたつもりが、実際に私の前に現れたのは悪魔さんだった。
「悪魔さんが、私になんの用ですか? 見ての通り私の体はもう動かないですし、あなたを見ることもできません。 こんな私と、何を契約するというのですか?」
「小娘、自分で願ったことも忘れたのか? 『夢くらい見せてください』って。 だから僕が見せてやる。 そのかわり、小娘、お前が死ぬまでの間だけだ。 お前が死んだら、その魂は僕のものだ」
私の問いに、悪魔さんが答えてくれていないことはわかった。
それでも私は、自由を、青空の下を、夢を見たかった。
「こんな薄汚れた魂でよければ、どうぞ持っていってください」
「では、契約成立だな」
瞬間、暖かい風が私の体を覆い、凍っていた体が再び動き出す。
真っ暗だった目の前がゆっくりと光を通し、見えなかったはずの視界が拓けていく。
そして、私の寝ているベッドの上にちょこんと座った愛くるしい悪魔さんは私に向かって手を差し伸べる。
「問おう小娘、お前の名前は?」
私の、名前。
「ルル、です」
そう言って私は悪魔さんの手をとった。
「そうか、ではルルよ。 僕と一緒にいこう」
そして悪魔さんは宙に浮き、繋いだ手を通して私も浮き始める。
「行くって、どこにですか?」
「お前が夢見た、たくさんのものを。 お前の目で、見に行くんだよ。 僕ってばなんて親切なんだ、くひひっ」
神様を信じていないわけじゃない。
シスターはとても優しいし、神父様も面白い話をたくさんしてくれた。
それなのに、実際に私を救ってくれたのは悪魔さんだった。
「あの、悪魔さん」
「なんだ? ルル」
「どうして、私を助けてくれたんですか?」
私にはどうしてもそこがわからなかった。
だって私は不治の病にかかったどこにでもいる娘で、私より苦しい人やもっと救われるのにふさわしい人はたくさんいるのに。
「勘違いするな小娘。 僕は確かにお前に話を持ってきたが、僕はお前を救うなど言っていないぞ。 お前が死ぬまで、僕からしたらほんの一瞬だけど、言うなら僕の暇潰し相手だよお前は」
「暇潰し、ですか」
「そう、あくまで暇潰し。 結果的にお前を助けるような形になっているけど、それも元を正せば僕のためだ。 だからお前は勝手に僕に救われて、僕の暇潰しの道具としてせいぜいがんばれ」
死ぬまでだけどね。 くひひ。