「ねぇ、でびちゃん……」
小娘は言った。
弱った体で、ベッドに横たわりながら、静かに。
「魔法も効かない、薬もない。 こんな病に殺されるくらいならいっそ……」
小娘は続きの言葉を躊躇った。
口を噛み締め、悔しそうな顔をしながら。
「契約するか? 小娘」
僕は悪魔だ。
情なんかかけないし、ましてや一人間ごときに一喜一憂なんてしない。
なのに、僕はどうしてこんな提案をしてしまったのだろうか。
「お前が死んでも、お前の魂は僕が所有する。 だからまた二人でなんでも出来るぞ」
だから、契約してくれ。
「……それはできない」
「どうしてだ!? もっとたくさんやることがあるんじゃなかったのか!? もっともっと、いっぱい、楽しいこと、あるって、言ってた、のに……」
「ごめんね、でびちゃん……」
また僕は失うのか。
大事だと思ったものを、守ることもできずに。
悪魔だからか? 悪魔だから小娘を助けられないのか?
「でびちゃんは優しいね。 これから一緒にはいられないけど、魂もあげれないけれど。 一つ、お願いがあるの……」
お願い?
契約でもなく、個人的な頼み事。
守らなくてもなんのペナルティもない、そんな言葉だけを僕に残そうというのか?
「もし、私みたいに辛い目にあったまま、何も知らないまま世界から消えてしまう子がいたら、助けてほしいの。 この世界の凄さを教えてあげてほしいの」
「それが、お前のお願いか? 僕が守る保証はどこにもないぞ?」
「大丈夫。 でびちゃんは必ずやってくれるから」
なにを根拠に言っているんだこの小娘は。
「そろそろ、お願い」
「……」
「私、必ず生まれ変わって、またでびちゃんの前に現れるから。 そのときは、私だってちゃんとわかってよね」
「…あぃ」
そして僕は、小娘を殺した。
あのとき口を噛み締めて声に出なかった言葉を、僕は叶えた。
「小娘、お前はひどい奴だな」
―――
「悪魔さん?」
ふと呼びかけられ、感傷から目覚める。
「どうした?小娘」
「えっと、私たちどこに向かっているんですか?」
「お前が夢見たものに向かっているぞ」
はっきり言って、僕がこの小娘に付き合う理由はない。
なんでこの小娘なのかと聞かれたら、僕はなんとなくと答えるだろう。
それでも、あの小娘のお願いがなければ僕は、この小娘にすら見向きもしなかっただろう。
お前は死んでもなお、人を助けようとしてたのか。
僕とは大違いだねぇ。
「さあ、もうすぐ着くぞ、小娘」
「あれって……」
「そう、この世界に多く存在している迷宮。 お前が一度は行ってみたいと夢見てた場所だ」