目の前に突如として出現した炎を、赤い子は錬金術と教えてくれた。
私はそれを喰らった、けれど錬金術は色々必要なものがあるらしくて、私には使えないとわかった。
しばらくしてから炎は消え、赤い子とリゼ様の姿はなかった。
と、そこに後ろから声が聞こえる。
「おい小娘、勝手に一人でうろつくな。 僕が探さなきゃならなくなるだろう」
今まではぐれていた悪魔さんの声だった。
「もう、遅いですよ悪魔さん。 んー、そろそろ名前で呼んでもいいですか?」
「僕のことをか?」
「いい加減悪魔さんって長いと思うんですよね」
「様を付けるなら許してやらんこともないが」
「じゃあでび様とお呼びしますね」
「うむ」
「それで、次の迷宮はどこにあるんでしょうか?」
「それを探すのも冒険の一つではないか?」
じゃあやっぱり情報がほしい。 それもできるだけ正確で確信がある情報。
となれば、さっきの子逃がしたの良くなかったかなぁ。
「でび様、ヘルエスタ王国ってあるじゃないですか。 あそこ情報集めにはもってこいだと思うんですよね」
「街の人間どもに聞き回るのか? めんどくさそうだな」
「いえ、王族の人たちに聞こうと思いまして」
「え、街の人間どもじゃないのか……?」
「それだと確かな情報かどうかわからないじゃないですか。 だから確か情報持ってそうな人に聞こうと思うんです」
「その結果王族に話聞きに行くっていう発想が出る時点でお前相当ヤバい奴だぞ?」
「そうですかね? でも大丈夫ですよ! ちゃんとお友だちがいますから」
今思い返しても可愛い子だったな。
白い髪に赤い瞳。
柔らかそうな体つきに怯えた表情。
また会えないかな、リゼ様に。 ふふっ。
私は溢れる感情を抑えきれず、口元を微笑ませて笑みを浮かべる。
―――
「ヘルエスタ王国が管理する迷宮、攻略した人物の名前はルルと言います。 あいつはなにかとんでもない力を持っていると思います」
そう、言わざるを得なかった。
結界は破るし存在を感知させない。
そんなことができる奴が普通の人間であってたまるか。
「そのルルという女の子は、一体なにを目的として動いているのかしら」
「おそらく、別の迷宮の攻略だと思います」
「別の?」
「先ほど対峙して聞かれたのは次の迷宮の場所でした」
「そう、ならこの国にはもう用はないわね」
女王陛下は安堵からか、ほんの少しだけため息を漏らす。
「あの、失礼ですが女王陛下。 少しお疲れなのでは? 今日はもう休まれてはいかがですか?」
「そうしたいのは山々だけど、この子の面倒もあるし……」
以前女王陛下から離れようとしないリゼ皇女を私は力ずくで引き剥がす。
「リゼ皇女の面倒なら私が見ますので、どうか。 あなたまでが病に倒れられては本末転倒です」
「そう、本当にありがとう、アンジュ。 リゼ、アンジュの言うことちゃんときくのよ」
リゼ皇女は無言で頷くと、その小さな手で私の手を握ってくる。
それから女王陛下がお休みになられるのを見届けてから、私たちはリゼ皇女の部屋に向かった。
「アンジュさん」
「ん?」
部屋につくと、リゼ皇女はベッドに座りながら話しかけてきた。
「さっき、呼び捨てで私のこと呼んでたよね?」
「え、そうだっけ?」
そうだったかな。 そうだったような?
「私も、アンジュって呼び捨てにしていい?」
「そりゃあ構わないけど、どうして急に?」
「なんとなく」
「なんとなく、って……」
するとリゼ皇女は私の手を引き自分の隣に座らせてくれる。
「これからも私のこと守ってよね、アンジュ」
そう言ってリゼ皇女は満面の笑みを私に向けてくる。
きっと10年後だろうと、君のその笑顔を守ってみせるよ。 リゼ。