その日は遅くまで城の中にいて、帰る頃には空に星が見え始めていた。
「本当にいっちゃうの?」
寂しそうに見つめるリゼの頭を撫でて、私は城を後にした。
裏門から外に出て、自分の小屋へと向かう。
当然ルルがいる可能性も考慮し、兵隊を二人ほど同行してもらった。
「アンジュ様、その、ルルとやらは本当にあなたの結界を破るほどの力があったんでしょうか?」
「まず、私に様付けはやめなよ。 そして、あいつは私の結界を軽々破ってきた。 それも私に気配を気づかせずに」
「……、私どもにはどうも信じ難いのです。 あなたの結界はこの国で一番強力なはず」
「この国で一番強力だろうと、迷宮の力には及ばないってことだね」
迷宮、聞いた話だと世界に百幾つも存在しているダンジョン。
攻略している者は少ないと言うが、こんな近くに現れるとは思わなかった。
「それにしても、どうして裏門は開いていたんですかね」
すると、もう一人の兵士が徐に話し始める。
「だっておかしいじゃないですか。 普段閉まっているはずの門が偶然開いていた。 しかも警備の兵もいない。 まるで誰かを誘導するように」
「何がいいたい? リゼは無事だし、今のところルルも城の中に入っていない」
「敵は、迷宮攻略者だけじゃないって、言ってるんですよ」
瞬間、鈍い音と共に声にならない悲鳴が耳に飛び込んでくる。
「なっ!?」
「本当に気づかなかったのかよ、まぬけ」
後ろを振り返ると、二人いたはずの兵士は一人しか立っておらず、もう一人は地面に倒れ血を垂れ流していた。
「お前、なにもんだ?」
「答えるとお思いで? いやぁ、あんたの感知スキル、掻い潜るの大変だったぜ。 あと、あの結界を破るのも、破ったことを悟らせないのも、すんごい苦労したが、それなりの情報は手に入った。 後はおうちに帰るだけだ」
なるほど、隣接する国のスパイってことか。
城に貼っていた結界が欠けていたこと、それを城に行くまで気づかなかったこと、全てこいつの仕業か。
「ついでに、あんたの錬金術も盗めれば万々歳なんだがな」
「私も殺す気?」
「いや、おとなしくしてくれるなら一緒に連れていくんだが、どうだろ? 歓迎するぜ」
つまり私にこの国を裏切れと。
「悪いけど、私はこの国をもう裏切らない。 女王陛下に救ってもらったこの命、最後までこの国に尽くすと決めた女の本気思いしれ!」
両手を合わせてから地面に手をつく。
そしてそこから錬金術で槍を造る。
「へぇ、さっすがは錬金術師。 でも、さっきも言ったようにあんたの錬金術で出来たもの、もう俺には通用しないよ」
「出任せ言うならもっとうまいこといいな? 私の結界破った程度で調子乗ってっと痛い目見るよ」
私槍を地面に突き刺す。
そして地中で槍を更に造っていく。
相手の真下まで槍を伸ばした所で一気に地上を貫く。
が、その槍は一瞬で砕けて土に戻っていく。
「なっ!?」
「だから言ってるだろ? すんごい苦労したって」
私の錬金術を一体どうやって?
錬金術を無効にするなにかがある?
それとも錬金術を即座に逆算して分解している?
もし後者なら、逆算しきれない量で圧倒すれば。
私はもう一度手を合わせて地面につく。
今度は槍の形成ではなく、小さいクナイをたくさん造る。
そして一気にあいつに刺す。
だがクナイは彼に当たる瞬間で砕けていく。
「錬金術の分解じゃない」
「ヒントを教えてあげようか」
ヒント? 舐めすぎじゃね私のこと。
瞬間、そいつは目の前から消えたと思ったら私の背後に現れた。
「ヒント1、俺の祖国は魔法が得意だった」
こいつ、いつのまに……。
後ろを振り向いた瞬間私はそいつに蹴り飛ばされ、近くの木にぶち当たる。
ぐっ、いってぇ……!
「ヒント2、魔力を生まれ付き持っていた俺はある程度魔法に体制がついていた」
そいつは木の前に横たわる私の脇腹を更に蹴りあげる。
「ぐっ……!」
「ははっ、さっきまでの威勢はどうした? 錬金術師様よぉ」
うまく呼吸ができない、苦しい。
「ヒント3、俺の体は魔法で強化されている」
魔法で体を強化……?
そうか、こいつ自分自身をエンチャントしていたのか。
おそらく強化内容は物理攻撃無効、強化解除、探知不能。
「まあ生きてなくてもお前持ち帰れりゃそれでいんだわ。 だから、もう死んでいいぞ」
まだうまく呼吸ができない。
手が動かない。
錬金術が発動できない。
あぁ、死ぬんだ。
―――
なぜそうしたかはわからない。
けれど、私の体は無意識にそうしていた。
「いただきます」
「え?」
バクッ。
一口、丸のみ、ごっくん。
スキル:捕食者によりスキルを獲得。
スキル:エンチャントを入手。
エンチャント、魔法による物、又は身体の強化を可能にする、か。
なかなか良いスキルが手に入った。
「こんばんわ。 またお会いしましたね」
「お前、なんで……?」
「苦しそうですね。 今助けますね」
私はポケットから迷宮で手に入れた薬を取り出す、
「この薬すごいんですよ? どんな怪我も傷も即座に治してくれるんです」
私は赤い髪の女の子に薬を飲ませる。
「どうですか? 楽になりました」
「……どうして私を助けたの?」
「どうしてって、目の前に傷ついた女の子がいたら、誰だって助けると思うんですけど」
「だってあんた、私たちの敵なんじゃ」
一体全体、どうして私とあなたたちは敵対していることになっているのか。
「私、あなたたちになにかしましたっけ?」
覚えがなくて困惑するしかない。
「だってあんたの気配感じ取れなかった。 それに私の結界も破るし、おまけに人の話聞かないから敵だとばかり……」
「その気配って魔力で感知する系の力なんじゃ? 実は私魔力を一切持っていないんです。 あとリゼ様に会えて次の迷宮の情報が聞けるかも、って思ったら思い上がっちゃって」
それで人の話が聞けなくなるの、やっぱり直したほうがいいよね。
「つまりヘルエスタに対して敵対してるわけじゃないんだね?」
「敵対なんてそんな! 私迷宮の情報さえもらえれば何もしないですよ!」
「なんだ、そうだったのか」
なにか安堵したのか、赤い髪の女の子は肩を撫で下ろす。
「あの、お名前聞いてもいいですか?」
「あぁ、私の名前はアンジュ・カトリーナ」
「アンジュさん。 アンジュさんって王族の人に会えますよね? リゼ様とも一緒にいましたし」
「敵対してるんじゃないんなら、一度掛け合ってみるよ。 けど、まずは私の小屋に来てくれるかな」
「わかりました!」
やった! やっと次の迷宮の場所がわかる!
楽しみだなぁ! 今度の迷宮はどんな敵がいるのかな!
私は胸をわくわくさせながら、アンジュと小屋へ向かうのだった。