きっと私の夢というのは、一生叶わないのかも知れない。
叶えた途端、また別の夢がでてきて、それを叶えようとする。
永遠に終わることのない、そんなループになってしまう。
少し、昔の夢を見た。
まだ体が固まりきる前の、ほんの少し自由だったときの夢だ。
「体調はいかがですか?」
神父様は優しく語りかけてくれた。
「今日はとても気分がいいんです。 いつもより体が動く気がして」
「それはよかったです。 でも、あまり無茶をしちゃいけませんよ?」
その人は、優しくて温かくて、まるで本物の神様みたいに思っていた。
けれど、そんな神様みたいな人でも、この病気は治せないんだと、私はわかっていた。
この隔離病棟で、毎日誰かが死んでいく。
そんなだれにも治せない病なら、もう祈ることしかできない。
だから隔離病棟に神父様とシスターがいてくれる。
自分も発祥するかもしれないのに。
「さあ、お部屋に戻りましょう」
手を差し伸べてくれる神父様に、私は首を横に振る。
「いえ、神父様。 私は一人で戻れるので」
「そうですか。 では気をつけてくださいね」
「はい。 それじゃあ」
―――
そこで私の目は覚めた。
どこか懐かしく感じたこの夢を、どうして今見たのだろうか。
「目覚めた?」
「アンジュさん。 私寝ちゃってましたか?」
「うん。 小屋に入ってからすぐ。 きっと疲れてたんだね」
「そういえば、あの人は?」
私はアンジュさんと一緒に連れてきた兵士について訪ねる。
「止血はできた。 脈も安定してる。 多分もう大丈夫だと思う。 ルルさんの薬、本当になんにでも効くんだ」
「よかったです」
「……ねぇ、ルルさん。 あなたのスキルって、どういう力なの?」
アンジュさんは私にそう聞いてくる。
「私のスキル、ですか? えっと、最初に手に入れたスキルは捕食者で、次に手に入れたのはエンチャント。 捕食者は喰らったもののスキルや力を使えるようになります。 そして、さっき喰らった人のスキル、エンチャントは魔法による強化状態を物、または自分自身にかけることができます」
「ははっ、私の感知スキルとは比べ物にならねぇな。 さすが迷宮」
「アンジュさんって、錬金術師なんですよね? 錬金術って、魔法とは違うとおもうんですけど、具体的になにが違うんですか?」
「簡単に言えば、魔法は物理法則を破る代物で、錬金術は物理法則に則った代物ってことかな」
うーん……? どういうことだろう?
「火のないところに煙は立たないって言うじゃん?」
話が理解できていない私を見兼ねてか、更に分かりやすい説明をしてくれる。
「魔法ってのはつまり、火がないのに煙を出したり、煙を出さない火を出したりするけど、錬金術は火を起こさないと煙を出せないし、火を起こしたなら煙は出てしまう。 つまり錬金術ってのは煙を出したかったら火を起こす、みたいなプロセスが必要なんだ」
「つまりなにかをするために別のなにかをしなきゃいけない……ってことですか?」
「端的に言えばそうだね。 そしてそのなにかをするための全てを術式と呼ぶ。 術式は複雑になればなるほど強力な錬金術を使うことができる」
難しい……。 そんなことしなくても、力技でどうにかなりそうな気もするけどなぁ。
「迷宮ってさ、たくさんの人が挑んだんだけど、命を落とす人のほうが攻略する人より多いんだよ。 そんな迷宮を攻略するためには力が必要で、私が力として使えるのはこれしかないって思ったんだ。 だから私は錬金術を研究するし、錬金術で迷宮を攻略することで、魔法とかなくても戦えるってことを証明したかったんだ」
でも、と続けて話そうとしてるアンジュさんの声が、少しずつ震えていく。
「私、今日、初めて人と戦って、錬金術で、負けた。 相手にヒントもらって、それでやっと相手の力がわかって、それでも、どうすることもできなくて、痛くて、苦しくて……」
大粒の涙がアンジュさんの頬を流れていく。
「リゼに、10年後だろうと守るなんて格好つけてたのに、あっさり負けてしまって……」
私は優しくアンジュさんを抱きしめる。
その気持ち、痛いほどわかる。
目の前で人は死んでいくのに、なにもできない。
自分は無力だと思い知らされる。
どうしてなにもできなかったのだろうか。
きっとそういう感覚なんだと思う。
「大丈夫ですよ、アンジュさん。 もう、大丈夫です」
今の私には力がある。
人を救える。
けど、すべての人を救えるわけじゃない。
すべての人を救うためにはもっとたくさんの力が必要だ。
そのためには早く、次の迷宮にいかないと。
私の胸で泣き崩れるアンジュさんを抱きしめたまま、私は自分の中にほんの少しだけ焦りを生んでしまった。