聞いてよかったのか、それだけが今の話を聞いた感想だった。
「悪魔と契約って、魂を、かけたの?」
しばらくの沈黙の後、口を開いたのはリゼだった。
「そうですね。 そうするしかないですから」
「なんの後悔もなく?」
「はい」
「……そう、なんだ」
リゼはルルさんの答えに酷く顔をしかめた。
「迷宮を探してる理由もわかりました。 それに、あなたの素性も。 でも、魂をかけたということはあなたはいずれその悪魔に魂をとられるってことですよね?」
「私は、私の見たいものを見せてくれるでび様に感謝しています」
「それは、自己満足じゃないの……?」
「はい?」
リゼはしかめた表情を崩し、涙を流し始める。
「お父様も、お兄様たちも、お姉様でさえも、大丈夫と口を揃えて言ってた。 私を心配させまいと、でも! 結局みんな嘘だった! ただの嘘で、私を騙して自己満足してるだけだった! その結果病は悪化して、お母様が苦労するはめになっている! 本当ならしなくてよかったことも、お母様が一人で……!」
リゼ……。
すると、ルルさんは至極冷静な目をして言った。
「お父様も、お母様も、ご兄弟も素晴らしい家族愛ですね。 きっとその大丈夫という言葉であなたは救われたのでしょう。 例え嘘だとしても、皆様の嘘は愛で出来たもの。 でも、愛はもらうばかりではいけませんよ、リゼ様。 アンジュさん、夜も遅いですし、私は小屋へ戻らせてもらいますね。 もしよろしければ迷宮の情報、アンジュさんから聞いてもらえないですか?」
「え、私から?」
不意のお願いに私は聞き返す。
「きっと女王陛下も同じ病にかかっていると思います。 でもそれは誰のせいでもありません。 一応あなたにこれを渡しておきます。 あなたに飲ませたのと同じ薬です。 それでは、お願いしますね」
そう言うとルルさんは、城を後にした。
女王に会えるとウキウキしてみたり、やっぱり私に聞いてこいとシュンとしたり。
「リゼ、大丈夫?」
「私、酷いこと言っちゃった」
「あぁ、大丈夫だよ。 ルルさんならまた会ったとき謝れば……」
「違う。 あの人にじゃない」
「え?」
「私、みんなのこと、自己満足って……。 私、私……」
その苦悩は、幼いリゼには大きくて重すぎる内容だ。
「リゼ、大丈夫だよ。 大丈夫」
私は優しくリゼの頭を撫でる。
この小さな頭が、抱え込んでしまったものはきっと小さくない。
それがいつかリゼを苦しめてしまうのかも知れない。
けど、そのときは私がそばにいるから。
「本当は気づいてた。 お父様たちみんな、私のために嘘をついてたって。 でも、私は日に日に弱っていく姿を見るのが辛かった。 魔法使いも錬金術師も医者も、どうすることもできない現状から、少しでも目をそらしたかったんだ」
ルルさんの言ったことは間違ってはいない。
嘘偽りがない真実だ。
だからこそ間違っている。
真実だけが正しいわけじゃない。
「お母様も、病気なの?」
リゼは不安そうな声で私に聞いてくる。
「たぶんルルさんが言った通りだと思う。 けど、ルルさんからもらったこの薬があるから大丈夫!」
そう、お思っていたんだ。