従魔にはレアリティがある。星一から星十六まで一応存在する。大きく分けて六種類の従魔に分類される。
天種は星や空を司る、その多くが天使系列の従魔。
死種は死の概念を超越した従魔。
龍種はその名の通りドラゴン。
機種は機械以外にもただの物質や、人工生命なども含んだ、作られた存在。
野種は人間以外の動物。
緑種は自然そのものや、虫。
フレーバーテキストではあるが、召喚には本人の気質や従魔の需要を満たしている必要があり、ゲームでは一部リミテッドキャラがその存在を確認、イベント戦闘で勝利する。と、基準を満たさないと召喚枠に入らない設定がある。これはリセマラ無双対策だ。確実に課金させに来ている。
話を戻そう。リミテッドキャラは一度加入すれば入手フラグが立っている間は召喚されることもない一点物だ。『手放す』ことも出来ない。しかし、ロストはするので、再入手がかなり面倒である。
一番簡単に入手出来るのは、メインストーリーをクリアして加入する従魔だろう。それは、ここ『資源都市ヴエルノーズ』にも存在する。
なお、メインクエストで加入したリミテッドキャラでも、ロストしたら召喚し直す事で再加入される。
「…………このゲームってロストするんですか?」
椅子に座り話を聞いていたイケメン君。原田樹少年が右手を上げて質問した。
「むしろ法規制が入った後のソシャゲは全部ロストするよ。より課金させる為に、課金で入手したキャラクターでも死ねばロストする。石を使えばロストは回避できるから、一つでも持っておくことだね」
酷いゲームだと強制イベントや負けイベントを挟んで全ロスさせるゲームもあった。まあ、それは裁判で慰謝料支払いと全データロールバックからのシナリオ変更で会社が潰れたけど。
「ソシャゲってマジでクソだって聞いてたけど事実だったんですね……」
「ゲーム業界を衰退させた戦犯でもあるからね。基本料金無料とかいう制度とか悪しき風習だよ」
何より、会社の方針一つで何もかも残らず明日消えてもおかしくないゲームだったのだ。数年後にはデータも残らず、ただ思い出と消費した金だけがその存在を証明する。
「その分法規制後のゲームで人気だったのはちゃんと良作ゲームだったよ。これもマイナーだったけど、金さえあれば色んな楽しみ方が出来るゲームだった」
サービス終了後にも入手したキャラデータとモーションデータがプレイヤーに渡されたからね。中にはスマホのサポートAIグラフィックにこれを差し替えたプレイヤーもいる。俺だ。
「このゲームは何がしたいのか目的をもって行動した方がいい。どう遊ぶにしろ、最低限の戦闘は入るからそれを捌く能力は必須だよ」
そういう点で考えれば、ここヴエルノーズは丁度いい戦闘訓練場だ。
インフレゲームの代名詞たるソシャゲでも、調整で初期キャラの強化が入ればちゃんとゲームバランスは保てるのだ。
このゲームも後から入ったキャラの方が強いには強いが、コンセプトパーティを組む分には初期キャラもちゃんと手に入れないと動かない。
そして、このゲームは育成ゲーにしてRPGだ。戦闘にこそ最も力が入っているので、工夫した戦い方で勝つのが正しい遊び方になる。
「ヴエルノーズでのメインストーリーは未強化ピクシーでも攻略可能だ。加入キャラが前衛物理DPSだからね」
「……昨日相手にした、氷炎のマリオネットという敵を相手にしてもですか?」
「それなら多分負けるね。対策スキルを持っていけばピクシー単騎でも勝てるよ。強化は必須だけど」
柊菜は昨日自分が勝てなかった敵を今後の敵として想定しているらしい。考えとしては悪くない。メインストーリー後半じゃなきゃ召喚士相手には戦わないけど。
「まずは、自分の使いたい従魔は何が出来て何が苦手かを把握するんだ。そして、それに合わせたスキル構成と、弱点や足りない部分を補える従魔を用意する」
そうやって試行錯誤をして、最終的に使いたい従魔がパーティから外れれば、勝てるパーティの完成だ。
パーティを作るにしても、まずは召喚石が無いと始まらない。
フリークエストを受けようと召喚士ギルドの扉をくぐる。後から学生二人も付いてくる。
先日も視線が集まっていたが、今日もそこまで変わらない人数がギルド内に留まっており、視線を寄越してくる。
「な、なんか見られているんですけど」
「新入りだからね。実力でも見定めてるんじゃない?」
地上の召喚士ギルドにいるNPCなんざ敵じゃないので気にしないで進む。
受付のおっさんが目を丸くしていた。
「……無事だったみたいだな」
「まあ、あの程度じゃね。結果はわかりきっていたよ」
「大口叩ける程度には力があるようだな。んで、今日は何の用だ」
「適当に依頼を受けたいんだけど」
「カウンター脇の掲示板に新入りでも受けられるクエストが貼ってある。適当に選んでもってこい」
おっさんが示した方には、張り紙まみれの掲示板があった。会釈だけをしてさっさと離れる。
背後から、扉を開けて誰かが入ってくる音が聞こえる。先程までの喧騒が一瞬で静まり返った。
何事かと振り返ると、真っ白なダンサースーツにこれまた真っ白なシャツとスラックスの男が歩いてきた。
同色のヒールを履いており、カツカツと響かせて歩く。細身でありながらガッシリとした筋肉質の体、そして大きなピンクアフロ。
全長二メートル五十センチくらいの大きな男が胸元くらいに頭がある背丈の男を連れてカウンターへ向かっていた。
「ブッ……」
「静かにしろ」
吹き出して笑いそうな樹少年の口を塞ぐ。想定外のエンカウントで冷や汗が流れる。
彼こそが、俺の唯一危険視している男『ミラージュ・バトラー』という人物だった。
「相変わらずシケた所ネェ。そう思わなイ? ザコイ」
「そうっすね! ミラージュさん!」
「…………何しに来た」
受付のおっさんが低い声で尋ねる。ミラージュは腰に手を当てて周囲を見渡した。
「昨日ウチのヘボイちゃんが逮捕されたらしくてネェ。誰がやったのか気になって来たんだけドォ」
「……ウチは関与してない」
「知ってるワァ。それに、ギルドマスター以外はボクにかないっこないんだかラ、やるとしたら、新顔だと思うのよネェ」
そうして、俺達の方を向くと、顔を寄せてきた。
「キミ達、見たことない顔と服装だよネェ……」
「……」
「ンー。見た感じ女の子が強そうな死種の剣士を連れているけど、それじゃあマリオネットには勝てないわネ。見当違いかしラ」
ミラージュは、顔を離すと、ギルドから出ていく。
「怖がらせちゃってごめんなさい。また気が向いたらくるワ」
「…………なんっすか、アレ」
顔を強ばらせている樹が止めていた息を吐いた。
柊菜は肩を抱いて震えている。
「アレが、ここの地下でボスをやっている男『ミラージュ・バトラー』だよ」
初心者殺しでもある、非常に強力な召喚士だ。
気を取り直して、依頼の時間である。
「……あんな怖い目にあったのに、なんで俺達外にも出ないで畑仕事してるんですか?」
どうせ今会おうが後で会おうが変わりはしない。メインストーリーで市長の家に行けば遭遇するからな。
所変わってここは街外れの畑。今回受けた依頼は作物の収穫である。
実はこの依頼、ソシャゲでもミニゲームとして遊べる依頼なのだ。
斬属性の攻撃か風属性などの攻撃で、畑にある野菜オブジェクトへ一定以上のダメージを与えると、収穫される。一定時間でどれだけ収穫できたかスコアを争うゲームなのだ。
高スコアを狙うには、範囲攻撃持ちか、攻撃速度の早い従魔が欲しいが、今回は依頼クリアを目指す。ピクシーだけでもクリアだけなら出来るだろう。
一番収穫効率が良いのはエンドロッカスである。通常攻撃が斬属性なので。
「ウィード、爪攻撃準備」
「任せろ!」
打てば響くような返事をするウィードを見て、柊菜が訝しそうな目をした。
「……いつの間に仲良くなったんですか?」
「好感度イベント回収しただけだよ」
従魔を召喚しているだけでも好感度は上がるし、好感度アイテムを与えれば大きく上昇する。そうしてイベントを起こしていけば、レベルアップをしなくても強化には繋がる。
ウィードの第一イベントは龍種の強さを十分に引き出すアビリティが手に入るものなのでさっさと解放したのだ。むしろコレが無いと龍種の強みが大きく薄れる。
今は使わない。戦闘向けアビリティだから。
「それじゃあ昼までに終わらせるよ。規定スコアより少ないと失敗だから気をつけてね」
ウィードへ指示を送ると、素早く爪を使って野菜を根元から収穫していった。
根菜の類いは触れていない。アレは土属性の攻撃でしか回収出来ない面倒くさいオブジェクトだから。
俺はウィードが切り離した野菜を集めて収納箱へ詰めていく。
樹少年とピクシーのシーちゃんは、二人で野菜を収穫している。エンドロッカスは一人で剣を薙ぎ払い野菜を切り飛ばしている。
「す、すごい……!」
「単純な性能が違うからね。上手く使えば生活にも役に立つから需要だけは高いんだよ。召喚士って」
とはいえ、これはミニゲーム。プレイヤーもいないこの世界では、あまり人気の無い依頼だったらしく、大量に余っていた。
農家が自力で収穫する前にさっさと依頼を受けておきたい。三人で一つずつ回せば一週間もしないうちに依頼は全部回収出来るだろう。
「さあ、石を集めるよ」
二体目を召喚する準備が欲しい。とりあえず石は十個集めておくべきだろう。
召喚石。プレイヤーの行動力回復や、従魔のロスト回避。召喚、素材変換など、その使用用途は多岐に渡る。
召喚枠の増加には一枠に五個消費し、召喚では三個消費する。基本的に一度の召喚で石は八個消費すると考えればいい。
二体の従魔の緊急ロスト回避として石を二個とすれば、次回の召喚に必要な石は十個である。
ちなみに、従魔には素材を生み出すものなど、様々な種類がいるので、最終的には石は召喚と枠にのみ費やせばいい。あくまでもスタートダッシュ用に使うのが素材変換などだ。
行動力回復は周回する時に必要になる程度だ。
「これが今回の報酬だ」
昨日と同じくおっさんから農作業の報酬を受け取る。
ちなみに高スコアを取れば報酬も良くなるので、スコア狙いでミニゲームを受けるのもありだ。馬鹿にできない報酬が貰える。
今回は最低限ノルマ分のスコアを取ったので、報酬も美味しくはない。
「はい。山分けしようか」
昨日よりも少ない報酬を三人で分ける。二人はこの世界の通貨であるシルバ、銀貨を受け取り、各々分かりやすい位置にしまった。
「召喚石も無くさないようにね」
二人がこちらの声に返事もせずにしげしげと見つめるのは、虹色の八面体結晶である召喚石だ。
畑作業での時間終了後、足元に転がっていたりポケットに入っていたのを見つけたのである。
石は全員が似たような方法で入手出来ることが確認出来た。これで全員が三個持っている事になる。
ちなみに俺は昨日氷炎のマリオネットを倒した後に一個入手している。
「この後はどうする? 宿と食事分の為にもう二回くらい今日はこのクエストを受けるつもりだけど……」
「俺は、このままで大丈夫です」
「……私、は。着替えが欲しいです」
柊菜がおずおずと手を上げた。
そういえば昨日から風呂にも入っていなかった。宿には一応シャワーがあったので、それを浴びればいいが、替えの服もタオルも無かったので断念したのだ。
「そうだね。生活必需品が欲しい。とりあえず休憩にして一度必要なのを買って宿に置いてからまた集まろうか」
両手をパンと叩いて、解散する事にした。商業区までは全員同じ道を通ったが、そこからは別々に行動する事にした。
「とりあえずスキル屋があるのか確認しなきゃだな……」
「魔法でも覚えるのか?」
俺の隣を歩くウィードが服を摘む。
ゲームでは召喚士は魔法やスキルなどは使えなかった。あくまでもこれは従魔を使って戦うゲームだからだろう。
「ウィードはタンクだからヘイト集めるスキルと遠距離攻撃が欲しいかな。まあ、お金が足りないだろうからまずは店があるのかの確認だね」
「私が覚えるのか……勉強は嫌いだ」
「今の所単体だから最強スキルセットを持たせたいけど、後々を見越して得意スキルしか覚えさせないから安心しな」
ウィードの頭に手を乗せる。ウィードは大人しく手を乗せたままだ。不満そうな顔もしない。
「ようやく始まってきた感じがするな」
思わず頬が緩む。
ソシャゲは終わらないゲームだ。それが現実になろうものなら、どこまで行けるだろう。
立ち止まってはいられない。