……あと話も進んでいません。
87話 復刻、資源都市ヴエルノーズ
自由とは何か?
社会や集団からの解放? 完全な公平? それともあらゆる人為的要因を排除した自然?
そのどれもが不自由でもある。集団からの解放は、必ず個人である必要が生まれる強制された側面を持つ。完全な公平はむしろそういった環境を国家や社会が保証し用意しないと成り立たないようなものである。完全な自然状態であるとすれば、自由とは運と環境の要因が大半を占めるものになるだろう。
自由とは何か? その答えは己の中で定義して限界を定めないといけない。人の圧力が嫌なら個人主義となり、機会の平等を求めるならリベラリズムとなる。
人が生きるには、それぞれの考えに合った環境で生きるしかない。その自らの意思決定の範囲内で自由を定義し、そのように振る舞うしかないのだ。
資源都市ヴエルノーズは、故郷から離れて土地に住み新たに生きていくだけの物を用意した場所だ。この地では暴力がほとんどを支配する。されど人はそこで生きていく。強者と弱者がいるのにも関わらず。
彼らは自由を求め、自立した人々だ。自らの手で都市を作り出し、産業を生み出した開拓民の側面がある。
だからこそ、暴力が街を支配しようと、それに従う。
彼らは自然の中を歩き、自らの手で守れる範囲を決めて、そこに線を引くように壁を築いた。それまでの道のりは、決して話し合いだけで作れるものではなかったのだから。
嗅ぎ慣れない硝煙のような匂いが、いつしか嗅いだことのある腐敗と性の混ざったとんでもない臭気と共に、潮風に乗ってやってくる。
偶然俺の鼻に届いただけのようで、思いっきりの顰め面を披露したのは他に誰もいなかった。
サブイベントというのは、基本的に本編のストーリーと直接関わらない世界観やキャラクターの掘り下げに使われる。
誰それの過去であったり、本編よりも少し未来の話だったり。形は様々だ。大抵は、クリアせずとも問題なく。しかし寄り道の対価として有利になる報酬があることが多い。
イズムパラフィリアでも、サブイベントはわざわざ踏まずともストーリー上にはあまり問題がない。
むしろ、難易度がメインストーリーに対して高く設定されており、立ち位置的には時間をかけてクリアする寄り道というよりかは、オープンワールドゲームの、プレイヤーを実質立ち入り禁止にする場違いな高レベルmobに近い。
つまりは、その街に初めて立ち寄った時点では、攻略非推奨。実質不可能ということだ。
その分、報酬は非常に優秀であり、高い経験値に、クリア報酬の配布汎用スキル。そして、一部リミテッド従魔のガチャラインナップ解放が行われる。
「…………と、いうことで。次なる目的地は最初の街ヴエルノーズだよ」
甲板の上。視界に映る開かれた港とそびえ立つ壁。外敵を防ぐために作られたはずのそれは、かつて俺達が街に入る時に見た形そのままを保っていた。
しかし、外縁部には大きな人型の肉塊が纏わりつき、街に入り込もうと外壁を叩いている。ヒビ割れようが穴が開こうが、即座に時間が巻き戻るように修整されていく。
海側ががら空きだと思いがちだが、イズムパラフィリアでは、浅瀬判定以外の水辺は海中移動や海上移動。もしくは空中移動系統のアビリティかスキルを所持していないと従魔ですら存在する事が許されないので問題ない。
ゲームシステムだと思われがちだが、単純に海が従魔であるだけだ。この世界の海は緑種従魔が埋め尽くしている。他の場所は従魔の力で満たされた水がある。飲んだりする分には無害だが、戦闘などの一部行動は制限がかかっているのである。
緑種従魔には攻撃力は無いけど特定の環境を作るアビリティがあるからね。仕方ないね。
こういった特殊フィールドでは、ショップ機能で買えるスキルが増えたり、豊富な経験値が得られるという、あればちょっと有利だったり便利になる程度の差しかできないコンテンツとなっている。無課金じゃ攻略できるか分からないせいでもある。持ち物チェック《特定のキャラなど、いわゆる人権《強力すぎるアイテムやコンテンツ、またはそれらを所有するプレイヤーを指して言われる》を持っているかどうかでコンテンツクリアが可能かどうか分かれる現象を指して言われる》だからエンドコンテンツ未満でトロフィー要素も極力排除しないといけなかったのだ。世知辛いね。
閑話休題。
今から行く街では高難易度コンテンツであろうとクリア不可能になるような要素は少ない。純粋な強化不足でもなければ、メインストーリークリアくらいのタイミングでゴリ押しできるようになっているのだ。
後は初見殺しがあるので対策する。それくらいの準備は欲しい。
「今の俺達で勝てるんすか?」
「樹少年達の手持ちでも、ミラージュは倒せるはずだよ。単体が弱いからギルドマスターは難しいけど」
「待ってください。そもそも、この街でわざわざ戦う必要ってあるんですか? 私達の戦力は相手よりも少ないはずです……。なら、今起きている問題の大元を叩くような立ち回りをしないとじゃないんですか?」
柊菜の疑問に頷きを返す。
「まあ、一理あるんだけどさ、リミテッド従魔って一体しか持てないから強力な能力を持っている奴が多いんだよね。それを撃破しておいたり、回収しないと後々キツくなるよ」
そもそも、俺達は別に個人で戦っている訳じゃない。従魔を召喚して群れを作って戦うのだ。単純に従魔一体増やすだけでも戦力は跳ね上がっていき、取れる戦術も手の届く範囲も広がっていくのだ。
自分のデッキを予め決めておき、排出率を高めるためにあえて特定のリミテッド従魔を解放しないというのはゲームでもあった手法だ。だが、そういったパーティーを使うよりも一通り揃えている方が最終的に強くなるのは間違いない。
産廃従魔を使える存在にするアビリティやスキル、そしてそれらを持つ従魔なんて幾らでもいるのだから。
それ以前に、極めて入出手段が限られていて全てがリミテッド従魔である聖女シリーズの一体を入手できる条件にもなるので、ここは攻略するべきである。
強いとか弱いとかそれ以前に、代用の効かないものばかりなのだから。
以前は樹少年の戦力増強にでもすればいいかと思ってもいたが、既にヒーラーの二枚目を確保していたので、こちらで有り難く使わせてもらおう。
「まあ、別に強制はしないよ。むしろ居残りでもして里香と合流を目的に動いた方が助かるしね」
その後の道中で実力が足りずに野垂れ死にしようがそれは自分の選択だ。最低限無理に突っ張るよりも逃げるように教えてきたつもりだから、これ以上介護する義務なんぞないだろう。
「ただ、この街で合流する場合は、やらかして逃げっぱなしだから多分街中だとどこに居ても襲われるよ。それならやり残しを終わらせて行くべきでもあるってだけだし」
「でも……」
「おっと、残念ながら、あちらは見逃すつもりはなかったみたいだ」
遠方から魔術の発動エフェクトが輝いている。射程の長さ。直線攻撃、エフェクトから相手の撃ってきたスキルを把握する。
「ウィード!」
「グルル……ルオオオオ!」
ウィードが飛び出し、予備動作の直後に飛んできた氷属性のレーザー系スキルを受け止める。
感覚がウィードのHPの減りを伝えてくる。一割が削れ、龍種覚醒の条件が発動したと同時に、スキルを撃ち返す。
「【地熱裂波】!」
ウィードが、宣言と同時に、高エネルギーを手にブレード状に形成されたそれを振り抜く。
轟音、そして突風。海が割断され、剥き出しの地表を黒く溶かす。街にまで届いた斬撃が道を作っていた。
地、炎の複合属性の高火力範囲攻撃スキル【地熱裂波】だ。このスキルの特徴は、使用従魔のステータスによって射程が大きく変動するタイプだというところだ。
低コストで基礎ダメージはそこそこ。無指定範囲スキルかつ高回転を誇るぶっ壊れ未満の優秀なスキルだが、魔法攻撃力に影響力を受ける効果範囲、いわゆる射程が変動するスキルであり、低レア従魔に対して事実上の使用制限が設けられている。
まあ、使うやつが使えば強いスキルの一種である。ウィードは属性と龍種という相性もあって、最終的なスキル候補の一つになる。それを流石に邪魔になってきた使い道の少ない金、シルバを消費してリリィから買い付けたのだ。
使い道は無くとも、腐ってもゲーム通貨というだけあって、持っていた金を全て使って買い付けたスキルは、それはもう効果抜群だった。
先程のスキルは、イレギュラーさえ無ければヴエルノーズにいるであろうゴーレム型の聖女が撃ってきたのだろう。それを押し返して余りある威力を見せつけてくれた。
「どうやら敵は、こっちに気付いたようだね」
「そりゃあこんな海にぽつんと一つあれば目立つっすよ」
「じゃあ、お先に! 残るのか街に行くのかは任せるよ」
片手を挙げてさらば。
早速道があるうちに行こうとしたら、樹少年がしがみついてきた。
「ま、待ってほしいっすけど!? このままメイン盾が居なくなったらどうするってんですかあの遠距離攻撃!」
「それを止める為の先陣だけど? 【跳躍撃】!」
「お、おれも捕まってるんすけどおおぉぉぉ!?」
今回は多めの積載量となったが、そんなものを無視してウィードが跳んだ。船が大きく揺れる。ミルミルと柊菜とアヤナは船に置いてきたのだが、跳躍中に後ろを振り向けば、ゆっくりと街へと向かってオセアンが船首を回している様子が見て取れた。
一度割れた海の底に着地し、間髪入れずに跳躍撃を撃つ。大きく飛び上がった勢いに負けて、樹少年が振り落とされた。
「アアアアアアアァー!? コール! コールゥ! シーちゃぁぁぁん! 助けてぇぇぇ!?」
悲鳴が放物線を描いて落ちていくのが背後から聞こえた。一応街中に落ちそうなので大丈夫だろう。
ウィードの背を蹴り飛び上がる。
着地地点にいた有象無象を吹き飛ばす。その衝撃が自分にも届き、風が落下速度を微かに削った。
「クレスト!」
「オーダーを受諾」
ラインクレストを喚び出す。本来の姿を取り戻してはいないが、それでも一応超高速機動兵器だ。背面の錆びて落ちたウィング部分が微かな推進剤を噴射した。
そしてふわりと着地する。流石にウィードのスキルの慣性をエンドソーマで殺してしまうと俺がミンチになる可能性がある。無事な確証がない限りは無茶はしない。
「ミッションコンプリート」
「よくやった」
俺を地面に降ろしたラインクレストが、そのまま待機モードに入る。武装のほとんどが欠けているため、素の──全身機械に素という表現が正しいのか──体のままである。
思った以上に、背は低かった。
上目遣いで見上げるような姿勢のまま待機しているラインクレストの頭を撫でた後に、頬を軽く摘んだ。
「……?」
「意外と柔らかいもんだね」
「ラインクレストは国防機能です。そのため、主に国民感情に配慮されたボディをしております。利用された経験はありませんが、終戦後など、国内パトロールを任されたり、地方の不足した人材へ派遣案もありました」
「へえ、始めて聞いた」
「はい。戦争末期では、終戦後、などといった未来へのシミュレーションは禁止されておりました。国防機能以外では、スローガン決定などで活躍をしております。ラインクレストの最優秀賞は『心は捨てろ。折れる心無ければ無敵である』です」
「クオリアを認められた機械とは思えない言葉だな」
「メカジョークを交えたつもりでした」
もにもにと弄んでいた頬を手放そうとすると、素早くラインクレストが腕を掴んでくる。
「ですので、ラインクレストの機能には、人肌を好むようシステムが組み込まれております」
「……それも、始めて聞いたね」
「母船にて、全ての機能をご説明できる機会をお待ちしております。それまでは、適度なスキンシップで、当機のメンタルヘルスケアをお願いします」
万力のように動かなかった手が離れた。名残惜しそうに離れるような動作すらも可能らしい。
「さて、ここは敵地だ。とりあえず、地下を目指して行こうと思うんだけど……」
背後から影が差す。振り返ると、見覚えのある水晶のゴーレムが腕を振り上げていた。
ウィードが飛び上がり、ゴーレムを殴り飛ばす。民家を倒壊させながら、ゴーレムが吹き飛んだ。
「結構骨が折れそうだね」
水晶のゴーレムが立ち上がる。透き通った中身にいたのは、聖女ではない。
恐怖に顔を彩ったまま固められた、男がいた。
そして、周囲から、水晶のゴーレムが次々と現れる。中身はどれも、聖女ではない人間の姿だ。
その中に、見覚えのある膨れた顔をした女の姿もあった。
「ディストピアだって、自国民は保護すると思うんだけど?」
どうやら都市の人間を聖女と同じようにする技術を手に入れたみたいだ。
まあ、ここの聖女は今のところ従魔ではないからね。死んでないし。
「ハードモードだなぁ。ウィード。ラインクレスト、とりあえず適当に砕きながら進もう」
「オーダーを受諾」
「グルル……石のくせに歯向かうつもりか?」
ラインクレストが淡々と、ウィードが挑発的に構える。
襲い掛かるゴーレム達。人気の無い街の港部分に、大きな発砲音と、龍の咆哮が轟いた。