推敲無しです。後日手直ししたり、リメイクの衝動に駆られながらも突っ走ります。
舗装された道を、一歩踏みしめる度に小石が擦れるジャリジャリとした音が鳴る。
「第一部サブクエストの序盤でも通用する程度にはなったか」
ここに来るまでに随分と時間がかかった。偏る経験値。曜日クエストなんて初期の頃は無かったので、この世界でも行けず、周回も難しい。厳しすぎるリソースのせいで、選択せざるを得なかった。どれを育てて、どれを育てないか。ガチャが課金で回せたなら、もっと揃えてから優先順位を付けられたものを。
地下で行われていたであろう人体実験がまさかの地上進出に驚きはしたものの、その質自体はゲームでも見たとおり。魔術が使えるわけでもない一般人ゴーレム相手に負けるわけが無かった。
「おや、珍しく地上で生きた人間を見ましたね」
ふいに声を掛けられた。見ると、いつぞや見た、ノーマネーボトムズを名乗るハンチング帽の男の隣りにいたローブ姿が立っている。
「あなたは…………っ! なんと、驚きました。あの男と戦って生き延びているとは! どんな方法を使ったのでしょうか、お聞きしても?」
「知らない人とは話してはいけませんって教えられているんだ。悪いけど、用事もあるし先に行かせてくれない?」
「……ああっ! 申し訳ございません。ワタクシ、ノーマネーボトムズの新メンバーでございます」
「…………ふーん」
見覚えはないが、聖女を有するこの街の敵対者。そしてノーマネーボトムズが暴れることで得をする存在と考えれば、ある程度予想が付く。
こいつ、多分災厄だろう。となると、王国から召喚された勇者であるハンチング帽の男を含むノーマネーボトムズは、災厄と戦った時に裏事情でも話されて、それが事実となった。だから世界を壊そうとしているといったところか。
だからこそ東側の脅威でもあるエンドロッカスを事前に殺しているし、積極的にヴエルノーズを襲っているのだろう。
まあ、確定した訳じゃないし、分からないということにしておこう。予想通りだと戦力に不安がある。魔法火力の不足という深刻な問題がこちらにはあるのだ。
「俺はスリープ。まあ、そっちが知っている名前で言うなら社会氏 寝太郎だよ。生き残ったのは回復手段があるのと、ちょっと攻撃を誘導したからかな。要は即死しなきゃ良いんだし」
「ほう、これは彼のしていた評価に相応しい能力の高さですね。彼はあれだけの従魔を従えているのにも関わらず、あなたを最強の召喚士として評価していましたからね」
「なんだ? 俺の手札でも知りたいのか? 随分口が回るじゃないか。そういうそっち側も、貴族の街での件を見るにこちらへの対抗手段も揃えようとしているらしいじゃん」
「ああ、貴族の街でのアレは事故でした。こちらは詳しい情報を得られないまま終わりましてね。その上貴重な部下まで失ってしまうという痛ましい結果に……」
知っているには知っている。だけどほとんど何も知らないって感じだな。向こう側に情報は渡っていなさそうだ。話に聞いただけでも、イレギュラー極まりない状況を前にここまで無反応なのはおかしいからな。
情報も手に入ったことだし、別に俺としてはこいつらからこれ以上何かを得る必要がない。経験値か石でも手に入らないかぎり、邪魔でしか無いな。
「んで? 世間話するような仲でも無いし、これ以上何もないなら先に行かせてもらうけど?」
「つれないですね。あなたは結構遊びが好きな人だとお伺いしていたのですが……。ああ、そうだ。それなら、改良個体が作れたので、遊びませんか?」
男がそう言うと、壁を突き破って大柄の人間モドキが出てくる。肌の色が青白く、生気がないというよりも、皮膚そのものが青いような色をしている。背丈は二階建ての民家程度の大きさで、猫背になりながらもこちらをしっかりと二つの目で捉えている。
これまでのほとんど意識の無いような化物達とは違う理性がそこにあった。
「どうです? 通常個体の完成品『ハイエンド』です」
「ローコスだとかエンドとか言ってたのがようやく完成したのか。そのわりには元々の完成品よりも幾分か性能が落ちてそうだけど?」
エンドロッカスと比べれば、確かにこの人間モドキは人を超えているが、従魔に迫るほどではない。星三までは普通に倒せそうだが、星四以降は相性が問題になり、星五以上は全く歯が立たない程度だ。
レアリティから見ても、エンドロッカス以下というわけだ。
「アレは数多の適性を乗り越えた専用の改造ですよ。そこのハードルを下げる事で、安定した成功率を誇るものにしたわけです。以前までの思考暴走を沈静化させ、認知機能の向上を果たしたいい製品ですよ」
「今後の予定は?」
「軽量化と知性の劣化を防ぐことですね。急激な変化にどうしても知性が落ちてしまうのです。思考の沈静化といっても、ただ意思を奪った自己判断機能が僅かにある人形程度なんですよ」
「正直なのは良いけど、セールスとしては失敗じゃないか? ターゲティングされてたのなら、これは買わないね」
「ふふふ……。心配はいりません。今回は実戦に投入しにきただけです。それに、コレはただの強化版ではなくてですね」
ウィードが唐突に喋りだした。
「グルル……そいつ、地脈と接続したぞ!」
「魔術師のデメリットは、その土地に一生涯縛られる事です。強引に切り離せば、その瞬間から力を失い、徐々に弱っていく。しかし、その契約した地脈にいる限りは最強にも等しい能力を持っています。ならば、使い捨てられる魔術師を量産できれば、と考えたわけです」
「…………へえー」
魔術師の量産とまではいかないが、従魔に近付く為のモノとしてエンドロッカスのソレがあるわけで、基本構想から外れていない気がする。
なんだか相手の知識が偏り過ぎているように感じる。ゲームでは普通にあった情報なのに、知っていない。
アドバンテージといえばそれまでだが、それにしてはエンドロッカスがこの世界で影も形もないのが気になる。
俺は何を見落としているんだ?
しかし、その答えが見つかる前に、ハイエンドという人間モドキが腕を振るった。
ウィードが俺を抱えて横跳びで回避する。
敵が腕を振り抜いた先の地形が書き換えられる。石畳が燃え盛る地面になって扇状に広がった。ヴエルノーズの壁すらも砕かれている。
腕力ではない。魔術師の持つ空間の改変能力だ。
「どうです? 素晴らしい力でしょう? これからは、この力が汎用的で普遍的なものになるのです。兵器として、最高のものになるでしょう!」
「まあ、普通に考えれば優秀かもね」
確かにこれは脅威になりうる。少なくとも、今の俺なら苦戦するだろう。
だが、ここで実戦登用するには相手が悪い。
「……蒙昧な愚民共が」
壁が破壊されたからだろうか、細身の男がこの場所に現れる。
視線は零下の如き冷たさを持ち、クリスタルとハイエンドを見つめている。
「ようやく現れましたね。ヴエルノーズの召喚士ギルドのマスター、エムルス」
「ふん、誰だ? 路傍の石如きが邪魔をするな」
「威勢だけは良いですね。あの時、我々が襲撃した時、街に侵入まで成功したのにも関わらず、追い出され、外壁で燻るだけの状況を覆す時が来たのですよ」
ローブの男はそう言うと、パチンと指を鳴らした。
砕かれた外壁からエンドが殺到する。その群れに向かってローブの男は小さな箱を投げ込んだ。途端に、黒い靄が怪物達を包みこんだ。
靄を飛び出てきた怪物達は、剥き出しの肉のようなピンク色をしていた肌が、青白くなり、狂気に満ちた表情だったものが、全ての感情が抜け落ちたように無になっている。
なるほど、これはローブの男が自慢気にするような一品だ。お手軽に怪物を作り替えるその効果。街中でテロを起こすにはうってつけだろう。
だが、それでは無意味だ。
「力の在り方を履き違えた無能が。お前みたいな愚図がいて、世界に歪みを生み出すのだ」
エムルスがポケットに手を突っ込む。ローブの男を見下すように、小馬鹿にするように顎を突き出して鼻で笑った。
「数は力じゃない。力の代替ではあるが、力そのものではない『コール』」
ボス特有の特殊召喚演出が入る。
地に黒い穴が開かれ、無数の腕が伸びてくる。床や壁を掴むと、胴体を持ち上げるような動きで、卵のような形をした無機質な本体が現れた。中央を金色の光が縦に割断するようにラインを走らせる。
「衆愚が……その脆い結束を力だという思い違いの代償は大きいぞ!」
イズムパラフィリアは基本的に数で勝てる要素は薄い。ステータスやダメージ計算式からも、質は量に勝る世界観だ。
数のゴリ押しを防ぐ手段は非常に多い。エムルスの召喚した従魔【伝播するフィアズエッグ】は特にその傾向が強い。というか相手の同士討ちに特化している。
アビリティエフェクトが同心円状に放たれる。一定時間しか表示は残らないが、フィアズエッグが出ている間は敵に無差別攻撃を仕掛けている状態だ。
「従魔の出現は歴史が浅いせいで情報が出ていなかったのは既に昔の事ですよ! こちらには勇者がいるのでね!」
「その勇者とやらがいるのなら、何故お前に戦わせて本人は出てこないのだろうな?」
「私だけで充分ってことですよ!」
ローブの男が吼える。魔術師型のハイエンドが魔術を行使した。
大地がせり上がる。ローブの男がバチバチと音を鳴らす黒い稲妻を手に纏う。人間ではあり得ないような高出力の攻撃がフィアズエッグに撃ち込まれた。
元々防御特化の妨害しかできないフィアズエッグ相手には、表面を焦がすことしかできなかった。しかし、この世界での一般人が呼び出せる従魔のレベルを超えているフィアズエッグを相手にダメージを通せている事自体が異常だ。
「これまでは、看破の通用しない従魔とだけあって、警戒していました。しかし、それそのものには直接的な攻撃手段も、能力もほぼ皆無だそうですね」
このゲームにおける魔術師などの一部人間キャラには、看破というこちらの従魔の情報を解析してくる奴がいる。基本的にはステータスの暴力で押し通せるので対策することはほぼ無いのだが、一応看破後は弱い従魔から優先して攻撃したり、弱点や耐性を持たない属性攻撃を使うようになってくる。
フィアズエッグはそういうのを無効化するアビリティもある。これの恐ろしいところは、全体効果なところだ。つまり、フィアズエッグ一体がいれば、NPCが面倒な行動を取らなくなる。
フィアズエッグの対策というのは案外簡単だ。単騎で押し勝てる従魔を用意して泥仕合を繰り広げる。機種従魔でも通じる状態異常などで削り倒す。状態異常に関する耐性を用意する事であっさりと止まる。
ハイエンドは感情を抑えているらしいので、数を用意しても恐怖になりにくいのだろう。
「どれだけ硬くとも、時間をかければ倒せるというわけですよ。さあ、ハイエンド、動きなさい!」
「……一つ、勘違いしているようだから、訂正しておく」
だが、恐怖になりにくいだけでは駄目なのだ。
エムルスの余裕綽々な態度を見て、ようやくローブの男は気付いた。
いつの間にか足を止めて、微かに震えているハイエンド達を。
「何故……」
「いくら感情を排しようとも、僅かにでもそれを認識し、理解する能力があるのならば、やがては理解するだろう。感じるだろう。恐怖というものを」
時間をかければ倒せる。フィアズエッグのステータス配分を知っていればそう考えてしまうのも無理はない。これらは初見殺しの塊であり、それを乗り越えれば倒せる。そう判断するだろう。
だが、時間をかけること。それそのものが悪手だ。
フィアズエッグの対策には、押し勝てる従魔。つまり結局は単騎で星六の防御特化型を超える火力を出せる従魔を用意する必要があるのだ。
そうではないと、こちらが確実に負けるからだ。
フィアズエッグのアビリティは、毎秒判定が入る【恐怖伝染】そして、恐怖になると周囲に一度だけさらなる状態異常に陥らせる【伝播する恐慌】がある。恐慌の判定は自身ではなく周囲にだ。だからこそ単騎ならば同士討ちは発生しないで済む。
フィアズエッグの攻撃能力は特殊な従魔を除いた最弱の従魔であるエネルギーバブル一体分の攻撃力以下だ。
これだけならば、初期段階でも時間をかければ攻略できるだろう。
だが、ギルドマスターにまでなるような存在が、ただフィアズエッグ一体だけでその座に登りつめる事ができるわけがない。
「『コール』」
エムルスの言葉と共に、ローブの男が突如顔から吹き飛ばされて地面を転がった。
「な、何が……?」
「放っておいても同士討ちする雑魚しかいないだろう。だが、わざわざ放置するのも煩わしい」
ドスンドスンと足音が響く。全体的に青色で、醜く太ったように膨れ上がり、しかし垂れ落ちたヒトの顔。肩は無く。顔の横から胸と腕を生やしている。首も存在せず、大きな玉ねぎのような形をした腹に、これで立てるのかというほどにアンバランスで小さな二足の足がある。
攻撃範囲のバグのような存在。物理的攻撃モーションから繰り出される不可視の遠距離攻撃。亜空間アタックの代名詞。
星五天種従魔【堕落の忌み子シャドウボーン】設定上では赤子である醜い化け物が、ニタリと嗤った。
異形、異質を従える召喚士は、震え、見上げるしかない敵を前に、無感動に吐き捨てた。
「潰れて死ね」