イズムパラフィリア   作:雨天 蛍

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前回の投稿が8月末という事実に震えながら投稿です。
これまでの間はPCを新しくしたり国家資格取ったりしてましたが、単純にモチベ下がっていたのもあります。
今年はもう少し頑張りたいです。

2024/9/15
前話にてリコールされたラインクレストのコール表現の無しに再登場している不具合を修正。


90話 聖女、そして熱く燃え上がるように

 津波によって街が押し流される。海が巻き上げた瓦礫や土砂によって、ただの水というよりも、壁が流れて来ているに等しい状況だ。

 津波は、見た目だけでは理解できない脅威がある。いわゆる、サーフィンで乗るような海の波みたいな激しい波は起きないが、ただ水が流れてきて、とんでもない勢いで水位が上がっていく。そして、それに呑まれた瓦礫がシェイクされて、中はミキサーの様になっている。

 黒い波が水位を上げる。見た目には分からない勢いで、全てを押し流していく。

 

 魔術師によって作り上げられる町並みというのは、基本的に固くて脆い。従魔などの生物での攻撃には強くあるように、硬く衝撃には強い。しかし、圧力や揺れには弱く、いとも容易く崩れてしまう。

 そもそも、この世界の魔術師の使う魔法は従魔のスキルなどを模倣したものが多く、出力の都合上彼らを超えるような事ができない。地脈への接続を使ったとしても、星の強度を超えるのは不可能なので、従魔の攻撃力を前には無力なパターンの方が多い。

 

 足元から建物が崩れ、粉塵を巻き上げて水へと沈む。水底の何処かから、鯨が鳴くような、高く野太い歓喜のような音が鳴り響いた気がした。

 

「『コール』!」

 

 ミラージュによってフィールドが即座に海から砂漠へと上書きされる。いくら海が従魔といえど、ゲームでもこうしてフィールドコンテンツは上書きを許されていたので仕方がない。

 これが召喚士同士なら、競り合いが起きるのだが。

 

 カンカンと照り付ける日差しが、宙を跳ぶウィードと俺の身体を焼く。撃ち落とそうと聖女が杖を掲げるが、少し構えた後に静かに杖を下げる。

 

 とりあえず第一段階は終了。ミラージュが使ってくる砂漠の従魔は、適応能力、あるいは属性を持たない従魔に対して、最大HPを減らす効果を持つ。後は、若干の移動速度減少と射程減少。

 特に最大HP減少が龍種にとっては厄介なのだ。現在HPを削る効果だったら、むしろ龍種覚醒の起動として使えたのだが、最大HPからの減少では一切効果がない。

 

 ウィードは物理防御力は過剰なほどにあるのだが、魔法防御力はそれなり程度しかない。HPで受けるしかないので、最大HPの減少は耐久性の低下に直結する。

 

 なら、使われない方がいいと思われがちだが、これに関しては使い道があった。

 まず、緑種召喚は対象を選んで相手を隔離する事ができる。そして、リコール以外では解除が不可能になり、閉じ込めることになってしまうという点だ。

 ゲームでは対象を選んだ隔離は不可能だったのだが、以前戦った時や、柊菜が使っているのを見ている。また、どちらもリコールによって空間ごと戻さないと自分を含めた全てを戻せない。

 ギルドマスターたるエムルス、そして聖女には、ミラージュの使う砂漠環境への適性がないのだ。

 

 実のところ、空間そのものであろうと従魔は従魔なので、この砂漠にもステータスは存在する。攻撃力や移動速度などといった、通常の従魔が持つステータスの多くは罪罰と同等かそれ以下(一か零)というとんでもないものだが、その代わりにとんでもなく高いHP量と自動回復量へと割り振られている。

 

 倒すのは可能だが、かなり難しい。そちらにリソースを割くくらいなら、大人しく受け入れて戦ったほうがマシなのである。

 そんな従魔の牢獄に、聖女を閉じ込めるのが第一段階だ。適応外の存在は容赦無く従魔のアビリティを受ける。射程距離の減少は彼女にとっては致命的だ。割合によって削られる数値が大きい値であればあるほど、減少量は大きくなる。

 

 レアリティが高くなれば、一方的にデバフを与えたり、味方にだけ効果があるような緑種従魔も出てくる。ミラージュの使う従魔は全体的にレアリティが低いのが救いだな。

 

「やってくれたわネ……」

 

 ミラージュが苦々しく呟く。そして、同時に彼の背後の砂が盛り上がった。

 流れ落ちる砂から現れたのは、白色のミミズとでも言うような風貌の従魔。砂漠環境に特化したシナジー型の緑種星四従魔【枯死砂漠のサンドワーム】だ。

 

 奴のアビリティの一つが、未発見状態での一撃が防御力無視というタンク殺しになる。砂漠地形による地中移動で何度も発見状態を切り、アビリティ攻撃を仕掛けられるせいでウィードが倒されたのが前回の戦いである。

 今回、奴が姿を表しているのは、その戦法が使えないから。聖女は従魔ではないので、サンドワームだけでは判別がつかないせいだ。

 同時に、フィアズエッグもまた影響を与えてくる。アレは防御力は高いがHPは低めになっている。そして、サンドワームはフィアズエッグのアビリティに対抗手段が無い。

 

 砂漠を解除すれば津波に飲まれる。戦えば互いに巻き添えをくらい本領発揮できない。

 その二点があってようやく二人を倒せる準備が整ったといえる。ギルドマスターだけなら倒せる。手札が揃った今なら、ミラージュも倒せなくはない。だが、そこに聖女が混ざると勝ち目があまりにも薄い。

 勝ちの目があるのは、津波が引くまでの数十分間。まあ、所詮戦闘というのはある程度釣り合いが取れているなら十分以上続くことはない。勝つにしても負けるにしても、わりと一瞬で勝負は決まる。

 

「ペース上げて行くぞ……ウィード! 【跳躍撃】! コール! ラインクレスト! 俺を抱えろ!」

「グルル……オオオオオッ!!!」

 

 空中でウィードが俺を投げて、呼び出したラインクレストが受け取る。そして、ウィードが空を更に跳ね上がる。

 見上げようにも太陽が眩しすぎて補足する事ができない。

 それでも聖女が迎撃として無数の魔法を展開する。撃ち出されたのは岩の弾丸。だが、それはウィード相手には悪手だ。

 

 減衰された属性耐性に、跳躍撃のコントロール不能状態が魔法を弾き返す。圧倒的高度からの落下によって、中央でウィードを受け止める事になった聖女のクリスタル状の身体が砕け散る。

 

 鮮血が噴水のように吹き出し、ウィードを、砂漠を染め上げていく。

 

「ガアアアアアアアア!!!」

 

 血に染まった幼さを残す少女の顔立ちで、天に咆える。

 

 聖女は従魔ではない。未だに、生きている。いや、生きていた。

 聖女を失った事で、エムルスが呆然と、ウィードを眺め立ち尽くしていた。そして、たちまち形相が険しくなってくる。

 

「お前ぇ…………っ!」

「それだけ怒ろうとするのなら、戦場に引きずり出すなよ」

 

 聖女の背景知っているだろうに。いや、知らないのか?

 

 聖女自体の情報には、この世界の個人に関して語られることも明かされることもない。だから、エムルスが聖女にどんな想いを抱いているかも、俺は知らない。

 まあ、激昂する程度には大事だったんだろうか。

 

「彼女がどれだけこの世界に必要な存在であるか、それを知らない愚図がっ!」

「知らないよ。そんなこと。なにより、そうやって頼ってばかりだから、見捨てられるんじゃないの? あの地の意味を、クリスタルの効果を知らない訳じゃないだろう? 輪廻を拒否し、ただ眠る事を求める傷ついた魂の終わる場所だよ?」

「災厄は未だに死なず、愚かな人類はさらなる脅威を呼び込んだ! 災厄以上の、死なず、増え続ける世界を喰らう害虫をだ! 繰り返す愚かな行為に終止符を打つには、人類でなければならなかった!」

「君の手で、やればいい話だろ?」

「ハッ! この事実を知るまでに、私は人間を辞めている! …………結局は、この身に流れているのは罪人と同じ血だ! 捨てる分には躊躇わないが、英雄にはなれはしない」

 

 エムルスが手を突き出す。病弱なほどに細く白い肌が服の袖から現れる。その腕から皮膚が捲れ、剥がれ落ちる。

 フィアズエッグと同じ非生物的でありながら金属らしくない黒色の肌に、機械の基盤を思わせるラインの入っている。まるで鼓動が脈打つように、時折ラインに光が走る。

 

 ギルドマスターが成長しないのは既に人間を辞めている奴が大半であるからだ。一定以上の強力な従魔を手に入れれば、むしろ数を増やす為に人間でいるよりも、その従魔と同じ存在へと近付いた方が身の安全に繋がるという理由がある。

 街に引きこもるのなら、敵、脅威となるのは従魔やモンスターではなく、人間の方だからな。

 

「聖女が潰れたのなラ、サンドワームは自由にできるのヨ!」

「おいおい、なんの為にこの状況を作ったと思ってるんだよ」

 

 サンドワームが見えている状態なら、捕捉能力が高い従魔がいるだけで奴のアビリティは無効化できる。

 ラインクレストは空中であればとても広い範囲を捕捉できるのだが、地中には弱い。ウィードも能力上捕捉できるかと思いきや、フィールドが従魔だから不可能だ。

 

 懐から短剣を取り出す。アイテム名は【祈りの短剣】別に持っている事で何か効果を与える訳でもなく、経験値にもならないアイテムだ。

 終末の洞窟の最奥、広い地底湖の中央にある霧に包まれた島。そこではクリスタルの中で様々な生物が眠っている。

 傷付き過ぎた魂の眠る場所。輪廻転生を拒絶する停滞した時の空間。永久の停止を願う祭壇こそが終末たる所以。

 

 そこで眠る人を引き摺り出して、ゴーレムへと加工するのが、彼らヴエルノーズの人間共だ。

 聖女はリミテッド従魔だ。召喚条件は、祈りの短剣を所持した状態であること。

 

 ──そして、聖女を殺すこと。

 

 以前にも語った事があるが、このゲームでは、一部キャラクターを主人公が殺す選択をすることで従魔としてプレイアブル化《ゲームにおいて、キャラクターを操作できる。恒常的に味方になるという意味》できる。

 

 眠りたがる傷ついた人間を利用する敵から殺して、味方として再利用する。

 イズムパラフィリアは主人公側が絶対的な正義ではなく、敵や悪と同じような事をする。従魔化という死への救済措置のような物があれど、やっている事はそう変わらない。こういう所がゲームとして人気が無い部分であり、特徴でもある。

 

 イズム《主義》もパラフィリア《愛》も、どちらも人間が持っていて、それがぶつかりあう正義無き争いの物語だ。

 

「さあて、召喚の時間といこうか」

 

 短剣を頭上に掲げ、石を砕く。光の奔流が身を包み、ゲートを開く。手にかかる抵抗のような物を無理矢理掴んで引きずり出す。

 

 人間であろうと、死ねば強制的に従魔となる。リミテッド従魔は死は条件ではないのだが、聖女はカテゴリー的に人間枠のパターンが多い。まあ、ゲームで殺す事になる人間キャラクターは第一部以外はあまり居らず、イベントでもこっちが殺さずとも死ぬ奴も多かったりするのだが。

 ただし、人間が死んでも従魔にならないパターンもある。NPCなど戦いの合間に死にまくるし、ストーリーを通じてモブ敵で出てくる人間は大体殺すことになるが、そういう存在はガチャのラインナップにすら並ばない。従魔の条件に満たされていないのだ。

 まあ、そういった存在であれど、死ぬことで従魔の記録には残される。従魔の手が届かない場所で消えた存在は従魔にはならない。だからこそアヤナなどは、途中で影も形もなくなった癖に、プレイアブル化しなかったという事例がある。

 ゲームではちょっと読みきれない規模の図鑑がメニューから選べる。そこで確認できる物は従魔が記録したという説明がされているのだ。

 高度情報生命体というのが従魔という存在だ。だが、死者に対する復活措置のような効果も持っている。生命体とはなんだろうか。従魔とは、情報だけでは説明のつかない性質を持っている。

 

 ……死が従魔の条件ではない。ステータスを持つ者こそが従魔の条件だ。本来、生物は数値データなどの形で身体に付随するステータスというものは持たない。それが付く事で従魔への条件となるのだ。

 死は、単純に同環境下における同一個体の出現を制限するものでしかない。それが許されるのは、既に従魔でありかつ、複数の分体を持つ存在のみだ。

 

 つまり、従魔とは。

 

「──従魔、ですか。停滞を砕かれるのは嫌ですが、望むのならば応じましょう。残滓でよければ。【終末聖女フィーナ】星の意思を離れ、マスターの手に」

「なっ……聖女が……」

 

 美しくも幼い純白の少女が姿を表す。耳の高さで分けられたツインテールが清流の滝のように流れる。

 

 しかし、次の瞬間、彼女の姿は結晶に包まれ、石化してしまう。銀の像となり水晶の中で眠る彼女の姿は、セイントシステムと呼んでいたゴーレムの時と違い、祈るように手を組み跪いている。

 

 敵として登場した聖女──フィーナはかなり強いのだが、プレイアブル化したフィーナは正直に言えばテクニカル過ぎて使いにくさが目立つ。

 龍種覚醒と近しい効果を持つアビリティ【終末結晶】により、彼女はコール時に結晶状態で呼び出される。一定時間の経過か結晶状態時のHPを全損した場合、このアビリティは解除されて、終末聖女フィーナが使えるようになるのだ。

 

 ウィードと違い、一切動けないのだが、代わりに被ダメージ時には相手へスタックを付与しダメージを減衰させるようになるデバフアビリティを持っているので、一切活躍できない訳では無いのだが、それが活かせるのは広範囲にダメージを出してくる敵くらいだ。

 基本的に結晶状態はデコイ兼デバフ程度にしか使えない。結晶状態でもHPはそう高くないので動き出すのは早いのだが。

 

「聖女が従魔になったところデ、ゴーレムとしての力は使えないワ!」

「そうだね。彼女の能力にはゴーレムはない。最期の姿である結晶状態までが、彼女の持つ能力だ」

 

 聖女の性能はどちらかと言えばサポート寄りだ。しかも場に出すだけで効果があるものと、条件次第で発動するものの二種類に分かれている。

 聖女フィーナは、かなり攻撃的な能力を持った聖女だ。場にいるだけで味方全体の幸運ステータス向上。結晶状態での被ダメージ時に与ダメデバフ。そして、結晶状態から解放されれば、詠唱短縮時間百パーセント。つまり即時発動で魔法スキルを撃てる上に、魔法耐性貫通が二十パーセントも付く優秀な性能を持っている。

 

 あえて不満を挙げるとするなら、聖女といえど人間の死種なので、基礎ステータスが低めなこと。そして、自前の強化は音属性のみという点だ。特に、与ダメデバフを持つからか、後衛魔法型とはいえ死種という、比較的タフであるはずの分類にいる彼女は、同型従魔と比べてもあまりにも打たれ弱い貧弱さがある。

 

 優秀な壁役がいてこそ活躍できるタイプの従魔である。

 

「…………召喚士」

 

 唸るように、苦悩に満ちた顔でエムルスが言葉を紡ぐ。

 

「お前は、何者だ?」

「何者でもないよ」

「どこから来た?」

「どこか遠い所から」

「その力で、いったい何を為す?」

「なーんにも」

 

 両手をぱあっと開いて空を仰ぐ。偽りの空は燃えるような暑さを伝えるべく、輝く太陽にどこまでも青い空が広がっている。

 

「俺は暴力主義者でね。何かがしたいんじゃないよ。暴力が全てを解決するってだけでさ。悪を倒すだとか、正義をぶっ潰すとか、そういうのは無いんだよ」

 

 いつからこんな考えを持ったんだろうか。一秒未満で満たされ飽きる世界で、これを見つけた時からか。

 

「条理も不条理もぶっ飛ばす。ルールなんてクソ喰らえ。破壊でありながら、保存を成し得る矛盾。許されざる者でありながら、力でそこに在り続ける。そういうところが好きでね」

 

 クソゲーではあった。シナリオもめちゃくちゃで、バランスもインフレしまくり。ゲームっていうのは基本的に主人公は一側面では正義の立ち位置であるべきだというのに、それすらも怪しい。

 だけど、そういうのも全部吹っ飛ばす力の在り方。その存在。全てに惹かれていた。キャラクターも意思も何もかも、全部を見て、ただ思ったんだ。

 

 ああ、綺麗だなって。

 

「ギルドマスター。あなたは下がってなさイ」

 

 感情が荒れ狂い冷静さを失っているエムルスを押し退けるミラージュ。

 だが、それでもエムルスは吠え続ける。

 

「それだけの力がありながら、何もしないだと!?」

 

 絶望を知っていてか、それを克服するべく希望を打ち砕かれたからか。

 

「この世界の惨状を知っていて、それを選んだというのか? もうこの世界はどうしようもないくらいに終わりへと近付いているのに?」

 

 それでもなお、彼は敵を、俺を睨みつけてくる。

 

「既に、誰もが傍観者を気取る段階は通り過ぎたのだ、これより先は、決して血を流さずに、手を汚さずにいられるような場所ではない」

「分かってんだろ? そういう主張も、君の意思も、強くなければ無視されてしまう」

 

 この場に弱者の声を聞く善人はいない。

 

「なら、やることは一つだよな! 戦いは工夫も手の一つだ! この場で、二人が並んでも全力は出せないだろ?」

 

 あえて戦場を作らせて貰ったからな。悪いけどこのまま押し切らせてもらう。

 ウィードが駆ける。低く鋭く跳ねた勢いで殴りかかる。

 その拳は、サンドワームの攻撃が防いだ。余波でエムルスとミラージュが大きく下がる。

 

「始めようぜ──戦いってやつをなぁ!」

 

 気炎を吐く俺に対して、ミラージュは冷静だった。

 エムルスの胸ぐらを掴み上げると、投げ捨てるように上空へ飛ばした。

 

「なっ!? 貴様ァ!」

「『リコール』……ここでやり合っても勝てないでショ? あなたは引きなさイ。互いに万全でやり合うべき強い相手ヨ」

 

 砂漠が消える。魔術師達が現れ、こちらを見ると、即座に魔術でエムルスを高台に乗せる。

 その様子を見て、ミラージュは再び砂漠を呼び出した。

 代償は大きく、ミラージュの足は流された瓦礫で骨が折れ、幾つもの裂傷を作っている。

 

「……互いに万全でやり合いたいとハ?」

「別にそれでも良いけど、待つのはあんまり好きじゃなくてね」

 

 痛みで脂汗を流すミラージュに肩を竦めて返す。

 そもそも、盤面を作って、それを崩されたところで、聖女はこちらの手にあるし、次にやり合うとするなら、より確実に勝てるように育成するまでだ。

 

「随分異質な召喚士よネ? まるで勇者みたイ。こっちの事情を知らズ、異常な速さで成長すル。そういえば、今の勇者よりも前に一度召喚術を行ったそうだけド、術は発動したのに姿は表さなかったとか聞いたわネ?」

 

 ミラージュの、疑問の形をした確信を持った問に対して、俺は静かに呟く。

 

「身に覚えがありませんね」

 

 残念ながら、俺達にそういった事情や状況は分からないのだ。なぜなら、真実を誰かに語られたことが無いから。

 そうじゃないかという予想は立てられても、それが事実かどうかの確認ができない。

 

「まア、どうでもいいワ。事の本質はそれじゃないシ」

 

 ミラージュが手から小さな欠片を取り出す。それは、太陽の光を反射して輝いてく、虹色の八面体だった。

 

「召喚士ってのは嫌なものネ? あらゆる才能、能力が底辺に等しイ。従魔という強力な力があれド、当人に何かを成し得る力が無イ。だかラ、どうあがいても召喚士が支配する町は破滅の道を往ク」

 

 光の奔流がミラージュを包む。次元を切り裂くような黒のゲートが開き、、召喚とは別に従魔達が顔を見せる。

 四体のサボテン。途中から口以外存在しない白いミミズが上体を顕にし、砂漠がミラージュを守るように彼の頭上だけ日陰を生み出す。

 

 光が消え去り、姿を現したのは、黒い肌。動物の頭。そして、黄金の装飾。

 

「──万物を塵と化そう。砂塵に帰り、輪廻を廻れ」

「っ! ……ここでコイツを引くかぁ」

 

 神威が空間に満ちる。

 大気が震え、灼熱がさらなる進化を遂げる。かの存在を中心に、砂嵐が巻き起こる。

 レベルが低かろうと、最低限の活躍を果たす奴を土壇場で引いてきた。

 

 エジプト神話のモチーフ。ジャッカルの頭を持つ死を司るアヌビス神を意識したその存在は、モチーフ通り神に類する力を持つ。

 星五天種アラハサ。砂漠フィールド上及びその適性者がいる場合に強力なバフを与え、自身が砂漠フィールド上にいる時に強力な地属性ダメージを与えてくる従魔だ。

 

 従魔の中には一部だが神という分類に入る存在がいる。それらは神性や神族というアビリティを持っており、自身の力の及ぶ特定条件下において圧倒的な性能を誇るのだ。

 

「ふフッ。さア、どちらが優れた召喚士であり人間としての出来損ないカ、比べてみましょウ? 熱く燃え上がっていくワ!」

「…………まっ、いいか! 砂漠の神か、大地を生み出す龍か、どっちが優れているのか教えてやろうじゃん!」

 

 街の状況を放り投げて、楽しそうにミラージュが笑う。

 俺もまた、過去一番に燃え上がるような戦いを前に、歯を剥き出しにして笑った。

 

「「死ね!!!」」

 

 

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