イズムパラフィリア   作:雨天 蛍

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8話 召喚石

 結論から言えば、スキル屋なんてものはなかった。

 まあ、ゲームでもワールドマップから入るので、多分ここには無いってだけで、どこかにはあるだろう。

 

 着替え等の諸々を買い込んで昨日から泊まっている宿へ向かう。

 街は石畳で舗装され、綺麗であり、用水路が通っている。家の窓には鉢が置かれており、花が彩りを与えている。

 交通の要としておかれているここは、綺麗な街だと思う。

 

 資源都市ヴエルノーズ。ただの関所という訳でもなく、資源都市と名前が付いているのは何故か。

 それはこの街の地下に特殊なマテリアルが埋まっているからだったはずだ。

 それを牛耳るために、ミラージュ・バトラーは地下に街を作り、そこを支配する事で、自分が資源採掘の利益を得られるようにしたのだ。

 

 表で売られている資源は皆他でも買える鉄のような普遍的に存在する金属だ。しかし、安く売られており、この街の真の目的は表に見えない。

 更には、ここは国に属さない地域なので、人身売買なども行われている。大々的にではないが。

 麻薬も売られているし、それを制限する法なんてものはない。

 恐喝、暴行、窃盗、この街はなんでも有りだ。

 だからこそ、このゲームの世界観を説明するのに向いている場所なのだろうとは思うが、生活する分には危険が絶えない。

 

 プレイヤーはあくまでも無力な人間だ。召喚の力こそ一流であろう。しかし、それは後になるに連れて分かっていくものだ。

 

 ここに来て姿を見せた危険な男。ミラージュ。俺はこいつをどうするべきか頭を悩ませていた。

 

 

 

 宿で待っていれば、割と早い段階で樹少年が買い物を終えて戻ってきた。

 

「待たせました?」

「待った」

 

 ジュースを飲んでいたウィードが答えた。確かに少し待ったのだが、それはわずかながらも土地勘がある自分達が早く周れたからである。

 

「ウィードちゃんは手厳しいっすね」

「龍の名を認めない者が気安く呼ぶな。ちゃんを付けるな」

「……ウィードさん」

 

 ウィードは満足そうに頷いて、ジュースに口を付けた。

 

 柊菜が戻ってきたのは、更に三十分後の事だった。

 

 二度目の畑仕事に向かう最中、今回は街の外縁部にある畑なので、門から外へ出ようとした所だ。

 

「スリープさん。アレ……!」

 

 柊菜がこちらの肩を叩いてきた。指が示す先には人一人余裕で入れそうな大きな麻袋に、これまた一人分の膨らみが蠢いている様子だ。

 

 市長の所へ行っていないというのにシナリオが進行したらしい。

 

「おい、さっさと進め! これ以上注目されると不味いぞ!」

「そうは言ってもよぉ……こいつそろそろ麻酔が切れてきたんじゃねぇの? めちゃくちゃに暴れて持ちにくいったらねぇよ」

 

「ひ、人攫い……!?」

 

 樹が早速ビビり始める。安心しろ。これからこんな事が日常茶飯事になるぞ。

 

「た、助けなきゃ!」

 

 人一倍正義感が強いのであろう柊菜が男達へ向かっていく。

 相手は見たところ従魔を連れていないが故の判断だろうが、割と危ない行動である。

 

「な、何悠長に見てるんだよっ! 追いかけなきゃ!」

 

 樹が俺の腕を引っ張って柊菜の後を追いかけた。

 まあ、これはメインクエストだ。放っておいても負けることは無いだろう。

 

「待ちなさい! そ、その袋に入った人を解放してください!」

 

 そうこうしているうちに、大声で柊菜が誘拐犯二人を引き止めた。

 

「あぁん? 何言ってんのお嬢ちゃん。こいつは新鮮な食品だよ。これからおろし先の店に届けようってところなんだ」

『ムー! ムグーッ!!』

「…………」

 

 周囲の注目を浴びて、誘拐犯の男が優しそうな笑みを浮かべて袋を指さした。しかし、そのタイミングで袋の中身が自己主張した。明らかに人の声でバタバタと暴れ始める。

 

「チッ! バレちゃあしょうがねぇ! お前も若くて美人な上に召喚士ってくりゃあ、高く売れるだろうさ!」

「ヒャァ! 我慢できねぇぜ!」

 

 誤魔化す事を諦めた男達が棍棒を抜く。

 やはり、剣と違い技術がいらない打撃武器がこの世界の犯罪者武器の主流なのだろう。

 殺伐とした空間に衛兵は何をしているのかというと、特に何もしていなかった。こちらを遠巻きにして眺めている。

 まあ、公共機関ではないのかもしれない。もしくは仕事じゃないとか。

 

 なんで門番なんているんだろう……。

 

 すぐ近くにいる役職の存在意義を考えていると、意識を戻そうとするように肩を揺すられた。

 

「お、おい! 何考え事しちゃってんの!? 助けに入るぞ!」

「……ウィード!!」

「この程度の雑魚を相手に私が手を出すまでも無いだろう? さっさと行け。軟弱者」

「うっ……。くっそ! やってやらぁ! 行くぞシーちゃん。助太刀だ」

「りょーかいっ! ヒイナとエー君を助けるぞ!」

 

 待っていればウィードも戦闘に参加するのだろうが、アビリティですぐには戦わないだろう。コレが龍種の使いにくさを示すものだ。いくら強くても動かないんじゃあ仕方がない。

 

「苦戦するようだったら手助けに入りなよ」

「そんなことが起きたら私の見込み違いだったという事だろうな。その時点で見殺しにしてもいいと思うが?」

「ウィード」

「……チッ、わかったよ」

 

 そうは言っても動くつもりは無いらしく、こちらの背をよじ登ってくる。

 肩車のように頭へしがみつくと、顎を乗せてきたまま二人が戦う様子を眺め始めた。

 

「思ったんだが、これはどっちのメインクエストなんだろうね」

「……雌の方じゃないのか? 積極的に動いているし、あの袋は人間の雌の獲物だろ?」

「枠足りないよね……」

 

 この調子だと今日中には召喚枠は増やせないだろう。

 唐突に始まったメインクエストをどうしようかと、今後の予定を考えながら戦いを眺めた。

 

 

 

「た、助けて頂きありがとうございます!」

「うわぁ……ふわぁ……!」

「オーウ、ファンタジー……」

 

 人攫い達を退けて、袋を開けた。

 中から出てきたのは白い獣耳の少女だった。ボロ切れを身に纏っており、スラムから攫ってきましたと言わんばかりの格好である。

 

 助けた二人は、その耳と尻尾に釘付けである。

 ちなみに、今回は俺も戦いに参加した扱いらしく、足元に召喚石が落ちていた。

 

「…………助けたのはいいけどこれからどうするの?」

「あっ……えーと」

 

 どうやら考えていなかったらしい。無計画にもほどがある。

 まあ、彼女はメインクエストで加入する従魔の一人だ。チュートリアル的に召喚枠の増やし方を学べる。

 最初から仲間になる訳では無い。これから彼女を巡るメインクエストを進めて行けば仲間になるはずだ。

 

「いえ、そこまでして頂く必要はありません。私一人でここから逃げますので」

「そ、そうは言っても、捕まってたんだろ? やっぱ危ないって!」

 

 まだ見ぬ奴隷風の女の子とのアレコレを考えているのか、少し顔が赤い樹が引き止める。

 

「わ、私が、匿います! 彼女の分も働きます!」

 

 そして、勢いよく柊菜が声をあげた所で、彼の夢は潰えた。

 

「よし、それじゃあ畑仕事に向かいますか!」

「え?」

「先立つものが無ければそこの女の子も助けられないでしょ? まずは稼ぐよ」

「は、はい!」

「……よろしくお願いします。あと、ありがとうございます」

 

 少女二人が門を超える。俺もウィードを頭に畑へ向かった。

 

「マスターには私がいるじゃない!」

「……そうだな! 行くぜ、シーちゃん!」

 

 樹少年も、気を取り直して、仲間の後を追いかけた。

 

 

 

「この世界には戸籍が無いように、自分を保証してくれるものっていうのは非常に少ない」

 

 夜。畑仕事を二回こなし、石とわずかな金銭を稼いだ後。俺と学生組に加えて、狼少女が宿の一階で食卓を囲んでいた。

 この時間と朝の食事の時間は俺が適当にこのゲームの知っている情報を流す時間である。設定や調べた情報も交えて全員に役立ちそうな事を語っていく。

 

「ギルドに所属したりする以外では、ほぼ自分が何者なのかを示してくれるものは無い。場所によれば市民権とかを貰えはするんだろうけど、この街じゃあ特に無いね」

 

 家は自分で権利を買って自分で建てるものである。なお、その権利は誰が持っていたかは不明だったりする。

 それでも通用するくらい人口が少ないのだろう。もしくは、力でものを言わせるのか。そこは不明だ。

 

「だから、下手をすれば、自分の権利を相手が持っていたりする。同意も無く作られる場合だってある」

 

 これは狼少女の話である。この街の金持ちが彼女の権利を持っているので、それを否定する材料が必要になるのだ。

 答えは『力技でこっちのものにする』である。ハイパー世紀末の摂理だ。

 

「これをどうこうするのは簡単だ。気に食わないならぶん殴る。これで万事解決する」

 

 こうやって世紀末アンサーを提示すると俺と従魔組以外の面々は渋い顔をする。暴力は嫌なのだろう。

 

「とはいえ、ただ何の理由も無く彼女を助ければ、権利を売った誘拐犯のグループが介入してくるし、彼女を欲しがった奴らも顔を突っ込んでくる」

 

 だからこそ、メインクエストでは、それをさせない為の大義名分を手に入れる必要があった。

 

「彼女をこちらの仲間だと示す方法は1つある。所有権もこっちにあると言える方法だ」

 

 そう言って俺はポケットに入れていた召喚石をじゃらりと見せる。顔はいやらしく笑っているだろう。

 この世界は召喚石があれば大体の事は出来る。これもまた、その一つだ。

 

「召喚だよ。そこの人外を従魔にすればいい」

 

 さて、このゲームにおける召喚の定義を説明しよう。

 基本的に従魔は召喚者と従魔側の要望が合致すれば召喚が可能である。フレーバーテキストであるが、これは事実だ。

 普通の従魔召喚では、この世界とはまた別世界の『ゲート』の向こう側にいる人間以外の存在を召喚するものだ。

 この『ゲート』は召喚士以外にも自然発生する場合がある。それがこの世界に多く存在するモンスターの一部に当たる。

 自然発生したゲートから現れるのはほとんどが力を持たない弱い従魔である。同時に誰とも契約を結んでいないので自分勝手に暴れ回る。

 どちらにせよ、この従魔は死ぬと『ゲート』の向こう側の世界へと強制的に戻される。戻った時に、力の一部がゲートの向こう側へと引き継がれる。

 

 従魔が召喚士の求めに応じるのは、多くの場合が自身の力を強くするためだ。召喚士は従魔の力を解放し、より強くする能力がある。

 ウィードもまた力を求めて俺の召喚に応えたのだ。なので、従魔は死ぬまで主人を守り、主人の味方をする。こいつらにとってそこまでこの世界の命に価値は無いのだ。

 逆に価値があると思っているものは差し出さない事もある。食事を奪おうとすると抵抗されたりする。

 

 とりあえず、簡単にまとめてしまえば、召喚出来る従魔という存在は、人間以外の別世界に住まう存在だと言うことになる。

 この場合の別世界のというのは、ゲートを開く事が出来る空間を示す。

 

 では、リミテッドキャラクターの召喚はというと、これは特殊な召喚方法になるのだ。

 その存在を認識しており、条件を満たせば召喚が可能になるのだ。その条件がリミテッドキャラに認められるというものである。リミテッドキャラの多くはゲートの向こう側とはまた別の場所で生きている存在であるからして。

 まあ、召喚ゲートは他にも開くため、必ずリミテッド召喚になる訳じゃないが、条件さえ満たせれば、そいつらも応じてくれる可能性はあるよ。という事だ。

 そこの狼少女もこちらを認めて従魔になってもいいと思えば、今すぐにでも従魔になれる。という訳だ。

 

 そして、ゲーム時代に俺は全てのリミテッドキャラの召喚条件を満たした男だ。その存在もしっかり認識しているし、次の召喚ではきっとリミテッドキャラを呼び出す事が出来るであろう。

 

 笑いが止まらない。ゲームでなければ見つける事すら不可能であろう存在を知っているのだ。もはやこの世界は俺の為に存在していると言ってもいいだろう。

 

 急に笑い出した俺の頭を疑うように、少年少女は距離をとった。

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