石個数編集に伴う若干の描写変更。
今の所石集めは順調である。三日目の朝にして集まった石の数は六個。とりあえず枠の拡張で一個を残し消費しきってしまう程度の数であるが、現実にして考えてみれば頑張った方である。
昨日の夜に提示した方法であるリミテッド召喚をするには、数が後二個足りない。
メインクエストが自動的に進むのならば、恐らく今日にでも襲撃が発生するだろう。それを躱しつつ石を回収すべきだ。
隣で髪を梳かし毛繕いをするウィードを眺める。
戦力強化は必須事項だ。しかし、星十の龍種などそう簡単に強くはならない。
好感度イベントも、ステージ解放をしなければ次へは進めない。少なくとも、レベルを上げきることだけはしておきたいものだが……。
「キャァァァァ!!」
それなりに厚い壁の向こう、柊菜と狼少女、星四野種『狼少女のチェリーミート』と暴剣のエンドロッカスがいる部屋から悲鳴が聞こえた。
ビクリとウィードが音に驚き身体を揺らす。毛繕いをしていた櫛をベッドに放り投げて四つん這いになり身体を伸ばす。
「さっそく襲撃か。宿に迷惑だからさっさと片付けるよ」
「グルルッ!」
喉を鳴らしたウィードを連れて、隣の部屋へと向かった。
「大丈夫か!?」
先程の悲鳴で目を覚ましたのであろう樹少年が寝巻き姿に寝ぐせをつけて部屋から出てきた。柊菜の部屋はドアが蹴破られたのか破壊されている。
「樹君! スリープさん!」
どうやら怪我等は負っていないようで、襲撃犯の男達を相手に狼少女を庇っていた。主の前にエンドロッカスは立っており、狭い部屋というのもあって、攻めあぐねていたようだ。
「ウィード、戦闘準備」
「人間相手だが、食事前の運動くらいにはなるか……。ま、こいつらを相手に1分でも生きていればの話だがな」
「シーちゃん! 突撃!」
「おっけぃ! どっかーん!」
召喚士相手に奇襲が失敗した時点で、人間の不良相手に負けることはなかった。
俺は何一つ働いていないのに、石だけ貰えるのはなんだか悪い気がする。
……早く龍種以外の従魔を呼び出すべきだろうか。これほど動かないと、少しだけ不安になってきた。
「無事だったか?」
「は、はい……」
襲撃者をまとめて縛り上げ、警察へと連絡し引き渡しを待つ間に狼少女へと声をかける。
彼女は荒らされた部屋の惨状を見て凹んでいる。
「私のせいで……」
「昨日の今日だから多分君のせいではあるよね」
沈痛な面持ちで沈む少女を眺めて、下手な動きをしないように釘を刺す事にした。
「だからといって君が自分の身を相手に差し出す必要は無いよ。それが嫌で柊菜は君を助けたのだから」
逆に助けてまでそれをされるとこちらの行動全てが無意味になるからね。何のためにここまでしたのかっていう話になる。
まあ、人を助けるなら自分の身を守れるだけの力を持った上で助けるべきだね。自己犠牲の精神というのが俺は大嫌いだ。
親切っていうのは自分に余裕があってするものだ。そして、現状俺達に余裕があるかというと、それはイエスと答えられるだろう。
生活難でもない。逆に水準は上げることが出来る。力も頂点でこそないが上位に入れるものだ。
ウィードが俺の肩に飛び乗る。自分を誇るように胸を張った。君何もしてないだろ。
「だから、君がやるべきは彼女の隣で幸せそうに笑っていることだ。大変そうなら助けてあげるよ。俺に余裕があったらね」
そこでようやく、狼少女は安心したかのように、少しだけ笑った。
まあ、今の惨状を前に笑えるなら大丈夫だろうと踵を返す。
ゲームでは人を倒した後でも金銭等はドロップしていた。つまりは彼等から金を取っても問題ないという事だろう。
宿の修理代として、身に付けているもの全部貰っておこうか。
「…………協力、感謝する」
「いいよ。降りかかる火の粉を払っただけだ」
顔を合わせてから二十四時間もしないうちに、また顔を見る事になった警察署長の顔が引き攣っていた。どうやら問題を起こしまくる俺達を見て連絡先を渡したのを後悔しているのだろう。
収容数も少ないだろうに、昨日の今日で二十人に及ぶくらいの数を牢屋へぶち込んでいる。
コワモテマッチョ男はちらりと俺達の背後に佇む狼少女を見た。
「それと、そこの獣人だが、こちらで保護する事も可能だが、どうするか?」
「ろくに警察機関が機能していないのを見ていると頼る気にはなれないね」
絶対明日には買い取りした人の元へ届けられているだろう。この街の警察は力に弱い。
流石に癒着まではしてないと思うが、それでも一般市民すら守れる力を持たないので頼れはしないだろう。
「そうか……。まあ、自衛できる力があるならそうするべきだな」
「そういうこと。それじゃあ次もなにかあったら頼むよ」
「あ、ああ……出来れば何も問題は起こすなよ」
そう言って署長は襲撃犯を引き連れて帰った。
彼等が出ていくと、柊菜がおずおずと切り出した。
「スリープさん。あの……宿屋の人が、全金返却するから出ていってくれって……」
「うーん……街の外に出て他目指しませんか? 流石に他の街まで追いかけてくる事は無いと思うんすけど」
「石が後一個あればチェリーを召喚出来るんだからまだここに居るべきだよ」
「石って……別の街で集めればいいじゃないですか」
首を傾げた柊菜へこれみよがしにため息をつく。
「チェリーを従魔にすれば、必ずこっちに召喚士ギルドが味方になるんだよ。そうすればもう手出しされなくなるからね。下手に逃げて事態を面倒にするよりも、ここでケリをつけた方がいいんだ」
「……本当に役に立つんですかね?」
「世界規模で展開されているから下手な組織よりも力はあるよ」
この世界に限って言えば、最強なのは召喚士ギルドである。何せ各ギルドの頂点が持つ従魔は異例の星八なのだから。
他の最高値が星五な分圧倒的な強さを持っているのだ。リミテッドキャラクターな分使い勝手もいいし、同じ星八よりも遥かに強い。
地龍ウィードだと面倒くさい。動き方をミスすれば負ける。それも完全に育成しきっての状態でだ。スキル屋が無い現時点ではどう足掻いても勝てない。
どいつもこいつも『龍種覚醒』がクソアビリティ過ぎるのが悪い。そして敵のAIが賢すぎるのも辛い。バフ積まれて勝てなくなるのだ。
両肩に乗るウィードの脇に手を入れ正面に持ってくる。きょとんとした瞳をしている。
「そろそろ本格的に争うからウィードにも戦って貰わないと困るんだけど」
「種の頂点たる龍種を従魔にしたんだ。誇れ、優雅に構えて迎え撃て」
それで負けてちゃ意味無いんですがね。
かなりの数の襲撃者を一度に退けたからか、街中を歩いているだけでは特に襲い掛かって来るものはいなかった。
俺と樹少年が両脇を固め、エンドロッカスが背後、ウィードが正面を歩く布陣で、要人警護でもしているかのように柊菜と狼少女を守っていた。万が一というのもあるので念を入れて接触させないようにしたのだ。見てないうちに誘拐されるのが面倒なので。
そうして向かった先、召喚士ギルドの入り口では、太った男が複数人の武器を持った人間を引き連れて何事かを喚いていた。
「貴様らの所の召喚士がワシの買った狼人族を奪いおったのだ! さっさと引き渡せ! 責任を取れ! 幾ら金を出したと思っているんだ」
入り口で男の話を聞いているのは、一人の召喚士であろう、細身の男が立っていた。周囲には誰も居らず、遠巻きに眺めてはいるが、誰も近寄ろうとはしていない。
「あいにく、こちらにそのような話も狼人族も入ってきてはおりませんので、対処は出来ないですね」
「何を偉そうに、この街で活動出来なくさせてもいいのだぞ!」
「そうなれば、我々も然るべき方法で対処させていただきます。ええ、少しだけこの街の地図を書き換えるだけです」
そう言って細身の男が指を鳴らすと、黒いゲートが発生し、人間大の大きさもある卵型の物体に黒い手が幾本も生えた異形が現れた。
『@#%&! @@#%@〜』
「な、なんだコレは!!」
「ひぃ! マスター助けて!」
「うわっぷ!? いきなりなんだ?」
「あれ……従魔? あんな形もあるんだ」
樹少年のピクシーが主人の顔に張り付く。柊菜は見た事もない明らかに今までとは違う従魔を見て訝しそうにしている。
俺はその従魔の姿を見て舌打ちをした。
「朝から嫌なもん見ちまったぜ」
星八機種『伝播するフィアズエッグ』だ。対軍性能が極めて高いクソ卵である。
名称から察する通り、あれのアビリティには相手へ『恐怖』の状態異常を植え付ける。毎秒単位で判定が入るので、精神系の状態異常無効か、神経属性の耐性が極めて高くないとほぼ受ける。
そうして受けた恐怖を更にアビリティで周囲の味方へ伝播させ、それに成功すれば『恐怖』が『恐慌』になる。
そうして同士討ちさせる嫌な従魔である。
この手の状態異常タイプは他の能力が高くないパターンが多いのだが、こいつはめちゃくちゃ硬い。更に回復スキル覚えているので余計に面倒くさいのだ。とことん嫌がらせに特化したタイプの従魔である。硬いし状態異常ばら撒くし、回復する。ついでと言わんばかりに自爆技も持っている。
対処は簡単だ。精神系状態異常がそもそも入らない機種で殴るか、状態異常を無効する奴で殴る。
ウィード単体じゃ勝てないが、もう一体くらい回復役を用意すれば勝てるはずだ。もちろん育成はする必要があるが。
「ヒイイ!! うわあああ!!」
尻もちをついて地面を這いつくばりながらも必死に卵から逃げようとする太った男と、その取り巻き達。どうやら精神判定に失敗したようだ。
恐慌ではなかったのか、同士討ちはせずに皆逃げ出してしまった。
「フン。他愛もない」
フィアズエッグを『リコール』させると、男はギルドの中へ入っていった。
「す、スリープさん。あれは?」
「機種星八『フィアズエッグ』と、その使い手のギルドマスター『エムルス』だよ」
大して強くない癖に偉そうなギルドマスターとして不人気な男である。
ミラージュとどちらが強いかといえば、レア度の差もあり、エムルスの方が強いだろう。しかし、戦いの上手さはミラージュに軍配が上がる。
「それよりも、聞いたか?」
「あ、はい。…………さっきの男の人ですよね。チェリーを狙っている人」
「あー……狼人族がどうのって言ってたな」
樹が『恐怖』の状態異常になったピクシーを顔から剥がした。
「グルルァ!!」
「うおお!?」
突然、前にいたウィードが俺達の背後へ飛びかかった。
そこには、狼少女の口を押さえて連れ去ろうとしていた男達が立っていた。
「え、エー君は!?」
「あー……強制リコールか」
背後ががら空きになった原因を思い出した。
恐怖のバッドステータスは、従魔の攻撃を止める効果以外にも、ピクシーが見せたような逃走行動を行わせる効果もある。エンドロッカスはそれにかかったのだろう。
「コールすれば呼び戻せるよ。ウィードが恐怖状態にならなくて助かったよ」
「こ、『コール』!」
召喚時の光の奔流とは違い、空間に穴が空いたような隙間ができる。これが『ゲート』である。従魔がこちらの世界へやってくる時に通るものだ。
呼び出されたエンドロッカスは、自分の失態を恥じるかのように柊菜へと剣を掲げた。
「そういうのいいから! チェリーを取り返すよ!」
柊菜に叱咤され、しょんぼりしたような仕草をとるも、すぐに振り返り剣を構えた。
ウィードは男達へ飛びかかった後、チェリーを押さえていた男を押し倒してすぐに距離をとった。
「ふんっ。世話の焼ける……」
「ありがとな」
「ぐるる……」
頭を撫でると、こちらの手により頭を押し付けるかのように顔を上げて喉を鳴らした。こうして見ると可愛いものである。
それよりも『龍種覚醒』が発動しなかった気がしたのだが、なにか違いがあるのだろうか? それとも、攻撃はしていないのでアビリティタイムは切れていないのだろうか。
原因は不明だが、後々確かめようと思う。
「作戦失敗だ! 引くぞ!」
「そうはさせないぜ! シーちゃん、炎で道を燃やしてくれ!」
「ひううー」
「シーちゃん!?」
恐怖状態の解除が終わっていないようで、怯えているシーちゃんへ気遣うように構い出す樹少年。
エンドロッカスも剣こそ構えたものの、切っ先は震えていた。
「……どうやらあっちは戦える奴がいないようだな! 今のうちにずらかるぞ!」
「ウィード、俺も出る、一人も逃がすなよ!」
「…………しょうがないな!」
ここは俺が前に出よう。
ウィード一人だと手が足りないので、俺も構える。正直に言うと、この世界の人間相手に勝てるかどうか不安なので、早く助けに来て欲しいものだ。
「召喚士が前に出やがった!」
「素人が! 先に戦力を削らせて貰うぜ!」
相手は五人。こちらは二人。
ウィードを無視して、俺に向かって三人が殴りかかってきた。
テレフォンパンチで突っ込んできた男の顎を狙って腰を捻る。勢いをつけたこちらの拳が先に当たり、どうにか一人を昏倒させる。
しかし、空いた隙を狙って一人が顔面にパンチを打ち込んでくる。首を捻って衝撃を減らすも、想定以上の威力で吹っ飛ばされる。
「え……」
「よわっ」
ガキンチョが前に出ないで好き勝手言いやがる。こちとら日本で身体鍛えてたんだぞ。
ふらふらしながらも起き上がると、殴った方の男も、手応えの軽さに驚いているのか俺と自分の拳を交互に見つめている。
「お、俺にも遂に力が!?」
「う……くっそ。舐めやがって」
昏倒させたはずの男すら起き上がってきた。重心もしっかりしており、視線も定まっている。
「…………」
絶対絶命という訳では無い。彼等の背後ではウィードが残りの男達を片付けた後だ。
「ステータスがあるって時点で思ってたけどさぁ。これは凹むわ」
悔しくてため息が出る。殴られた頬がめちゃくちゃ痛い。奥歯は折られて口から出血もしている。
予想はしていたが、これほどとは思わなかった。
俺達日本人、もしくは召喚士という存在は、めちゃくちゃ弱いのだということを。
ある程度情報が出揃ったのでタグ追加しました。