イズムパラフィリア   作:雨天 蛍

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11話 誤算

 そもそも、メインクエストにミラージュ達含む裏組織が登場するのは最初だけであった。

 ゲームの流れでは、まず洞窟でチュートリアル。その後街へ行き、情報を手に入れるために町長の家へと向かうのだ。その時町長の家で出会うのがミラージュである。すぐさまミラージュは町長宅を後にして、その後は影も形も見ることはない。

 サブクエストで再び登場するが、その存在を知るのは、地下街へと行く時である。実際に戦う時はヴエルノーズでのサブクエスト最後、つまりボスとして戦うことになるのだ。

 ちなみに、ギルドマスターのエムルスは第一部である魔王討伐まで完結させないと戦う事が出来ない。かつてのエンドコンテンツである。

 だからというか、そんなゲーム上のストーリーを知っている俺は、最初の召喚で当時の最高レアである星五以上を引いた時点で、どこか楽観視していた。

 この世界なら余裕で生きていけるだろう、と。

 

 

 

「なんか強くなれる方法って無いんですか?」

 

 ミラージュ達がいなくなり、戦闘で荒れたギルド内部もエムルスの命令を受けて掃除をした。その後に反省会としてなのか、クエストを受けずに備え付けのテーブルに座って樹が聞いてきた。

 何も注文しないのも悪いかと思い、ウィードへ労いの肉を食べさせている。柊菜の隣に座るチェリーもウィードを見てヨダレを垂らしている。

 

「レベル上げとステージ解放かな」

「それもありますけど……」

「楽に強くなりたいというなら石を割るといいよ。石の使い道は様々だ。経験値アイテムから進化素材まで石を割れば楽に入手出来る」

「グルル……楽に強くなったところで精神が育ってなければ意味が無い。自信にならない。魅力として映らない」

「龍種の君がそれを言うかね」

「龍は、強い! 強者の心もある! 生まれ持った力だ!」

 

 アビリティ【雑草魂】が何か言ってやがる。ウィードは上位に位置しててもそこまで強く無いだろうに。

 

 ちなみにレートはそこら辺で取れる素材が百個で石一個分とかいう劣悪レベルだ。レアアイテムにもなると、その石でガチャ回した方が戦力を生み出せるのではないかと言わんばかりの石を消費する。

 マラソンした方が効率は良いので、時間が許すならひたすらダンジョンでもクエストでも周り続けた方がいい。

 俺としては今すぐに石を割りながら行動力回復しつつ周るよりも、育成期間と呼ばれる行動力消費が半分の時期に全力を出した方がいいので、当分の間は戦力補充以外で石を割るつもりは無い。

 

 ついでに召喚と枠補充で石を全て失ったそこの柊菜とかいう女の子は、今すぐにでも戦わないクエストを受けて石を確保すべきである。

 

 というか、なんでいきなりそんな事を言い始めたのだろうか。

 

「…………俺、なにも活躍出来てないなって。思ったんですよ」

「そ、そんなことないです! 私、樹さんのよかったところ、たくさん知ってますから! ね、ご主人様!」

「うん。足りない手数を補えるし、回復はすごい役にたってるよ!」

 

 俺の表情を見て察したのか、頭を掻きながら俯く樹。それを慰める柊菜と狼少女のチェリー。肝心のピクシーは頭の上にあぐらをかき不満顔である。当たり前だろう。ピクシーの働きが足りないと言っているようなものだ。傍から見りゃハーレムだぜ。

 俺は二人の活躍具合をそれほど見ていないが、ピクシーの活躍はかなり大きいと思うぞ。

 この場におけるMVPと言っても良いくらいだ。ヒーラーの存在はそれほどに大きい。

 特に俺は運が良くそこまで大きな怪我を負わなかっただけであり、ゴロツキに殴られた時など、首の骨が折れていてもおかしくはない衝撃を受けているのだから。

 

 とはいえ、それは俺の主観であり、樹少年とは別のものだ。例えば彼が考える内容として、二人の役割を見てみよう。

 柊菜の手持ちは、近接物理攻撃のDPSであるエンドロッカス、同じく近接物理攻撃のDPSである狼少女のチェリーミート。

 樹の手持ちは、ヒーラー兼遠距離魔法攻撃のDPSである花畑のピクシー。

 

 こうして見ると偏っているな。俺のウィードがタンクというのもあってピクシーにかかる負担があまりにも大きい。機種のゴーレム系統なら魔法攻撃に専念することも出来るし、単純な防御力も高いのだ。

 ウィードは優秀なヒーラーが支えるのを前提に運用する必要がある。

 物理火力は十分なので、タンクの能力が優秀なのも考慮すれば、短期決戦で魔法火力が欲しいところだ。ヒーラーが今増えても序盤はそこまで戦力が上がる訳では無いというのもある。

 

「とりあえずこの街でのメインクエストはほぼ終わりだから、ゆっくりと石集めてガチャ回すしかないと思うよ」

 

 とりあえず戦力が充実して個人レイド回せるだけの数の従魔を目標にするといいよ。星十なら十五から二十体ほどいれば楽に周回出来るだろう。

 

「さあ、今日も召喚石のためにフリークエストを受けよう。まだまだ畑の収穫クエストは終わってないよ」

 

 ポンと手を叩いて行動を促す。どれだけ口や頭を働かせても、石は手に入らないのだ。

 ギルドとかいうブラック企業は身体が資本の肉体労働者だ。口より手を動かせよ。

 

 まだこの世界に来て一週間も経っていないが、既に学生組は若干ながらたくましくなっている。

 初日は勝手も分からず右往左往していた畑仕事も、既に手馴れてきて時間の短縮が進んでいる。

 

「報酬だよ。受け取りな」

 

 ギルドの受付に座るおっさんから。いつも通り報酬を受け取る。皮製の袋を三人分購入してそれぞれ平等に分配した。

 袋の中にはいつの間にか石が入っており、混ざって無くさないように回収しておく。

 

「田舎者は仕事も農作業ばっかりかよ」

 

 不意にギルドのエントランスから声が投げかけられる。声の方向を確認して相手にする価値は無いと判断した。全員星三のゴミだったぜ。

 

「この間は筆頭ギルドリーダーのミラージュさんに楯突いて大騒ぎを起こすし、マナーも何もあったもんじゃないな」

 

 昼間から酒を飲んでいるのだろう。赤ら顔の男がこっちを見てニヤニヤと笑いながら野次を飛ばす。

 

「あいつ!」

「ダメだよ、樹君。相手にする必要ないよ」

 

 こちらにも事情があったりするが、大騒ぎを起こした時点で非はこっちなので無視しておこう。そう判断するも、樹少年がつっかかりに行こうとしてしまう。柊菜に宥められる。

 その様子を見てさらに男が声量をあげた。

 

「女に守られて恥ずかしくないのかよ! いや、田舎者は恥を知らないんだったな。俺なら恥ずかしくて恥ずかしくて故郷に帰っちまうわ」

 

 ダハハと笑う男。明らかに弱者を狙った嘲笑。樹少年は顔を怒りで赤く染めながらも俯いて、足音高くギルドを出て行った。

 

 嫌なら殴ればいい。気に入らないなら殴ればいい。それがこの世界の真理である。極めあげた利己主義がこの世界を生み出し、この世界の文明を築き上げている。

 弱者は自分より弱い相手を狙うだろう。嫌なら強者になるしかないのだ。そんな当たり前の世界観が、酷く輝いて見える。

 

 改めて召喚士の男を見る。足元には星三の野種の従魔【草原のポイズンキャット】が丸まっている。ステージ解放段階は二段階。今の樹少年では確かに勝てないであろう。柊菜もエンドロッカスとチェリーミートが未強化なので相手にするのは厳しいところか。まあ、二対一だから勝てるだろうけど。

 

 俺ならまあ、一撃でロストさせることは無いだろう。

 

 

 ギルドを出てすぐの所に樹少年と柊菜はいた。樹少年は頭に回った血を引かせるために目を瞑ってじっと動かないでいる。深呼吸をして何かを考えているようだ。

 

「あ、スリープさん。遅かったですね」

「待たせてごめん。あと、樹少年にアドバイスだ」

「…………なんすか」

 

 俺は歯列をむき出しにしてとびきりの笑顔を作った。

 

「気に入らない奴は殴り飛ばせ。それがこの世界で自分を守る手段であり、絶対のルールだ」

 

 嫌なら誰よりも強くなりなよ、少年。

 

 

 

 

 翌日。

 

「すみません、スリープさん。俺、一人でクエスト受けます」

「別にいいんじゃない?」

 

 決心を固めた顔で樹少年が頭を下げてきた。一晩考えて何か思い付いたのだろう。

 それに対してどうこう言うつもりは無い。元々俺は彼らが一週間お試し期間で付き合っているだけの関係だったし、あと二日程でその関係も終了するはずだったのだ。

 それが早まっただけである。

 

「スリープさん、私もちょっと樹君が心配なので、後を追いかけるつもりです」

 

 柊菜が小声で断りを入れてきた。どうやらこれで初心者育成期間は終了したようだ。

 

「そう。それじゃあ二人とも、頑張ってね」

 

 手を振って二人を見送った。柊菜にはチェリーが付いているし、樹少年には柊菜が付いているらしいので、とりあえず心配はないだろう。

 俺もさっさと支度をして、ギルドに顔を出すことにした。

 

 

 

「おい、スリープ! お前んとこの仲間が剣術士ギルドに喧嘩売りに行きやがった!」

 

 ほんと、なにやってんの?

 

 剣術士ギルドの入口すぐのところで、樹少年が土下座していた。

 扉を隔てた向こう側では柊菜がオロオロしている。チェリーも主の様子を見て「おおおお、おちちゅいてください!」と必死になだめようとしてオロオロしている。

 剣士であるエンドロッカスは腕を組んで静観している。

 

「俺に剣を教えてください!!!」

 

 ギルドから樹少年の大声が聞こえてくる。

 

「あっあ、スリープさん! い、樹君が剣術士ギルドにすごい顔で入っていっちゃって……剣術士ギルドと召喚士ギルドってそこまで仲良くないって聞いて……」

「とりあえず中に入って樹少年を回収しようか」

「は、はい! チェリーも落ち着いて!」

「きゃうん……。ご主人様、尻尾はダメです」

 

 柊菜を連れて剣術士ギルドの扉を開く。すると、樹少年の首に剣をかけられていた。

 

「樹君!」

 

 柊菜が悲鳴をあげる。それを無視して、樹少年へと剣を当てている男が口を開いた。

 

「召喚士が、いきなり剣術士ギルドへと入って来ては、剣を教えろだと? そんな義理はこちらに無いし、混乱を招いたとして今この首をはねても問題は無いのだぞ」

「……それでも、俺は剣を教えて欲しいです」

「……問う、貴様がそこまでして求める理由とはなんだ」

 

 樹の首から汗が流れる。恐怖で今にも飛び上がってしまいたくなる。しかし、それではなんのために覚悟をしたのかわからなくなってしまう。

 土下座していてよかったと、今だけは思う。樹の顔を除けば、恐怖で歯をガチガチと鳴らし、目は涙を湛えていただろう。後悔で一色に染まっていただろう。

 

「……力のため」

 

 その答えを聞き、男は樹少年の首から剣を外した。

 

「うむ。男ならそれくらい単純で良い。召喚士などという後ろに下がって何もしない人間から、立派な剣士にしてやろうではないか!」

 

 男はしきりに頷き、樹少年を立たせようとする。恐怖を押さえ込んだ覚悟と、理由を気に入ったのだろう。

 かくいう俺も先程の言葉はいいと思った。実にこの世界にあった言葉である。

 

 だけど、なんでそれを剣術士ギルドに頼むかなぁ。

 

 眼前に佇む男。幅広の剣先が平たい斬ることだけに特化した剣を持つ、赤髪の男は、剣術士ギルドのギルドマスター【切り落としのセイコウ】である。

 

「スリープさん、樹君剣術士ギルドに入っちゃったんですか……?」

「……いや、それは無いと思う。樹少年の稽古をあの男が直々につけるっていうだけ、だと思う」

 

 そもそもこのゲームには主人公自らが戦うストーリーは無かったはずである。

 あくまでも召喚士と従魔の物語なのだから。そして、召喚士メインの物語なので、基本的に他のギルドは敵側で出てくる事が多い。

 そして、敵対するキャラというのは基本的に雑に扱われる者が多いのだ。反感をくらわないように男が多い。味方は可愛い女の子が多い。

 

 この男セイコウは、敵側で出てくる存在だ。そして、現在のレベルでは、手も足も出ない、ミラージュクラスの強敵でもある。

 

 ため息も出てくる。どうして君たちは次から次へと問題事を持ってくるのだろうか。それも俺の手に負えないレベルの。

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