「ほう、多少ながら剣士としての経験があるか」
「一応、ですけど」
資源都市ヴエルノーズの外縁部。畑も無い日の当たりが悪い場所で、二人の男が対峙していた。
まずは試しにと刃を潰してすらいない剣で二、三合と打ち合い、その後にセイコウが感心したように頷いたのである。
樹は元々剣道部だった事もあり、それなりに体力も筋力もあるつもりであった。個人戦で県大会の決勝まで勝ち進んだこともあり、それなりに自分の腕に自信があった。
しかし、その自信は一瞬のうちに砕け散った。渡された剣は鉄製なこともあり大変重く、まともに振ることすらできない。また、渡された剣は片手で持つタイプのものであり、竹刀を両手で持つ剣道とは根本的に違いがあった。
何より、試合の剣と実戦の剣はそれそのものが違う。居合いの達人と剣道を長年続けた人が戦えば、剣道の方が勝てないように、それ以上の実力の開きがあったのだ。
それは心構えの違い。一瞬の隙を狙い必殺の一撃を放つ実戦の剣に対し、剣道は特定の部位以外には意識を向ける必要は無いのだ。
「構え方に関しては隙だらけ。鉄剣も持ったことがないような振る舞い。しかし、刃を立てる事が出来るのは握りが出来ている証拠だ。幼少の頃に受けた教育が今も残っているのだろう。良い師を持っていたのだな」
セイコウの言葉に、ついこの間まで現役で振ってたんだけどな。と落ち込む樹。それを見てセイコウは続けた。
「落ち込む必要は無い。剣士で最も重要なのは、握りと刃を立てて振るう事だ。どんな業物でも剣を振る技術がなければナマクラも同然になる。剣を扱う技術が無いものは、それこそただ思うがままに力を振るうため、こん棒を使うのだ」
あれは当てるだけで十分だからな。とセイコウはこの街に潜むゴロツキを思い出す。
剣というのは意外にも思われるが、かなりの技術がいる。刃を当てて対象を切り裂くまで刃を立て続ける必要があるのだ。断ち切るにしても、引き切るにしても、途中で刃が寝てしまえば、たちまち剣は肉や骨を噛み込んで動かなくなる。
初心者が手軽に扱えるものでもないし、一ヶ月やら半年程度の修練では全く身に付ける事が出来ないのだ。それこそ、一生涯を捧げてまだ先は見えぬ程の技術の道がある。
物語ではそこかしこに剣やら何やらを使う者がいるが、鎧を身に付けないモンスターから一般人を相手にするのなら、剣よりも、こん棒なり鈍器なりの当てればダメージを与えられる武器こそが好まれる。そもそも剣は対人向け装備であってファンタジー系の大型モンスター相手にはそこまで有効ではない。
技術無き者が剣を振るならば、恐らく一撃で倒せる敵が相手でないと、次の攻撃が放てずに返り討ちにあうだろう。叩き切るにしても同じ事だ。
多少甘いが、基礎の基礎の土台レベルには出来ている樹は、素人に毛が生えた程度だが剣を嗜む物として認められたのだった。
「さあ、貴様の程度も知れた。次は筋力を付けることから始めよう。それと、その剣は身体の一部であると思える程に親しむ必要があるため、これから寝る時以外は身に付けて貰うぞ」
「はい!」
まずは体力と精神を鍛える。倒れ伏し起き上がれぬまで走り込むぞ。とセイコウにケツを叩かれ樹は走り出す。新戦力を召喚して大人しく守られていた方がよかったかな。と若干後悔し始めながら。
それでも覚悟はしたんだと、頬を叩いて走り出した。
樹が師に選んだ相手は【切り落とし】の二つ名を持つ最高峰の剣士。彼が持つ斬るための技術は、戦う為の力としては最適のものであった。
・・・・・
「あ、あの! 樹君の所、見に行きませんか?」
「行かないよ」
召喚士ギルドへと柊菜と二人で戻ってきた。セイコウに連れて行かれた樹少年を案じてか、様子を見に行こうと誘ってくる。
だが、行く必要は無い。彼は剣を学びに行ったらしいし、俺がしたいのは召喚なのだから。別ゲーやる人間相手に付き合う意味は無い。
何より俺は剣に関して素人だ。暴力主義者、もしくは信者のつもりではあるので、多少の喧嘩術くらいなら覚えがあるが物を使った戦い方はてんで理解していない。
そもそもそれも銃や戦闘機には勝てないので無意味だと知っていたので、この世界でやっていけるレベルではない。せいぜい日本のオヤジ狩りに使える程度だ。
だからこそ、不平等に個人的な暴力が通るこのゲームが好きだった訳だが。肉体的に勝ち目が薄そうであり、そもそも召喚士最強なので剣を学ぶ気は一切ない。
この世界の剣士は、最高峰でも星五複数並べて叩けば負けるレベルなのだから。相手にする意味すら無いだろう。
逆に星五を複数並べ無ければ勝てないと思うなら圧倒的に強いのだが。それは一番上のレベルに関しての事だ。セイコウはトップレベルではあるがその中では弱い。ここは最初の街なんだ。
エンドロッカスならある程度鍛えれば十分勝てるレベルだろう。
強さを求めるにしても他に方法があるだろうと思う。それは俺の考えであり、樹少年は己の剣に道を見出したというだけの話だ。
これ以上関わる義理はない。
「それに、柊菜も他人の事にかまけている時間は無いでしょ。俺も石を集めるという目的があるんだよ」
「それは……そうですけど」
「どうせギルドイベントは三番目の街である王都に行かないと進まないからね。時系列的にも問題は無いよ」
「そう言って地下にいる人とか廃墟にいる人にこっちは巻き込まれたんですけど」
「剣術士ギルドのギルドクエストは対抗戦開始まで一切関係ないから大丈夫だってば。それまで影も形も出てこないし」
とはいえ、セイコウ相手に苦戦すらした記憶がない上に、どんなイベントがあったかすっかり忘れてしまっている。顔さえ見れば名前とそういう奴がいたなという気持ちを思い出せるので、実際にイベントが始まれば思い出せるだろう。
機種、特にゴーレム系統でも持っていればセイコウは完封可能だ。そうでなくても斬耐性値が高ければ問題は無い。
ウィードはそこそこ耐性が高いので今の段階でも負けはしないだろう。石一個を使えば勝てる。特別な聖剣とかを持っていない剣士などその程度である。
逆にいえば、純粋な剣術だけでセイコウは成り上がって来たのだ。樹少年の師としては十分だろう。
ま、俺なら同じ事をやるにしても、剣士召喚して教えを乞うだろうけどね。
「ところで、柊菜は何もしないの?」
樹少年が行動に出た理由は把握しているが、彼を追いかけるつもりらしいので柊菜は自分を離れると思っていた。
そもそも彼女は俺の事を嫌っているはずだし。
「…………現状を見て他の人と関わるよりも、スリープさんに付いていった方が学べる事は大きいと思います。それに、私には興味無さそうですし」
そう言って、初日と比べて距離がだいぶ縮まっているウィードをチラリと見る。
「なんか……仲良くなってませんか?」
「龍は力を認めればそれ相応に扱う。こいつは私の求める力を証明した」
「そんな、いつの間に……」
「樹少年が拉致された時だね」
シェイプシフトのアビリティの事だ。好感度を上げて解放出来る。ちなみに足りない好感度は肉で補った。高い出費だったぜ。
まあ、龍種の強みにもなるアビリティなので金を使ってでも解放しておいたのは正解である。
「とりあえず俺は今日も畑仕事に行くから。柊菜も自分のやりたいようにすれば?」
「……具体的に、これから何をしていけばいいでしょうか?」
「この街で今出来る事はサブクエストかフリークエストを受ける事じゃないかな。後は、周辺のダンジョン攻略だけど、一番近い場所が終末の洞窟だから今挑んでも無駄に死ぬだけだろうし。育成効率も良くないから、石を集めるだけ集めたら次の街へ行くといいよ」
西でも東でも良いけど、順当に進むなら東へ行くべきだ。新緑の森を抜けて龍の巣を無視してしばらく歩けば次のメインクエストがある街に着くから。
西はカラサッサ平原だけど、その奥が深い森か港町へ続く道になっている。ただし道中少し外れればならず者の街があるので危険度が高いのだ。
サブクエストの報酬が美味しい物が多いけど、ウィード単騎で行くのも大変だから行くつもりは無い。
「エー君が喋れるようになるにはどうしたらいいですか?」
「ステージ解放を三段階目まで解放すること。ステージ解放は属性経験値を上げればいいだけだから、悪魔系統のモンスターを狩りまくればいいよ」
「えっと……それってどこにあります?」
「四番目の街のメインクエストで大陸の東端にある滅びの大地へ向かうのがいいかな。ただしヒーラーが欲しいから今向かっても勝てはしない」
「つまり……どうすれば?」
聞かれた事だけに答えていくと、結局何をすべきかわからなくなったのであろう柊菜が首を傾げてくる。
俺はわかりやすいように薄く微笑んだ。
「割るのです。召喚士」*1
ソシャゲはユニット入手から始めなきゃ何もできないだろ。いいからクエストやって石集めてガチャ回すんだよ。
ソシャゲは効率のゲームだ。課金が最高効率であり、それ以外でも、行動力が溢れないように生活を決めて、ソシャゲ中心の生活を送り絶えず情報を更新し続けなくては生きていけない。
人権キャラも二週間後には産廃になるのがソーシャルゲームだ。より純粋な実力と才能の坩堝がソシャゲなんだよ。伊達に『社会』の名前付いてるんじゃないぞ。適応出来なきゃ死ぬだけだ。
「俺は召喚士だ。ならすべき事は召喚だろう? わかったら石を集めるよ」
「あ、ちょっと! 待ってくださいよ」
今日も召喚士ギルドからクエストを受ける。そしてまた畑へ向かうのだ。
畑でウィードが腕を振るう。爪で野菜を根元から切り裂き、それをチェリーミートが回収する。エンドロッカスも剣で野菜を切り取っていく。
「そういえば、このクエストっていつまであるんですか?」
「多分ずっとあるよ」
従魔に仕事を任せて俺から情報を集める事に専念することにしたのか、柊菜がメモを片手に質問してくる。
「え……? でも、時期とか連作障害ってあるはずじゃ」
「連作障害はあるかもしれないけど、時期は無いよ。ここは地球じゃないからね」
予想、というか。ゲームファンタジーは多分地軸に傾きがほぼないと思っている。そうすれば、四季なんて存在しないし、ロンダルキア*2を超えれば雪ばかりの場所にもなる。つまり時間経過で場所の温度が変更されず、ほぼずっと同じ気候を保つのなら、地軸に傾きは存在しないはずなのだ。
「元々最初の間は季節限定イベントとかも無かったからね。衣装違いキャラとかこのゲームだと作りにくいし」
なので、限定キャラや限定ガチャではなく、恒常ガチャでサンタやら水着やらが手に入るのがこのゲームだ。召喚士は純粋な人間を召喚出来ない設定なので、仕方なくこういう設定でいるのだろう。
「なんというか、変わったゲームだったんですね」
「マニアックなジャンルだと思うよ。当初から人外好きしか集まらないようなキャラばっかりなのに、人気も落ちぶれたソシャゲでそれをやるっていうんだからね」
エンドロッカスは金色の捻れ角がある肌色ですらない人型の化け物だし、ウィードも幼女だのなんだの言っているが、目は爬虫類だし服は自前の皮や鱗を擬人化風に変えたものである。
高レアになれば人間風味な奴も出てくるし、そもそも死種なら人間の幽霊がいる。
このゲームは普通とかそういうのを嫌った作品なのだ。他作品コラボでもコラボキャラがガチャラインナップに入ることは絶対無かった。別作品主人公を認める描写すら無い作品もあった。
ドマイナーゲームだけど、それがいいと俺は思っていた。最後の最後までずっとこのゲームでガチャを回して遊び続けていた。
「そういえば、ずっと聞いてなかったんですけど、このゲームって題名はなんですか?」
柊菜の言葉を聞いて、少し空を見上げる。
幾度となく目に、耳にした俺の愛したゲーム、それは。
「【イズムパラフィリア】っていうゲームだよ」
主義やら愛を題材にした。召喚士と怪物の物語である。
2020/1/15(水)
タイトルコールまで作品を進められたので、あらすじを大幅変更しました。