さて、当初の予定通り、俺は石を十個集めた。
「新しい従魔が欲しい? 私の力でも足りないのか?」
「龍種一体じゃあ辛いよね」
「ぐるる……」
ウィードが少し悲しそうに喉を鳴らした。あれこれ理由付けて戦わないのをやめたら今回のガチャを見送ってもいいぞ。
といっても、戦力の拡充は急務なので即座に済ますべきだ。今後も増やし続ける必要があるので。
「まあ、これ以上下手な龍種を呼び寄せるつもりはないかな。例え星十六の最高レアでも使いにくいのは使いにくいんだし」
ウィードはウィードだけだぜって感じに頭を撫でる。嫌そうに振り払われた。
気を取り直して、召喚石を放り投げる。
「【召喚】」
さて、何が出てくるだろうか……。
朝の召喚士ギルドで柊菜が目を丸くする。
「スリープさん、それって」
「新しい従魔だよ。ほら」
「キャァ! ……あの、すみません、近寄らないで下さい。虫は、ちょっと……」
俺の右腕に巻き付きモゾモゾと蠢く白い幼虫がそこにいた。その大きさは地球ならこれ以上大きい虫はいないだろうというレベルの大きさである。長さで言えば顔より長い。
星二緑種【迷いの森のシルク】である。
そう、星二である。最初の召喚では星三以上が確定しているのだが、それ以降は星一から出てくるようになるのだ。
今回はお試し感覚で引いたので星一か星二辺りが出てくるだろうなぁと思いながら引いたら思った通りである。星十のウィードどころか、星三の緑種であるピクシーにすら劣る従魔が出てきたぜ。
そして、虫の擬人化従魔は星四以上でないと出てこない。どれだけ鍛えてもこの虫はずっと虫のままなのだ。育成モチベーションすら上がらない。
どっかりと椅子へ座り、朝食とウィードの為の肉、そしてシルクの為の桑の葉を注文する。
シルクなだけあってこいつはシルクワームである。つまりは蚕。魔法タイプであり、実は優秀なアビリティを持っているが、いかんせん最終基礎ステータスがあまりにも低いので意味が無い。
「ご主人様、今日は……って、スリープさん、新しい従魔ですか!」
「えっ? チェリーはあの幼虫大丈夫なの?」
「ええ。迷いの森にいるシルクワームですね。従魔だとシルクでしたっけ? 迷いの森は故郷だから結構見かけましたよ」
掲示板を見ていた狼少女のチェリーミートがこちらに気付いて駆けてきた。そして俺の腕を見て可愛いですねぇとシルクを突っつき始めた。
「早く大きくなるんですよー」
人馴れしているのか、シルクはそれを無視して桑の葉を食べ続けている。
まあ、蚕は人の手でしか生きられないような存在だ。羽化した後は口が無いので食事も出来ず、羽があっても飛ぶことすらできないのである。
シルクもまたコンセプトが同じなので口が無いし虫なのに単体飛翔すら持たない弱小従魔である。最大強化すると換金アイテムが手に入るという特殊な従魔だが、それだけである。
戦力として数えにくい。自分のガチャ運を恨みたくなる結果であった。
ワーム系は成長が早いのが特徴だが、同時に嫌いな人も多いだろう。見た目が擬人化ではなく本物の虫がほとんどだからである。シルクも同様で、最終段階まで強化しても人の姿にはならない。人っぽい要素も出てこない。どこまでも虫だ。
人と虫の合体した姿もまた気持ち悪いのは確かである。どちらにせよ不人気キャラに変わりはない。
「それで……今日も畑仕事ですか?」
「いや、シルクは経験値テーブルも低いからとりあえず強化するよ」
「グル!? わ、私は? 私は鍛えないのか!?」
「ウィードはここでレベリングしても大して強くならないからね。シルクが完凸レベルマになるまでしか鍛えないよ」
ウィードが悲しそうな顔をする。それを無視して朝食を食べた。今日は忙しいのだ。
欲しかったものとは違うが、シルクも立派な魔法職だ。鍛えれば序盤なら十分な戦力になるだろう。
気になるのは、スキル屋がいないところである。あれが無いと従魔の強さは半分以下に落ちるのだが。
「今日は討伐関係のクエストを受けようと思う」
これを期に、ウィードも少しはレベルが上がるといいのだけど。
召喚士ギルドで新緑の森方面へ行くクエストを三つほどまとめて受けて、資源都市ヴエルノーズを出た。森までの道を歩いている中、俺は柊菜へと従魔のスキルとアビリティについて話していた。
「従魔には、その従魔が持つ固有の能力であるアビリティと、従魔なら誰でも持てる技術のスキルがある」
「スキルって従魔なら誰でも使えるんですか?」
「そうだね。例えば、エンドロッカスが持っている初期スキルには【ダークネスブレード】という闇属性範囲斬撃スキルがある。それをチェリーに習得させることも出来るよ」
現実でどう処理されるのかは不明だが、ゲームではエフェクトは同じまま発動出来る。
スキル屋さえいればそこら辺の検証も済ませられるのだが、生憎アレのいる場所はゲームでも明記されていない。
とはいえ、柊菜もそれは承知の上で聞いているだろう。
「スキルやアビリティの習得ってどうやるんですか?」
「アビリティは好感度が一定以上になると受けられるクエストか、限界突破した時かな。スキルはレベルと凸回数で習得出来る、言わば得意スキルと、スキル屋で購入して覚えさせるスキルがある」
「また新しい用語ですね……」
柊菜がうんざりしたようにうなだれる。まあ、ゲームに専門用語は付きものだろう。ゲーム内部の専門用語やゲームプレイで知っておくべき言葉があるのは仕方の無いことだ。
「限界突破っていうのはソシャゲ共通の言語だね。ゲームによって様々だけど、大体はレベル上限が高くなる事を示すよ」
ゲームによって限界突破は違う。同じキャラを重ねてレベル上限の解放を行うものや、素材を使用して上限を上げるものなど様々だ。
このゲーム、イズムパラフィリアでは、限界突破とは従魔のステージ解放等を含めた言葉を指す。
システムとしては、レベルマックスになった後に条件を満たせば自然とステージ解放が進む。そしてレベル一からやり直しだ。転生と呼んでいる人もいた。
ステージ解放は三段階ある。星一は一回だけステージ解放できて、星二は二回。星三以上は三回まで出来る。
星四以降は、ステージ解放をした後に、更なる限界突破【進化】が発生する。これも三段階ある。星七は【超進化】。星十からは【究極進化】。星十三からは【覚醒】。星十六は【超越】である。これをまとめてプレイヤーは限界突破と呼んでいた。種類多いくせに起きる事は一つ、レベル一になって見た目変わってレベル上限上がって強くなる。それだけだ。
その分節目からはステータスの上昇値が増えたりと様々な恩恵がある。
ちなみに限界突破方法は複雑である。レベルマックスが前提で、種族毎に存在する経験値を一定数値ためたり、アイテムの使用や所持、ものによっては特定従魔がいる必要がある。
まあ、スマホをひっくり返して進化はしない分探すのは簡単だろう。ソシャゲではないがそういうゲームもあるのだ。
ちなみに、どの従魔でも、最初はステージ解放からやる必要がある。つまり、シルクなら二回限界突破すれば完凸(完全に限界突破をした状態)になるが、ウィードの場合完凸までに十回限界突破する必要があるのだ。
更には、一度のレベルアップに必要な経験値量がレア度と従魔の種族で決まる上に、最初期のレベル上限は三十にレア度の十倍を加えた数字が最大レベルになるのだ。シルクなら幼虫状態のステージ未解放状態でレベル五十がレベルマックスの数値であり、ウィードなら百三十レベルまで上げないと一度目のステージ解放すらできない。そして限界突破をすればレベル一からまた育成だ。
育成の厳しさが見えるが、その分高レアというのは圧倒的に強くなれる。完凸シルクが未解放レベルマックスウィードには勝てない程に開きが生まれる。
なお、石が二千個もあればウィードだって完凸レベルマになれるはずだ。全ては石の力、金の力でどうにかなる。この世界じゃ課金出来ないのでどうにかして継続的な石の入手を考える必要があるが。
どこかを周回するにも、第一部のこの世界じゃあ入手経験値も限界突破用素材も手に入らないので、ウィードの育成は現状未定である。星五を入手した場合も後々の事を考えれば強化するのも考えものだが。
まあ、俺たち召喚士へのダイレクトアタックはゲームでも使われた召喚士への攻略法である。自衛手段を増やす面でも従魔は強くしておくべきだろう。
適当に柊菜へとイズムパラフィリアの事を語りながら、新緑の森へと到着した。その手前で俺たちは立ち止まっていた。
「そのスカートで草むらの中入っていくの? 危険じゃない?」
「……そういうスリープさんもそんなラフな格好で大自然の森へ突っ込むんですか?」
そう、ここはどこでも人間の手が入っているような地球とは大違いの世界であることを忘れていたのだ。
結果として、森を探索する装備もなく、街中を歩いていたように最初に来た時の服装のままでやってきてしまっていたのだ。
「あのあのあの! ご主人様、私が道を切り開きますから、爪を使えば少し時間かかりますが出来るはずです!」
「うーん……エンドロッカスの剣の方が簡単に出来そうだよね。お願い!」
「!?」
柊菜がエンドロッカスへと結構な無茶振りをしている。剣士として道を切り開く最初の仕事が森の道作りとあってエンドロッカスも驚きの表情だ。
ちらりとウィードを見る。
「嫌だぞ」
「まあ、そこまでの事が出来るとも思ってなかったし、ウィードにはこれから戦闘をさせるからね」
何も言っていないのに、こちらの意図するところを察したドラゴンである。既にパートナーとしては十分な関係だ。
柊菜には悪いが、エンドロッカスに道を作って貰うことにした。
最前列を物理近接火力役のエンドロッカスが、その後ろをウィード、更に後ろに俺たち召喚士とチェリーミート、シルクが続く編成で森を進む。
チェリーミートは野種とあって鼻が利くので奇襲を防ぐ為に俺たちの周辺を索敵している。シルクは戦闘には向かないので予備戦力兼戦闘参加による経験値入手役だ。寄生ともいう。虫らしい活躍だ。
「前! 接敵します!」
「エンドロッカス、下がって!」
「ウィード」
「グルルルッ!」
エンドロッカスを柊菜が下げて、ウィードが跳躍撃で前に出る。
龍種覚醒による行動制限は、どうにかウィードを宥めすかして新緑の森内部では常に戦闘状態にさせることで対応した。これはパーティーダンジョンでも使う手法である。それを無理やり当てはめた感じだ。結果は、報酬を支払う事で即座に動いてくれるようになった。
まあ、ゲーム内通貨のシルバが痛すぎる出費である。今回のクエスト報酬の金は全てウィードのお食事券に変わった。今後利用する事は無いだろう。その為にも今回でシルクを完凸レベルマにせねば。
しかし、新緑の森に出てくる緑種は雑魚といえど数が多い。ヒーラーがいない今シルクの進化条件である草属性経験値の入手量が間に合うだろうか。二回限界突破するのでかなり時間はかかるだろう。
ちなみに、緑種とは言っているが、従魔にならないモンスターも含めて呼んでいる。
スキルの跳躍撃が命中し、飛び出してきた数体のモンスターがノックバックしながら倒されていく。似たような光景を何度も見ている。従魔じゃない現地のモンスターなので見てもわからない。第一部の序盤フィールドの出現モンスターまで一々覚えきっていないのだ。
植物に寄生されたような猿を蹴散らした時、遂にシルクが一度目のステージ解放を果たした。
シルクの周囲が暗くなり、身体が光って数秒後、一瞬姿が掻き消え、燐光と共に純白の繭が現れた。
虫なのでステージ解放の一段階めはサナギである。そうじゃない奴もいるが。
「これが、ステージ解放……」
「演出はゲームと同じなのか。こりゃあ従魔の進化が面白い事になるかもな」
従魔にはかなりデカい奴もいるし、限界突破でデカくなる奴もいる。どういう処理がされるのだろうか。
腕に引っ付いていたシルクも、これからは抱える必要があるようだ。柔らかい毛玉を抱えあげて、ウィードへ激を飛ばす。
「これで第一ステージ解放だ。同じペースでよろしく!」
「もうなのか? 弱っちい奴は成長も早いんだな」
まあ、長く生きる龍種は全然成長しないもんね。
従魔は召喚士がいないとステージ解放までしか成長出来ないという設定がある。経験値テーブルを考えれば理解出来るが、そういう意味では無いのだろう。召喚士がいないと限界突破出来ないような条件もあるので、何かしらの力が働いていると思われる。
つまりは、自然界に存在するモンスター、そもそも通常の成長はステージ解放までだということである。
星三までの従魔に人型がほとんど存在しないのを考えると、素早く成長しないと生きていけないのだろうなぁと思う。ほとんどの従魔が人型になるのは、召喚士向けの変身だったり、力を抑える為だったりするので。
ハーピーやらラミアやらマーメイドもいるが、あれらは逆に人外味が増していく。つまりは弱い状態が人型により近い姿だということだ。
しかし、人型にすらなれない従魔もまた弱いのだろう。実際ゲームでも、星七以降はかろうじてでも人の姿になれる従魔しかいなかった。
あのフィアズエッグですら擬人化出来るのだ。例え腕が四本の卵と女性が合体したような化け物でも擬人化である。人の姿の部分があるので。
レア度で従魔のレベル上限が決まるのは、種の成長速度と力関係やら食物連鎖的なのが関係しているのだろうなぁと、なんとなく想像した。確定情報ではないが、そこまで違う訳でもないと思われる。
死にやすいから早く成長し、完全体となり種を残すのだろう。星十以降、つまりリミテッドキャラは個体だからな。
絹玉を撫でる。現実でどう処理されるか不安だが、すぐに死なないでくれよと願う。
「蚕って成長したら口無いからすぐに餓死するんだけど、どうなんだろうなぁ」