イズムパラフィリア   作:雨天 蛍

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閑話 スリープと従魔

ウィードと好感度イベントその一

 

「爬虫類は哺乳類と比べて知性が違うから懐かないという通説があるんだ。つまり、知性のあるドラゴンは人間に懐くと思うんだよ」

 

 単純に、犬や猫といった動物は、事象に対する認識能力が違う。人を見て上下関係を作り、人から餌を貰い、人と戯れることが出来るのが犬や猫である。

 対して、トカゲ等の爬虫類は、そもそも脳が小さく、人を見て餌が貰えるという認識を抱けるかどうかが違ってくる。

 

 脳の発達こそが生物の精神や表現等に影響を与える。これが不十分であることは、そもそも互いの認識に不具合が発生する。

 

 人同士ですら一定レベルの人間でないと会話が成立しないのだ。そもそも会話というのは高度な知性の証明であると言えるが。

 そして、その言語を簡単に操れる従魔とは、どのような存在なのだろうか。

 ドラゴンは爬虫類に似た特徴があるだけであり、爬虫類とはまた別の種族なのだろう。まあ、ゲームの制作側がそもそもドラゴンを爬虫類に似た存在と認識しているので、そこまで大きく違う訳では無いが。

 

 樹少年が飛び出した柊菜を追いかけて行った後。俺は好感度稼ぎのためにウィードと二人で肉料理専門店へと入った。

 席へと案内されて、まず最初に出た言葉が先程の内容だった。

 

「人間は弱いからな。ドラゴン的には人間を可愛いという変わり者もいるぞ」

「人間目線だと龍が人に懐くかだけど、龍からしてみれば、人間が懐いたりしているように見えるんだね」

「龍の方が上位者だからな。そもそもお前を好くような変わり者などいないと思うが」

「…………イズムパラフィリアはそもそもが擬人化美少女ソシャゲみたいなもんだからね。大体一通り有名な存在なら主人公ラブ勢がいるもんだよ」

 

 人間は召喚出来ないという問題があるため、純粋な人間は従魔として出てこない。抜け道はいくつもあるが、人間ではないという特徴を持たされるのがほとんどだ。人間だけど幽霊だとか、元人間だとか。擬人化とか。

 

 カフェテラスのような大通りに面した屋外のテーブル席で、ウィードへと好感度稼ぎの為に次々肉を注文する。食事も進み、ウィードが満足したところで切り出した。

 

「ウィードが俺の召喚に応じた理由は知っている。シェイプシフトが出来ないんだろ?」

「…………グルルッ!」

 

 ウィードが喉を鳴らして警戒した表情をする。内心では驚愕が広がっているようで、一瞬ながらその表情を見せた。

 

 大体好感度イベントを発生させれば、従魔の持つ過去やら何やらが知れる。俺はゲームでいくつもの従魔を育ててきている。龍種は使いにくいにしても、運用方法を持っていないと本当に産業廃棄物になってしまうので、手に入れた上位レアなら大体育てていた。

 

 ウィードの最初の好感度イベントは、ウィードが召喚に応じた理由と、その問題の解決を行うのだ。召喚士とは、従魔の力を引き出すことこそが役割であり、それが出来る者こそが召喚士なのだ。

 

「アビリティ解放系イベントはそのアビリティを使ったチュートリアルになる。難しい事をしないでも今すぐ出来るようになるよ」

「っ! それは本当か!?」

 

 簡単な話だ。そこら辺をモンスターなり野盗に襲われて【シェイプシフト】のアビリティを発動すればいいだけである。つまりは元から素養があるはずなのだ。

 

 ウィードは星十龍種であり、更には四元龍の一つ地龍にあたる存在なのだが、他兄弟の中で唯一龍化出来ない落ちこぼれだったという設定がある。

 

 それを解消するために召喚に応じたのがウィードのキャラクターエピソードである。プレイヤーの手を加えられたウィードは最終的に歴代地龍の中でも最強の存在になる訳だが、そこまで教えなくともいいだろう。

 

「ああ、今君が求める事に答えてあげようじゃないか【シェイプシフト】」

 

 ウィードへとアビリティを発動する。予想通り、ゲームでのイベントを挟まずにウィードのシェイプシフトは成功した。小さな体が数倍にも及ぶものへと変わり、重量も同時に増す。バキバキと音を立ててウィードのいた椅子は壊れ、俺の方のテーブルまで木片に変えたところで止まった。

 

「おおっ! 龍だ! 私も立派な龍になったぞ!」

「あー……これどうしよっかな」

 

 このあと、店を破壊した迷惑行為で出禁になった。

 

 

 

 

 

従魔達の宴

 

 人が寝静まる夜半。暗闇に蠢く魔の者たちが集まっていた。

 

 地龍ウィード。彼等のボス的存在である小さな龍種の女の子。

 暴剣のエンドロッカス。実力こそ二番手だが、話すことが出来ないので立場が実質最下位の死種の悪魔男。

 花畑のピクシー。元々群れで活動する従魔なので、最もこの場に適応している元三番手の女の子。今は新人に三番手を奪われ四番の地位に甘んじている。

 狼少女のチェリーミート。最近になって入ってきた新入りであり、元々が従魔よりも人間に近い少女。厳密に言うと従魔ではないが、召喚士に召喚されたことで従魔の一員となった。

 

 これら四人をまとめて『従魔組合』と呼ぶ。

 

「えー、本日の議題は『ご主人様と私』になるよ。最近起きた出来事を各自報告してね」

 

 ピクシーが葉っぱの目録を読み上げ、司会を務める。

 最初に動いたのはウィードだった。バンと床を叩いて立ち上がり、憤りを滲ませて吼える。

 

「最近のあいつは全然動こうとしない! 毎日毎日畑仕事ばっかりだ。従魔のストレス解消にもやはりここは一度狩りに出てもいいんじゃないかと思うんだが!」

 

 名前からして雑草のウィードは、王者らしからぬせっかちさとバイタリティに溢れていたりする。稀に自力でシェイプシフトしようと力んだり、人間の体で遊び回ろうと尻尾を追いかける行動が彼女のご主人様に目撃されている。

 

「このままでは私は餌付けでぶくぶくに太らされ駄龍になってしまう! 運動がしたい! 外に出たい!」

 

 そもそもウィードはこの場にいる従魔の中で一番歳幼かったりする。幼龍もいいとこなのだ。他兄弟よりも遅く生まれ、体の発達も遅いが、それ以上に動きたがりで好奇心旺盛だったりする。

 シェイプシフトにより少し大人の意識が芽生えたのか、召喚士に召喚されたからかは不明だが、最近の彼女は大人しいのだが、それでも不満やストレスは溜まるのだった。

 

 なお、この後彼女の後輩が召喚され、望まない形で外へ出ることになるのだが、それはまだ知らないことであった。

 

「…………」

「喋れない奴は黙っていろ!」

 

 グルルルルッ! と喉を鳴らして片手を上げたエンドロッカスを威嚇する。そもそも黙っているしか出来ないのだが、とエンドロッカスは不満げに手を下ろした。

 

 声を上げない奴はNGだ。社会の基本である。

 声を出せないエンドロッカスは、この場で一番立場が低かった。

 次に意見を出したのはピクシーだった。彼女は少し落ち込んだ様子で話し出す。

 

「私はマスターが最近元気無いんだよね。なにか私に出来ることないかなー?」

「シーちゃんさんのご主人様が、ですか?」

 

 シーちゃんとこの場のメンバーで一番仲がいいチェリーが首を傾げる。彼女が見た限りでは、そこまで大きな違いは無かった。

 ピクシーのシーちゃんが頷く。夜に部屋でため息を吐いたり物思いに耽ることが多いとの事だった。チェリーが分からないのも仕方がない。

 

「そういえば、私達のご主人様ってもっと別の場所、従魔みたいに異世界から来たって言ってましたね。故郷に帰りたいという気持ちが強くなっているのかもしれません」

 

 拉致されて見知らぬ場所へ連れて来られたチェリーミートが発言した。どうやらかなりの短時間で彼女のご主人様は異世界転移をカミングアウトしたようだ。

 これには一同が驚いた。エンドロッカスは話ができないが傍で聞いていたのでそれ以外が、である。

 

「グル? あいつらも従魔なのか?」

「人間は従魔にならないよー。でも、そんなことマスター教えてくれなかったな……」

「へ? あ、いや。私が拉致されてここに来ていて、寂しがったから気を紛らわす為に教えてくれたんだと思います! 気にしちゃダメですよ!」

 

 落ち込むピクシーを励ますチェリーミート。実際従魔になる前から、彼女のご主人様とは同じベッドで寝て、頻繁に話が行われている。

 数少ない同性かつ似たような背丈と年代の女の子である。ついでに会話にも飢えていたのだ。あれもこれもと話をするのは当然のことだった。

 

 ちなみに、ピクシーのマスターはここ数日前まではわりとスキンシップをとっていた。最近になって性欲処理に困り果てて接触を減らしていたりする。今回のシーちゃんがいないタイミングでどうにか処理を済ませるつもりだ。

 妖精に欲情しているのかと言えば、確かに欲情している。しかし、そもそも彼は男子校出身の学生だ。女体そのものに免疫が少なく、柊菜やチェリー、ウィードにピクシーと若い女の子から幼女、人形サイズまで幅広く抑えられた美少女ラインナップにノックアウトしているのだ。特に柊菜とシーちゃん以外は服を着ていないので肌色面積が広いのも大きい。

 それ以外の理由もあるのだが、そういった事情もあって、今回の会議の話題となったのだ。

 

 ちなみに、ウィードの主は基本従魔と二人きりになるまで多くの事を話さない。そして、その会話も何かの確認やら常識的なものを含めた質問やらと様々だ。

 それ故に、ウィードは薄々自分の主もどこか別世界から来ていると悟ってはいた。確定した情報ではないのは、はっきりと伝えられた訳では無いからだ。

 

 そして実は、ウィードも主と同じベッドで寝ているし、確認作業と称して初日からプライベートではトイレ以外ほぼ一緒に生活していたりする。風呂ももちろん一緒だった。これはスリープの検証が済んだ後も行われている。そういう事情があるのだ。

 

 間違い等は発生していない。そもそもウィードは常に真っ裸の幼女であり、胴体部分は人間とは別の作りをしているのだ。複数の甲殻で覆われているので色気もくそも無かった。樹少年もウィードだけなら欲情していない。

 流石に目が爬虫類系女子はまだ無理のようだ。

 なお、この従魔に慣れているスリープは万全の開発具合でウィード程度ならいくらでも性の対象に入ったりする。彼は天使系と箱頭が好きだが、別に他でヌけないわけじゃないのだ。

 

「…………グルゥ」

 

 同時に、彼女の体の隅々まで主には確認作業を行われている。無理だったり拒否した事もあるが、大体は知的好奇心で知り尽くされつつある。

 

 …………明日以降はこれが蛾に行われる事になる運命だ。

 

 

「えっと、私はですか……。まだご主人様とも生活して数日しか経ってないので不満等は特に無いんですが」

 

 最後にチェリーミートのご主人様の話になるのだが、エンドロッカスは喋れないし、チェリーミートも出会ったばかりということで、特に関係に変化も何も無かった。

 

「強いて言うなら……こう、お風呂はあまり入れないで欲しいくらいですかね」

 

 チェリーミートの部族、というか、この世界では風呂とはシャワーとトイレも合体しているホテル仕様である。一軒家にもなれば話は別だが、彼等のご主人様は宿屋で寝泊まりしている。

 つまり、大体は風呂をシャワーで済ませている。そしてその音がチェリーミートは苦手でもあった。狼の擬人化故に耳は犬仕様なのだ。音に敏感であり、シャワー音を嫌がる。

 

 誘拐されるまでのチェリーミートは水浴びをして今まで生活していたので、お湯に触れた事も数少ないし、これほどまでの文明で生活したこともなかった。それに戸惑う毎日である。

 

「あーそれはわかるー! 私は風呂桶用意されるんだけど、でもサイズが合わないんだよね。羽も濡れるし大きいしで」

「えっと……私は音が苦手だったりします」

「グルル……そもそも風呂が初めてだった」

 

 野生三人娘は人間の生活と自身の今までの生活とを比較して、様々な愚痴やら何やらを言い合う。

 

「………………」

 

 人間の生活に最も適していたのはエンドロッカスであった。彼には今の生活にそこまで不満も違いも無いのである。

 彼は、死んだ元人間であるからして。

 

 

 

シルクのご主人様

 

 迷いの森のシルクは、元々広大な森からゲートを通じて別世界へ行くことでなるべく長く生きようとする従魔である。

 虫系従魔は大体が過酷な環境から逃げる為にゲートから異世界へ行く。シルクもまた同じように本能から目の前に現れたゲートへと飛び込んだ。

 

 そうして出てきた場所は、彼等が生活するはずの森ではなく、しかしそれ以上に生活に適した場所だった。

 

「うっわ。迷いの森のシルクかよ。ゴミじゃんゴミ」

「グルル……こいつが私の後輩なのか?」

 

 投げかけられた言葉は分からなかったが、彼等の本能ではこの人間こそが自分達のご主人様であることを知っていた。

 

 それは長年遺伝子から組み込まれている本能である。人間の手により改造され、人間無しでは生きていくことが不可能な存在。それがシルク、シルクワームという生物であった。

 

「うーん……石五個の無駄にする訳にもいかないし、明日はこいつを育てるしかないよねぇ。今のままじゃ人間相手にも殺されるわ」

「グルル……大地の眷属じゃないな。お前。虫の癖に人間の眷属だ!」

「ウィード。仲良くしろとは言わないけど、喧嘩はしないでよ」

「わかってる! こいつには大地と龍の素晴らしさを教えてやるんだ!」

 

 それからというもの、僅か一日でシルクは成虫になった。優秀な主の手によりあっという間に育てられたのだ。

 本来なら桑の葉を食べた量も少ないので、近いうちに餓死するだろう。しかし、それはありえなかった。

 彼のご主人様と繋がっている間は食事をしなくても生きていけるのだった。

 

「虫にそこまで知能はないんだけど、それでもこっちの言語を理解出来るだけのなにかはあるっぽいんだよねぇ。なんだ? 何が作用しているんだ?」

「お、おい! 私は? 私はいつ大人の龍にしてくれるんだ?」

「ウィードはもうちょい子供のままだよ。そもそも見た目が育った所で中身が変わらなきゃ意味無いだろ。この前言ってた外での運動はもうしたんだから要望はまた今度ね」

「グルル……グルルルルル!!」

「あ、ちょっと! 腕に噛みつくなよ! 甘噛みだろうが痛いわ! ……くそっ。お前に足りないのは親の愛情だろ。好感度イベントで赤ちゃんプレイするまで幼女のままでいた方がいいって。俺デカいウィードのママにもパパにもなりたか無いんだよ」

 

 シルクには彼等が何を言っているのか正しく理解することは出来ない。

 それでも、自分を育て生かしてくれるご主人様には、忠誠を尽くすつもりであった。

 




現時点で二万字程度しか書き上がってないです……。
とりあえず日数空けすぎるのも悪いので、隔日更新します。
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