イズムパラフィリア   作:雨天 蛍

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こんにちは! イズムパラフィリア運営です! 本日は一部不適切な記述を変更する修正パッチを当てました!

1/11(月)薬屋の男の台詞を一部変更
貴族制→身分階級制
貴族→上位市民

今回の修正に対して、詫び石を一つ配布致します。お騒がせして申し訳ございませんでした。これからもイズムパラフィリアをよろしくお願いします。


18話 子供

「まあ、ざっとこんなもんかな」

 

 荒れに荒れた薬屋の中。血溜まりに沈む男達を見て、評価を下した。

 クエストで言えば、今回の戦闘は時間までに勝利しないと失敗に終わるタイプだろう。ここが何処だか分からないので、取り逃した時点で失敗な気がするが、ゲーム的に評価するなら戦闘勝利Bって感じだ。つまり、即座に片付いた訳でも無いが、手こずったわけでもない。

 

「さて、どうしようかな……」

 

 後を追うべきだが、そもそも追跡が出来るのかが不明だ。とりあえず、まだ息をしている用心棒共に尋問でもすべきだろうか。ミラージュへ渡して、情報があるなら引き出してもらうべきか。

 

「そして、コレもどうしようかね」

 

 戦闘ついでにシルクを抱きかかえた子供まで着いてきた。母親と思わしき女性は既に死んでいる。

 まだ小さい子供だというのに、その顔は何の表情も見せずに凍りつき、瞳は絶望を写している。が、手に持ったシルクは一切離そうとしない。シルクもまた抵抗はしない。蚕なら仕方がない。

 

 あても無いし、子供をどうにかするにも預けられそうな人間が思い付かない。ミラージュ辺りなら育てるかもしれないが、若くして鉄砲玉の運命を辿らせるのは哀れすぎる。

 

「…………メイドの従魔か母親の従魔が欲しいなぁ」

「グルルル……? そんな従魔いるのか?」

 

 いるよ。あくまでもソシャゲにして美少女ゲームだから、大抵の属性は取り込まれているし、余計なものまで着いてくる事も多々ある。

 母親キャラで一番印象に残るのはやはり死種の頂点である。アレは元々そういった存在だから当たり前といえば当たり前だが。

 メイド、とはまた違うが、有名所なら緑種のシルキーが低レアである。次点で死種のキキーモラだろうか。アレは家妖怪の類いだが、どちらかといえば悪の方か。

 無いものを想っていても仕方がない。ひょいと子供を脇に抱えて薬屋が逃げた方の部屋へと進む。

 脱出経路は窓からのようだ。自室らしきベッドのある部屋は、タンスを開けて何かを持ち出し、窓を全開にしたまま無人の様相を見せている。

 とりあえずどこへ逃げたのか窓から外を覗いて見たが、窓の向こうも路地裏なので、それらしき姿を見ることは叶わなかった。

 ウィードなら探せるかと思い、窓から外へ出る。入った路地とは家一つ隔てているので、娼婦の姿もない。彼女をここに置いていく事になるが、下手に関わりを見せて身の危険に晒させるよりかはマシだと、放っておくことにした。

 

 

 

 そもそもの話になるが、なぜこの街がこんなに治安が悪いのか。それは元々が劣悪だったからである。

 資源都市ヴエルノーズの名にある通り、ここは資源がある街である。地下深くにて鉱石を採集する仕事が昔から存在しており、ここに集まった人間は元々が炭鉱夫ばかりである。犯罪者の鉱山奴隷等を含めて多々送られてきたものが、腕っぷしだけの荒くれ者ばかり集まった街なのだ。

 今でこそミラージュが資源を独占して、表向きには廃坑となったので流通の要としての街に切り替えたが、それでも仕事自体は消えていないし、ここから出ても仕事が無いような奴らばかりなのだ。

 そういう人が集まって出来た街がここヴエルノーズである。悪党共が住まう街。治安が悪いのは人柄の問題でもある。

 

 が、そもそもここは、力こそ全てな世界観だ。自分で生きる術が無ければ生きていけないのがデフォルトなので、比較的この街は治安がいい方であったりする。ミラージュが頂点だが、それに従っていれば、ある程度自由に生きられる街なのだから。

 

 小さな犯罪こそ横行するが、テロレベルの問題は起きないのだ。それは強力な力によって押さえつけられた安全である。少なくとも抑止力としては働くのだ。

 

「どっかに子供預ける訳にもいかないし、連れて行くしかないか……」

 

 逆に言えば、ミラージュの仕事ならだいたい何しても問題ないという事になる。俺の知る限りでは、人攫いと今の薬物取り締まりで問題が起きても、あっちは干渉してこないというわけだ。

 それで、チェリーミートを巡る事件が勃発したのだから。シルクを抱きしめる子供は、獣人などでは無いが、娼婦の子供というだけあって、見目は現段階でも麗しい。売る所に売れば高値が付くだろう。

 

 流石に俺でも、小さなガキンチョを売り払うような鬼畜すぎる行為には抵抗がある。

 

「んで、ガキンチョには名前とかあるのか?」

「…………」

 

 返事が無い。小脇に抱えた子供は、自分が話しかけられたという事だけは理解したのか、視線を合わせてくるが、何も言葉を発する事はなかった。

 声が出ないのか、言葉がわからないのか。はたまた別の理由かは不明だが、この調子だと会話は無理だろう。

 

「おい! 多分こっちだぞ!」

「了解。案内よろしく」

 

 ウィードが薬屋らしき人物を発見出来たようなので、追跡を任せる。ウィードを先行させて、その後ろをついて行った。

 

「そこの人間のメスはどうするんだ?」

 

 ウィードから疑問が投げかけられる。ウィードは案外おしゃべりだし、好奇心が強く、人間社会にも興味を示す。

 とはいえ、興味があるだけで好意的では無いのでそこら辺を間違えると痛い目を見る。今回もただこいつの処遇が気になっているだけだろう。

 

「とりあえずは俺が面倒を見るか、信用出来そうな所に預けるとは思う」

「……本気か? 他の人間の子供を育てるのか?」

「子供自体に罪は無いと思うけど」

「……別の人間の子供を育てるとか、狂気だ」

 

 ウィードが信じられないようなものを見る目で振り返った。

 自然界において、托卵やヘルパーといった我が子以外の子供を育てる方法は数あれど、同情や母性によって集団とも何も関係ないような子供を育てるという行為は聞いたことがない。基本的に動物は自分以外の子供を育てる事はしないのだ。托卵で有名なカッコウなども、育て親がカッコウの子供を排除する例があると聞く。

 人間のこれらの行動もまた、余裕の現れでしかない。かわいそう等の感情は基本的に自分が上位者でないと出てこない感情なのだ。

 逆に、自分達の領域を脅かす程になってくると、似たような状況であろうとも人間は敵意を見せる。天才子役が持て囃されるのは、それが大人たちにとっては特別驚異的ではないと考えているからである。アレらにおける天才の範囲は、子供にしては凄いのであって、大人よりも凄いことは無い。ということだ。

 

 全ては余裕の現れ。そう考えると、ウィードの主張も何一つ間違っているとは思わなかった。正しいとか間違っているとかの話ではないからな。単純に考え方の違いでしかない。

 

 もう一人、同じような子供がいたとしても、俺はきっとその子を見捨てることだろう。

 

「よかったな。ガキンチョは運がいいぞ。俺の気まぐれと生活の余裕によってお前は俺の庇護を受けるんだ」

「…………?」

 

 まあ、伝わらないだろう。首を傾げる子供を見て、俺は苦笑した。

 

 柊菜がこの場に居てくれれば、俺の言葉に嫌悪感を示し、罵倒の一つでもくれるだろうに。

 何故だか今だけは、そういう言葉が欲しいと思った。

 

 

 

 

 子供を抱えて歩くこと数十分。男を追い詰める事に成功した。

 ウィードの知覚から逃げられなかった以上、追い回せばいずれ捕まるのは明白だった。

 

「ま、待て! 金ならある! あと、いい話があるんだ。小さな国だけど、俺は、この仕事を成功させた上位市民になれるんだよ!」

 

 南区のどこか。ゴミ袋が適当に投げ捨てられている道の突き当たり、逃げ場がないと悟った男は必死の様子で俺に交渉をしてきた。

 

「へぇ、そりゃすごいね」

「あんたもこの街でミラージュの下っ端でこき使われたくないだろ? 身分階級制の街で上位市民になれりゃあ人生一気に勝ち組だ。どうだ? 手を組まないか?」

 

 誰に保証されているんだか。上手い話に乗った男が命乞いをしてくる。

 この男はなんで薬屋をしているのにそこから麻薬関係に手を出したのだろうか? いや、本業は別なのかもしれない。カモフラージュとして薬屋をやっていたとか。

 どっちでもいいか。

 

「悪いね。俺は金も権力もいらないんだ。信じているのは暴力だ。力だ。物質的側面において、何よりも暴力こそが信用出来る不変の価値観だ」

 

 金も権力も、そのコミュニティに属さない人間にとっては無価値である。金なんぞ道行く人全員が「そんなものは知らない」とでも言えば途端に価値を失う。

 確固たる信念を持て。金も他人の信用も共同幻想である。皆で同じ夢を見ているからこそ通用する嘘っぱちだと理解しろ。

 物事に価値を与えるのは自分自身だ。本質を見誤ってはいけない。何が真に価値があるのか、それを正しく認識して生きていくのが俺の生き方だ。

 

 金そのものに価値なんぞない。

 

「交渉は決裂だ。後の話はミラージュが聞くんじゃない? 頑張ってね」

「う、うわああああああ!!!」

 

 ウィードが恐怖で喚き散らす男を気絶させる。

 これにて任務完了だ。さっさと金と召喚石を頂戴して、こんな糞みたいな仕事とはおさらばしよう。

 

「あー……情操教育に悪いなぁ」

 

 ここまでずっと子供を小脇に抱えているのがいけないのだが、こんな時でも無口無表情のガキンチョに不安を覚える。

 変な影響受けないといいのだが。

 

 認識としては間違っていないと思うが、金も権力も、人の世の中で生きていくには非常に重要なものである。ないがしろにしてはいけない。

 ただ、それに目が眩んでそれ自体に価値があると考えてはいけないのだ。金も権力も、安定した社会基盤があってこそのものなのだから。

 

 特にこの世界ではその意識の差が重要になる。安定も安心もほど遠い世界なのだから。

 

 金というのは世界最大の宗教だ。地球においては。

 

「石こそがこの世界の最高である」

 

 召喚石自体は石ころだが、それを使えば召喚から再生まで様々な事が出来るのだ。

 俺に交渉がしたかったら、金じゃなくて石を積めよな。ゲーム内通貨はほとんど使わないアイテムなのだから。

 

 

・・・・・

 

 

「仕事が早いのネェ。ボク驚いちゃっタ。これが報酬だよ」

 

 例によって、ザコイが縛り上げられているビルへと向かった。そこで待っていたのは、いい笑顔をしたミラージュと、不貞腐れたような顔のザコイであった。

 

 大きめの皮袋をドンと置く。じゃらりと金属の擦れる音が鳴ったので、これが報酬の五百万シルバなのだろう。

 一度袋を開けて確かめると、しっかりと大量のシルバが入っており、その上には一つだけ召喚石が転がっていた。

 

 黙って受け取る。ウィードが引っさげていた男はザコイが回収した。

 

「どうせコイツは尻尾切りに使われるだろうけど、今回は警告に留めておくつもりだかラ」

 

 ウィードが捨てた男を、ミラージュが指示することなくザコイが縛り上げて連れていく。ビルから出る際に俺の事を睨みつけて来たが、特に何も文句を言うことなく出ていった。

 まあ、お目付け役としては働けなかったし、補助としても必要がなかった事を見せつけられたわけだからな。側近としては面目丸潰れだろう。

 

「それと、ザコイをいじめるのもほどほどにしてあげてネ」

「威を借る奴にふさわしい扱いをしたまでだよ。認めて欲しいならもうちょい強い召喚士をよこすんだね」

「アレはアレで結構使い道があるんだけド? 下手な攻撃一辺倒よりは強いと思うワァ」

「基礎値が低いと無意味だよね」

 

 シルクと同じである。シルクは【無詠唱】のアビリティがあるが、魔力そのものが低いので恩恵が薄いのと同じである。

 機種【廃鉱山のエレキテトラ】も【形状自在】のアビリティがあるが、それを活かしきるポテンシャルがないので、使えないとしか言いようがない。

 生活に使う分には使いやすいのかもしれないが、本来の仕事である従魔としての役割が果たせない時点で、俺としては論外である。

 

「ところデ……。そこにいる子供はどうしたのかナァ?」

 

 俺から視線を外したミラージュがこの場に連れてきた子供へと向かう。

 本当にどうしようね。

 

「うちの子です」

「あなたの目撃情報からして子供はいないわヨ? 人攫いでは無いと思うけど、下手なもの抱え込むと面倒ヨ?」

 

 ミラージュの心配に軽く頷いて返事をする。

 

「目の前で転んだ人間に手を差し伸べないほど薄情になれなかったものでね」

「ンフフ……甘い人。守るべきものを持った人間は弱いワ。いつかその身を破滅させるだろうけど頑張ってネ」

 

 ソファから立ち上がり、ミラージュが部屋を後にする。その時垣間見せたのは、同情や弱者を見つめるような憐憫を含んでいた。

 

 まあ、基本的に守るべきものって言うのは本人の精神的な弱点になるだろう。同時にそれとは対等な関係ではいられないという事を示す。ぶっちゃけ、信用してないから守ってるようなもんだし。

 ミラージュのは警告だろう。召喚士と従魔ならば、互いが互いを助け合うような関係も作れる。しかし、子供と自分ならば決して対等でもなんでもない。そこを伝えたかったのだろう。

 

 人を率いる者として、俺に一言いいたかったのだろう。弱者を受け入れれば、行動は弱者を基準にしなければいけなくなる。と。

 

 まあ、俺自身コイツをずっと連れ回すつもりは無いので、その間の辛抱だと思えばいい。俺には興味のない人間へと施しを続ける優しさなんてないんでね。自分本位で生きている人間なのだ。

 

 さしあたって、ここは十一個になった召喚石で新しい従魔を引いてみるのが一番いいだろう。これで新しい従魔を入手すれば、フィールドでもそれなりに安心して歩けるようになるだろう。

 

 最低でも星四以上が欲しい。そんな欲望をどうにか押さえ込んで、俺は召喚石を掲げた。

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